第36話 カードゲーム大会・1

 土曜日。エクリプスの公式チャンネルで始まったウィザード&モンスターズバトルクロスのエクリプス大会。本配信として公式チャンネルで司会のゴートン・リゾマータとドロッセル・アン・パルスの2人が進行をしつつ観戦モードで実況・解説をしていく形になる。


 二人ともバトルクロスもしっかりとやっているために解説は問題ないと運営側も太鼓判を押していた。そして出場者は個々人で配信の枠を取って試合を見せていく方針だ。


 観戦モードではお互いの手札が見えないのでどういうデッキかわからないのだ。その場面での最適解も予想して話さないといけないので司会の2人は中々大変だ。


「おはよう、異世界の住人よ。ゴートン・リゾマータだ。今日はウィザード&モンスターズバトルクロス大会の解説と司会を務める。ということでよろしく」


「同じくドロッセル・アン・パルスです。私が実況と司会になります。公式大会の司会ですが、コウスケ君と一緒じゃなくて助かりました。あの子、段取りとか無視するのでこういう公式の場だと司会とか向かないダメな子なんですよ。同期で勇者と聖女だからと一緒にしないでくださいと伝えたら協賛の方々がちゃんと解説できる方が良いとのことでゴートンさんになりました」


「だってアイツ、結構なニワカだぞ?強いデッキしか知らないからマイナーデッキが出てきたら解説なんてできないし。というわけでオレに白羽の矢が立ったわけだ」


『いきなり暴露で始まる公認大会があるぅ?』

『コウスケ、ニワカだった』

『微妙に世代じゃないとか、やるのが遅かったとか?』

『え?え?勇者と聖女って仲悪いの……?』

『これでも優しくなったんだぞ。コウスケがやんちゃ坊主だったのを矯正してきたのはドロッセルなんだから。だから一部ではママと呼ばれている』

『司会としての能力がないのは、向き不向きがあるから……』

『オーちゃんじゃダメだったの?』


 公式大会で協賛にバトルクロスを運営しているゲーム会社とカードを販売しているオモチャ会社がいるのだが、そこでのスタートがいきなり身内切りのようなものだったためにコメントがどんどん増える。


 バトルクロスの大会は初めてだったことと、カードゲームそのものが人気だったためにエクリプスの配信でもトップクラスの同時視聴数を叩き出している。そんな場でも平常運転の2人は見付けたコメントを拾っていつものように話し出す。


「オーちゃんにも司会のオファーを出したんですよ?そうしたら『わたくしがトップになってみせますわ!プレイヤー側で大会を盛り上げますのでドロッセル様が是非に司会で盛り上げてくださいませ!もし司会に困りましたらゴートン様が良いかと』てアドバイス付きで返信貰って」


「まあ、オレの歴が長いことは同期だからこそ知ってるだろうし。後の経験者がプレイヤーで出たいって要望ばかりだったからオレが司会に収まったわけだ」


「一応リリちゃんも司会でも良いですよって返事があったんですが、入ったばかりの新人さんに司会をやらせるのもどうなのってことと、FOR3人で戦ってほしいというコンマイさんからの要望でこうなりました」


『コンマイ、何やってるの……?』

『カードをもっと刷って、どうぞ』

『俺の『暴かれし墓』を禁止から解除してくれ』

『オーフェリアは見たいというよりは勝ちたい派だろうから解釈一致』

『ゴートンとドロッセルがコウスケをボコボコにするところが見たかったのに』


 そんな裏事情なども零しつつ、スケジュールもあるので進行を進める。全試合を見ることと今日1日で決勝までやり切るので案外時間の余裕はないのだ。


 2人が大会の概要を話し始める。


「ルールとしてはスタンダードなライフ8000。先攻後攻はコイントスも変わらず。初心者組だけ本来であれば禁止カードの『天からの祝福』を1枚入れて大丈夫としています。これで救済になるかどうか。正直使われたくないカードだぞ」


「5枚になるようにドローなんて、カードゲームをやっている方からすればどれだけ有利なカードかわかるでしょう。今回は経験者2名、初心者2名になるようにリーグが別れていて、そこの上位2名が本戦トーナメントへ勝ち上がりです。勝ち星が同じな場合、ライフ差も加味して順位を決めます。なのでできるだけダメージを受けないことが勝ち上がりのコツですね」


『2勝1敗とかで順位が並びそうだよな』

『初心者組が勝ったら激アツ』

『練習配信で俺たちが鍛えたからな。勝ってくれるはずだ』


 事前に配られているストラクチャーデッキを改造したデッキは必ず1回は使うこと。それ以外だと作成したデッキはもう1つだけ許可されており、1回の制約を守ってもらえばどっちのデッキを使っても構わないこと。


 今日これからのデッキ編集は禁止。運営に提出しているデッキに修正を加えないこと。禁止カードが許可されているのは『天からの祝福』だけ。


 そんなルールが話されて、次は組分けが発表される。


「Aリーグは経験者がオーフェリアとリリ。初心者がユークリムと水瀬。Bリーグの経験者がコウスケとケイン。初心者が真崎と霜月。ドロッセルはこの組み合わせをどう思う?」


「見事にばらけたなぁって感じ?同期で一緒なのリリちゃんと夏希ちゃんだけだなんて。オーちゃんがコウスケ君をボコボコにするところ見たかったのに」


「ちなみに練習させてってせがんできたコウスケをオレとドロッセルはボコボコにしてるので悪しからず」


『コウスケ、同期の中で一番弱い?』

『ゴートンとドロッセルは多分自分のアカウントだから。同じ条件だったら……んにゃぴ』

『FOR全員一緒のリーグもあったのか』

『優勝候補はやっぱオーフェリア?なんかサブデッキもえぐかったけど』

『そもそもサブデッキを用意できてる時点でおかしいんだよ。汎用カードと元になるデッキが配られてるからって、たった15000石で2デッキも作るな。テーマが似てるならまだしも、全く別テーマ2つとかいくら石があっても足りん』

『真の豪運はオーフェリアだった?』


 厳選なルーレットの結果なのでたまたまばらけただけだ。同期による潰し合いが発生した可能性もあり、それを避けられたのは話題的には成功だろう。


 FORは参加人数が多かったので被るのは仕方がない。絶対誰かは予選で戦う宿命だったのだ。


 ルール説明も終わったことで早速Aリーグの試合に移る。第1試合はオーフェリアとユークリムの試合。先攻はユークリムだった。


 ユークリムは相当練習したのか、迷いなく盤面を作り上げていく。プリンセスデッキと呼ばれる童話・寓話をモチーフにしたお姫様たちを大量に並べて最終的には童話の世界に相応しくない巨大ロボットが全てを破壊するような、なんとも世界観がおかしくなりそうなデッキだった。


「おお。今日も絵本の世界は燃えている」


「よく見る光景だよ、本当に。『機皇帝エルドラ』はどんなデッキにも入るフィニッシャーだけど、あのゴッツイロボットの中にお姫様が入ってるって考えるとね。エルドラは自分のソウルカードを2枚使って相手のフィールドのカードを4枚まで除外しちゃうインチキカードです」


『2枚で4アド取るな』

『相手ターンでも使えるの、ホンマやめちくり〜』

『除外できる対象をこっちで選べるのは良いけど、4枚までだから4枚以下でも盤面をお掃除されるというクソ強カード』

『攻撃力も3000あるからな。普通に殴ってくんな』


 ユークリムが伏せカードとして罠も2枚置いたために盤面としてはかなり整っていると言える。


 オーフェリアにターンが回ってカードを1枚ドローして。


 即座にそのマジックカードが使われた。


「おま、バカ⁉︎初手で『怒りの大寒波』なんて使うな!罠もマジックも全破壊とか、ユークリムが可哀想だろ!」


「ああー、酷い。でも罠とマジックだったからエルドラがまだ残ってるし、なんとかなるかも?」


「おい、『天からの雷』もやめろって⁉︎エルドラも破壊されてるじゃないか!何で初手で初期強強カードの2枚を握ってるんだよ!盤面一掃できるこの2枚のマジックカード、長い間禁止にぶっこまれていて最近1枚制限で入れられることになったんだが……。ノーリスクで相手のモンスターか罠・マジックを全破壊は脅威すぎる」


「ユーちゃんも使えるカードがなかったみたいでまっさらだね。これは酷い」


『エグっ』

『エルドラは盤面を一掃できる代わりに耐性なんて何もないからなぁ』

『伏せてたのもお姫様を呼ぶようなカードだし。これ終わったか?』


 何もできないユークリムを気にせず、オーフェリアは展開をしていく。様々なカードを使ってモンスターを召喚していき、3体のモンスターを生贄にするエフェクトが出た瞬間、そのデッキが何かわかったドロッセルが叫んだ。


「何でスパイラルデッキで超展開してたと思ったら神のカードを出してるの⁉︎しかも三神じゃなくて三邪神の方じゃない⁉︎」


「スパイラルデッキはデッキのモンスターを墓地に送って手札のモンスターを特殊召喚するテーマだから大量展開しやすいし、実は通常召喚をしないから召喚権が余ってるんだ。だから神を召喚する上では割と有名なテーマなんだが、なぜ最弱の『邪神ファルカス』なんだ……?」


『絶対純正スパイラルの方が強い』

『スパイラルのエースは攻撃力3500。でもファルカスはフィールドの攻撃力が一番高いモンスターと同じ攻撃力になるというモノマネモンスター』

『同じじゃ倒せないじゃん』

『3体生贄のモンスターの効果か?これが?』


 『邪神ファルカス』はかなりのネタモンスターだ。罠とマジックでは破壊されることはないが、攻撃力が他のカード依存。しかも同じ攻撃力にはなるものの超えることはないので相手のエースモンスターに勝てないこともしばしば。


 同じ攻撃力のモンスターを2体並べるにしても3体生贄にしてまで出すのなら生贄にするモンスターで殴った方がマシという意見が絶対多数。召喚コストに全く見合わない神のカードとしてネタカードとして愛されている1枚だ。


 カードの種類が増えればこういうネタカードも多数ある。そんなネタ・クソカードを救済しようと躍起になっている人もいるほど。


 大抵のカードは強くても2体生贄で出せる。だというのに神や一部の特別なモンスターだけは3体生贄を必要としている。その一部のモンスターはかなり強力だったり、原作で活躍したりしたのだが、この邪神シリーズはそんなに強くなくアニメでもあんまりな活躍でそこまで人気ではない。


 アニメに出た時は強かったのだがアニメではあっさりと倒されていたし、紙になるにあたって弱体化されている。神のカードは総じて強すぎたために紙ではそれを再現しないように性能が抑えられた。その結果この『邪神ファルカス』は最弱と呼ばれている神だ。


 攻撃力0の神が棒立ちしている現状で、これからどうするのかと視聴者も司会の2人も見守っているとオーフェリアはまだデッキを動かしていた。何をする気なのかを、ゴートンは察してそこまでするのかと声を張り上げる。


「オーフェリアの奴、もう1体の神を出す気だ!」


「え?また邪神?それともちゃんとした三神?」


「いや、世界しか救えず何もかもを奪われて、その功績で神の座へ至ったただの英雄!『救世神saviorセイヴァー』!」


『墓地のモンスターが30種類とかいうこんなのどう出すねんってカード?』

『いや、確かにめちゃくちゃカードは墓地送りにしてるけど……』

『手札補充系のマジックで代償にかなりのモンスターを墓地に送ってるか……?』

『スパイラルは墓地効果で墓地からかなり帰ってくるからな。それを素材にSPデッキから特殊召喚してっていうループをしてるけど……』

『デッキって40枚じゃないの?』

『40~60の間ならプレイヤーが好きに調整していい。多分オーちゃんのデッキは60枚デッキ』

『いやこれ行くだろ』


 ゴートンの推測通り、墓地のモンスターが30種類を超えたのかそのモンスターたちが一斉に元の居場所へと帰っていく。通常モンスターはデッキに、SPデッキにいたモンスターはSPデッキに。


 そしてついでのようにお互いの手札も全部デッキに帰っていく。


 その追加効果に、そして初めて見る演出にコメント欄は大盛り上がりだった。


『バーってカードが帰っていくのすげえな!』

『その条件、後攻1ターン目で達成できるんだ……』

『2人の配信同時視聴してるけど、ユークリムが絶叫してるよ』

『そりゃあ盤面全部なくされて手札までデッキに行ったら、そりゃあねえ……』

『出た!これが本当の神!』

『邪神様も立派な神ですけど?』

『攻撃力4000かあ。あれ?ってことは邪神も?』

『攻撃力4000だ!ワンキルってこと⁉︎』

『ファルカスワンキルなんて聞いたことないよ……』

『有名なクソカード救済配信者が敗北宣言をSNSで出してる……』


 『邪神ファルカス』はフィールドの一番高い攻撃力を参照するので味方に最も強いモンスターがいればそのモンスターと同じ攻撃力になる。だから理論上は攻撃力4000を出して相手の盤面を更地にすればワンキルもできる。


 その盤面を揃えるために相手の妨害を潜り抜けて今の状態を作り上げなければならないのだが、それがどれだけ難しいことか。手札が良かったこともあるが、ここまでできるのは緻密な計算をしてデッキバランスを考えなければならない。


 実はオーフェリアのデッキは『怒りの大寒波』と『天からの雷』を使って相手の盤面を更地にしなくても徐々に綺麗にすることもできる。それに『救世神savior』を出せば相手のフィールドのカードを全てデッキに戻すので最初の2枚はケアでしかない。


『オーちゃん、このデッキ知られたくなくて練習配信ではもう片方のサブデッキしか回してなかったからな』

『ストラク改造のこっちのデッキはメン限配信でしか回してないぞ』

『先に殴るの、救世神の方かよwww』

『トドメは邪神かぁ』

『これ、邪神必要です?救世神とその他で殴った方が強くない?』

『要らないぞ』

『こっちの方がロマンだろ』

『救世神が邪神と手を組んで闇落ちしたっぽくてこの並び超好き』

『救世神が何をしたんだ……?闇落ちしなくちゃいけないのかよ?』


『幼馴染と田舎の村で暮らしてたら幼馴染の女の子が世界の救済ができる神の槍ロンヌギスに選ばれて怪異に襲われたから護衛としてついていって、怪異と世界の危機をどうにかしようとしたらもう一人の男の幼馴染が好きな女の子を犠牲にできないって敵と内通していたから殺すことになって、もう一人の女の子の幼馴染が主人公と幼馴染の2人の通じ合ってるような関係に嫉妬して神の槍を破壊したせいで幼馴染の女の子どっちも死んで、星が崩れ去るところを自身の身に神の槍を宿して世界を支える樹になったのと同時に神に祭り上げられたただの少年だよ?』


『カードゲームの背景ストーリーだよね?昼ドラかよ』

『だから世界しか救えなかった神……』


 決着がついている頃、コメント欄では救世主のこととこんなデッキ構築にしたオーフェリアのことが大半、負けたユークリムどんまいとの慰めの言葉がポツリポツリ。


 主人公と槍に選ばれた神子の悲恋、彼らの覚悟。そしてカードで描かれる穏やかな田舎での暮らしと辛すぎる状況の偏移。神の槍に同化していき人間性を失う神子、裏切る仲間。最後は仲間もおらず一人で全てを蹴散らした、そして神子の代わりとなった英雄。


 その背景ストーリーをゴートンが知っていたので解説していた。


「へえ。背景ストーリーまでは追ってなかったから知らなかったよ。やっぱりゴートンさんを選んで良かった」


「ここら辺からコンマイがストーリーに気合を入れ始めた時期で、背景ストーリーとしては2番目の長編だったんだ。アニメでやってくれって懇願されてるストーリーの1つだな。詳しくはコンマイが出している背景ストーリー全集をチェック。オンラインストアで購入できるそうだ」


「宣伝も終わったので次の試合の準備をしてもらおうか!リリちゃんと夏希ちゃんという同期対決!」


「準備が整ったみたいだな。観戦しよう」


 スタッフの指示で既に試合は始まっていた。リリの先攻でその使い始めたデッキがわかりゴートンはもちろん、ドロッセルもそのマイナーテーマに驚いてしまった。


「え?タヌキデッキ……?そんなストラクあったっけ?」


「今資料を確認した。2006年発売の『アニマルパーティークラッシュ!』が元になってるようだ。18年前のテーマだな」


「18年前⁉︎カードパワーが違いすぎないかしら?ここ数年のインフレが凄いから昔のカードってあまり使えないのがほとんどで、人気テーマだけたくさん強化をもらってるイメージだけど……」


「可愛らしい絵柄で女の子を引き込んだ、売り上げ的にはかなり功績のあるテーマなんだ。そのおかげでちょこちょこ新規カードで強化もされてる。ちなみにタヌキに拘らずにアニマルパーティーで構築した方が強い。多分サーチカードが足りなくなる」


 ドロッセルとしてはマイナーすぎて知らず、昔のゲームをたくさんやっていても使わなかったテーマだ。ゴートンはそんなデッキあったなあと頭の片隅にあったので答えることができたが初出がわからずに運営から貰っていたデータを見てようやく答えられるほどだったのでマイナーはマイナーだ。


 様々な動物がデフォルメで描かれているので女児人気が出たようだ。とはいえ可愛いことが主体で際立った強さもなかったので観賞用もしくは趣味デッキの域を超えなかった。


 その趣味デッキを改造して戦いに挑む。自分のアバターとエンタメを最大限利用したデッキチョイスだった。


 なお、優勝する気もあったのでかなりの魔改造をしている。そのため石はギリギリ足りたくらいには苦戦したデッキ構築をしていた。


 あと、後攻だと捲り札があまりないので完封される未来が見えている。リリにとって最大の勝負は最初のコイントスだったりする。

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