第37話 カードゲーム大会・2
リーグ戦の1試合目が終わったらしい。相手のデッキの中身を知らないように試合を観戦しなかった。スタッフさんの指示を受けて作られたルームのテーブルに着く。これから水瀬さんとの試合だ。
水瀬さんのデッキは俺が大枠を作ったためにだいたいは知っている。最終調整はリスナーと一緒にやったために最終的なデッキの中身は知らないけど楽園騎士デッキなのは間違いないだろう。先攻を取られるとまずいので割と最初のコイントスにかかっている。
配信自体はちょっと前に進めていてコメントを読みながら試合が終わるまで雑談をしていた。今は会話ツールに入っているのでここに水瀬さんが来るまでの時間稼ぎだ。
俺は今日事務所に来て配信をしているけど、参加者が全員事務所に来ているわけじゃない。司会の二人とオーフェリア先輩だけで他の人は自宅で配信をしている。昨日泊めてくれたコウスケ先輩も来ていないどころか出禁だそうだ。
司会2人とオーフェリア先輩に邪魔するなと言われたらしい。今回は案件に近い大型の箱内大会であるためにいつもの身内ノリでやられると協賛の方に来年の案件を受けてもらえない可能性があるから絶対に失敗できないほどに重要なものだ。
今までも箱内大会はあったものの、ゲームを提供してくださっているゲーム会社が完全バックアップとして控えているのは初めてのこと。これからはこういう案件も増えそうということで第1回の今日は成功させないといけない。
だからコウスケ先輩はプレイヤーとして張り切ってくれと言われたわけだ。運営側を気にせず、いつも通り楽しんでくれればいいと伝えていた。運営側の苦労なんて背負わず、コウスケ先輩らしく大会を盛り上げてくれと言われたわけだ。
だから俺も司会を断られたわけだし。まあ、決勝トーナメントに出場できなかったら賑やかしで解説席に来てくれと言われてるけど。
しばらく待つと水瀬さんが会話ツールに入ってきた。
「ヤッホー、リリちゃん。もう配信してる?」
「してるよ。音声載せていい?」
「いいよー」
パソコンを操作して水瀬さんの音声を配信に載せる。載せられる声じゃないから待ってくれと言われることもあるので確認は大事だ。
「テステス。リリちゃんの声も載せたよ」
「音声は問題なさそう。まさか1試合目が水瀬さんとだなんて」
「ふふん。二週間前の私と一緒だと思わないでよね。みんなとめちゃくちゃ悩んでデッキを仕上げてきたんだから。この『プリティーな楽園へご招待!』デッキの前でリリちゃんは平伏すことになるよ!」
『なんやて?デッキ名?』
『みなちぇは結構ネーミングセンスがダメ。これでもマシになったんだぞ』
『これで?』
よくわからない名前が聞こえたためにコメント欄も混乱している。ネーミングセンスはなあ、本人の感性だし。あまり深く突っ込んだらダメだ。
「それは楽しみだ。じゃあテーブルに着こうか」
「リリちゃんのデッキは何?結局教えてくれなかったよね」
「まあ、僕らしいデッキさ。見てからのお楽しみ」
というか伝えても多分水瀬さんがわからないし。これで元のストラクチャーデッキの名前を伝えて「あー、あれね!」って反応が返ってきたらよっぽどウィザード&モンスターズに精通していることになる。
対戦の準備ができたことでコメント欄を見なくする旨を伝える。ピーピング(相手の手札が見えてしまうイカサマ)などをなくすためだ。両方の配信を見ていたら相手のできそうなことがわかっちゃうんだよな。それを防ぐために試合前にコメント欄を閉じるようにしている。
準備を済ませて試合を始める。お約束を言わないと。
「バトルの宣言をしろぉ!
「え?なになに?」
「気にしないで。ただのネットミームだから。もし他の人に言われたら『バトル開始ぃぃぃ!』って返すと喜んでくれるよ」
「後でリスナーに教えてもらお」
意味の分からなかった水瀬さんは困惑するものの試合が始まり先攻後攻を決めるコイントスが始まる。ゲームが自動的にやってくれるが、俺の方が表が出た。表側が選択権があるので俺は迷わず先攻を選ぶ。
「当然先攻ぉ!」
「リリちゃん、今日はその感じで行くの?」
「ネタを挟めそうなところはね。いやあ、先攻取れて良かった。巻き返しは難しいから後攻になるとジリ貧になっちゃうデッキなんだよねえ」
カードゲームのほとんどは先攻を奪うことで盤面を整えて相手に何もさせずに速攻で倒す先攻制圧型がかなり流行っている。というか、
後攻ワンキルという後攻特化のデッキがある。この後攻デッキの良いところはコイントスで負けても基本相手は先攻を選んでくれるのでコイントスに一喜一憂しなくて良いというのは心情的にありがたい。
手札が配られる。よし、悪くない。手札が事故で先攻なのに何も動けないなんてこともある。後攻になった時用にまくれるような汎用カードを入れていたらそれが5枚手札に来てしまって場を整えられませんでした、なんてことはよくある話。
今回はしっかり動けそうなのでそのまま行く。
「マジックカード『Let's Party!』を発動!手札のモンスターを1枚相手に見せてそのカードと同じ種族のモンスターを手札に加える。僕は『素早いタヌキ』を見せて同じ種族の獣族をサーチ!止められる?」
「『屋敷めのこ』ちゃんはどこ⁉︎」
「よし、通った!獣族の『鈍足なタヌキ』を手札に。手札の『素早いタヌキ』の効果を発動。このカードを相手に見せた場合、このカードは手札から特殊召喚できる!」
「なんか随分変な効果だね?」
それはそう。相手に見せないと特殊召喚できないってどういうことと誰もが考える。手札なんて極力見せない方がいいのにこのデッキはとにかく自分の手札を公開する。見せたカードは召喚しちゃえば良いだろってことらしい。
というわけで『素早いタヌキ』を守備表示でフィールドに出す。
「自分の効果で特殊召喚された『素早いタヌキ』の効果を発動!デッキから『フュージョン』と名のつくカード1枚とタヌキと名のつくカードを手札に加える!」
「1枚で2枚も持ってくるのは卑怯ってリスナーが言ってた!」
「結構あるんだけどね。というか『素早いタヌキ』が効果を発動するにはかなり条件が厳しいからこれくらいは許してくれないと」
デッキから『動物同盟
まだまだ動くぞ。
「『大食いタヌキ』の効果を発動。手札の獣族を墓地に送ってこのカードを特殊召喚!『鈍足なタヌキ』を墓地に送って守備表示で特殊召喚する!」
「レベル6!でも守備表示?」
「ここで墓地に送られた『鈍足なタヌキ』の効果を発動。墓地のこのカードを除外してレベル4以下の獣族モンスターをデッキから特殊召喚!なんでこれ、デッキ指定の上にレベル指定もあるんだろう?というわけでデッキから『白銀たなびかせる霊狐』を特殊召喚!」
「あれ?タヌキは⁉︎」
「誰がタヌキデッキと言った!僕は勝利をリスペクトする‼︎」
「魂は売っちゃダメだよ!私だってテーマ外のカードはあまり入れてないのに!」
「僕は勝利の美酒を知ってしまった!もう後戻りはできないのだ!たとえ闇のカードを入れようとも!」
「闇のカードって何⁉︎」
アニメを知らない初心者に語録で話しても全然通じてないだろう。詳しくはアニメを見てほしい。
あと、こんなことを言っておいて闇のカードは入れていない。カードの妖精が宿った不気味なカードとからしいけど、使用者の魂を蝕むとかで危険なカードとかなんとか。そんな妖精・闇のカード編というのがアニメであった。
強力なカードが多かったんだけど、そのカードを使ったライバルキャラは最終的に身体を妖精に乗っ取られてしまう。カードゲームのアニメなのにキャラが平然と死ぬからホビーアニメって結構残酷なんだよな。
銀色で透明な四足歩行の狐を召喚したんだけど、このカードが中々強い。俺のようなファンデッキではなくても入れている人が多いカードだったりする。
「『白銀たなびかせる霊狐』の効果を発動!デッキから5枚まで墓地に送り、その中にモンスターが3枚あればそのモンスターを全て除外してデッキからレベル6以下のモンスターを特殊召喚できる!さあ、運命のデッキロスト!」
自動で墓地に送られるカードたち。墓地に送られた5枚の内4枚がモンスターカード。しかも召喚したいカードも全部墓地には行かなかった。
この効果を使いたいからこそ、俺のデッキはモンスターの数が多めになっている。安定してこの効果を使いたいために汎用カードもギリギリまで抜いている。マジックカードと罠をかなり少なくしてある。
「よし、効果成立!特殊召喚するのは『アサシン・オウル』!守備表示!さあ、水瀬さん!この布陣を見て何を思う?」
「ま、まさか……FORを揃えたってこと⁉︎」
そう。狐にフクロウ、タヌキと俺たちFORっぽいカードが全部揃ったのだ。この構築にするのは難しかった。『白銀たなびかせる霊狐』がシークレットレアで3枚必要だったからめちゃくちゃガチャ回したし。まあ、レベル6以下以外の指定がないからかなり強力なカードではある。レベルも3だから通常召喚をしやすいし。
このデッキのエースを出す条件が揃った。
「「白銀たなびかせる霊狐』はチューニングモンスター!フィールドのレベルの合計によってSPデッキからシンクロニティモンスターを特殊召喚できる!『アサシン・オウル』に『白銀たなびかせる霊狐』をチューニング!悪路続く雪道を、その輝きを持って照らし出せ!シンクロニティ召喚!招来せよ、『霊界の大王オウル・タナトス』!レベル7!」
大鎌を持ったフクロウの翼を持つ女人が演出付きで召喚される。霜月さんみたいなカードだ。閻魔大王がフクロウだったら、というモチーフらしい。
フクロウだし、今回のデッキにはシナジーがあまりないけど中継地点としてはありかなと思って採用している。エースを出すには割と最適解だし。
「その白枠のカードは⁉︎私のデッキにも入ってる!けどそれ、なんか緑色のマークが出てる……?」
「よく気付いたね。このオウル・タナトスはシンクロニティモンスターでありながらチューニングモンスター!つまりまだシンクロニティ召喚はまだできる!『大食いタヌキ』に『霊界の大王オウル・タナトス』をチューニング!ダブルターボシンクロニティぃぃいいい‼︎全ての星を超克せよ、限界を超えた終末を救いし狭間の神!『
「レベル、13⁉︎」
ウィザード&モンスターズにおける最高レベル。いくつかの神にしか許されないレベル13。
だというのに攻撃はなんと2000と弱め。それを攻撃表示にして出す。
神の名前やそのレベルに反してボロボロの黒衣を纏った顔も見えない人が朽ちた大剣を持っているという見た目も割と地味目なカード。強いし設定は好きなんだけどな。
「僕はカードを1枚伏せてターンエンド」
「えーっと、効果見るね。お互いのエンドフェイズ時に相手へ2000ダメージを与える?あ、ちょっと⁉︎」
効果を読んだ瞬間にダメージを受ける演出が入る。そう。何故だかわからないけど毎ターンバーンダメージを起こす困った神だ。いや、神扱いされてるだけの神じゃない人だけど。
「後の効果は攻撃表示のこのモンスターが攻撃対象になった場合、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えるっていうのと、このカードがフィールドから離れたらSPデッキから好きなモンスターを召喚条件を無視して召喚できるっていう効果だね。それと、効果じゃ破壊されない」
「つまり2000をギリギリ超えるモンスターで倒しつつ、次に出てくるモンスターを倒せるようなモンスターを用意しなくちゃいけないんだね?」
「そういうこと」
理解が早くて助かる。
『楽園騎士』デッキでも『世界樹の守護者』デッキでも倒せるギリギリのライン。それを目指してこの『
というか、コンマイさん側からFORの3人は最初のストラクチャーデッキに指定があった。霜月さんと水瀬さんは初心者だからデッキを指定してもおかしくはないけど、俺なんて強制で『アニマルパーティークラッシュ!』だったからなあ。
そんなの、FORデッキを作るしかないじゃないか。動物園モチーフのデッキで求められているのはタヌキデッキかFORデッキしかない。狐はすぐに決まったけど、フクロウは数が少なくて逆に悩んでしまった。デッキで使えそうなカードはどれかと考えて、『霊界の大王オウル・タナトス』は確定でそれ以外のカードはどれがシナジーがあるかと調べた。
結果としてどれもシナジーがなかったため、ただ入れただけとなっている。フクロウのカードはほとんどが鳥族で獣族とは噛み合いがなかったんだから仕方がない。
正直この盤面を揃えられただけで満足だ。勝ち負けはどうでもいい。
練習配信はこの『
『
さあ、水瀬さんはどう突破するかな?
「私のターン!ドロー!」
「ドローを口にする!えらい、デュエリストの鑑!」
「これすると良いってリスナーに教えてもらった!それとリリちゃん、私の勝ちだよ!」
え?ドローしてすぐにそんなこと言えるの?
もしかしてひっくり返せる意味でネタじゃない方の「完璧な手札」ってこと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます