第4話12歳編③
「こんな所で大きな剣なんて持って…」
「ひ、ひぃっ…」
魔法でカルマンと同じ年齢くらいの少年1人を、紫の練り飴の怪物に変えつつ、怪しい人物はカルマンに近づく。怪しさしか感じないその姿に、カルマンは逃げようにも腰を抜かしてしまい、まるで金縛りにあったかのように逃げる事ができない。
「それにその顔立ち…あの憎き勇者と似ている…そうだねぇ…まずは坊やを抹殺とでもいこうか…」
怪しい人物の言葉に呼応するかのように、怪しい人物が持つ杖の先端の黒い水晶が黒い稲光をバチバチと放つ。
思わずカルマンの脳裏にフラッシュバックする、悲しき光景…目の前の人物は、まさしく祖母を剣で貫いた黒フードの怪しい存在と目つきが似ている…冷徹で氷のような冷たい瞳…
「死ねぇっ!!!カルマン・ガレット・ブラーヴ・シュヴァリエっ!!!!!」
叫びと共に、その人物は黒い稲光を放つ杖を空高く振り上げるが…
「シュバッ…」
カルマンが思わず身をかがめた刹那、白い光が怪しい人物を真っ二つに切り裂き、その光の中から白と金を基調とした甲冑姿の女勇者が現れた。
「あなた、自分のおばあちゃんから何を学んだのかしら?闇雲に動くだけでは、カオスには勝てないわ!!!」
「あ、あんた…勇者…だったのか?」
今、カルマンの目の前にいる女勇者の姿…髪を肩より上に結い上げ、膝上丈のスカートを着用している事以外は、殆ど勇者の時の祖母と瓜二つだ。カルマンの前で見せる笑顔も、まるで若かりし頃の祖母の生き写しのように感じる。
「そうよ…あなたのいる世界より未来の…ね?だから、一緒に来て話を聞い…」
「グォンッ!!!!!」
まるで勇者のセリフを遮るかのように、紫の練り飴のカオスイーツは勇者をがんじがらめにからめとり、瞬く間に自身の身体に引き寄せてしまった。その衝撃で女勇者の持っていた大剣は落ち、さらに結い上げた髪は解け、カルマンの前で炎のような真紅のロングヘアーをなびかせる。
「うぐっ…」
カオスイーツに動きを封じられた勇者の真横に、黒いボンテージ姿で2本足で立つ女豹が現れる。どうやら女勇者に斬られたと同時に、黒いフードのついたマントを脱ぎ捨てたようだ。
「そう言えば、カルマン・ガレット・ブラーヴ・シュヴァリエには娘がいたって聞いたねぇ…その憎き目つき…まさに彼そっくりだ…」
女豹の言葉にカルマンは先ほどの女勇者の言葉と、大賢者の言葉を思い出す。女勇者は「少年のいる世界より未来の勇者」だと言っていた。自分のいる世界が未来の世界であると言うのなら、大賢者が言っていた「29年前の勇者ガレット」が自分であるというのもつじつまが合う。そして、練り飴のカオスイーツに捕まった女勇者は…
「俺の…娘…?」
見れば見るほど、彼女は自分の祖母と似ている…その答えが少年の脳裏の中で繋がった刹那、カルマンは足を震わせながらも立ち上がる…
「うっ…ぐっ…」
スイーツの怪物・カオスイーツからの締め付けで、甲冑に亀裂が少しずつ入り始め、マントと黒いインナースーツに至っては、カオスイーツの糖分で腐食し、女勇者は徐々にその素肌を露わにしつつあった。
「フハハハハハ!!!親子揃って、このヒタム様にたてつくからさ!!!!!」
苦しむ女勇者の真横で、女豹は狂ったように笑いだす。
一方、理科室に避難したフットサルチームの面々は、化け物に襲われる勇者と、それを嘲笑う女豹に恐怖を覚える。そんな中、1人の小学生・
「負けるなーーーーーっ!!!勇者ーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
突然の大きな声に、カルマンは不意に声のする方向へ顔を向ける。声のする方向からは、カルマンよりも4歳程幼い少年が校舎の窓から身を乗り出しつつ、こちらを見ている。
「化け物を…僕達の優しい蘭ちゃんに戻してーーーーーーーーーー!!!!!」
その叫びに、他の少年達も一緒になり、冷斗と共に勇者に声援を送り始めた。その声援に、カルマンは背中を押されるような感覚を覚えた。どことなく、身体の奥から何かがこみ上がって来るような予感も同時に感じる…
「ばあちゃん…俺…守りたいものがあるんだ…だから…」
震える腕…すくむ足…それでも、カオスイーツから抜け出ようとする未来の娘を守りたい…祖母が刺客から自分を逃がすために大剣を託したと言うなら…カルマンは大剣の柄を右手でぐっと握った。
「俺に…力をかしてくれ!!!!!」
叫びと共に、カルマン少年は祖母の形見の大剣の鞘を抜き始めた。
大剣はいとも簡単に鞘から抜け、カルマンが鞘から大剣を抜いたと同時に、剣から白い光が放たれると、グラウンド全体が一瞬にして白い光に包まれる。
「ぐあっ…なんだ、この光は…」
白い光が放たれると、女勇者はカオスイーツから瞬く間に引きはがされ、満身創痍のまま自分の大剣を拾い上げる。
「うおっとととと…」
白い光が放たれる中、カルマンは両手で大剣の柄を握るが、どうにもバランスが取りづらい。そんな彼の背後を誰かが支える感覚がした刹那、今度は男性の力強い声が響く。
「今だ!地面に向かって思いっきり振り下ろせ!!!!!」
言われるがまま、カルマンは祖母の大剣を地面に向かって勢いよく振り下ろすと、その衝撃で女豹は動きを封じられ、身動きが取れなくなった。それと同時に、カルマンの全身から力が抜ける感覚がして、両膝が地面につくと同時に、カルマンはそのまま気を失ってしまった。
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