第一話 始動

 今、どんな状況だ?


 少し前まで、オレは部屋に居たはずだ。なのになぜ、雪の積もった場所に...   

      

      

       "ピュー ピュー"



 長居したら、寒さで凍死するぞ。助けを呼ばないと。


       「クゥ〜ン」


 今のはオレの声、なのか? 人では無い、犬の様な声だったぞ!


 それに目線も低いし...まさか、オレ自身が犬になったのか?



 マズい! 助けを呼べないぞ。



 そうオレが困っていると、どこからか声が聞こえてきて...



(お困りの様ね、香坂祐悟こうさかゆうご。いえ、今は子犬と呼んだ方が良いかしら?)

 

 (なっ、名前の方がマシだ。...って、その声! ゲーム内の女神か?)


 (その通りよ。後、祐悟ゆうごをゲームの世界に転生させたのも、わたくしなの。)


 

 転生って...オレ、人から犬に生まれ変わったのか? 謎が多いな。ひとまず、質問してみるか。


 (三つ質問がある。まず、何で意思疎通が出来ているんだ?)


(...テレパシーよ。互いの思念を伝えているの。)


 (幻想ファンタジーかよ。じゃあ次の質問。何でオレは、犬になった?)


わたくしが新たな人間を創る事は出来ないから、存在する動物にしたのよ。)


 へぇ〜女神でも無理なのか。メタい話、ゲーム製作者にしか無理だよな。


 (最後の質問。オレのステータスは、守備寄りか?)


 (そうよ...察しが良いのね。)


 オレがの奴が欲しいと言った後だったから、すぐ分かったぜ。


 (さて、質問も終わった様だし、わたくしからの助言よ。


 ここから直線数十mの所に赤い屋根の家があるから、そこを目指して。) 


 

  言い終わると、女神は消えていた。


      

        ✴︎ ✴︎ ✴︎


 本当に、最低限しか言わなかったな。


 

 そもそも犬になったから、遠くが見えないし、真っ直ぐ進むしかないか。



十分後


 

 ようやく着いたぞ。頼む、誰か気づいてくれ!


       "カリカリ"


 「何か音がする...って犬!? 何で家の前にいるんだ?」



 見た感じ首輪も無いし、野良犬だ。う〜ん、外は寒いし、放って置けないな。


 「母さん!この犬、今見つけたんだ。俺が世話するから、飼ってもいい?」



 「自分で世話するなら、飼って良いよ。」


 

 ありがたい。これで、オレが住む家は確保出来たぞ。


 

 「やった! 母さんありがとう。よろしくな...バディ。」


        "ワンっ"


 「いい返事ね。それにユーヤ、もう名付けたのね。 大切にするのよ。」


       「は〜い」


 おい、待った。今ユーヤって言ったよな?それは、オレが勇者に付けた名前だ。


 もしかして、此奴こいつが勇者か?にしては幼い様な...

 

 

 はっ、前日譚ぜんじつたんの内容か! 半年前に発売された、勇者パーティー結成までの話って噂の?


 

 批判クレーム殺到で販売中止になったはずだけど、本編ソフトにもデータがあったな。前日譚から始めて、本編に合流する事は出来るか。


 

 というか、マズいぞ。飼い主が死んだら、オレも巻き添えで死ぬ。


 いや、考えろ。過去に見た数多あまたのゲーム実況に暗示ヒントがあるはず...あれっ?


 

 前日譚の実況、見た事あるかも!半年前だから記憶が鮮明では無いけど、難所は覚えているぞ。


 よし、いけるかもしれない。確か最初の難所は...成人の儀当日だ。

 


         ✴︎ ✴︎ ✴︎


四年後


 「ふぅ、成人の儀は終わった。けど...」


 俺は今日、王城に呼び出されている。理由は、「金髪灰眼で今年成人する者の中に、勇者がいる」と神託が下ったからだ。


 半分は貴族の血縁だけど、俺が勇者の訳が無いのに。



     "ワンっ  ワンっ"


 

 「おぉ〜バディ。一緒に行きたいのか?

でも重大な場だから、無理なんだ...」



        "ガシッ"


 折れたらダメだ。絶対、オレが同行して守らないと。


 今日、ユーヤが聖剣の適合者、つまり勇者とわかる。


 けれど、聖剣に慣れる前の勇者は、魔族にとって唯の獲物だ。


 だから王城に魔族が紛れ込み、勇者の暗殺を狙うんだ。


 実況でも、一・二の難所だったから、覚えているぜ。



 「引き止めても、無駄だぞ。」

 


 なっ、大型犬の力でもダメなのか?なら、最終手段だ。



       "クゥ〜ン"


 恥ずかしいが、優しいユーヤなら折れてくれるはず。


       「はうっ」

 

 本当は連れて行けないけど、愛犬に甘えられたら、抗えない!


  

   「分かったよ、行こうか。」


      

       "ワフっ"


        ✴︎ ✴︎ ✴︎


       

        "グゥ"


 王城まで馬車で半日掛かったから、乗り物酔いが酷い。


 まぁ、同伴を許して貰えたし、良いか。


 「諸君、遠路遥々えんろはるばるよくぞ参られた。今宵こよいは勇者を選定せんていするのだが、先に聖剣に関して説明しよう。


 どんな物か分からぬ内に所有者となっても、困るだろうからな。」


  

 国王の話は長いから早送り...出来ないな、 聞くしかないか。


 

 「六つの属性の内、聖属性魔法は魔族に高い効力がある。


 唯、実体が無い生気の様な物なので、遠距離に射出する事や、物に付与する事が出来ない。  


 だが聖剣は唯一、聖属性の付与に成功した物なのだ。


 この様に特異な物である為、適合者が現れなかった事を、心に留めて欲しい。


 ...話はしまいだ!聖剣に触れてみよ。」



数十分後


 次は俺か。どうせ違うに決まって...


 

  「えっ、剣が地面から抜けた!?」


      

       "ザワザワ"

 

 皆が勇者ユーヤに注目している、今が暗殺者にとって好機チャンスのはず。神経をとがらせて...


 

        "ヒュン"


 

 来た!速いが、間に合うか? いや、体に受けてでも止める!


 

        "キャンっ"


 

 くっ、防御力が高くても、痛みはあるか。

でも初撃は止めた。装填そうてん時間で周りが気づく。暗殺は失敗だ。



 「そこの眼鏡の人。手に持っている武器で、俺の愛犬を攻撃したな? ただ事じゃ済まないぞ!」



 「犬に当てる気は無かったよ、君を狙ったからな。」



 「大臣、何を言っているのだ!?この方は勇者なのだぞ。」



 「だから魔王様の邪魔になるんだ。ここで潰す!」

 


        "シャッ"



 うっ、勇者ユーヤかばったから、小刀ナイフかすったか。まぁ良い、相手も動揺している今が好機チャンスだ!



       「はあぁっ」   



        "ザシュッ"


         ✴︎ ✴︎ ✴︎



 「勇者よ、よくぞ魔族を倒した。この先も人々の為に戦ってくれるか?」



 今日、思い知った。魔族は手段を選ばない。放置していたら、抗う力が無い者が傷つけられる。


 

 だから、そんな人々を守る為に、俺はっ!



 「はい。これから俺は、魔王討伐の旅に出ます。平穏を守る為に。」


                  

                 続く

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