図書室ではお静かに
図書室にはクロードというメガネをかけた司書がいる。いつも暇そうだが、今日は珍しく忙しいようで、呼び止められた。
「おー!セオドア、良い所に来た。頼みがある。しばらくここにいてくれないか!?用事を済ましたら、すぐ来るから!」
「えっ……いや、俺は陛下からリアン様の興味がありそうな本がみつかったから、図書室に置いておくように言われただけで、長居は……」
頼むよーと拝まれて、仕方なく少しの間だけ居ることにした。どうせこの時間に利用者はあまりいないだろうから居るだけになる。
いつもクロードが座っているカウンター席に座り、ボンヤリ本を眺める。こうしてみると膨大な数の本があるな。
扉が開いた。入ってきたのは掃除係のメイド?と思ったらアナベルだった。前が見えないほど本を手に持ってよろけつつ、歩いてくる。
あれリアン様が読んだのか?相変わらず、すごい読書量だな。
前が見えないと危ないだろうと立ち上がって、手伝いに行く。後数歩でと近づいた瞬間、図書室の床につまずいて『キャッ』と小さく悲鳴をあげ、アナベルが転びかけ、本が崩れる。オレは咄嗟に床を蹴った。
危ない!と抱きとめる。本はバサッドサッと床に落ちる。でもアナベルはかろうじて転ばずにすんだ。俺の腕の中にいる。
「……大丈夫か?」
「え?あっ!?セオドア様!?」
「一度にあの量の本は危ない」
俺の顔を見て、驚く。頬が赤くなってくる。なぜ赤らめているのだろう?
「あの……えっと………ありがとうございます……でも……離して頂けますか?」
ずっと抱きしめるような形だったことに気づく。
「あ、すまない」
「いえ……助けてくださりありがとうございます」
手を離すと、なんだろうか?物足りないような?そんな変な気持ちになる。アナベルは胸のあたりでギュッと拳を作って、こちらを見てくれない。
「いやー!セオドア、ごめんごめん!遅くなって………?」
その時、クロードが突然帰ってきた。俺とアナベルの雰囲気に首を傾げる。
「なにかあったのかい?本が散らばってるけど?」
「なんでもありませんっ!わたしが本を持ちすぎてしまって、落としてしまったんです!」
散乱した本を拾いながらクロードに慌てて、そう答えるアナベル。その説明は確かに間違いではないなと俺も本を拾う。
クロード、もう少し遅くなっても良かったのにと思ってしまったのだった。
こちらを見てくれないアナベルに言葉をかけようとしたが、忙しなく動き、リアン様が必要な本を持って、失礼します!と小走りにいなくなった。
「まさか、セオドア、なんか変なことをしたんじゃないよな?」
クロードがアナベルを見送り、俺に尋ねてきた。
「してない」
してないと思う。
「だよなぁ。おまえに限って、そんなことないよな。陛下にしか興味が無いしな!陛下一筋!陛下ラブ!だもんなー」
「誤解を生むようなことを言うな。クロード、後悔するぞ?」
ごめんごめーんと謝ってるが、からかうのが楽しいとばかりに顔が笑ってる。一回シメてふざけないようにしてやろうか?そんな気持ちになる。
クロードに構ってる場合ではなく、陛下の護衛に戻ろう。廊下に出ると、フッと後宮の方向を一度だけ振り返ってしまったのだった。
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