第34話 FPSコラボ配信

 朝配信が終わった後、珍しく父親から電話があった。平日は仕事のはずなのになんだろうかと出てみると会社の方が休みだったために朝配信を両親揃って見ていたそうだ。野球のことはそこそこ知っているので『ウルプロ』配信にも納得していたが、俺の運についてはどうなっているんだと苦言を呈された。


「俺も『ウルプロ』はやってるが、あそこまで運が良くないぞ。本当にお前のその運はどこ遺伝なんだろうな?」


「さあ?俺もこの運はVtuberになってから自覚したくらいだし。というか、俺が運良かったら俳優を辞めるようなことになってないと思うんだが」


「だよな。そうそう、ハル君によると今年の風水では本心隠さず、誠実に、だそうだ」


「……風水って方角に何かを置いたりして運気とかを上げるんじゃなかったのか?」


「さあ?俺はそのまま伝えただけだし。今度お守りでも買ったらどうだ?」


「そうする」


 俺のこの運の乱高下は本当にどこが由来なのか。元々運が良くて去年呪われた、的な話もありそうだ。


 割と幼少期からそこまで運の悪いようなエピソードはなかったんだよな。去年の事務所を辞めることを皮切りに俺の運そのものが目減りしている気がする。


 そんなオカルトに頼ってしまうほど去年から今年にかけて色々とある。だから俺も父さんも知り合いの占い師であるハル君に頼ってしまう部分がある。


 ハル君とその彼女のミクさんは昔から我が家と縁のある家系の占い師、らしい。彼らはまだ高校生なのだけど、家でも認められるほどに占いの才能があるらしい。俺は占いのことは全然わからないから聞いたままに実践しているだけだ。


 彼らは俺の舞台もよく見てくれたんだけど、そういえば去年は占いをしてもらっていない。それが原因だったんだろうか。


 験担ぎの意味でも今度占ってもらおうか。


 彼らは栃木に住んでいるらしいから呼ぶのもちょっと大変だから電話で相談してお守りも郵送してもらおうかな。彼らの実家には大きな神社もあるらしく、お守りはそこに滞納されているようで神秘的な逸品だという。俺も何回かもらったことがある。


 お金を払おうとしたけど受け取って貰えなかったんだよな。ファンだからプレゼントですって渡されたのでお金を払ってない。数少ない俳優の頃のファンだ。昔から我が家と接点があったからその関係で舞台を観に来てくれたらファンになってくれた形だ。


「あと、母さんが霜月ちゃんは彼女なの?って聞きたがってたぞ」


「……彼女じゃないよ。Vtuberにはガチ恋営業っていうカップルのフリもするから……」


「いや、あれ営業か?結構お前に対して態度が違うように思えるんだけど……。まあ、お前が俳優の事務所を辞めた理由が理由だからあんまり無理強いはしたくないけど。だからこそ炎上とかに繋がるんじゃないか?お前がネットで叩かれるのが母さんは嫌みたいで。女の子のVtuberってアイドルみたいなものなんだろ?」


「そういう扱いもされてるけど。うん、そっちは対処してるから大丈夫。とりあえず彼女じゃないよ」


「わかった。いつぞやの人狼ゲームだかのやつで無理してただろ?あんまり無理するなよ?」


「うん。最悪の時に比べれば全然マシだから。ありがとう」


 そんな心配もされて電話は終わる。


 今日はコラボ配信があるから準備を進めないと。


 夜20時になってからその先輩たちと配信を始める。


「ドーン!今日もみんな元気〜?エクリプス2期生後半組ハピハピ・ガンスレイブだよ。今日はFPSの『シャングリラ・サバイブ』をやっていくんでよろしく!このゲームは三人チームなので一緒にやっていく生贄を用意しました。んじゃあ生贄その1!自己紹介よろしくぅ!」


「生贄として呼ばれた。同じく2期生後半組掃除屋のKP7ケーピーセブンだ。生贄として呼ばれることが多いからこの展開は予想していた。今日も敵を掃除していく」


「続いて〜?」


「3期生の絹田狸々きぬたりりです。FPSはやったことがないので初心者ですが、よろしくお願いします」


 ハピハピ先輩主催のFPSコラボだ。俺はFPSなんてやったことがなかったけど、Vtuberの中ではFPSも一大コンテンツになっている。ハピハピ先輩に限らずFPSをやるライバーは多く、Vtuberでの大会もあったり、配信者の大会にVtuberが呼ばれることもある。


 それくらい配信での撮れ高があるために上手い人はこぞって配信で扱っている。チームを組むために視聴者と一緒になったり、他のVtuberとコラボしたりするので新たな関係性が観られて好きという声もあるようだ。


「リリは初心者だけど訓練場で基本動作はやってきてくれたんだって?」


「はい。タンク、アタッカー、スナイパー。全部一通り操作は試してみました。無難なのはアタッカーですね」


「ほうほう。じゃあリリにはスナイパーをやってもらおうかな」


「え?あの、話聞いてました?」


「アタッカーが無難なのは当たり前。で、リリはズァークの格闘ゲームやってたでしょ?あれ見てリリはスナイパーが合ってると思ったのよ」


「はあ……?」


 格ゲーとスナイパーがどういう関係性があるのかわからない。けどこのコラボの主軸はハピハピ先輩なのでハピハピ先輩の指示に従ってジョブをスナイパーに変える。その間にハピハピ先輩の説明が入る。


「『シャングリラ・サバイブ』だとジョブ全員で1つずつやるのが基本なわけよ。そういうゲームバランスに運営側がしてるわけ。だからほとんどチーム構成が一緒になるんだけど、だからこそウチはアタッカー2のスナイパー1で行く」


「ということはセブン先輩はアタッカーですね。できる限り頑張ります」


「ああ。囮は任せろ」


「囮、なんですか?」


 ヘイトを買って味方を守るのがタンクの役目だ。回復やサポートができる唯一のジョブなので必須と言われている。だから最悪俺がタンクをやるんだろうと思っていたのにスナイパーをやるとは思っていなかった。


 セブン先輩もタンクやスナイパーに適性がないらしく、アタッカーしかできないらしい。ハピハピ先輩はどのジョブもできるようだが、アタッカーが一番ダメージが稼げるらしいのでアタッカー確定とのこと。でもアタッカー3は周りの状況が見えなくなってしまうためにスナイパーで1人遠くから状況を見れる人は置きたいためにこの構成のようだ。


 火力が一番あるのはスナイパー。で、2人が前に出て囮になっている間に俺が遠くからの狙撃で相手を倒すというのが基礎戦術らしい。俺の役目がかなり重要になってくる。


 タンクの守備力とサポートを抜く代わりに火力をとにかく上げる布陣。タンクが攻撃がほとんどできず火力がないためサポートが基本の職なんだけど、ハピハピ先輩曰く要らないらしい。


「2人もタンクを触ったからわかると思うけど、タンクって一番操作が大変なんだよ。ボタン間違えたら必要なサポートとは違う行動をするから、それだけでチームが瓦解するの。それで落ち込むのも嫌なら、最初っからタンクなんて入れなければいいんだよ」


「凄い暴論だ。私としては楽だが」


「まあ、試しにやってみましょうか」


 やってみないことにはどうなるのかわからないわけで。


 まずはランダムマッチで戦うことに。ルームを作って視聴者を呼び込んでもいいが、それでマッチができるほど参加者が来るかもわからないためランダムマッチでお試しというわけだ。


 試合が始まるとまずはフィールドに落ちているアイテムを拾って自分たちの装備を整えたり、閃光弾のようなお邪魔アイテムが手に入るので宝箱巡りをするのが基本だ。


『リリの腕前はどんなもんなんだろうな』

『練習配信とかしないで裏でやってるから初めてのゲームの実力がわからんのよな』

『卒なくこなすイメージはあるけど、ゲームによって得意不得意はあるから。リリのできないことってなんだ?』

『なんだろうねえ……』


 コラボだとコメントは見れるけどコメントに反応しづらいのが問題だよな。


 俺にだってできないことは結構あるんだけどな。車の運転とか、ペーパードライバーで教習所以降運転してないから車の運転ができないとか。


 言ってないだけで弱点なんていくらでもあるんだけど。


 フィールドに降り立ったらすぐ宝箱に向かう。手に入れるべきアイテムを拾ってスナイパー用のライフルを手に入れて2人に報告をする。


「こっちにプレスガンがあります。あと紫アーマーも」


「リリナイス。私が貰う」


「いいよ、貰っちゃって。技能が足りてない分は武器で補うべきだよ」


「あと、10時の方向に敵チームですね。距離が結構近いかもです」


「りょ。ケピナ、突っ込むよ。敵がアイテムを漁ってる間に奇襲する」


「わかった」


 2人が敵チームに突っ込む。俺はその場に伏せてそのまま銃を構えて、スコープで相手を覗き込む。


 ハピハピ先輩のコールを待ってアタッカーを狙い撃つ。役職は頭の上に出て来るので間違いようがない。


 ずっと移動し続けるアタッカーを追って。許可が出た。


「ファイア」


 その短い言葉と同時にヘッドショット。上手くいき、相手が吹っ飛ぶ。ヘッドショットとはいえ一撃で刈り取れなかったが、それでも大ダメージだ。そのまま2人が突っ込み、アタッカーをダウンさせた。


 俺は追撃をせずにスナイパーを攻撃。頭は狙えなかったがこちらにも大ダメージ。


 ハピハピ先輩が斬り込んでスナイパーも倒したのを確認して俺は周辺の警戒に移行する。タンクが1人だけ残っていても攻撃力が皆無なために2人がやられることはない。時間をかけてでも倒してくれるまでに漁夫の利を狙うような相手がいないかの確認が大事だと事前に言われていた。


「ふう。うまくいってよかった」


『ナイス!』

『タイミングばっちしだったな』

『ヘッドショットできるのはエイムが良い』

『二発目外してたやん。下手くそ』

『その武器持っててヘッドショットで倒せないのはエイムで外してるからだぞ。ランクが高ければ一撃で倒せる』

『あー。FPSってコメント欄荒れるよな。自称強い人が』


 コメントが荒れることも事前にわかっていたのであまり取り合わない。初めてやるゲームなんだから下手なのは当たり前だと思うけど。


「リリ!F3に移動するよ!射線から位置がバレる!」


「了解です。移動します」


 ミニマップを見ながら移動を開始する。索敵もしながら近くに相手チームがいないかを確認して進む。索敵範囲が一番広いのはスナイパーだ。だから俺が見逃したら敵に襲われるのであまり気が抜けない。


 移動しながら相手チームの情報を見るけど、もう3チーム脱落したようで残り7チームになっていた。


 相手チームの死体からアイテムも回収できるのだが、その時間より逃げることを優先した。必要なアイテムは手持ちにあるため、銃弾以外はあまり消費していない。銃弾は宝箱から集められるので死体を漁る必要がないとのこと。


 セオリーがわからないから全部ハピハピ先輩が教えてくれる。


 この移動中に気を付けなければならないのはウルト、と呼ばれる必殺技だ。これで索敵距離が伸びたり広範囲の爆弾を投げたり一定時間無敵になったりができるらしい。


 試合中1回しか使えないので使い所は選ぶが、使えればかなり強くなるので打ち所は考えたい。


 と思ってたらそのウルトによる爆撃がやってきた。


「これ、死ぬ!」


「アタッカーが無造作に撃てるからって、これ死に際の一発では⁉︎」


「大丈夫大丈夫。ここまで届かないよ。あれ着弾点から爆発が広がるけど、見た目よりは威力低いから。HP満タンなら死なないし」


 ハピハピ先輩の言うように当たりはしなかった。最後のイタチっぺだったんだろう。


 そう安堵していたらなんか一撃で俺が死んだ。いきなりキャラクターが倒れて棺桶が表示される。


「え?索敵に入らなかったのに?」


「ウルト使ったか、チートだね。でも射角がわかった。行くよ!ケピナ」


「いや、すまない。私も一撃で死んだ」


「よっしゃああ!そしたらここからはウチの暴走タイムだー‼︎キルゼムオール!」


 ヒャッハー!と叫びながら突っ込んでいくハピハピ先輩。これがトリガーハッピーと呼ばれる所以だ。手当たり次第に暴れていくけど、結局最後までは生き残れずに死亡。


 初陣としてはまあまあだったんじゃないだろうか。


「結局アレはウルトだったんですか?」


「いやあ?多分改造コードじゃないかな。索敵のウルトって一発限りだからね。銃弾放って着弾した瞬間に終わるし、その距離に入ったらリリの索敵に引っかかるはずだから近くにいたケピナがやられるはずもない。スナイパーが2人以上いるチームもなかったし、2チームに狙われたとも考えづらいし。さっきの試合のリプレイ見よっか」


 リプレイ機能があったので見直すと、同じスナイパーが俺とセブン先輩のキルを同時に取っていた。ウルトの連続使用がやられているだろうとのこと。


 オンラインゲームだからこそ、こういう改造コードによるチートもたまにあるようだ。運営が取り締まっても様々な改造コードを作るようで消して作ってのイタチごっこらしい。


『チートはなぁ。つまらんだろ』

『プレイヤースキルならまだしも、チート使って勝って何が楽しいん?』

『楽しいから横行してるんだろ』


「ランダムマッチの相手が悪かったってことで。じゃあ今度はウチがルームを作るから全員のリスナーで組んで〜」


『リスナー同士だと練度がへぼいからなあ』

『よし、やるか』


 それからはリスナーとずっと戦った。チートとかもなく純粋にゲームを楽しめただろう。


 ハピハピ先輩が何回かバーサークモードになって1人で5人くらいを一気に倒した瞬間には思わず拍手をしてしまったほどだ。


 彼女はこのゲームで最高ランクに所属しているようで、これは世界に1500人しかいないようだ。全世界にユーザーがいるのにこの順位というのは凄いことだとわかる。


 今度配信者の大会でVtuberチームの一員として参加するらしい。エクリプスの代表で中国のアジア大会という凄い規模の試合だそうだ。中継もされるようなので見ようか。


 ハピハピ先輩としてはFPS沼に落ちてほしくて誘ってくれたらしい。これからFORの残り2人も誘うとのこと。エンジョイ勢が増えてくれれば嬉しいというのはヘビーユーザーだからこそだろう。


「リリ的にもズァークのスナイパー機体を使ってるって思ったら楽しくない?」


「スナイパー機体が活躍できるゲームって確かにないですからね。ズァークのオンラインFPSゲーム、近接が強すぎてすぐ廃れちゃいましたし」


「また何かあったら誘うから。ケピナもありがと」


「たまにやるFPSも悪くはないさ。またな」


 珍しいゲームをやったからか、それとも割とスナイパーとしての役割が良かったのか。終わった後のSNSではそれなりにコメントが残されていた。配信者はスナイパーとタンクをやりたがらず、できる人が希少なこととタンク抜き戦術というのが最近は流行っているのでそれに拍車をかけるような配信内容が高評価だったみたいだ。


 タンクのサポートは確かにありがたいし死ににくくなるんだけど、やることが多すぎるのと1人だけ残っちゃったら負け確定なところがあるから選択しづらいんだよなぁ。


 次回FPSをやるとしたら期間が空くだろう。先にカードゲーム大会があるし、その後もコラボや案件が入っている。


 『ウルプロ』の育成もやりたいし、作曲も進めたい。やることがいっぱいだ。


 父さんに言われたように無理をしない程度に頑張ろう。

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