第38話 カードゲーム大会・3

 後攻唯一のアドバンテージ、1ターン目でドローができるために動きやすかったり盤面を覆すようなことがしやすい6枚の手札。『天からの雷』や『怒りの大寒波』のように1枚でモンスターかマジック・罠を一掃できる汎用カードがあるために後攻からでも捲ることは可能だ。


 そんなカードを引いたってことだろうか。一応『偽神と呼ばれし者』は破壊耐性があるから『天からの雷』じゃ破壊できない。伏せてある罠も1枚で、その1枚のために『怒りの大寒波』を使うとも思えない。


 さあ、どう来る。


「私は手札からマジックカード『楽園への誘い』を発動!『楽園』カードをデッキからサーチ!」


「させるかぁ!手札から『屋敷めのこ』を発動!そのサーチを無効化する!」


「読んでたよ、リリちゃん!手札から更にマジックカード『封印令』!このゲーム中、指定したカードを使用できなくする!指定は『屋敷めのこ』!」


「ぐう、引いてたか……」


 『屋敷めのこ』は優秀な手札誘発なんだけど、その手札誘発を止める手段ももちろん用意されている。『封印令』はその最たるものだ。このゲーム中、つまりこの決着が着くまでお互いのプレイヤーは指定されたカードを使用できなくなる。


 これで俺の手札の『屋敷めのこ』はただ可愛いモンスターカードになってしまった。


 フィールドにも出せないから手札にあっても邪魔なだけ。手札を1枚捨ててみたいな効果のためのコストにはできるけど、それ以外には何もできなくなったために正直キツイ。


 『封印令』はその効果の凶悪さからデッキに1枚しか入れられない制限カードだ。こんなの3枚も使われたらバトルスピードが一気に遅くなる。


 これで『楽園への誘い』が通ってしまう。サーチを止められる手段がないのは苦しい。


「効果が通ったから、私はデッキから『楽園妖精リラ』ちゃんを手札に!そのまま召喚!効果も発動!止められ……ないね!じゃあその罠は警戒しなくて良いやつだ!」


「そ、それはどうかな?それと、止められないからって使えるカードがないわけじゃない!手札からモンスターカード『倍増する栗饅頭』を発動!このカードを手札から墓地に送ることで相手がモンスターを召喚・特殊召喚するたびに手札が7枚になるまでドローできる!」


「某ネコ型ロボットとのコラボカード……!レジェンドレアだったはずなのに!」


「創造したよ。止められないみたいだね。じゃあリラの召喚に合わせて1枚ドロー」


 モンスターの効果を止めたり、サーチをできなくするような罠じゃないことは事実だ。だからサーチは色々と通ってしまうけど、油断しているならこの罠が発動するだけ。


 まあ、すっごく展開されたら罠の1枚くらい破壊したり無効化するようなカードを出されるんだけど。


 もしターンが返ってきた時のために『倍増する栗饅頭』を発動しておく。『屋敷めのこ』が使えなくなったから手札を増やしても水瀬さんの展開を止められることはないけど、保険はかけておくべきだ。


「私はデッキから『楽園妖精シスエラ』を手札に。シスエラの効果でそのまま特殊召喚!」


「特殊召喚成功でカードドロー」


「シスエラの効果で楽園マジック・罠・フィールドをサーチ!『楽園──アンジェラスカ』を手札に持ってきてそのまま発動!シスエラを手札に、アンジェラスカの効果でシスエラをもう1体特殊召喚!」


「1ドロー」


 ここまでは定番の動きだ。さて、ここからどうするんだろうか。シスエラが2体並んだことは脅威だけど、それだけじゃ『偽神と呼ばれし者』をどうにもできない。


「レベル8のシスエラ2枚でコンタクト召喚!『楽園奏者クラウディウス』を特殊召喚!」


「シスエラよりそっちを優先するの?1ドロー」


「クラウディウスが召喚に成功した時、デッキ・墓地からフュージョンと名の付くカードを手札に加えてコストを無視して発動できる!『楽園融合エデン・フュージョン』は本当は手札かデッキからカードを3枚墓地に送らないといけないんだけど、それを無視して融合召喚!デッキの『楽園騎士ラウム』と『楽園水馬シーホース』を融合!『楽園城主カルバンク』を特殊召喚!」


「融合召喚で1ドロー」


 『楽園融合』はデッキから上の3枚を墓地に送れるから墓地の効果を使えるためにメリットとして使われることが多い。そのメリットをわざわざ無視して使うのはどうなんだか。デッキの残り枚数が少ない時にはメリットとして使われるけど、今は万全な状態だ。


 デッキ・手札・フィールド・除外状態のカードを墓地に送って融合召喚できる破格のカードだ。デッキから3枚墓地に送ったことで融合素材が足りなくなる可能性もあるので踏み倒せる効果もなくはないって感じだ。


「カルバンクはなあ。純粋に攻撃力が3000なのと、破壊耐性があるから倒しづらいんだよな」


「クラウディウスが攻撃力2800だからその偽者の神様は倒せるけど、それを倒したらSPデッキから好きなモンスターが出て来るんだよね?」


「そう。だから今のままじゃこのターン中に僕を倒すことはできないね」


「じゃあまだ動こうかな。墓地のシーホースの効果を発動!このカードと楽園と名の付くカードを合計3枚除外してSPデッキのカードを1枚墓地に送ってそのカードのレベル以下の融合モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する!レベル10『楽園の亡者守り人』を墓地に送ってレベル8、『楽園の女主人イブリウム』を特殊召喚!」


「その特殊召喚でもう1ドローができない。手札が7枚になっちゃったからね」


 くう、シーホース戦法まで完璧に使いこなしてる。イブリウムなんて『楽園融合』くらいでしか出せないのに、それを踏み倒せるんだから相当強い。ワンキルされるラインが整い始めた。


 だけど、ここらでそろそろ打ち止めにさせて貰おう。ここまで伏せていた罠をここで使う。


 さあ、プレイングミスをしないでこの試練を突破できるかな?


「『楽園の女主人イブリウム』が特殊召喚された瞬間にトラップカードオープン!『神を守りし神殿ケヌトゥス』!自分フィールドに神が存在する場合にのみ発動可能!神以外の全てのカードを持ち主のデッキに戻す!」


「え、デッキに⁉︎えっと、あ、これ!フィールドのアンジェラスカの効果を発動!相手が発動したマジック・罠の効果を自分フィールドの楽園モンスターを墓地に送ることで1ターンに一度だけ無効にする!」


「正解!」


 多分使える効果が3つあったはずだけど、水瀬さんはしっかりと正解を導き出した。処理の問題で直接アンジェラスカの効果を使わなければこのトラップを無効化できなかった。


 デッキや手札にカードを戻す、いわゆるバウンスというものはウィザード&モンスターズにおいてほぼ最強の効果を持っている。破壊されないとか、効果で墓地に送られないとか、対象に取れないとかそういう耐性というのがカードにはあるんだけど、バウンスはほぼ通る。


 他のカードの効果を全て受け付けないとかいう限られた数枚のカード以外は全て跳ね返せる最強の罠だ。神が守る神殿なだけはある。


 まあ、他のカードによって簡単に無効化されるんだけど。


 リラが墓地に送られて無効化が成立。さあ、次の試練だ。


「イブリウムの効果を発動!デッキから楽園カードを1枚除外して手札の楽園モンスターを特殊召喚する!『楽園賢者マキ』を特殊召喚!」


「この特殊召喚でももう手札が7枚だから僕はドローできない」


「マキの効果を発動!このカードと手札を1枚墓地に送って墓地の楽園モンスターを効果を無効化して特殊召喚!シスエラ、戻ってきて!」


「とにかく殴って8000を減らそうとしてるね。まあ、それができるデッキではあるんだけど」


 大量展開をしているけど、そろそろリソースがキツイんじゃないかな。楽園は確かにかなり強いけど、その代わりにデッキと手札のリソースをかなり使うテーマだ。あと2枚でたった1枚の偽神を突破できないんじゃないだろうか。


 攻撃力という意味でも、まだ足りないぞ。


 『楽園の亡者』を墓地に落としたのは優秀だけど、その効果を使うためのリソースが足りないぞ。


「えっと、カードを1枚伏せて……」


「このタイミングで?え、いやまさか……!」


「ふっふっふ。リリちゃんの手札は7枚、私の手札は1枚!そう、このカードは!」


「「『天からの祝福』!」」


 初心者に渡された救済カード。お互いのプレイヤーは手札が5枚になるように引くというぶっ壊れカード。


 もちろん俺は手札が7枚もあるのでカードを引けない。一方水瀬さんは手札が全くないから5枚も引ける。最高効率でカードを引いてくれちゃって……!


 これで『楽園の亡者』のリソースが足りてしまう。


「マジックカード『高等融合術』!墓地・フィールドの魔法使い族を素材に融合召喚!墓地の魔法使い族を3枚除外して『高齢なるエンシェント・大賢者ソーサラー』を特殊召喚!バトルフェイズ!」


「打点は一見、足りてそうだね」


「シスエラで偽神を攻撃!」


「偽神の効果発動。2800ダメージを与えてから破壊される。破壊された瞬間に更に効果発動!SPデッキから召喚可能なモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚!出でよ、レベル12!『破壊神バルギルス・ロウファン・トライオン』!」


「レベルがまた、すっごく高い!でも、攻撃力0……?」


 本来ならシンクロニティ召喚をしなければ出せない、しかもその条件もかなり厳しいカードだけど全てを無条件にして召喚できる。


 この神はその名前の通りの効果だ。攻撃力が0だからって舐めちゃいけない。というか、攻撃力が低いモンスターこそ警戒しなくちゃいけない相手だ。


「破壊神の効果を発動!このモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを除くフィールドの全てのモンスターを墓地に送り、墓地に送られたモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」


「え、ちょっと⁉︎攻撃力分の合計って、やられちゃう!えっと、えっと?墓地の『楽園の亡者』の効果を発動!手札を3枚捨てて『楽園の亡者』を除外!相手の効果を無効化にする!」


「いいね、墓地送りは無効化される。だけど『破壊神バルギルス・ロウファン・トライオン』は墓地のカード1枚につき攻撃力が500上がる!この効果は他のカードによって無効化されない!」


「え、墓地のカード?攻撃力7000⁉︎」


「さあ、突破できるかな?」


 この破壊神が最後の試練だ。これを突破できれば初心者脱却と言えるだろう。


 楽園デッキだとただ攻撃力7000なだけのモンスターは処理されやすい。本当は破壊されない効果があるんだけど、今は無効化されてるし。


 シスエラの効果を無効化しているのが大きいか、これは。


「……うーん?光ってる?あ、そっか。融合素材にしちゃえばいいのか」


「え?融合素材?まさか最後の手札って、そんなディステニードローある⁉︎」


「手札から『煉獄融合』を発動!デッキからカードを3枚墓地に送って自分・相手フィールドのモンスターを素材に融合召喚するよ!」


「それデメリットじゃないんだよ!墓地肥やしができる上に相手のモンスターを素材にするなんて……!」


「破壊神とシスエラを素材に、『楽園追放者アダムフィン』を特殊召喚!」


「あ〜あ。僕のフィールド空っぽだよ?」


 これ、『天からの祝福』がなければ全然戦えた結果じゃないだろうか。あの1枚で全部がひっくり返った。


 俺はもう抵抗する手段がない。ただ殴られるのを見るだけだ。


「これでトドメ!イブリウムでダイレクトアタック!」


「グアアアアアアッ‼︎」


 ライフが0になって俺が負ける。全然勝てる試合ではあったのに、ドローで完全に負けた試合だ。


 試合が終わったことで俺は拍手をして水瀬さんを讃える。


「おめでとう、水瀬さん。このまま先輩2人を倒して1位抜けしてね」


「うん!リリちゃんも2回勝てばまだ勝ち上がれるんだから、頑張ってね」


「吹上先輩がなあ。さっきも勝ってたし、歴的には一番強い人だと思うし、激戦は必至だよ」


「オーフェリア先輩、めちゃつよって言ってたし。うん、頑張るよ」


 同期対決は負けて。


 その後吹上先輩にも神対決で負けてしまい、ユークリム先輩には死の呪いデッキで特殊勝利を成立させて勝利。


 ライフの得失点差で俺は4位だった。特殊勝利のせいで本来なら8000点貰えるはずだったのにそれが貰えなかったのでユークリム先輩に3位を渡してしまった。水瀬さんが吹上先輩のサブデッキに勝ってユークリム先輩に負けたので順位の決め方が得失点差で決まった。


 吹上先輩と水瀬さんが勝ち上がったので俺は最初の予定通り解説席に。これからBリーグの解説をしていく。


「リリ、特殊勝利はかなりコメント欄で盛り上がったぞ。大会的にはどうなんだって選択でも、エンタメ的には大成功だ」


「そうそう。特殊勝利の演出が見られたのは運営さん的にもありがたかったって言っていただけました」


「FORの皆さんを呼んで正解だったでしょう?リリ様、この後の解説をお願い致しますね?わたくしが優勝するのを応援してくださると嬉しいですわ」


「はい。わかりました」


 一旦入った休憩で事務所にいるゴートン先輩とドロッセル先輩、吹上先輩にそう言われて大会的には良い爪痕を残せたみたいなので満足した。


 あとはBリーグと決勝トーナメントの解説だ。


 霜月さんと水瀬さん贔屓の解説をしないように気を付けないと。

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