王宮内は騒がしく

 ユクドール王国との戦が濃厚になってきたようで、バタバタと慌ただしく騎士の方々が動いている。メイド達はヒソヒソと大丈夫なのかしら?と囁きあう。


「アナベル、王妃様は戦についてなにも言ってないの?いつもどおり怠惰に過ごされてるみたいけど?」


 ……作戦遂行中です。なんて言えない。


「そうですね。あまり動揺されてませんね」


 ……動揺どころか、戦の準備のために師匠に会いに行ってます。


「ふーん?王妃様は戦に興味がないのか、それともどっしり構えてるのか?」


 ……興味がありすぎて困ってますよ!


 こんなやりとりをわたしもメイド内でするほどになった。エイルシア王国は大丈夫なのでしょうか?


 そんな中、お嬢様が帰ってきた!陛下がワンコのように、嬉しそうに駆け寄っていった。わかり易い方です。


 お嬢様の話では無事に師匠に頼み事を了承させることができたとのことでした。帰ってきたリアン様の頬をそっと撫でる陛下の仕草は本当に……本当に……お嬢様を大切に想っているのがわかります。自分のことのように嬉しくなります。


 ふとセオドア様と目が合い……ジッとこちらを見ていたことに気づきしばらく見つめ合ってしまう。……戦になったらきっとセオドア様も陛下と共に危険なところへ行ってしまうのですね。


 それが不安で悲しいことに思いました。誰も傷つかないでほしいのですが……戦はそんなものではないことを知っています。


「勝つわよ」


 え?とわたしはその自信に満ちた声の方を向く。お嬢様はニッコリほほ笑む。


「大好物よ。アナベル。私とウィルバートはこの国を守ってみせるわ。あなたもこの国の民もね」


 その顔は見惚れるくらいに美しい王妃様の顔をしていたのでした。


 我が主はなんて素敵な方なんでしょうか。かっこよさにうっとりしかけてしまった。


 ウィルバート様とリアン様が二人っきりになりたいと言うので、セオドア様と共に部屋から出た。


「あの……お嬢様を守ってくれてありがとうございました」


「いや、ほとんど要らなかった。リアン様の変装はすごいな」


 へん……そう……?わたしは首を長くして傾げた。


「アナベル、もう戦は避けれない。だけど絶対にこの国へ足を踏み入らせないと誓う。陛下と共に行ってくる」


 行かないで欲しいという言葉を飲み込む。陛下のことを誰よりも思い、守ってるセオドア様に……わたしは今、相応しくない言葉を……なぜ言おうとしたのでしょう?


 危険ですからと言おうものなら、それが仕事だと返されるだろうし、陛下をお守りするのは当然のことだと言われてしまうだろう。


 だけど……わたしは思ってしまうのです。セオドア様、どうか無事に帰ってきてください。できるなら行かないでほしいと……。


「ここでわたしはお待ちしてます。ご武運をお祈りしています」


 心とは裏腹な言葉を伝えてしまった。


 セオドア様は微かにほほえみ、そして頷いてくれた。


 お嬢様もきっと今、このドアの向こう側でウィルバート様に切ない思いを伝えてるに違いありません。帰りを待つ者はなんて切ない気持ちになるのでしょう。

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