第13話 奇妙で愉快な三人組

 おれたちは相変わらず野宿を繰り返しながらロオの街をめざして旅を続けていた。野宿中の食事は森にいた頃とは違ってオーケンの住んでいる村の人たちからもらった日持ちする食料のおかげで草ばっかりの味気のない食事じゃなくなったからそこには本当に感謝しかない。

 

 問題があるとすればモンスターが森の中にいた時よりも強くなっている気がするってところだ。おれの身体の半分はあるであろう大きさの巨大蜂”ビッグビー”や夜行性の額に十字の模様を持つ凶暴なモンスターの”クロスウルフ”がいる。遭遇したら戦って何とか追い払っているがそれでも日に日に身体の傷は増えていった。


「レイー?ロオの街ってのはまだ先なのかー?」

「そうだねー地図の通りならもうじき到着するはずなんだけどな……」

「ちょっとだけ地図貸してくれよ」

「ん?いいよ」


 おれは歩くだけであまりにも暇すぎたのでレイに魔宝具の地図を貸してもらって伸ばしたり縮めたりして遊んでいた。この地図の新しく見つけた効果は破れても時間が経てば元通りになるということだ。地図で遊ぶのも飽きてきたので地図をよく見てみることにした。地図にはフォルワ大陸の全部が載っているわけではなく一部が黒く塗りつぶされているような状態だ。


「レイー。なんでこの地図って黒い汚れみたいな部分があるんだ?」

「その黒い部分は僕も気になってたんだ。多分、この地図を持って辿り着いたところの周辺が地図に載るんじゃないかな?」

「なるほどな。ってことはこの地図に載ってる村とか街はこれをくれたおっさんの行ったことある場所なのか」


 地図にはエイリレ王国やカミオン帝国の位置が載っていたがおれの住んでいたダマヤ村の部分には何もなかった。

 

「そういうことだね。でも、この地図のおかげで君のお父さんが言っていた願いを叶えられるね」

「……そうだな。確か『世界を自分の足で歩いて自分の目で見てこい』だよな。カミオン帝国に追われてるせいで叶えられそうもないけどな」


 そんなことを話していると遠くの方にかすかに人影が見えた。警戒して近づいていくとどうやら複数人で揉めているようだった。おれたちは岩陰に隠れてその様子を窺う。どうやら子供三人組と大人二人組が言い争っているみたいだ。


「ねえディール、あれってどういう状況?」

「分からないけど……子供たちの方、結構危なそうだな」

「そうだね。大人の方は武器構えてるし、助けようか」

「いや、もうちょっと待った方がいい。何を話してるのか気になる」


 会話を盗み聞きすることにした。


「おいおい、ガキども死にたくなけりゃあ金と食料あるだけ置いていくんだな!」

「ハァッ?典型的な盗賊かよ。今どきそんな脅し行為通用しねえゼヨ!おっさんども」

「兄貴ィ、そんなに挑発したら不味いでショ。謝って許してもらいまショ」

「そうそう。兄貴ィもう渡しちゃった方がいいモ」

「お前ら!ビビってんじゃねえよ!」


「ガキどもがあんまし盗賊様を舐めてんじゃねえぞ!」


 盗賊の内の一人が持っていた剣を高く掲げている。おれとレイは顔を見合わせて急いで岩陰から飛び出した。振り下ろされた攻撃をおれが剣で受け止める。大人だから力が強くて長く持ちそうにない。相手はおれたちが急に出てきて驚いているがその顔は段々と喜びの顔へと変化していった。多分、獲物が増えたから喜んでいるんだろうな。

 

 もう一人が援護のために襲い掛かってきた。あと少しでおれの首が刎ね跳ぶというところで三人組が一斉に飛びかかってもう一人の方をタコ殴りにして助けてくれた。その間にレイが魔法の小瓶を構えて呪文を唱える。


「”ボミット”」


 放たれた激流が盗賊の横っ腹に直撃して吹き飛ばした。飛ばされた本人は何が起きたか理解できていないようだ。三人組の方も殴るのを一旦やめたようだ。


「何だ今のは!こいつらまさか魔法使ったのか⁉」

「逃げるぞオル」

「分かったぜモル」


「逃げんのかよ盗賊ども!まだ殴り足りねえゼヨ」

「兄貴ィ落ち着きまショ」「そうだモ」


 三人組の中で一番大きいやつを他二人で抱き着いて抑え込んでいる。おれは武器を収めて三人組に声をかけることにした。


「お前ら、大丈夫か?」

「ンンー?アンタはさっき助けてくれた人か。助かったゼヨ」

「気にすんなよ。見た感じおれたち結構年近いだろ。見捨てられないよ」

「そういえばそっちのブロンドの兄ちゃんの方が使ってたのはまさか”魔宝具”か?」

「え⁉そうですけど。よく知ってますね」

「そりゃあもちろん知っとるゼヨ。おれたちもいくつか持っとるゼヨ。そうだ!助けてくれたお礼に俺の魔宝具あげるゼヨ」


 そう言うと一番大きいやつが袋の中から麻で出来たロープを取り出した。


「魔宝具なんてもらってもいいのかい?」

「アンタらは命の恩人なんだから当然ゼヨ。それに他にも魔宝具は持ってるからな」


 おれはロープについて気になったので聞いてみる。

 

「それってどんな力が宿ってるんだ?」

「このロープはな自分の思うままに操ることが出来んだよ。そこでしっかり見とくゼヨ」


 一番大きいやつがロープを持って何やら念じているとロープはひとりでに伸びていき三人組の一番小さいやつをグルグル巻きにして捕らえてしまった。


「兄貴ィ。やめてくれモ」

「わりぃな。力を見せるためだから許すゼヨ。このロープすごいだろ」

「ああ、本当にすごいな。おれたちが使ってた魔宝具がなくなったから困ってたんだよ。ありがたく貰っておくよ」


 おれはロープを受け取って自分の袋の中に入れた。


「そういえば自己紹介がまだだったゼヨ。俺たちはロオの街から抜け出してきた”ジョーガン三兄弟”ゼヨ。俺たちはいずれフォルワに名を轟かす存在になるべくして出てきたゼヨ。そして俺が長兄で名前はウナム、年は14歳だ。魂色は……調べたことねえから分からんゼヨ」

「私が次兄のヨウハで年は9歳です。よろしくでショ」

「おらは末弟のホウホウだモ。年は……多分6才だモ」


 どうやら特徴として頭に布を巻いているのがウナム、口元を布で覆い隠しているのがヨウハ、そして布を……?なんでこの子は布を食べてるんだ?


「おいホウホウ‼布を咥えるなよ。美味しくないだろ」

「だっておら腹が減ったんだモ」

「さっき食べたばっかりでショ」


 三人組の自己紹介が終わったので今度はおれたちが自己紹介をした。それが終わるとどうやら兄弟で何か目標を見つけるために旅に出たことやロオの街について説明してくれた。


「ふーん、アンタたちも旅の途中なんだな。まあお互いに頑張ろうゼヨ」

「そうだな。またどこかで会おうな」

「おうよ。じゃあお二人さんさようなら。ロオの街はあと少しゼヨー」


 三兄弟はそう言い残してどこかへと歩いて行った。


「何か騒がしい兄弟だったな」

「でも、すごい仲が良さそうだったね。それに魔宝具までくれたんだからいい人たちだよ」

「ロオの街はあと少しだ。急ごうぜ」


 おれたちも再びロオの街に向かって出発した。

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