第二話 清廉な神官

 「旅に出るとな? 我としては有難ありがたいが、鍛錬せずに行くのはし給え。」


 「いえ、俺は男爵家の庶子しょしなので、幼い頃に剣術や魔法の訓練を受けました。なので、覚えはあります。」


 嫡子ちゃくしが産まれた後、母さんと俺は市井しせいに下ったけど...


 「なる程、先の剣捌けんさばきはその為か。とは言えブランクも考慮して、訓練を受ける事を勧める。


 加えて、我が優秀な者へ紹介状を書き...」



 話長いな〜、早く治して欲しいぜ。小刀ナイフより、パチンコ玉の方が痛かったな。


 魔法で強化したのか? あれが今の勇者ユーヤに命中したら...危なかった。


 「少しよろしいですか? 長話の前に、うちの犬を治して欲しいです。」


  

 「すまない!神官、すぐに治療しろ。」


 

     「承知しました。」


        

         ✴︎✴︎✴︎


三週間後


 あの後治療や訓練を終え、紹介状を手に、オレ達は最優の教会へ向かった。


 勇者ユーヤはオレを置いて行こうとしたが、馬車を追う姿を見て諦めたらしい。


 「到着しました。ここからあの方に案内して頂きます。」


 「自分がこの教会のおさです。事情は把握済みですので、紹介状をご提示下さい。」


     「これですよね?」


        "カサッ"


 『そこの者は皆優秀なので、好きに選ぶと良い。』


       《はぁ?》


 適当だなw てか、思い出したぜ! 神官選びも難所の一つだ。


 神官は聖属性魔法が使える人達で、身分は無関係だが、教会にいる大半は元貴族だ。


 その為、神官とは名ばかりの私欲まみれの奴が多い。聖属性は信仰心が効力に関わるから、そんな奴を選んだら...終わりだ。


 を選ばないと!


「皆と話すのは手間なので、自分が推薦します。よろしいですか?」


 

 確か長も元貴族だから、親しい者を紹介して、コネを作ろうとするはず。止める方法は無いのか?


       "コン コン"


 「何です? 勇者様がおられるので、緊急時以外は...」



 「少し離れた所で落石事故があって、怪我人が出たから皆で運んで来た!神官方、治療を...」



 「それは大変だ! 長、直ぐに人を集めて治療しましょう。俺も協力します。」



    「はぁ、分かりました。」

 

数分後



 「何故泥塗れの平民の治療をわたくし達が?」


  

  「そうよ、利益が無いわ。」


   

     「今、何て?」


 

 勇者はショックだろうな。 最優の教会の神官がクソで。


  だが、オレが奥の部屋から連れてきたは違うぞ。



 「犬に付いて来たけど... 怪我人!?」


 

 「恥晒はじさらし! 勇者様の前に来ないでよ。 でも、貴女は怪我人達同様だものね。彼らとお似合いよ。」



 「確かに私は平民よ。それより...」


 

 「患部を見せて...清潔にして治療した方が良いわね。手伝える人は、布と水を用意して!」



 「ふん、貴女の指示は誰も聞かないわよ。」



 「なら私が用意するから、退いてくれる? 一刻を争うの。 」



 「ちっ、生意気な...」



 「俺も手伝う!君は布を、俺は水汲みに行くから。長、水場に案内して下さい。」



 「此方こちらです。さあ、皆も協力するんだ。勇者様に負担を掛け無い様!」



        ✴︎✴︎✴︎


    

     「彼女、凄いな。」


 

 オレも驚いた。協力があったとは言え、数十分で治療を終えるなんて。しかも...



 「あれっ、歩き辛い?」


 

 「傷は治ったけど、足に違和感が残るのね。この杖を使ってみる?」

        


  「どうも、助かったよ。」



 「いえいえ、困ったらいつでも来てね。」

    

        "パタン"

    

     「今の人で最後ね。」



       "ぎゅっ"


 しゅよ、私にお力を下さり、有難とうございました。今後も宜しくお願いします。


 

 寛容な姿勢と強い信仰心。やはり彼女が適任だな。


        "ワンっ"


 「さっきの犬! 飼えないわよ?」



 「俺の犬だから平気だよ。所で君、名前は?」



 「私はセリーヌと申します。」



 「敬語は使わないで、俺も平民だし。」


 

 「いえ、に敬意を。」


 

 「長く過ごす事になると思うから、普通にしてよ。」


       「えっ?」


 

 「魔王討伐の旅に同伴してくれないか?セリーヌが必要なんだ。」


 

 魔王討伐...成功したら、魔族の脅威に苦しむ人々を救えるわね。


 「ええ、共に戦いましょう。」


         

         ✴︎✴︎✴︎


数日後

 


  「どこへ向かってるの?」



 「多属性魔法使いの所さ。」


 

 「凄いわ、普通は一つよね?」


 

  「あぁ、俺も火だけだ。」



        "ガタン"



 森だから、根の所為せいか?そういやこの風景、何度も見た様な...



       "シュルル"


 

 「きゃ〜 馬車が浮いてるわ!どうしよっ」


 

 「捕まって! 着地する。バディは御者を!」  


        了解。



       "シュタっ"


 

    「木が動いてるの?」



 「あれは魔物だ。戦うから、御者ぎょしゃとセリーヌは避難を!」



 此奴こいつ、人面樹か? 単独勝率一桁の魔物! 二人を避難させて、オレも合流しないと。


      「全強化オールバフ!」


 

      「ん、力がみなぎる?」



 「勇者ユーヤとバディに攻撃 防御 速度強化を付与したわ。時間稼ぎになるはず。」


     

      「ありがとう!」



        "ダダッ"

 

 あの支援バフ、長く持たないな。やはり俺だけでは無く、セリーヌも必要だ。




数分後


 「ここで良い、態々わざわざ済まない。君も一緒に隠れる?」


 

       「私は...」


         

        "クゥ"


 

      「来てって事?」


 

 怯えて逃げたら、人は救えないわね。それなら...



      「私も行くわ。」



        ✴︎ ✴︎ ✴︎



          

        「くっ」


 近づきたいが、枝が邪魔だ!魔法攻撃も燃え移る前に切るから、意味が無い。どうする?


 

 「バディ、来たか! 近づくから援護してくれ。」

     

        "ワフっ"

 


 オレが引き付けて、勇者ユーヤが止めを刺すのが理想だが、耐え切れるか?


        "シュッ"


 来た、受け流して...くそ!脚に当たって、動けなっ


       「回復ヒール!」


 うぉ、一瞬で治っていく。ありがとな、セリーヌ。...人面樹、来い!


       

         

         ✴︎✴︎✴︎


       

        "タタッ"


 バディのお陰で大分近づけた。でも、どこを狙う?


 んっ、あの部分、妙に守ろうとしているな。攻撃してみるか。



        "ザクッ"


 

       〈ギョワァァ〉



 効いてる!なら、火も合わせてっ。



       〈グフっ〉



       "ドスーン"



     「終わった...のか? 」



                  続く

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