【物語の欄外】半年後


今回のエピソードに、少しだけエッチな表現があります。

これは、空が全部悪いんです。

お姉ちゃんは恥ずかしい……。穴があったら入りたいよ。

そんな恥回ですが、よければ今回もよろしくお願いします


作者:Yukki



________________



「……ちょっと、翼? そろそろ、降りない?」

「これは罰ゲームだから、椅子さんは黙ってね?」


 今の現状を説明すると、胡座あぐらをかく俺の上にが、ちょこんと乗って、スマートフォンで例の小説を読んでいるところで。


「……罰ゲームって、空気椅子だったろ?」


 1 ON 1――ストリートバスケでの翼との対戦の末、今日は俺の惨敗だった。

 ちょっと屈んだら、胸の谷間が見えるワンピースでのバスケとか、なんて眼福――いや、実にけしからん。ディフェンスする時に、妙に胸を押しつけて来たり、ちょっと今日の翼はズルすぎる。


 そして審判の湊さんからは、無情にも警告ホイッスルは鳴らない。

 こんなの、絶対に負けるに決まってる。


「湊、罰ゲームは空気椅――」

「空椅子だね」

「空椅子だよ」


 湊に追随して、彩翔まで。あんまりだった。翼の亜麻色の髪が少し動く度に、俺の鼻をくすぐる。その香りに、脳裏が痺れて、胸の動悸が止まらない。


「あの、翼? 本当にシャレにならないから――」


 近い、本当に近い!


「やっ。ちょ、ちょっと、空君くっ、んっ――」


 いきなり艶やかな声が翼から漏れて。でも、これは不可抗力だ。鎮まって、兎に角、今は鎮まって俺!


「翼ちゃん、どうしたの?」


 姉ちゃん、聞かないで! お願いだから、今はそっとしておいて!


「その……椅子さんが、突然固くな――んっ」


 悶えないで、動かないで、説明しないで! お願いだから、色香を含んだ吐息を漏らさないで!


「あぁ、これはあれだね。天音さんに魅力を感じて、本能に購えない空君の図だね」


 冬希義兄ちゃん、解説しないで! スマートだけど、何のフォローにもなっていないから!


「……空? 私は作品のアドバイスを聞きたいのであって、セクハラを求めたワケじゃないんだけど?」


 ぐっと姉ちゃんが拳を固める。え? 正拳突きの構え? ウソでしょ、ちょっと俺、不幸すぎない?


「まぁまぁ、雪姫。こういうシチュエーションを本編に盛り込んだら、もっと面白くなるんじゃない?」


「……そっか。今のリアルを参考にさせてもらったら、人物像がさらに肉厚になるかも! 流石、冬君っ!」


「物語を形にしているのは雪姫だからね。一番すごいのは、Yukkiゆっき先生じゃないかな?」


 ごく自然に兄ちゃんが、姉ちゃんの髪を撫でて。嬉しそうに、姉ちゃんが目を閉じる。姉ちゃんの怒りが霧散したのは良かったけれど――俺は、いったい何を見せられているの?



「ねぇ、みー? 俺達、何を見せさせられているんだろうね?」

「……ダメだよ、あー君。この空気に呑まれたら絶対にダメ。せめて私たちだけは、理性的でいようね?」


 湊の言い方がひどい。姉ちゃん達と一緒にしないで欲しい。


「あれで付き合ってないんだからねぇ」

 彩翔が明らかに俺たちを見て、嘆息を漏らす。


(うるせぇ)

 俺は心の中で悪態をついた。

 




■■■





「空君のバカ、エッチ」

「……だったら、俺の膝から降りたら良いじゃん」

「それじゃ、罰ゲームにならないの」


 ぶすっとした声。翼を背中越しにしか見えないが、頬を膨らませているのはわかる。そして、心なしか耳が赤い。


「何を怒ってるのさ?」

「……別に怒ってない」


 あからさまに、不機嫌な声で「怒ってない」は無理がある。触らぬ神にたたり無しだが、触らぬ翼は、激オコDXデラックス。放っておいて、ロクなことになった試しが無い。

 でも――。


(今回ばかりは、何が原因なのか本当に分からないんだよなぁ)


 首を捻っていると、呆れたと言わんばかりに姉ちゃんがため息をつく。


「空って、本当に鈍感だよねぇ」

「鈍チンの姉ちゃんに言われたくないんだけど」


「少なくとも、空よりは翼ちゃんの気持ち、分かるよ? だって、この作品のために、インタビューしたからね?」


 ニッコリ笑って、そんなことを言う。何それ、模範解答入手済みって、新手の詐欺じゃん。


「……翼ちゃんはね、私の原稿を読んで。思い出しちゃったんだよ。空が、避けていた時のことをね」

「いや……別に、避けたワケじゃなくて……」


 俺といるより、他の奴らと青春ってヤツを謳歌して欲しいと思っただけだ。あの時は、完全に姉ちゃんを優先していたから。

 陰キャと蔑まれていた俺と一緒に行動すて、翼まで悪く言われるのがイヤだったんだ。


「……今さらだけど……」


 翼はこっちを見てくれない。でも、ため込んでいた感情が、破裂したんだと思う。


「私が友達になりたい人は、周りにどうこう言われたくない。釣り合いがとれるとか、取れないとか。本当に余計なお世話だって思う」

「う、うん……」


 俺は頷くことしかできない。翼は、スマートフォンの画面をスクロールさせる。


 ――ぽたん。


 翼の背中越しではあったけれど。

 ディスプレイに雫が落ちたのを、見てしまった。


「……あと、半年だよ?」

「ん、うん?」


 なにが?


「この物語時点で、あと半年もかかるんだよ? 空君と話すことができるまで。ずっと、空君とお話したかったけど。私、頑張ったけれど。それでも遠くて……遠くて――」

「うん」


 前に所在なさ気に、だらんとのばしていた腕。その腕に翼がしがみついてくる。


「今さら、言うけどさ」


 俺は翼の耳に囁いた。


「翼と、友達になれて良かったって思ってるよ」


 ぎゅっと、翼が俺の腕をにしがみき、ボソッと何かを呟いた。


「……へ?」

「なんでもないっ」


 ぎゅっと俺の腕にしがみついたまま、何も喋ってくれない。ただ、少しだけ顔を傾けた、その瞬間。唇を綻ばせる、そんな表情を垣間見た。





 ――空君のバカ。ただの友達なんかで、いさせてあげるワケないじゃん。






■■■







「はい! じゃぁ、ここで皆さんにお知らせです!」

「はい、雪姫。どうぞ」


 冬希義兄ちゃんが、神対応。どんなに姉ちゃんがハイテンションでも暴走しても、兄ちゃんにかかれば、全部受け入れてくれるんだから、本当に良い人と出会えたと思う。


「まずは、この小説『あの空へ、君の翼で』はカケヨメコンに応募しました!」


「おぉぉぉ!」

「頑張って!」

「目指せ、上位ランキング!」

「応援してます!」


 彩翔、冬希義兄ちゃん、湊。そして翼は好意的な反応で。


「はぁぁぁ?!」

 思わず、ブーイングの声を上げたのは俺のみ。

 いや、だってそうでしょ? 自分の黒歴史を小説にされて。さらには、コンテストに応募? 現時点で8000を超えるエントリー数。そこに食い込むなんて、できるワケがないのけれど。それでも、不特定多数の人の目に晒されるのは不可避なワケで。


「レビューコメントも2件いただきました!」


 姉ちゃんはルンルン。俺は鬱々、いっそひと思いに葬って欲しい。

 そう思いながら、スマートフォンを見れば。


 ――待望の空君が主人公の物語!

 ――今回は空くんの恋愛模様が描かれます


(はい?)


「……いやぁ、空って一部に人気だったみたいで。応援コメントがすごかったよ?」

 ニマニマ笑いながら、姉ちゃんが言う。


 ――空くん、かっこいい……!

 ――空くん、カッコ良すぎますね!

 ――空君、格好良い……!!

 ――空君は、やっぱりすごい男の子です


「にゃ、にゃ、にゃ?!」

「空、語彙崩壊してるよ」

「これは、作者の私が返信するより、本人が返信した方が良いかもって思ったの」


 言うに事欠いて、この姉はとんでもないことを言ってのける。


「モテモテだね、空君」

「つ、つば、翼――」


 ギシギシ、俺の腕を万力の如く、腕を捻るの本当に止めて。千切れ――痛っ! 痛い!


「あぁ、こんなにコメントもらっても、愚弟は翼ちゃんのことで頭がいっぱいのようです」

「待って! 今、それどころじゃ、痛いっ。イタタタタッ! マジ、痛い!」


 悶絶して、回答どころじゃない。


「……これは、雪姫に質問なんじゃない?」


 冬希兄ちゃん、ナイスアシスト。そして、平常運転。でも、俺を助けて!


 ――天音さんのリップクリーム、机の上に置いておいて姉に見つからなければ良いのですが


「あぁ。実は、全然気付いてなくて。確か、湊ちゃん経由で、返したんだよね」


 姉ちゃん、何事もないかのように解説していないで、マジで助けて?!


「空はさ、迷いなくつーちゃんのモノって確信していたけれど、どうして分かったの?」


「痛い、翼、噛むな! マジ痛い――へ? だって、翼が愛用しているヤツじゃん。それぐらい、分かるって――だから、翼、痛い! 潰れる! 跳ねるな! ちょっと、本当に――」

「自分で返したら、もっと格好良かったのにね」


 うるさいよ、彩翔。今、俺はそれ所じゃ――。


「ヘタレ」

「残念だけど、ヘタレかな」

「ヘタレ認定」

「がぶがぶがぶぶ(ヘタレ空君)」

「だから、翼! 噛むなって!」


 湊、冬希兄ちゃん、姉ちゃんの発言も容赦ないが、何より翼が特に酷すぎる。


「それじゃ、最後は作者の雪姫――Yukki先生から、読者の皆さんにメッセージをお願いします」


「はい! いつも応援ありがとうございます。中学校二年生編をできるだけ、早めに終わらせて、中学校三年生編では安定のイチャイチャに突入予定です。少しだけ、二人のガブガブ――じゃなかった。ジレジレをご堪能ください。いつも、ありがとうございます! カケヨメコンの応援も、よろしくお願いします!」



 よろしくお願いする前に……俺を……助けて……。







________________




あの空へ、君の翼で

第九話公開時点:レビュー数 ☆52

(レビューコメント 2件)

フォロワー数:79名

応援コメント:40件

アクセス数:981 PV


written by Yuki Shimokawa(yukki@フユ君大好き×大好き('□'* )だ ('ㅂ'* )い ('ε'* )す ('ㅂ'* )き♡)


読んでくれた全ての皆さん

本当にありがとうございます!


そして冬君。いつも、ありがとう💕

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