人形が人間になるときは
「アナベルに何を言った?」
義理の兄と妹を屋敷の端で追い詰めた。アナベルが去っていった後、彼女の様子がおかしいと思った。
「な、なにも……自分の立場をわからせてやっただけだ」
ドンッと壁を足で蹴る。義兄の腹のあたりを掠める。ギャアと悲鳴をあげる。
「もう一度聞く。何をした?何を言った?」
「やめて!セオドア!ただ伯爵家たるにふさわしい人を選んでほしいだけなのよ」
俺の顔を見て震えながら、涙目で言う異母妹を睨みつけた。
「なんなの?セオドアはあんな平民の女を選ぶの?好きなの?」
それでも異母妹は負けじと尋ねてくる。
好き?……アナベルのことを俺が好き?思わぬ単語に俺は言葉に詰まる。
………わからない。どんな感情が好きというものなのかわからない。
温かな空気感を持っていて、近くにいるとホッとするアナベル。優しい眼差しを向けていて……いや、でもそれは俺に対して向けてくれているわけじゃない。
苦笑した。そうだ。俺じゃなくて、リアン様にアナベルはその優しさや温かさを向けているんだ。俺になんか向けているわけがないだろう。
俺がボーッと考え事をしている間にいなくなる二人。好きというものはどんなことをいうのだろう?
陛下とリアン様を見ていると本当に好きなんだなと思うことはある。特に陛下。ずいぶんとリアン様の前だと優しくて、どこか抜けてる陛下になってしまう。
恋をすると人はそうなってしまうのか?
アナベルを見ていると、仕事じゃないのに手助けしたくなるし、声をかけたくなる。風が吹いたあの日、実は見ていたんだ。アナベルが追いかけるハンカチを……手が届かなくて困ってる彼女を見ていた。目で追いかけてしまっていた。
人形が人間になるための条件はなんだろう?人形のままの自分をだれかが愛してくれるとは思わない。ただのつまらない人形の俺なんて……誰も……誰も今まで愛してはくれなかった。
父に、戦へいってきますと今、挨拶をしてきたが、特に何も言われなかった。無関心だった。
愛を知らない人形は愛を伝えることができるのか?
アナベルが出ていった外に目をやると、曇り空が広がっていた。自分の心がわからない。誰か教えてくれないだろうか。
この事件後、アナベルは俺と目を合わせてくれなくなった。いつもと同じように仕事を完璧にこなす彼女だが、よそよそしい。
心に穴が空いたような気持ちになったが、それをどうアナベルに伝えていいかわからない。人形として生きてきた自分は人としての感情になんて弱いのだろうか。
しょせん……合わないんだ。俺は俺の仕事をしよう。もうすぐ戦が始まる。いつもどおり陛下のために身を持って尽くし、いつ命を差し出してもかまわない準備をしておくだけだ。
人形は人間にはなれない。
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