第14話 真の歴史の行方と小さき友

 ネウィロスが棚の中から地図を取り出して階段を下りてきた。


「真の歴史が記された本があるとすればあそこしかないじゃろう」


 そう言いながらネウィロスは机の上に地図を広げて一点に指をさした。


「ここは昔、ワシが薬の勉強のために寝泊まりしとった場所じゃ。その名を”仙郷の大図書館”といい里から南へ向かった先にありこの世のすべての知識が詰まっとるとされておる」

「そこに行けば青の魂色について分かるんですか?」

「確実とまではいかんがあるという可能性は0ではないじゃろう」


 もしかしたら魂色の秘密が明かされるかもしれないという事実に興味が湧いて行ってみたくなった。


「なんだかおもしろそうじゃないか?もしかしたらアルテザーンの魔物の図鑑があるかもしれない」

「僕も真の歴史について学んでみたいよ」


「若者の知的探求心は素晴らしいの!あそこの蔵書量は凄いぞ~、100……いや200年かかっても読み切れないじゃろうな」


 おれたちが盛り上がっていると後ろにいたエルリシアンが咳ばらいをしてから話し始めた。


「まさかあなた達、魔法習得の件を忘れたわけじゃないわよね」

「でもさ、おれの適正魔法が分からないんだからどうしようもなくないか?」


「それなら安心しなさい。適正魔法以外の誰でも習得可能な基礎呪文を覚えればいいんだから」


 その手があったか。おれたちはネウィロスにお礼をしてから今一度魔法の修行に戻ることにした。去り際にネウィロスが変な臭いのする薬を渡そうとしてきたがふと見えたエルリシアンの表情を見てマズいと思い丁重に断った。飲んで爆発でもしたらたまったもんじゃない。


 またさっきの訓練所に戻ってきた。戻って来て早々おれたちは本を手渡された。題名は『3歳からのまほう入門書』だって!中身をパラパラとめくりながらおれは思わず文句を言ってしまった。


「おい!なんだよこれ、ただの絵本じゃないか」

「みんな最初はそれを通ってるんだから文句言わないでしっかり読みこんでおいて」


 おれは渋々読んでみることにした。


『まほうとは体内に存在する魔力を用いて摩訶不思議な現象を引き起こす奇跡のことです』

『まほうを使うときにいちばん大事なことは恐れない事です。成功のイメージを持ってまほうを使用しないと自らに跳ね返ってきてしまいます。気を付けましょう』

『基礎呪文をまずは3つ覚えてみましょう。基礎だからと言って侮るなかれ、基礎呪文は全ての呪文に通じていきます』

『1つ目は”グリンド”【衝撃波】です。これは相手や物に衝撃を与えて吹き飛ばすことが出来ます』

『2つ目は”ポカラ”【癒し】です。これはかすり傷程度ならすぐに治すことが出来ます』

『3つ目は”サモンスピリッツ”【精霊召喚】です。これは人によって出てくる精霊が変わりますがどの精霊も基本的に可愛らしいものばかりです。あなたの役に立つとは限らないので寂しい時の話し相手程度に思っておいてください』


 …………?最後の呪文って必要か?おれは気になりながらも本を閉じてエルリシアンにしつもんした。


「この3つが使えるようになればいいのか?」

「その通り、魔法に長けているエルフでも習得に1年はかかるわね」


「僕も覚えた方がいいのかな?」

「レイは昨日の話だと既に適正魔法を発動させているからそっちを伸ばした方がいいわね」


 おれたちは絵本を地面に置いてエルリシアンの言うとおりに個別に魔法の修行を開始した。おれの場合は一度エルリシアンの手本を見てから見様見真似で植物の人形に向かってひたすらに呪文を唱えた。しかし、一向に魔法が出てくる気配がない。その日は大きな成長を感じられないまま終わった。


 宿屋に戻ったおれたちは菜食中心の食事を終えた後に部屋の中でくつろいでいた。


「魔法って案外難しんだな」

「僕の方も手応えが無かったよ」


 それから3日が経過した。おれの方は石ころぐらいなら吹っ飛ばせるようになっていた。しかし、呪文と呼ぶにはまだまだだ。一方のレイは目に見えるような呪文ではないらしいのでどれぐらい成長しているのかおれには分からなかった。


 練習5日目にしておれはもう一度あの絵本を読んでみることにした。よくよく読んでみると気になる一文を見つけた。『まほうはイメージを持つこと』もしかすると魔法は同じ呪文を唱えても人のイメージによって少しずつ変わっていくのか?ということはこのイメージが重要なのかもしれない。

 

 そう考えたおれは早速実践してみることにした。まずは頭の中で植物の人形を吹っ飛ばすイメージをしてみる。ここまでは完璧だ。おれは左手を前に伸ばし、成功のイメージを保ったまま呪文を唱える。


「”グリンド”【衝撃波】」


 唱えた瞬間、植物の人形は訓練所の外まで吹き飛んでいった。しかし、同時におれ自身も少しだけ後ろに吹っ飛んで壁に激突した。今のが魔法だ。ちょっとだけ失敗したけどこの調子なら上手くいきそうだ。


 コツを掴んだおれはその日のうちにグリンドをマスターした。エルリシアンのお墨付きだ。その後すぐにポカラの習得に取り掛かったがこちらも意外とすぐにできるようになった。宿屋で聞いたがレイの方もいくつか呪文を覚えられたようだった。おれたちの成長を見てエルリシアンは鼻が高そうだ。


 今日こそ最後の基礎呪文を成功させてやる。


「ディール、今日こそ習得できるといいね」

「レイの方は随分と余裕そうだな」

「へへへ、先生が良いからじゃないかな」


 レイがそう言っているとエルリシアンがやって来た。


「レイ、良いこと言うじゃない。修行もそろそろ終盤ね、気合い入れていくわよ!」


 エルリシアンが精霊召喚について教えてくれた。何でも精霊召喚は魔法を初めて唱えた時に精霊側が気に入ると勝手に契約してこちらに姿を現すようになるそうだ。エルリシアンの精霊は小さくて可愛らしい姿の羽の生えた妖精だった。


 おれは左手を軽く前に出した状態で呪文を唱えた。


「”サモンスピリッツ”【精霊召喚】」


 すると地面に魔法陣が出てきて眩く光った後にボンッと煙が出た。突然の煙に咳き込みながらもその煙が消えるまで待ってみると、中から…………え?


 背後からレイとエルリシアンがクスクスと笑う声が聞こえてくる。それも仕方ないかもしれない。おれの目の前には小さな小さな……多分だけどコイツは……何かの鳥の雛だ。


「お前がおれの精霊なのか?」


 おれがうつ伏せになって覗き込みながらそうつぶやくと雛は小さな身体をプルプルと震わせた後に片方の翼を頭に持っていき敬礼しながら鳴いた。


「ピッ!ピヨ」


 おれは身体を起こして雛を手の平に載せた。撫でてあげるととても気持ちよさそうにしていた。おれは振り返る。


「なあエルリシアン、呪文はこれで本当に成功なんだよな」

「ええ、そうよ。たとえ召喚されたものが……くっ…………ふふっ。私だめだわ。だって……ヒヨコが精霊なんて……あははは、おかしいわ」

「そうだね……僕はディールに似合ってると思う……グッ……よ。ぶふっ、ハッハッハ」


 レイとエルリシアンは笑いを堪えきれずに爆笑していた。その姿を見ておれと雛は怒る。


「だあ――――笑うなよ!。それにコイツはヒヨコじゃないだろ」

「ピッピッピ!ピヨ――――」


「でも、ぴよぴよ言ってるじゃない。どっからどう見てもその子はヒヨコよ」

「早速、息ピッタリじゃないか!良かったねディール」


 二人そろって笑いやがって、それにしてもコイツがヒヨコじゃないとしたら何なんだ?


「ねえディール、その子に名前つけてあげたらどうかな」

「そうするか。よし、お前は今日から……スーパーダンゴ総長だ!」

「えっ!ディール、それ本気で言ってるの」


 レイがありえないといった表情でこちらを見ている。何かダメなところがあるのか?おれの案を聞いた雛は翼を使って身体の前でバツ印を作った。どうやら気に入らずに猛抗議している。そんな様子を見ていたエルリシアンがやれやれといった感じで出てきて喋った。


「私が完璧な名前を思いついたわ。その名もピヨリ丸ちゃんよ!」

「それはヒヨコに付ける名前だろ!」


 エルリシアンの案も雛の気に召さなかったようで再びバツ印を作ってピヨピヨ鳴いていた。最後にレイが雛を撫でながら新しい名前を提案する。


「二人ともふざけないでよ。この子の名前は”バサン”なんてどうかな?」

「いやいや、レイも大概だな」


 雛は気に入らないと思っていたが予想を裏切りピヨピヨと鳴きながらレイの頭上を飛び回っている。どうやら気に入ったらしい。


「分かったよ、じゃあお前は今日からバサンだ。よろしくな」

「ピヨ!」


 バサンは敬礼をするとそのままスッと消えてしまった。どうやら精霊の住処に帰ったようだ。


「これでディールは基礎呪文を、レイは適正魔法を最低限覚えることが出来たわね。これならそこら辺の魔物に出くわしても指の2~3本で済むわよ」

「負ける前提かよ!」


 おれとレイは修行を無事に終えることが出来た。これでようやく魔法が使えるようになったんだ。戦闘の幅が広がったことにおれは内心ワクワクが止まらなかった。その日はもう日が沈みかけていたので宿屋で眠ることにした。

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