第22話16歳編④
「それじゃあ、パパ達が帰ってきたらパパ達にカズマの事を紹介しないとね。多分、パパは酔っぱらって帰ってくるだろうから、説得もラクだと思うけど…問題はお兄ちゃんよね。」
「お前、兄弟がいるのか?」
「うん…お姉ちゃんとお兄ちゃんが1人ずつ。あと、お姉ちゃんの旦那さん。」
そう言いながら、まりあはテレビ台に飾ってあるフォトスタンドをカズマの所へ持ってくる。
「ママの写真はパパが肌身離さず持ってるから、見せられないんだけど…」
「ガチャッ…」
ほぼ同時刻、首藤家の玄関のドアが開き、1人の女性が黒髪の男性と共に家の中へ入る。ガレージには2台のバイクの隣に1台の白い軽自動車が止まっており、恐らくまりあの家族のうちの誰かが帰ってきたのだろう。
「うっかりしてたわ…結婚式の段取りの書類を忘れてたなんて…」
2人は階段を上り、徐々にリビングへと近づき、今度はリビングのドアに手をかける。
「ガチャッ…」
「ごめんね、マリー!結婚式の書類を置いてきちゃったみたいで…」
そう言いながらリビングに入ってきた女性は思わず1人の少年と目が合った。
「お姉ちゃん!!!」
まりあが姉に気づいた刹那、突然空間が歪み、カズマは瞬く間に真っ黒な空間の中へ投げ出されてしまった。カズマは周囲を見渡すと、そこにはまりあの姿が一切見えず、彼女の代わりに出てきたのは…
「これは、今のお前が「首藤まりあ」を恋人として選んだ未来…つまり、お前は自らの運命に背き、「首藤まりあ」を選んだ事で、自らを破滅…いや、一つの世界を破滅へと導いたんだ。カズマ…いや、カルマン・ガレット・ブラーヴ・シュヴァリエよ…」
髪色は違うが、顔立ちはカズマもといカルマンと瓜二つの青年は、カルマンの前に立ったまま、片手で己の大剣を構える。甲冑もマント以外は勇者の姿のカルマンとほぼ同じ形状で、大剣についている薔薇色の宝石も、カルマンの大剣と同じ宝石だ。カルマンはその青年が誰なのかやっと理解する事ができた。
「ニコラス!!!お前…お前も…」
「「ニコラス」…昔は俺をそう呼んだ奴もいたな。だが、俺はもうその名は捨てたよ。お前が18で死んだ日その日からな!!!!!」
カルマンに向かって大剣を振りかざす男の勇者の言葉に、カルマンの表情は愕然とする。
「それじゃあ、俺は剣が石になった理由を知らないまま…」
「そう…お前はその理由を知らぬまま、吟遊詩人としてフルーティアの大統領によって政治利用され、凱旋先で王太子ベルナルドに殺された。それが、お前の最期だ…」
「どう…したら…その未来は…変えられるんだ…」
「自分の気持ちの変化を素直に受け入れねぇ限り、お前の運命は変わらねぇ…思い出せ!!!お互いの夢のために幼馴染の事を諦めたその時、自分の心に芽生えた気持ちを!!!!!」
男の勇者が叫んだ刹那、カルマンは勇者として目覚め、ライム枢機卿の計らいで修業に明け暮れていた日々の事を思い出した。
ブランシュ卿や、ジュリアの両親に支えられながら、病弱の母親とまだ幼い双子の弟妹を養いつつ、勇者として力をつけ、光の魔法を覚え、勉強もした。それでも、「勇者たる者、泣き言を言ってはいけない」という固定概念が染みついてしまい、誰かの前で涙を流すことも、いつの間にか忘れてしまっていた。
「本当は…寂しかった…怖かった…でも、勇者がそんな事言っちゃいけねぇって…ばあちゃんから聞いてた…だけど、そんな辛さを寂しさも苦しみも…全部受け止めてくれる奴が…ほしかった…勇者シュトーレンのような優しさを持っていた存在が…」
「本当の自分」を完全に思い出したと同時にカルマンは本音を漏らすと、カルマンがいる空間はまりあと一緒にいたリビングに戻った。
「思い出した?あなたが勇者になるために忘れていた気持ち…」
そこには、スヤスヤと寝息を立てながら眠るまりあに膝枕をする赤い髪の女性…カルマンの夢の中に出てくる勇者シュトーレン本人がいた。カルマンは黙って頷くと、勇者シュトーレンは悲し気な表情でカルマンにバラの紋章がついた古びた白い小瓶を手渡す。
「「勇者」という身分を盾に、自分を偽り続けれていたら、いずれ限界がくるわ。限界に達した勇者は壊れ、全てを失う…あなたのおばあさんは、あなたにそれを教えようとする前に、亡くなってしまったの。その小瓶の中には、あなたがおばあさんから教えられなかった「勇者として大切な要素」の一つが入ってるわ。」
「勇者として…大切な要素…?」
「強き力、深き知性、眩き光…あなたはおばあさんからその3つを教わったと思う。だけど、勇者はその3つの要素では力不足なの。そして、4つの要素が揃った勇者は更に強くなる…」
祖母とよく似た女勇者の言葉に、カルマンは渡された古びた小瓶をぎゅっと握りしめる。
「そうか…それで、あいつがそばにいると、あなたが夢に出てきたのか…」
「それが分かった今、あなたなら勇者としてやり直せるわ。でも、アタシの可愛い妹に手を出した責任は取ってもらうわよ?」
女勇者がそう告げたと同時に、カルマンはまりあと結ばれてはいけない理由を思い知ったのだった。
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