雨上がりの後に

「最早この戦争が終わることはございません」


一人の老人が俺に語り掛けるようにそう言った。外では雨がザーザーと降っている。俺達は今、とある小屋の中で雨宿りをしている。


「そうだな……」


俺はただ相槌を打つのみだ。


そう、最早この馬鹿げたクソみたいな戦争が終わることはきっと永遠に訪れることはない。


何故なんだろうな?何故、人は皆争い、奪い、殺し合うのだろう?


俺にはよく分からない。でも……。そうか、元より人間というものはそういうものなのだろう。


争い、憎み、奪い、殺し合うことでようやく……。

大きな達成感と安らかな気持ちを得ることが出来るのかもしれない。そう、きっと人間というのはそういう生き物なのだろう。


俺達は……。一体どこで道を誤ったのだろうな?一体どこで、何をどうしてこうなってしまった?……そうか。きっと俺達が生まれた最初の時から間違えてしまっていたんだ。だからなにもかもが辻褄が合わないことが起こってしまっているんだ。


そうか。だからなんだな?だから何もかもが上手くいかないようにできていて、且つ理不尽なことしか起こらないようになっているのだ。


ああ、そうか。そうなんだな……。俺は一人納得した様子で、うんうんと――笑いながら。泣きそうになりながら。いや、怒りそうになっているのかもしれない。とにかく――そう頷いた。


ああ……。泣いてもいいかな。俺……。誰一人として沢山の人間を救ってやることもできず、かといって導いてやることもできず。何が天使の末裔だ。狂戦士だ。英雄だ。『超越者』だ。俺は――。俺はただの無能で馬鹿で、何一つ何も出来ていねえじゃねえか!


だったら……。だったら俺は何もかもを投げ捨てて、何もかもをやめて、何もかもを諦めて、何もかもを――。失って――。それで。それで。……それで?


そうだな、もうやめよう。こんなことを考えるのは。


目の前の老人は笑いながら言う。


「戦争が終わることは最早ないのかもしれません。ですがな、デューダー殿。わしはこうも思いますのじゃ。それでも……。それでも今日というこの日を生きることが出来て良かったのだ、と。」

老人は笑う。ただただ、純粋に。それこそ神から永劫の祝福を得られた人間であるかのように。


「そう、だな。そうなのかもしれねえな」


俺は涙を自分の手で拭った。というか泣いていたのか!?俺。


老人は穏やかな目で俺を見た。とても優しい眼差しだ。俺はこの眼差しをどこかで見たことがあるのかもしれない。――そうだ、それは遠い過去の昔。まだ母親に抱かれていた頃の俺は確かにこの老人と同じ眼差しで母親に――。


「さあ、涙を拭って――。お行きなさい。自らの歩むべき道に」


「そうだな。ああ……。ありがとう。お陰ですっきりしたわ。これでまた前に進める。爺さん、あんた名前は?」


「わしですかな?わしは何者でもない。ただの通りすがりの老人ですじゃ」


老人はかっかっかっと豪快に笑い出した。見ていて気持ちの良くなる笑い方だ。


つられて俺も馬鹿みたいに笑いたくなってしまう。


「さあ、わしもそろそろこの辺で。お暇するとしましょう」


「そうか。また何処かで会えると良いな。じゃあな、爺さん」


「ええ。またいつか何処かで。いつかの平和な時代で」


そうして俺達は別れた。小屋を出ると、先程まで降っていた雨は止み、空は青々と晴れ渡っていた。――ものすごく爽快な気分だ。そう、これで良かったのだ。これでまた前へと――。


ところで、あの爺さん。なんで俺の名前を知っていたんだろうな?

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短編集 chisa♪ @chisa124

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