土の魔法使いと推活中魔法使い《戊》

第10話 なんやかんやあった

「なあ、ちなみに探してた猫ってお前がまたがってる奴か？」

「そうそ、私のビャッコちゃん。可愛いでしょ？」

鋭い牙がむき出しで、ダラダラと涎が垂れている。虎が子猫に見えるサイズ感だ。

「ちなみにどこで見つかったんだ？」

「秘境」

「俺の知ってる猫はそんなところにいない」

「あの、ノエネ。この少女は味方で良いの？」

突然の乱入者に置いてけぼりをくらっていたカノエが聞いてきた。

「ああ、たぶんな。おい、テイ。入り口から来る鎧兵を頼む！」

「わかったー。代わりに甘味を所望ー」

「いいぞ！ただ、代わりに一発殴らせろ！」

「え、なんで！？私大けがしちゃうじゃん、絶対イヤ！」

お前がこの依頼受けてたら俺は薬草取りに行けてたんだよ！

「お願い、真面目に働くから勘弁して！」

そう言うと彼女は一気に俺から距離を取って鎧兵を蹴散らし始めた。むー。

「……あのー、ノエネ？テイ殿の恐がり方が異常なんですけど？テイ殿ってノエネより序列上ですよね？」

「ああ」

「ということは、ノエネよりテイ殿が強いんですよね？ノエネは戦えないって言ってましたもんね？」

するとテイが訝し気な声をあげる。

「えー？ノエネってそんな事言ってたの？戦えないって、冗談にしても笑えないな」

「え？」

「そこのおねーさん、それは誤解だよ。あの序列ってば、ギルドを幾ら儲けさせたか、その順番でしかないんだから」

「それはノエネから聞き……」

「でもね、上位のヤツに強くないやつなんて一人もいないの。優劣の目安にはならないけど。ねえ、考えてもみてよ？

弱いやつがわざわざ強い方の相手を買ってでると思う？魔法を避けながら悠長に会話してると思う？」

「あ……」

「なんでよ！？なんでさっきから当たらないの！？」

まあ、確かに。魔法使いの女も別に静観していたわけじゃない。

むしろテイが現れてから数を減らそうと先ほどよりも苛烈になっていたぐらいだ。でも当たらなきゃどうってことはない。

「このっ……「あ、それは困る」あ、またっ！？やりづらいったら、ない！」

魔法使いの女が大規模な魔法を発動させようとしたので、魔力を込めた土を投げつけて阻止する。

「いや、でもこの程度ならテイでも俺でも変わらなくないか？」

「えー、そんな事言う？少なくともテイだったら、ちょっとケガしてたと思うよ？」

「え？え？その、どういう？ノエネってでも戦闘用の魔法なんて使えないって」

カノエは困惑しているようだった。はぁ、テイが余計な事を言うから。そういうテイは関係ないのに自慢げに説明する。

「うん、使えないよ。でもそれだけで、ノエネには十分なんだよ。見ててご覧？」

……テイの言う通りに動くのも癪だが、かといって長引かせてもいい事ないしなぁ。そろそろ終わらせる事にする。観察は済んでるしな？

「ほい、お終い」

「！？読まれて！？」

俺は彼女に急接近し、お腹に手を当てると魔力を流して強制的に彼女の魔力を乱す。すると、効果はてきめんで意識を失った彼女は糸が切れた人形のように床に倒れこむ。

それから少し遅れて背後からもガシャガシャと鎧が崩れる音が聞こえ、更にネズミの鳴き声が聞こえた。

「あ、ちょっと！？ビャッコってば落ち着いて！？なんでこんなネズミがいるんだよ！？」

……どうやら、またがっていた自称ネコがたくさんのネズミに興奮してしまったらしい。

まあ、それも落ち着いたらしく「おつかれー」と、遠くからテイが声を掛けてきた。

「……強いじゃないですか、ノエネ殿？さっきの今日一番の危機ってなんだったのですか？」

「あはは、ノエネってばそんなこと言ってたんだ？まあ、ああ、なるほどね」

「……面倒だ、俺は説明しないぞ？なあ、テイ、殴らない代わりに説明しろ」

「え？ほんと？するする、元々するつもりだったし！あのね、ノエネって集団戦が苦手なんだよ。

だからね、きっと鎧兵相手にあなたや後ろの氷漬けになってる人を守りながら戦うのが難しいって意味なんだと思うよ。

タイマンだとほぼ無敵だもんね」

「は？」

「……いや、さすがに盛り過ぎ」

「いやいや、ムリムリムリ。あの瓜二つレベルの人形を魔力で即席で再現できる、ノエネの目と器用さって異常だもん。筋肉の動きと魔力の流れを見て、次の動作が分かるんでしょ？

最低限の魔力で阻害してくるし、その器用さで相手の魔力を操作しちゃうし。今回は昏睡させたけど、その気になれば魔力の相殺や暴走だって出来たよね？」

カノエがジト目でこちらを見ている。

「ノエネ殿……」

「……今更、殿はつけないでくれ。ムズムズする」

というわけで、鎧兵を蹴散らし、俺は魔女を捕まえた。