反逆の騎士 死の天使

chisa♪

プロローグ

 ――かつて、この地には何もなかった。あるのは混沌と闇だけだった。


 しかしある時、光がこの地に現れた。その光は神がもたらしたものだった。


 その光の中から人という存在が現れた。人は二人いた。


 男と女。後の人間達の始祖になる二人は楽園と呼ばれる場所で――。



 どこにでもありそうな、ごくありふれたお話。ああでもそうか。このお話は他のとは違ってとても大事なお話なんだったか。母さんがそう教えてくれた。


 でも、僕にはちょっと退屈なお話かな。だってただ神様が人間をどう造ったかだの、原初の人間の子孫達がどうのだの、そういったお話ばかりだもの。しかもすごく長いし。


『そうせいき』っていうらしい。よくわからないけど、この世界が始まったばかりの頃のお話なんだそうだ。


『そうせいき』が書かれた分厚い本を、僕は本棚に戻す。母さんに褒められたい一心で――僕くらいの子供がこの本を読むのは珍しいのだそうだ――読み始めたわけだけど、普通に飽きた。


 それよりも僕にはとてもお気に入りの絵本があった。分厚い本を本棚に戻した僕は、さっさとその絵本が並べられている棚を覗きこみ、そこからそれを取り出す。


 そうそう、これ!これが僕の今一番のお気に入り。


 かつてこの人間の世界を守ったという伝説の英雄、アウロのお話だ。


 でも、これ。好きだけどちょっとだけ嘘が書かれているよね。


 だって天使様が悪者なわけないし、人間を滅ぼすわけないもの。


 だけど、そういう嘘が書かれていたとしても、僕は構わない。何かしらの理由があってそういう嘘が書かれているだけだろうし。


 それに、僕はこの絵本に登場する主人公――アウロ――がとても好きだった。


 僕もいつかこのアウロのようになれたら。


 そう思いつつ、僕は絵本を開く。この絵本を読むのは今回でもう何回目になるだろう。


 それほど僕はこの絵本が好きなのだ。何回も読んだにも関わらず、わくわくした気持ちで僕はそれを無我夢中で読み始めた。



 ――昔々、あるところにアウロという青年がいました。その青年は美しく、また優しかったので、人々から愛されていました。アウロは人々を守るために毎日戦っていました。いつもいつも皆のために。いくら倒れようと、どれだけ傷つこうと、彼は戦い続けました。そう、彼にとって一番の敵である、死の天使を倒すまでは――。

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