第6話 神隠しの森
カミオン帝国の猛追を命からがら振り切ったおれたちは次の目的地を決めるために魔宝具の地図を地面に広げた。
「ディール、まずはどこに向かうかを決めようよ」
「普通に考えればエイリレ王国に行けば助けてもらえるんじゃないのか?」
「どうだろう……もしも青の魂色だってことがバレたらカミオン帝国みたいに殺されるかもしれない。それよりもここから更に東の”ロオ”って呼ばれる街に行ってみないかい?」
そもそも外の世界に興味が無かったおれはフォルワに地理について詳しくない。ロオなんて聞いたこともない街だからレイにどんな場所か聞いてみる。
「どんな場所なんだ?」
「ロオは別名”ならず者たちの理想郷”フォルワ最大のスラム街として有名なんだ。世界のあちこちから行き場を失くした人が必ず訪れる。その数があまりにも多すぎるからどこの国も手が出せず関わろうとしない」
なんだか聞くだけで危なそうだったけど『行き場を失くした』という点では今のおれにぴったりだ。
「隠れるにはうってつけの街ってわけだ。そこに向かおうぜ」
「ここからロオに向かうなら普通に進むと十日位かかるね。でも、近くの森を通れば普通よりも早くつけるはずだよ」
どっちのルートで進むか悩んだがまだカミオン帝国の追跡があるかもしれないと思うと早いルートの方がいい気がしてきた。
「安全を取るか早さを取るかってことか。おれは森を通った方がいいと思う」
おれたちは地図を頼りに近道となる森へ進むことにした。
森の入り口に着くと木製の看板が立ててあった。ボロボロで朽ちかけているが、読める部分を読んでみると「ここから先は立ち入り禁止」と書かれていた。
「なんだかヤバそうな森だなレイ。立ち入り禁止だってよ。とんでもない魔物が住み着いてるかもな」
「変なこと言うのはよしてよ、日が沈む前にさっさと抜けよう。ほら、ディールが先頭で進もう!」
看板の忠告を無視しておれたちは森の中を進んでいく。見ている限りではダマヤ村の近くにあった森と大差ない。森には植物が生い茂り小動物が木々の間を走り抜けている。
何事もなく進んでいると魔物が出てきた。相手はおれでも知ってる、ゴブリンが3匹とウォーバットが5匹。
「やっぱり魔物がいるか。流石は立ち入り禁止区域だな。あいつら、さほど強くなさそうだけどおれ武器持ってないぞ」
「僕も護身用の短剣しか持ってないよ」
「でも武術の稽古してるって言ってたじゃないか。実力発揮するときだぞ!」
「数多いし、相手は人じゃないから無理だよ」
「よし!逃げよう」
逃げようと方向転換して振り向いたが喋っていたせいでとっくに囲まれてしまった。おれは何とかして逃げる方法を考える。この状況での最善の策を、相手をよく観察しろ、ゴブリンの背はおれたちよりも少し小さいだけで、木製の手作り棍棒を所持してる。アレで殴られたら致命傷とはいかないがかなり痛いはずだ。ウォーバットは身体は小さいがパタパタと翼を動かして飛んでおり牙はかなり尖っている。
「ディール、こいつら襲って来る気配がしないよ」
「多分おれたちが美味いかどうか見定めてるんじゃないか?」
「よくこんな時に悪い冗談が言えるね」
「おれは真面目に言ったつもりだぞ」
おれは作戦を思いついたのでレイに内容を伝える。
「その作戦上手くいくのかい?」
「おれを信じろ。いくぞ!」
ふたりがかりで一匹のゴブリンに襲い掛かる。まず、レイが短剣でゴブリンと格闘する。間近で見ると分かるがレイの剣さばきは見事なものだ。ゴブリンの大雑把な攻撃を受け流している。ゴブリンが体勢を崩したところにレイがゴブリンの腕を攻撃する。ゴブリンは痛みで手作り棍棒を落とす。おれはすかさず手作り棍棒を手に取る。ここまでは作戦通りだ。他のゴブリンは仲間が襲われて動揺して後ずさりしている。盗んだ手作り棍棒でゴブリンを叩いてよろけさせる。
空中から興奮した様子のウォーバットが牙をむいてこちらに突進してきた。おれはよろけているゴブリンのボロ切れのような衣服を掴み盾にする。突っ込んできたウォーバットの牙がゴブリンの頭に食い込んでゴブリンが悲鳴のような声を上げている。その隙をついて牙が刺さって抜けなくなっているウォーバットを叩くとあっさりと気絶した。
仲間が倒された魔物たちはバラバラに森の奥へと逃げていった。頭にウォーバットがくっついたままのゴブリンもどこかへと逃げた。なんとか魔物を退けた頃には森に差し込む陽の光が橙色になっていた。
「なんとかなったな。ケガはないかレイ?」
「こっちは無事だよ。それにしても作戦、うまくいったね」
「当然さ。魔物の特性を知ってれば対策できる」
「ディールはなんでそんなに魔物に詳しいんだい?」
「……村長が貸してくれた本に『フォルワの魔物大図鑑』があったんだ。いつもは本なんか読まないんだけどそれだけは面白くてよく読んでたんだ。結局、借りっぱなしになったけどな……」
図鑑には『ゴブリンは他の魔物と共に狩りをすることがあるが連携をとれない』って事と『ウォーバットは一度突進すると止まれない』ということが書いてあった。本を読み始めた頃からこの魔物はこう対処しようって色々考えていたのが功を奏した。
夜になる前に森を抜けられそうにないから野宿することにした。おれたちは夜が来る前に食料になりそうな野草を探す。探している途中に渦を巻いて色が入っている随分とカラフルなキノコを見つけたのでレイに見せる。
「レイ、このキノコって食べられるのか?」
「その色と模様は”グルグル茸”だね。毒はないんだけど食べると目が回るからそういう名前なんだ」
「美味しいのか?」
「不味いらしいよ」
美味しくはないらしいが食料がたくさんあるわけじゃないのでいざって時のためにとりあえず拾っておくことにした。
野草もだいぶ集まったので少し開けたところで次は火を起こすことにしたが中々火がつかない。
「ディール。そろそろ日が暮れるよ。頑張って!」
「任せとけ!全力きりもみ式だァッ!」
木の板から煙が上がり始めた。よし!おれの全力火起こしによってようやく火種ができたので急いで火種を大きくして小枝に移す。小枝は勢いよくパチパチと燃え上がりおれたちを照らす。火と食料を確保したので食事をすることにした。野草をそのまま食べたり、少し炙ったりしてみたがあんまり美味しくはなかったし腹も膨れなかった。ヤギはなにが美味しくてこんなのばっかり食べてるんだ?
「やっぱり美味しくないな。魚が取れればよかったんだけどな」
「明日は狩りしてみるのもありかもね」
「ずっと移動しっぱなしで疲れた。もう眠ろうぜ」
「そうだね、僕も完全にへとへとだよ」
おれたちは横になるとすぐに眠りについた。
夢の中で目の前に血塗れの家族が磔にされていてそのすぐ横で謎の騎士が不気味に笑っている。そして謎の騎士がおれに向かって話しかけてきた。
「次はお前の番だ!青のガキ‼家族のように串刺しにしてやるよ!」
「やめてくれ……こっちに近寄るな。うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」
謎の騎士がこちらに剣を振りかざしたところで目が覚めた。さっきのは……最悪な悪夢だ。できれば二度と見たくない。おれがうなされていることに気づいたレイが心配そうにしている。
「だいぶうなされていたけど大丈夫かい?それにひどい汗だ」
「少しだけ昨日のことを思い出していただけだ。大丈夫だよ」
おれの顔色を見て心配そうなレイはハンカチでおれの額の汗を拭きながら話し続ける。
「そうなんだね。忘れられないよあんな惨状……あの騎士たちまるで人の皮を被った悪魔だよ。そういえば、僕の方が先に起きたからちょっとだけ周りを見てきたんだけどまだまだ出口は見えないね」
「そうか。早く出発しよう」
「ちなみに起きた時にまだ火がついてたから一応小瓶で回収しておいたよ。だからこれからはすぐに火がつけられるよ」
「流石の機転の利かせ方だな」
おれたちはまだ森の中を進んでいた。進むべき方角は常に日差しで確認しているから迷っているわけではないがそれにしてもずっと同じ景色ばかりだと頭がおかしくなりそうだ。もう何日も彷徨っている気がする。実際、おれたちはあれから2~3日ほど野宿している。何度か魔物に襲われているがその度に退けてきた。おかげで服は泥まみれでレイに至ってはせっかくの綺麗な髪がぼさぼさになっている。
「ディールー!何か見えてきたかいー?」
「まだなんも見えないぞー。こっちで合ってるのかー?」
レイは疲れたらしくおれよりもかなり後ろを歩いている。しばらく歩いていると目の前にあるものが見えてきた。
「嘘だろ……あれって、家だよな?!」
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