第14話 血と野望が渦巻く街”ロオ”

 あの奇妙な三兄弟と別れてしばらく歩いているとようやくロオの街らしいものが見えてきた。草1つ生えていない荒涼地帯に佇むあの街はあちこちに普通の日干しレンガで作られた民家が建っているがそこからが変わっており民家の屋根の上や民家と民家の間にもテントが張ってあり見たことがないほどの大人数が街を埋め尽くしていた。


「ここがロオの街か。流石は”ならず者たちの理想郷”だな。家の上とか間に勝手に住んだりあそこなんて店の物勝手に盗んでるぞ」

「噂に違わない物騒な街だね。何よりもあれ見てよディール」


 レイが指差した方を見てみる。


「あれは……マジかよ。死体の山じゃないか」

「誰も埋葬とかしないんだね。僕ちょっと気持ち悪くなってきたよ……」

「そりゃこれだけヤバイと国も手を出せないな」


 街の一角で小競り合いのようなものが起きている。騒ぎに巻き込まれないようにおれたちはジョーガン三兄弟が教えてくれた区画に移動することにした。


「これはジョーガン三兄弟に感謝だな。あいつらが教えてくれたルートなら住民というか野盗にあんまり目を付けられないで済むな」

「何も知らずに来てたら今頃は……あの山の仲間入りだったかもね」

「怖いこと言うなよレイ……」


 ジョーガン三兄弟が言うにはこのフォルワ大陸最大のスラム街は支配者ごとに区画が分かれていて全部で大小合わせて70ほどあるそうだ。その中で比較的安全なのはスラムの子供たちが集まる37区らしい。ジョーガン三兄弟もそこの出身だと言っていた。身を屈めながら進んでいくとやたらと人相の悪い奴らに見つかってしまった。


「お前らこの辺じゃ見ねぇ顔だな。新入りか?ならここのルールを教えてやるよ。生きて通りたければ黙って金銭を置いていくことが大事なんだぜ」

「金なんか持ってるわけないだろ。それに子供にせびってんじゃねえよ」

「随分と活きのいいガキじゃないか。ここはひとつこの街の恐ろしさを教えてやるぜ!」

「ディール、逃げよう!」


 人相の悪い奴らが追いかけてきた。このままだと追い付かれちまう。何とかしないと……。おれは早速魔宝具のロープを使うことにした。ロープに街中の柱に巻き付くように念じた。するとロープはたちまち伸びていって柱にしっかりと巻き付いた。


「おれに掴まるんだ。レイ」

「分かった!」


 レイがおれにしがみついたのを確認してからおれはロープに柱まで連れて行くように念じると、ロープは縮まっておれたちは柱に向かって空中を移動した。


「僕たちまるで鳥のように飛んでるみたいじゃない?」

「鳥ならもっと上手く飛ぶだろ!」

「僕は高いところが苦手なんだ。もう少し低いところを飛ぼう」

「今更、言うなよ!」


 少しづつだが悪そうな連中との距離が開き始めてきた。

 

「次はどうするつもりなんだい?」

「次は別の所に伸びろ!」


 柱から柱へと移動して何とか人相の悪い奴らの追跡を振り切ることが出来た。しかし、不運なことにもう目の前に掴まれそうなものが見当たらない。


「ちょっとちょっとディール!このままだと落ちるよ」

「そこまで考えてなかった!」

「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」


 おれたちは空中から落下してごみ置き場のような場所へと墜落した。


「痛ぇ。落ちる場所が悪かったらあの世行きだったな」

「でもかなりスリリングだったね」

「それにしてもここは何区なんだ?」

「景色が変わらないからどこなのかよく分からないね」


 おれたちは仕方がないので存在するかも分からない”優しそうな人”を探すことにした。しばらく歩いていると露天商だらけの場所に出た。おれは壺だけを売っているひげが長いおっさんに話しかける。


「あのーすいません聞きたいことがあるんですけど」

「ほあ?なんじゃ?壺買うのか?」

「いや、買いませんよ」

「じゃああっち行け」

「ここって何区ですか?」

「ほあ?ここは商売が盛んな58区だよ。教えてやったんだから壺買ってけ!」

「壺なら間に合ってるんで。さよならー」


 おれたちはその後も聞き込みを続けて家の陰で集めた情報を整理することにした。


「聞いたところによると区って順番通りに配置されてないんだな」

「ここはこの地図の新しく見つけた力を発揮するときがきたようだね!」

「その地図まだ力があるのかよ!」


 レイがニヤニヤしながら地図を広げてロオの街がある場所にトントンっと触れると地図の内容が変化というか拡大されてロオの街の詳しい地図が映し出された。これにはおれも驚いた。


「これは……ロオの内部か」

「その通りだよ。そしてここに更にペンで情報を書き込むことが出来るんだ。消したいときは文字に横線を二つ入れるだけで簡単に消えるようになってるよ」

「情報整理にはもってこいの機能だな」


 集めた情報によると目的の37区は地図で言うところの右下の位置にあるようだ。


「この地図のおかげで迷わずに行けそうだな」

「でも37区を取り囲むように危ないといわれる16区と63区があるらしいね」

「16区が通称”敷物の区”で63区が”鋼鉄の区”だよな。名前の付け方適当すぎだろ。とにかくそこの二つが長い間抗争してるらしいな」

「だからどこを歩いても不味そうだね」

「こうなればまたロープで移動するか」

「ディール、それは……却下だね」

 

 おれたちは迷いに迷って何を血迷ったのか敢えて堂々と歩いてみることにした。するとそこら中で戦いが起きているが意外にもおれたちには目もくれずに切りあっていた。小高いバリケードのようなものをよじ登って越えるとやっと目的地の37区通称”妖精の区”に到着した。

 

 ようやくだ……本当に長かった。

 おれたちは危険地帯を乗り越えて自然と笑っていた。


「ハハハ。何とかなるもんだなレイ!」

「僕なんて心臓止まるかと思ったよ」

「おれたち途中で仲間だと思われて連れていかれそうになったもんな!」


 37区に到着したがまだ終わったわけじゃない。ここの支配者に滞在する旨を話さなければならないらしい。


 37区内は他の区と同じような家が何段にも不規則に積みあがっていた。その窓や隙間からこちらをジロジロと子供が覗いていた。年はおれたちと同じくらいなので子供たちからはあまり警戒心が感じられない。またどこぞの子供が入り込んだ程度にしか思っていないんだろう。


 家屋の間を抜けていくと支配者がいるという場所にでた。そこにはこの場には似つかわしくない綺麗に咲いた白い花に囲まれた木製の教会が建っていた。


 扉をノックしてみると中から修道服を身にまとったいかにも優しそうな老婆が出てきた。老婆は顔も手も皺だらけだし白髪だらけだ。おれたちは森の一件があったので思わず後ずさりしてしまった。動揺しているおれたちをみかねて老婆が声をかけてくる。


「おやおや、また新しい住人かい?」

「そ、そうなんですよ。僕たちどうしてもここに住みたくて。ウナムって人からここがいいだろうと言われたものですから」

「あの兄弟たちがねえ。あの子たちは元気にしてたかしら?」

「元気の塊って感じだったなー。あの三兄弟」


 それを聞くと老婆はやっぱりって顔をしてからおれたちに教会へ入るように手招きした。教会の中も外装と同じで美しく整備されている。長椅子が並んでいて奥には祭壇がある。おれたちは導かれるように身廊を歩いて老婆についていく。


 教会内の子供は以外にも長椅子に座って静かに本を読んで勉強しているようだった。


 祭壇横の部屋に入り席について老婆と会話をする。


「もしかして貴女がこの区の支配者なのか?」

「支配者と呼ばれるのは好まないわ。子供たちにはシスターと呼ばれているのよ」

「じゃあシスター。さっきも言ったと思うんだけどここに住まわせてもらえないか?」

「もちろん、構わないわよ。せっかくだからウナムたちが住んでいた部屋を使いなさいな」

「「ありがとうございます‼」」


 シスターに挨拶を終えたおれたちは他の子供。といっても多分おれたちよりも年上の人に今後住むことになる部屋へと案内してもらった。積み重なった家の三段目がおれたちの住処らしい。


 部屋の中には以前まで使っていたであろう家具がいくつか残っており最低限の生活なら送れそうだ。部屋の中にはおれたち二人きり。荷物を降ろしたら疲れ果てて泥のように眠ってしまった。


 朝が来た。おれはいつものようにあの日の悪夢をみて目を覚ます。久しぶりにモンスターやカミオン帝国に怯えずに朝の陽の光を迎えることができた。


 汗だらけの顔を服のすそで拭いながら考える。おれのやるべきことって何だろう?とか今後どうするべきなのか?とか考えれば考えるほど訳が分からなくなっていく。父さんの言っていたことをやるにも今の追われている状況じゃ無理だ。


 …………力も何もないおれに出来ることは何一つない。誰かを守ることはおろか自分自身も守れない。今はただ…………待つだけだ。おれはおもむろに外に出て剣をひたすらに振った。

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