学習好きのお嬢様
「アナベルって名前を書いて欲しいの。どんなスペル?」
真新しい紙とペンをリアンお嬢様がそう言って、私に手渡す。
「あの……書けないんです。学校へ行く暇がなかったので……」
「そうなのね。じゃあ、私と一緒にしましょうよ。そこに座ってちょうだい」
「だめです。わたしはただのメイドなんです!お嬢様と同じようにはできません!」
「一人より二人で勉強するほうが楽しいもの。良いでしょ?」
チラッと傍にいた家庭教師らしき人をリアン様が見ると、その女性は深〜い溜め息をはぁ……と吐いてうなずいた。
「アナベルが居たほうが、大人しくお部屋に居てくれますからね。一緒にしましょう」
つまり見張り役ということでしょうか?
「楽しい教科なら逃げずに学ぶわよ」
家庭教師が一瞬ムッとする。
「勉強に無駄なものなどありません!さあ!読み書きの時間です」
サラサラと書いていく。リアン様。
「お上手ですねぇ」
「アナベルもしてみたら良いわよ」
紙とペンを渡してくれる。わたしは慣れない手つきでミミズのような文字を書き、それでもなんだか文字を書ける機会が嬉しくて、楽しくなってきた。
家庭教師が真面目に取り組むリアン様とわたしを見て、少し席を離れた時だった。
ポイッとリアン様がペンを置く。わたしは真面目に書き続ける。
「あーあー、本当はね、この国一番の賢い先生の私塾へ入りたいの」
「リアン様なら大丈夫でしょう?私より小さいのに文字も書けますし、読めますし……」
「だめなの。お父様が許してくれないのよ。なんのために行くんだ!?って言うの。女が学んだところで貴族社会じゃ役に立たないって。刺繍や楽器の先生なら追加してくれるらしいわ」
しばらくお嬢様と一緒に勉強していてわかったけれど、退屈なのだろうと思う。旦那様の書物を読み漁ったり、商売の話を黙って聞きながらも自分で分析したりしているリアン様には、もう年相応の勉強では飽きてしまわれている。
「リアンお嬢様はとても賢い方と思います。あの……メイドのわたしが口を挟むのはおこがましいのですが、好きなお勉強をさせてあげてはいけないのでしょうか?」
一度だけ旦那様にそう言ったことがあった。お忙しい方なのに、わたしのようなメイドの話をしっかり聞いてくださる人だった。ニッコリ笑って優しい顔をした。
「あいつは放っておいても好きな勉強なら隠れてでもする。だけどそれだけではダメだ。女性として身に付けなければならないマナーや知識もあるんだ。じゃないと、大人になってからリアンが困る。……リアンのことを心配してくれてるんだな。ありがとう」
そう言って、旦那様は出かけて行った。色々考えていらっしゃるのだとわかり、わたしは余計なことを言ってしまったと後悔したけれど、旦那様はリアンのために考えてくれる者がいるなんてリアンは幸せなことだと理解をしてくれた。良い旦那様です……が、その旦那様はお嬢様に負けて、1年後にはけっきょく私塾へ通わせることになったのでした。
リアンお嬢様と賭け事の勝負をしたらしく、負けて、奥様にとても怒られてました。
とても楽しいお屋敷で働かせていただけて、わたしは幸せです。
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