短編集

chisa♪

 雪。


 それは全てを白で覆い隠す。


 例え大地が赤い血でまみれようが、美しい花で彩られていようが、そんなのお構いなく、雪という物質は全てを白で覆い隠す。


 そして触ると冷たい。


 俺はそんな雪を気に入っている。何となくではあるが。


 遠い彼方を見る。どこもかしこも雪。雪。雪。


 恐らくあの山の向こうも雪が降っているのだろう。その山の向こうの空もどんよりとした雲が広がっている。


 現在、温度は0度に近く、時刻は夕刻をそろそろ過ぎようとしている。


 今も雪が降っているのだが、晩になるにつれ、この雪はどんどん吹雪と化すのだろう。


 確かに俺は雪を気に入っている。だが、命に関わる程のものとなると話は別だ。


 ため息をつきながら、俺は他の仲間が待機している拠点地へと向かう。そこに行けば、普通に暖を取れるので、この冷えた身体はすぐに温まるだろう。


 拠点地に着くと、見張り――俺の仲間だ――が一人立っていた。そいつの近くに来た瞬間、俺はそいつに一言呟いた。


「雪は全てを覆い隠すし、場合によっては生命の命を奪い取る。だがそれと同時に、雪には何かこう、神秘的な何かを感じないか?」


 俺がそう呟くとそいつはものすごく不思議そうな顔をした。


「何言ってるんだ?アウロ……。さては体が冷えすぎて知能が低くなったんじゃないだろうな」


「それくらいで俺の知能はそう低くなったりはしないはずだ。要するにそれほど雪について研究しがいがあると言いたかっただけだ」


 と言ったものの、相変わらず仲間は不思議そうな顔をしたままだった。だが、ま、それほどお前は雪を好きになったんだな、と笑ってくれた。


 好き、か。


 好きという感情がどのようなものかはまだ俺にはわからないが、何かこう、熱い何かを感じる。これが好きということなのかもしれないな。


 外に長時間いたおかげで寒い。俺は寒いのも嫌いなので、さっさと暖を取るべく、移動することにした。




おわり!

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