【物語の欄外】読者と作者と協力者
これは、ほんの少しだけ
ある意味、
それは、シンプルなプロローグ。
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「どうかな?」
「どうって、この作品は俺と翼がモデルってこと?」
姉ちゃんに言われて、スマートフォンから顔を上げる。そんなに、ワクワクとした顔をされても困る。苦言しか出てこない。
「冬君には面白いって、お墨付きをもらったんだけど?」
むしろ止めて欲しかった。出会いからを小説化されるなんて、誰が想像しただろうか。正直、この小説を全削除したい心境である。
(恨むからね、冬希
お願いだから、姉ちゃんの手綱をしっかり握って欲しい。冬希義兄ちゃんが止められなかったら、いったい誰が、この暴走姉を止められるというのか。
「……この時、ダンクなんか決めてないし! 誇張がひどすぎるよ! なんだよ、最後のシーン! この時も今も何も思ってなんか――」
ゾクッ、と背筋が凍りつく。
恐る恐る、視線を向ければ天音さんが満面の笑顔で、俺を凝視していた。
「……何も?」
「あの、翼さん? 目が怖いんですが?」
間違いなく、人を殺せる視線。今のその視線、殺戮光線だから。
「小説だから、多少の誇張はあるよ」
姉ちゃんがクスクス笑う。
「あの時の空君も、本当に格好良かったんだけどね」
そんな小っ恥ずかしことを平然と言うよね、君ってさ。
「お
「もちろんだよ!」
俺との表情、感情の起伏の対比がひどすぎる。それに、翼もあの小説を読むの?
「いや、ちょっと待って! それは――」
「何か、不都合があるの?」
「いや、な、ないけど……」
だから、目が怖い。冬希義兄ちゃん、笑ってる場合じゃないよ、本当に助けて!
最近、やけに姉ちゃんが、翼が転校してきた時の話を聞きたがると思っていたけれど。こういうことだったんだね!
しかもすでに、小説投稿サイト【カケヨメ】に投稿済みとか、ひどくない? 個人情報保護法違反! 俺は一人でも断固、この横暴と戦い続ける!
なお翼も協力者――原案担当としてクレジットされていた。冬希兄ちゃんは編集者らしい。もう一度言いたい。編集者なら、この作者の横暴を止めて欲しい。切実にそう思う。
「それほど、誇張でも無いと思うけどね?」
ニッと笑む姉ちゃんが、本当に憎たらしかった。
■■■
翼が、姉ちゃんのノートパソコンを注視する。
クルクル。くるん。トラックボールマウスを操作して。画面をゆっくりスクロールさせる。
【あの空へ、君の翼で】
その文字が、目に飛び込んできた。
物語が、紐解かれていく――。
ふと、顔を上げた翼と、俺の視線が交じり合う。
諦めた笑顔なんかじゃない。
満面の笑顔が、俺を溶かして。
羽根が、ふわりと舞い降りるように。
俺の頬をくすぐった気がしたのは。
きっと、気のせいなんだ。
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あの空へ、君の翼で
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written by Yuki Shimokawa(yukki@フユ君大好き×大好き('□'* )だ ('ㅂ'* )い ('ε'* )す ('ㅂ'* )き♡)
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