第1話 アウロ(R Side)

 美しい人間を見た。俺と同じ武器を手にする者。


 その人間は俺達天使にとって最も厄介な存在だった。


 名はアウロ。


 空を彷彿とさせる色の髪を持ち、その顔は彫像のように整っており、とにかく周りは奴を「人間にしては美しい」と称賛していた。


 俺としても同感だ。非常に癪に触るが。


 美しいと言っても、そいつは女ではなく、男だ。


 とはいえ、美しいことには変わらない。美しさに性別は関係ないのだろう。


「アウロ、か」


 何気に俺はそいつの名前を呟いていた。


「そのアウロという者に興味があるのですか?」


 側にいた俺の部下がそう尋ねてきた。


「別に。ただ、俺と同じ武器を持っていたからな。まあそういう意味では、興味があるといえばあるか。それと人間にしては珍しいくらい美しいといえる」


「そうですね」


 部下は無機質にそう答える。


「しかし、そのアウロにはこのような噂もあります」


「噂?」


「アウロという存在は、人間ではなく、人間が作り出した存在であると」


「……」


 俺はその話を聞いて少し考え込む。


 人間が作り出した存在。


 人間は我らが主が造りたもうた存在だ。その人間が生意気にも主と同様に生命を生み出すか。


 何と愚かな。


 やはり人間は一刻も早く滅ぼさなければならない。でなければ、愚かな人間はいずれ、自分達が主に造られた存在であることを忘れ、そして神を超えられると思い上がるに違いない。


 そんなことは、俺が許さない。絶対に。


「アウロについての情報を集めろ。その人間が生み出したという存在は俺が必ず滅ぼす。そして人間もな」


「はい」


 部下がそう返事をすると、俺の側から離れていく。俺に言われた通り、情報を集めに行ったのだ。


 その場に残されたのは俺だけだった。


「アウロ」


 再び、その名を呟く。俺としては忌々しく呟いてやったつもりだ。


 そのつもりなのだが。


 しかし、その呟きにはどこか慈しむかのようなそんな響きがあったのかもしれない。


 それがなぜなのかは、その時の俺にはまだ知る由もなかった。

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