第3話 お祭り騒ぎな街”トゥカ”
ようやく目的地であるトゥカの街の入り口に着いた。街の入り口には立派な木製の門が構えられていてそこから街を囲うように壁が建てられている。先頭を歩くレイが門に備えられているドアノッカーを使いコンコンと二回叩く。しばらく待っていると門の小窓のような部分が開いてあちら側から誰かが目の部分だけを出して質問をしてきた。
「何の用かね?」
どうやら門番らしい。低い声だ。多分声からして中年男性だろうか? 門番からの問いにレイが答える。
「僕たちはこの街に用があって来たんです。入れてもらえますか?」
「人数は?」
「僕含め4人です」
レイがそう答えるとおれのポケットからバサンが勢いよく飛び出してレイの頭の上に乗っかり嘴でつむじをつついている。
「ピピー!」
そういうことか。おれはバサンの気持ちを汲み取り、レイに伝える。
「おれの事も勘定に入れてくれってさ」
「分かったからつつくのは止めてよバサン」
「で、結局何人なの?」
「えっと……4人と精霊が1匹です」
「ということは要件は聞くまでもないな。祭りの参加者なら大歓迎だ。通ってよし」
門番の言葉におれたち一同は頭に”?”が浮かんだが通してもらえるならなんでもいいや。小窓が閉まり、門がギィッと音をあげながらゆっくりと開いた。おれたちは門を通るときに門番に軽く会釈してから街に入っていった。
「ようやく着いたー!」
「あの……ディールさん。足の痛みもだいぶ良くなったみたいなので少しだけ歩いてみてもいいですか?」
「ん? 分かった」
おれはおぶっていたサティラを降ろすと彼女は普通に歩けるぐらいまで回復していた。
「見た感じだと良くなったみたいだな」
「ここまで来ることが出来たのはディールさんのおかげです」
「トゥカまで来たってことはここでお別れか?」
「そうなりますね……」
そう答えるサティラの表情はどこか曇っている。おれは彼女に元気になってほしかったから一つの提案をしてみる。
「別れる前に一緒に祭りに参加しないか?」
「それは……」
彼女はしばらく考え込んでから答える。
「是非ご一緒させてください!」
彼女は無理して明るく答えたようにも感じられた。おれたちは祭りに参加するべく受付を探すことにした。街の住人の話を聞いたり実際に歩いたりしたことで分かった事と言えば、トゥカの街は全体を壁で覆われているということと東西南北に四つの門があることが分かった。おれたちは西の門から来たみたいだ。
おれは更に街中を歩いていたおばあさんに声をかける。
「婆さんよ、ちょっと質問してもいいか?」
「おや、観光の方かい。騒がしい街でしょ。ここは」
確かにこの街の人々を見てみるとそこら中で昼間から酔っぱらった酒飲みが騒いでいる。
「なんでトゥカの街は毎日、祭りをするようになったんだ? 金だってかかるだろうし大変だろ」
「それはね……祭りは費用がかかるけどその分、観光客がたくさんのお金を落としてくれているんだよ。だからこの街の住人は露店を出すか祭りの運営を手伝うだけで生活していくことが出来るんだよ」
「何か……よく分からないけど凄い街だな」
基本的に人間が住む街は規模が小さいのだがここは例外で祭りのおかげでここまで人が増えて大きくなったらしい。それにしても奇妙な光景だ。人間とそれ以外の種族が仲良く会話したり酒の飲み交わしている。あそこにいるのは人間の身体の構造を持ちながら体表は毛で覆われていて動物の特徴と顔を併せ持つ獣人族や竜のような強靭な鱗を持つ
情報収集を終えたおれたちは一旦集合することにした。
「ディール、こっちが受付らしいわよ」
エルが住人から受付の場所を聞いてきた。おれたちは教えられた場所へと行ってみると会場と思わしきその場所には大勢の人が集まっていた。
「凄い人数だな!」
「流石はお祭りって感じだよね。この賑わい……まるで王都みたいだよ」
「二人とも、早く受付済まさないと参加できなくなるわよ」
「よっしゃ! 行こうぜレイ」
「こうなったら競争だね」
おれとレイは競うように走りながら受付を目指す。その様子を見ながらサティラが年相応の爽やかな笑顔を見せる。
「本当に面白い方々ですね」
それを聞いたエルが返す。
「あの二人と一緒にいると退屈しなくて済むわよ。毎日、お祭り騒ぎで存在そのものがお祭りみたいなものだからね」
「楽しい仲間がいるって素敵ですね。羨ましいです」
「だったらあなたも一緒に来れば?」
「それは……できません。私にも大切な目的があるので」
受付は簡易的な日よけのためのテントが張っており、大きく『受付』と書かれた紙が貼ってあった。おれは受付に到着すると椅子に座っている係員に祭りについて聞いた。
「今日は何の祭りをやってるんだ?」
「本日はスカイグランプリレースです。内容は魔法を用いて自身、あるいは使役している精霊やペットなどを出場させて決められた区間を飛び、ゴールまでの速さを競うというものになっております」
「ありがとうございます」
おれが説明を受けている間に他の仲間も続々とやって来た。
「どういう内容だったんだい?」
「どうやら空を飛ぶレースらしいぞ。おれとレイは無理として、エルやサティラは飛べるっけ?」
「私は無理よ。せいぜい数秒間だけ風で浮くのが限界ね」
「私も空を飛ぶなんて流石に無理です」
ということはこの中で参加できるのはおれの精霊のバサンか。おれはポケットからバサンを引っ張り出すと手の平に乗っけて事情を説明する。
「いいかバサン、今日はお前が主役だからな。張り切って飛んでこい!」
「ピピヨ~」
説明を聞いたバサンはやる気が漲り、瞼を閉じて翼をバタバタさせている。
「ピピッ!」
瞼を開いたバサンは敬礼した。どうやら頭の中では優勝したらしい。
「イメージトレーニングは既に完璧みたいだな!」
「ピピピ、ピッ」
おれとバサンの様子を見ていたエルが自らの精霊を召喚した。
「バサンが参加するなら私の精霊である”メゼル”も出場させるわ」
エルが召喚したメゼルは以前にも見せてもらったことがある。その姿はまさに妖精そのものだ。メゼルはキラキラと輝いており、透き通るような美しい四枚の羽根がパタパタとしている。
「そういえばメゼルってちゃんとした名前だよな。エルが名付けたのか?」
「私じゃないわ。この名はお母様がつけたの」
おれとレイは顔を見合わせて呟く。
「だろうな」
「良かったね。フェアリー丸とかじゃなくて」
こうしておれとエルは受付でそれぞれの精霊の参加手続きを済ませた。
「ディール選手の精霊バサンとエル選手の精霊メゼルでエントリー完了しました。ではレース開始は昼からですのでその時までにはスタート地点で待機をお願いします」
改めて会場を見てみると凄まじい熱気に包まれていた。おれたちはレース開始までの間、露店を見て回ることにした。売られていたのはカラフルな飲み物、見たことない種類の大きな串焼きの肉、魚まである。
「サティラも遠慮せずに食いたいものがあったら言えよ。今日は奢りだから」
「えっ! いいんですか。私まで」
「大丈夫だって。払うのはレイだから」
「えぇ――――ッ⁉ 僕なのかい? まあ今日ぐらいならいいけど」
ここら一帯で食べ歩きしていたら腹がいっぱいになった。やっぱり祭りは美味いものがたくさんあるから楽しい。腹が膨れた後は飲食以外の店も見てみることにした。
「これ何だ?」
おれが商品を手に取ると店主が説明してくれた。
「そいつは応援用の魔法グッズですよ。お客さんが手に持ってるのは応援団扇です。選手の名前を念じたり名前を呼んだりすることでその選手の名前や写真が浮かび上がってくるんですわ。ちなみに今はまだ無理ですよ。レースが始まったら写るようになりますんで。こっちは応援用の角笛ですね。うるさいだけで特別な効果はありません。その他には……こいつですね。スカイグランプリレースの記念品のペナントやバッジです。何か買っていきやすかい?」
「じゃあ……応援グッズを人数分売ってくれ」
「まいどあり!」
グッズも買って応援する準備が整ったおれたちは一度二手に分かれて行動することにした。おれとエルはレースのスタート地点に向かい、レイとサティラは応援席へと向かった。
「エルフの里でもお祭りがあればいいのに」
「世界樹じゃやらないのか」
「こういった騒がしいお祭りは無いわね。帰ったらお母様に提案してみようかしら」
レース開始場所に向かうまでの間、おれとエルは魂色の儀について話す。
「そういえばエルフも魂色の儀を行うのか?」
「いいえ、エルフの里ではやらないわね。どうせみんな同じ緑色だから」
「別の色のエルフは出てこないのか?」
「当たり前じゃない。風魔法が使えないエルフがいたら怪しいけど。そもそもいろんな魂色を持っている人間の方が変なのよねー」
おれたちが会話を終えた頃、会場にポツンと建っているやたらと高い塔から声が聞こえてきた。
「まもなく本日の祭りのメインイベントであるスカイグランプリレースの開催のお時間です。出場選手の方々は直ちにスタート地点にお集まりください。繰り返します……」
もう少しでレースの開始だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます