第2話 目覚めろ青魂
今日はレイたちが作戦を実行する日だ。他の子供が内容を教えてくれた。その内容は敵が攻めてくる前にこちらから仕掛けて敷物の区の支配者ラグーを討ち取るというものらしい。作戦としてはまあ悪くないはずだ。連合のどちらか一方を倒すだけで相手にこちらの力を示せるしここを攻めるのやめるだろう。
既にレイとフィリスが先導して戦いに出たらしい。
おれは部屋の隅で床に座ってあの思い出したくもないはずの惨劇の夜を思い出していた。ただ無残に殺されていく村の皆がまだ昨日のことのように鮮明に記憶の中に張り付いている。剣の柄を握る手が震えているのが分かる。これは恐怖だ。
しばらくすると部屋に一斉に4~5人ぐらいの子供たちがなだれ込んできた。
「ディールの兄ちゃん!こんなところで何やってるの?みんなもう戦いに行っちゃたよ」
「お前らの方こそ教会でおとなしくしてなきゃダメじゃないのか?」
「それは……そうだけど。でもさでもさ、何で戦わないの?」
「おれは……もう無駄な戦いはしたくないだけだ」
子供たちの何人かは悲しそうな顔をしている。
「嘘つけやい!いっつもそこら辺のゴロツキと戦ってるじゃないか。本当はビビってるんじゃないの」
「そうだそうだ!みんなは勇気出して戦ってるんだよ」
「それにそれに無駄な戦いじゃないよ!だってレイの兄ちゃんが言ってたもん。『ディールがいれば勝てない戦いなんてない。ディールは必ず助けてくれる』って」
子供たちの言葉を聞いてもおれに闘う意志は宿らなかった。子供たちを冷たく突き放す。
「もうおれに構わないでくれよ……」
そうだ。おれにもう構わないでくれ。おれの知っている人間が目の前で死んでいくのはもう嫌なんだよ。だったら最初から諦めていれば戦わずにおとなしくしていれば心が痛くても死なずに済むじゃないか。なのに、レイ。お前はなんでそんなに必死になって誰かのために戦ってんだよ。おれたちだけでも逃げればよかったじゃないか。
そんなおれの気も知らずに子供たちはずけずけと言いたいことだけを言い続ける。そんな中で一人がおれに近づいて言った。
「ディールの兄ちゃんのことみんな好きなんだよ。だって強いし、面白い話たくさんしてくれるし、意外と優しいし。だけど……こんなカッコ悪いディールの兄ちゃん見たくなんかないよ!」
そう言うと子供は泣きながら出て行ってしまい、他の子供もついていくように出ていった。
カッコ悪い……か。心のどっかが引っかかっているような気がする。おれの足は自然とシスターの元へと向かっていた。
教会の中には怯えた様子の子供がお互いに身を寄せ合って震えていた。おれはシスターのいる部屋へと入る。
部屋の中ではシスターに寄り添うように小さな子供たちがシスターの手を握っていた。
「あっ……」
子供の内の一人がおれに気づく。その声だけでシスターはおれが来たことを悟ったようだ。
「ディールが来たのね。みんな悪いけどこの部屋を離れてくれるかい?」
シスターの一言で子供たちは素直に部屋を出ていく。おれはシスターの近くに膝をついて座り、耳を傾ける。
「ごめんなさいね。目もぼやけてきてしまってね。最期にあなたのことを教えてくれないかしら?」
「…………分かりました。実はおれ……」
おれはシスターの願いを聞いておれ自身のここまで来た経緯をすべて話した。おれの魂色が青だということ。そのせいで故郷が燃えて無くなったこと、カミオン帝国に追われていること。すべてを打ち明けた後シスターはにっこりと笑って話始める。
「そうだったの、二人だけでよく頑張ったわね。教えてくれてありがとう」
「おれはどうすれば……」
ベッドに置かれている震えるおれの手をシスターが優しく握ってくれた。それからシスターが話し始める。
「私は白の魂色でねぇ。昔は聖白教で修行していたのよ。この87年間いろんな人をみてきたけどねぇ。魂色は魔法や剣術などの得意不得意を左右することはあってもその人の生き方までは決めることはできないわ。それを決めるのは自分自身なのよ。だからディール、人と違う魂色でも関係ない。あなたの生きたいように生きればいいのよ。魂色に従うんじゃなくてあなたの心の声に寄り添いなさい」
「おれは皆を救いたい。あの日何もできなかった無力な自分が嫌で、そのために剣を振り続けてきたんだ。だけど、また大切なものを失うのが怖いんだ」
「それは一人で救おうとしているからよ。手を差し伸べることができるのはあなただけじゃないでしょ。レイもいるしフィリスもいる。他にもいっぱいいるじゃない。あなたがしたいことならみんなが一緒に背負ってくれるわよ。それが仲間なんだからねぇ」
シスターとの会話を終えておれは戦うための決意を固めた。おれは一人で戦っているわけじゃない。おれの手が届かないところはレイたちが伸ばしてくれるんだ。
おれは部屋を出て近くの年長組を呼びつける。
「ディールさんどうしたんですか?」
「おれはこれから戦いに行く」
おれが戦うための決意を語ると仲間の表情がパッと明るくなった。
「やっと決心してくれたんですね。今すぐレイさんの所に行きましょう!」
「いや、レイの所には行かない。闘う意志があるやつはおれに力を貸してくれ‼」
皆が準備を進めている間、おれは教会にいる小さい子供たち一人一人を勇気づけるために声をかけて回った。
準備が終わったらおれたちは妖精の区を出発した。目指すは敷物の区じゃない、鋼鉄の区方面だ。状況が理解できず混乱している仲間たちに説明をする。
レイの策には幾つかの穴があるんだ。なぜ連合を組んだはずの奴らに一度も合流の様子が見られないのか?なぜレイたちは急ぐようにして攻めに行ったのか?なぜ妖精の区の土地を狙う判断に至ったのか?おれは連合を組んだと聞かされた時からずっと考えてきた。そして一つの結論にたどり着いた。
奴らの目的は妖精の区の併合ではなくて初めから子供たちを誘拐し売りさばくことだったんだ。そう考えるとレイたちは警備が手薄だったという情報が入った敷物の区に誘い込まれたと考えるのが妥当だ。逆にこれまで鋼鉄の区に動きがなさすぎた。おれの予想が正しければ鋼鉄の区の奴らが妖精の区に直接向かっている。
「ディールさん。敵がここに向かっているのなら妖精の区で迎え撃った方がいいんじゃないですか?」
「それじゃダメだ。どのみち妖精の区内で戦闘なんかしたら家も壊れるし戦えない子供が危険になっちまう。それに、この先もこの街で生きていくなら敷物の区と鋼鉄の区という両方の脅威を倒せるチャンスは今日しかない!」
妖精の区と鋼鉄の区の境界線付近に着くとどうやらおれの予想は当たっていたようだ。目の前には鋼鉄の区の支配者、スチルとその子分たちが勢ぞろいしていた。境界線の辺りは建物も何もなく後ろに妖精の区の居住区へと続くバリケードがあるのみでここはゴミ捨て場のような場所だ。
スチルの姿は今まで見たことなかったが連中を一目見ただけでどいつのことか分かった。スチルの装備はかなり厳つい。鋼鉄の区支配者に相応しい全身に鋼鉄の鎧を纏ったその姿におれは心の中で全身鉄板野郎の称号を与えた。
スチルが前に出てきて喋った。
「ああ?なんでこんなところにガキどもが来てるんだあ?」
おれは剣を抜き切っ先をスチルへと向けて啖呵を切る。
「お前らの計画が筒抜けだったってことだよ」
「ああッ?つまりどういうことなんだあ?」スチルは訳が分かっていないようだ。
「おれは優しいから教えてやるよ。お前の仲間の内の誰かが計画のことをこっそり教えてくれたんだよ!」
こんなのはもちろんハッタリだ。バレたところでどうしようもないが張らなきゃハッタリの意味がない。
「なんだとお?!教えてくれるなんてお前いいやつだなあ」
スチルが馬鹿で助かったよ。おれは更に口撃を続ける。
「そっちの裏切り者探さなくていいのかー?早く見つけないとヤバいぞー」
スチルの子分たちがざわざわし始めた。どうやら子分たちはスチルを相当恐れているようだ。子分の一人の首根っこをスチルが掴む。掴まれた子分は足をバタつかせて何とか逃げようともがいている。
「お前が裏切ったのかあ?」
「お……親分……俺じゃないですよ……」
掴まれていた子分は首を絞められて気絶してしまった。スチルは気絶した子分を布切れのように軽く放り投げた。まだまだスチルの勘違いによる怒りは収まっていないようだ。
「一体誰が俺様を裏切ったんだあ?!」
想像していたよりもスチルが暴れまわっており周りの子分たちを薙ぎ払っている。気づいたころには相手はスチルと子分が数人になっていた。その時になってようやくスチルは子分の言葉で落ち着きを取り戻してしまう。
「親分、どう考えてもあのガキの嘘に決まってますよ!親分を騙しているのはアイツですよ!」
「何い?本当かあ?」
「俺ら子分が親分を裏切るわけないじゃないすか」
「た……確かにそうだなあ!」
スチルがこちらに振り向いて怒号を浴びせてきた。
「噓つきはこの”鋼鉄男”スチル様が許さんぞお‼」
スチルがこちらに突っ込んできた。もう戦うしかない。
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