第15話 ランチタイム。そして下河君と天音さんのちょっとしたワルダクミ


【海崎湊 -Minato Kaizaki-】


「「「「いただきますっ」」」」


 |空、彩翔あー君、私――そして、ここん所ずっと一緒に食べている、つーちゃんの声が重なった。よく感心されるが、何のことは無い。保育園の頃からの習慣で。ままごと遊びに取り入れていたら、いつの間にか馴染んでしまったんだ。


(……懐かしいよねぇ)


 ママゴトでは、なぜか空の奥さんが、5人になったり。義理の息子設定の彩翔あー君と結ばれたり。空とお昼寝一緒にしただけで、NTRねとられたて言われたり。


 あながち、間違って無いけれど。ま、私の寝相が悪かったんだけどさ。そこは保育園の時だから、許して欲しい。


 この時の空は人気があったのだ。

 ただ、アイツの初恋の相手は、園長先生だったんだけれどね。


「おい、矢淵?! お前にはハンバーグ分けただろ?!」

「いや、美味しすぎるから! 下河シモママ、スゴすぎじゃない?!」

「それは、姉ちゃん作」

「マジ? マジ? 下河姉シモねぇ、マジばねぇ!」


 色々、言葉は乱れているが、矢淵さんはワルい子じゃないんだろうなぁって思う。が気を許しているのが、その証拠だった。


「え……じゃぁ、これもお姉さんの?」


 本馬さんが、目をパチクリさせる。食していたのは、ほうれん草のベーコンのソテー。


「あぁ、それは母ちゃんが作ったの。母ちゃんの、ちょっと味が濃いんだよね」


 毎度だけれど、雪姫さん基準で、料理をジャッジするの本当にヤメて。君のお姉さん、何気に料理に関しては、チートだからね?


「じゃぁ、これは?」


 とつーちゃんが、箸で摘まんでいたのは卵焼き。をれをパクッと食べた、瞬間だった。


「それ作ったの、俺」


 途端に、つーちゃんが目を白黒。顔は真っ赤。口はモグモグ。パニックになりつつ。できるだけ味わおうと、飲み込まないよう、必死に抵抗しているのがありありと分かる。


(つーちゃん、分かりやすいねぇ)


 でも、分かるよ。

 空を表面上しかみない人達には、絶対見えていないことだけれど。空はね、かなりの優良物件だから。彩翔あー君が、常にリスペクトしているの、本当によく分かる。

 アイツは努力を惜しまないし、行動すると決めたら躊躇しない。いつまでたっても、私たちのキャプテンなんだ。


「天音さん……? 甘かった?」


 ただ、ちょっとピンボケなんだよねぇ。


「お……美味しい……。これ、下河君が作ったの?」

「うん、俺は甘い卵焼きが好きだから、さ。ココは姉ちゃんとは相容れないんだよね」


 基本的に、下河家は働かざる者食うべからず。そして、台所で作業をしていた方が、味見ができるというお得感。空にとっては、そんな感覚なんだけれど、中学生男子でお手軽に卵焼きが焼ける方の、かなり希有だって私は思うんだ。

 多分、空は明日から一人暮らしと言われても、きっと全然できちゃう。


下河シモ、ウチにも! ウチにも!」

「無いよ。ハンバーグ食べたじゃん」


「それなら、ウチの焼きそばパンあげるから!」

「食いかけの方差し出すなよ!」


「ちぇっ。間接キス狙ったのに」

「「「矢淵さん?!」」」


 おっと、私まで便乗して声を上げてしまった。

 おほほほほ。


 みんあ、そんなに視線を注がないでよ。大丈夫、今の私は彩翔あー君、一途だから。


 いくら踏ん切りをつけたとは言え、空は私の初恋の人なんだ。空と付き合いたいのなら、まず私のお眼鏡に適わないとダメだからね?


「仕方ないかぁ。明日は、もっと食べさせてね?」


 ニシシと矢淵さんは笑う。攻めるなぁ、彼女。一方のつーちゃんは、もうk気持ちがいっぱいいっぱいなのか、上手く言葉にできていない。本馬さんもそう。すっかり、矢淵さんがゲームメイクしていた。

 でも――。


「え? 普通にイヤだけど?」


 まぁ、空ならそう言うよね。静かに食べたい派だし。

 と、その視線が、つーちゃんと、交じり合う。目を大きく見開いて『ショックです』と、物語っている。普段、クラスメートには取り繕った表情を見せるクセに、本当に空を前にすると、こんなに素直で。

 もっと本音を言えたら、言うことないのにね。


「……そ、その」


 空の視線が彷徨う。


「たまに、なら。別に良いけれど……」

「本当?」


 ぐっと身を乗り出す、つーちゃんに、空が面食らう。


(そりゃ、そうだよねぇ)


 普段は、笑顔で本園を覆い隠している。バスケ部で活動している時は、割と素顔を見せてくれているように思う。でも、ここまで晒け出した表情、私だって知らない。

 周りの男子達が、その表情に見惚れているのが分かる。


 と――。


「おっしゃぁぁぁ! 美紀ティー!」

「はい?」


 ここで話を振られると思っていなかったんだろう。本馬さんが、目をパチクリさせていた。


「みんなで、次も一緒に食べよう!」


 そのみんなに、本馬さんのお友達さんも含まれていることに、当人達も気付き、


「良いの?」

「よいのですか~?」


 二人とも、目を瞬かせる。


「どうせなら、みんなで食った方が楽しいじゃん。ね、下河シモ?」

「……俺は矢淵さんがいなければ、誰でも……」

「そんなに照れるなって!」


 バシバシ、空の背中を叩く。空は迷惑そうな顔を隠さないけれど――意外に、そういう対応の方が空には効果があるんだよね。


 線を引くような性格だからこそ。遠慮をしていたら、いつまでたっても宙を掴むようで。時に、矢淵さんのように積極的な方が、空との距離を詰められる気がする。


「ねぇねぇ、湊っち」

「おぅ、何よ?」


 その気軽さで、詰め寄られたら、苦笑しか出てこない。


「天音っちの歓迎会さ、ウチらも行っていいかなぁ?」


 それは、本馬さん達を含めて、と言うことか。私は少しだけ目を細め、矢淵さんを見る。


 別に、参加することへ不満はない。

 ただ、彼女は天音翼をイジめたというレッテルを貼られている。

 そこに反応スするヤツが、きっと――。


「……いやダメでしょ? もう締切ってるし。後から申込って、本当に困るんだよね」


 そう言ったのは、クラスで彩翔あー君に並んで人気のある、火花煌ひばなきらめきだった。


(面倒くさっ――)

 声にしなかっただけ、私は偉いと思ってしまう。


 矢淵さんは、火花の追っかけだった。。

 彼女を通して、つーちゃんが、自分に悪感情を抱かれらら困る。

 火花の思惑は、そんな所か。


ちぃさっ)


 なんでこんなヤツが、あー君と並んで、人気があるのか分からない。

 教室が、重苦しい空気に包まれた、その瞬間だった。





「それじゃ、俺も追加はダメってことだよね?」

 空が、そんなことを口走ったんだ。







■■■







「天音さん、ごめん。折角、誘ってくれたのに、無理みたいだ。残念」


 空、セリフは残念そうなのに。思いっきり棒読み。そして、メチャクチャ顔が笑っているんですけど?


「……そうだね。でも、別に、そんなに大変なら、無理をして歓迎会をしてもらわなくても良いかな?」


 つーちゃん? 空に合わせたように、棒読み。空以上に、とびっきりの笑顔で。何より、君たち打ち合わせしていたかのように、息ぴったりじゃない?


「ねぇ、下河君?」

「なに、天音さん?」


「幹事は黄島君と海崎さんに任せて、私たちでカラオケに行かない? 別に歓迎してくれなくても良いんだけどさ。私はみんなと一緒に楽しめたら、それで満足だから」


 おぅ? なんて、キラーパスを放ってくるのさ?


「そりゃ、歓迎するよ。だから、やっぱり天音さんと一緒に行きたいと思って、集まったワケだしね?」


 ニッと空が笑う。

 確かに、これ以上の理由はないよね。つーちゃんの、あんな笑顔を見たら、なおさらね。


「嬉しいなぁ。実はね、みんなと一緒に行けるの、楽しみにさていたんだ。やっぱり、来たい人は制限せずに、集まってもらえたら嬉しいかな?」


「仰せの通りに、お嬢様マドモアゼル


 あー君が、執事よろしく一礼。キザったらしいのに、イヤミにならないの、本当にあー君らしい。


 他の子に対して、そういう表情を見せるのは、少しモヤモヤするけどね。

 帰ったら、一時間耐久執事の刑、決定で。


「ちょ、ちょっと待って――」

 火花が狼狽しているが、もう遅い。



「行くよ!」

「もちろん、行くよ!」

「クラスみんなで、一致団結じゃん!」

「今年のクラスの標語は、一心同体!」

「私も行くからね、天音さん!」

「私も!」

「ちょっと待って、俺の話を。みんな、俺の話を聞い――」

「行きます!」

「参加します」

「俺の話を――んぎゃっ」

「俺の歌を聴かせてやるぜ!」

「いや、お前は歌わない方が――」

「なんだと、てめぇ!」





 あ、火花……タックルの直撃で倒れた。あ、踏まれたねぇ。


(大丈夫かな、あの残念イケメン?)


 怪我をしないか、それだけが心配だよ。


 クラスメートに揉まれつつ、なんとか火花が這い出してきた。火花煌は忌々しそうに空のことを睨んでいると。



 ――むにゅ。



 容赦なく、また踏まれてしまったのだった。





 ________________


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