第33話 『ウルプロ侍JAPAN育成企画』羽村さんか柳田さんを当てるガチャ配信・1

 さてさて。今日も朝配信で『ウルプロ』をやっていくんだけど、今日はガチャ配信だ。いつもなら育てる選手を用意しておいて育成配信をするんだけど、今日は育成しようと考えている選手がメジャーリーガーで日本でも有名な選手を育成しようと考えているためにガチャからやる。


 配信を始めようと思うと、この企画では初めてのガチャ配信ということでいつもより視聴数が多い。本当にリスナーというのはガチャ配信が好きなんだから。


 今回の配信タイトルは「『ウルプロ侍JAPAN育成企画』羽村さんか柳田さんを当てるガチャ配信・1」としている。メジャーリーガーの育成ということで興味を持った初見さんもいるようだ。


 宮下さんを育成している時も初見さんが結構いたからな。後は海外勢。アメリカでも宮下さんと羽村さんは人気で英語のコメントが流れている。速すぎて内容はわからない。


「はい。おはようございます。絹田狸々です。早速『ウルプロ』のガチャ配信を始めていきますね。今回狙うのはメジャーリーガーの羽村さんか同学年の柳田さん。千葉では名塚さんも育成対象ですが、年代が2年ズレているので今回はこの2人を狙っていきます。一応名塚さんが来ちゃう可能性もあるんですが」


『おはよー』

『また2枚抜きやるんか?』

『ぶっちゃけ回数減るからなし。リリの阿鼻叫喚ウルプロが楽しみなんよ』

『爆死するのを全裸待機』


「服は着てください。そもそも爆死を願わないで欲しいんですが」


 コメントと戯れつつ、ゲームを操作して栄光ナインの画面に行く。


 今回の2024大型アップデートのおかげで栄光ナインは一々別アカウントで初めからやらないといけなかったんだけど、今回からゲーム内で栄光ナインのモードだけ初めからにすることができるようになった。前もデータの削除はあったんだけど、それは全部のモードの記録がなくなるので選手データ以外の他のモードのデータも消えるためにあまりやりたくなかった方法だ。


 それを考えると今回からはだいぶ楽になった。


 入力するデータはテキパキと打ち込み、すぐにガチャ画面へ行く。この辺りはもう説明せずにやっていく。


 始める年数を2015にしてプレイする県を千葉県に変えること以外はいつも通りだ。


「じゃあ1回目、いきますね」


『一発で来るか、グダグダになるか』

『千葉の選手も多いからな。しかも年代を絞ってもその年代の選手が出やすくなるだけだし』

『天才の羽村を引かなければなんでもいいよ』


 というわけで開始を押す。


 入学者6人の名前を見て、1人目の投手の名前が柳田でしかも強かった。捕手と外野を守れる羽村さんはいなかったけど、当たりだ。


「一発ツモですね。いえ、麻雀はやったことがないのでよくわかりませんけど」


『柳田来たー!』

『流石にバッテリーごとは来ないか』

『いや、知らないんかい』

『柳田も強くね?サウスポーってだけで使えるわ』


 柳田さんは141km/hでスタミナとコントロールがD。変化球もカーブが3にフォークが2、チェンジアップが1と変化球も悪くない。それに特殊能力で『対強打者○』と『クロスファイヤー』、『対左打者○』がついている。デメリットとメリット半々の『全力投球』も付いているけどこれは常に球速が速くなる代わりにスタミナが減りやすいという効果だ。


 これはスタミナをガンガン上げれば問題ないので正直これもプラス能力と俺は思っている。


 他の選手も見ていくが流石に他の転生プロや天才選手はいなかった。でも能力的には悪くなく、十分良い結果だ。


「特に問題はないのでこのまま柳田さんの育成配信にしていきます。柳田さんの育成が終わったら次こそ羽村さんのガチャ配信になると思います。羽村さんはガチャ配信を見せてくれとコメントが多かったので」


『次回もガチャ配信あるのか。テンキュー』

『これ何が問題って、相手に羽村出て来るんだよな』

『そうか。それが厄介なんだよな』


 栄光ナインは同年代で獲得していない選手は他校で普通に敵として出てくる。だからこの育成では必ずどこかで羽村さんと戦うことになる。


 だから東東京でプレイをしていた時は宮下さんが出てきて負けたこともある。良い選手が多い時代と都道府県はそういうリスクも込みでプレイしなければいけないのがデメリットとしてある。


 ゲームの導入部分をほぼスキップして恒例の先輩たちを見ていく。先輩たちのステータスと性格がとにかく大事だ。たまにこの野球部、どうやって去年まで試合を成立させていたのかと疑うようなポジション構成の時がある。


 明らかに外野の数が足りていなくて新入生が即レギュラーとか、投手の3年生がいないとか、始まりは弱小校だからってそれはないだろうみたいなことが結構ある。


 その確認をしていく中で。


「あ、え?これ、ミスタープロ野球……?」


『王嶋ダァ⁉︎』

『確かに佐倉市出身だから千葉県か』

『球界の至宝。サードだけどショートコンバートしようぜ』

『ほぼオールCとか強すぎ。4番とショートが埋まったな。しかも2年生だから結構一緒に戦ってくれる』

『この豪運タヌキはよお』


 先輩に転生選手がいたどころか、転生OBの中でも最強と名高いスラッガーがいた。いやホント、これだけで育成がかなり楽になる。


 他にも最強の性格の内気が数人いたので1年目からかなり戦えそうだ。


 この内気の選手が試合中に1回だけ使える能力が栄光ナインの中でも最強と呼ばれる、相手チームのエラーを誘発させる「悪魔」だ。これで相手にエラーを連発させて勝つというのが必勝法だったりする。


 「悪魔」ばかりに頼っていても勝てないので、地道にステータスを伸ばす必要はあるけど。


 そういうわけで育成開始。なんだけど。


「あら。特訓に王嶋さんがいる。柳田さんはいないや」


『3人ピックアップだからな。全部員からランダム抽選ならいなくてもおかしくない』

『今だと3年生もいて人数多いからな。しゃーなし』

『王嶋鍛えようぜ』


 鍛えたい選手は第一に育成対象の柳田さん。2番目に同年代の捕手でそれ以降はレギュラーだ。今回だと3年生と王嶋さんしかいなかったのですぐ引退する3年生よりも王嶋さんを選択。


 この特訓が成功して王嶋さんが強くなる。


 その次の月の特訓でも目ぼしい選手が王嶋さんしかいなかった。


「あれ?僕って王嶋さんの育成配信をしてるんだっけ?」


『2連続で来るのは運が良いんだか悪いんだか』

『このまま強化すれば8月末の日本代表選出間に合うか?』

『割と微妙。選出理由が星450以上か星400以上かつステータス1つがS、もしくは甲子園で特定の活躍をした選手だから450を目指さなければいけないんだけど』

『あと120も上げないといけないのはキツくね?』

『ほぼ無理やろ』


 まあ、1年目なんてあまり育てられないのは仕方がないことだ。環境を整備して2年目からが本番になる。だから1年目はなるべく公式戦で勝つことだけを意識していればいい。


 『ウルプロ』というより栄光ナインの仕様上投手のステータスで重要になってくるのはコントロールだ。コントロールが良い選手はほぼ打たれない。だから大会中は能力が伸びやすいのでコントロール強化をする。それ以外の時間は変化球であるカーブをひたすら強めた。


 公式戦で先発させれば球速とスタミナは勝手に上がる。けどコントロールはそうでもない。それに初期からコントロールを上げておけばこれからが楽になる。


 3年生という戦力がいる間にある程度勝っておきたい。そう思って柳田さんを先発にして夏の県予選大会に挑む。


 柳田さんの能力が良かったことと王嶋さんがかなり打ってくれたおかげでかなり勝ち上がったが、決勝では純粋にステータスが足りなくて打ち負けた。甲子園には出られなかったけど、1年目にしては上出来なくらいだ。


 3年生が引退して、新チームになる。その直後に合宿が始まり、ここで特殊能力を複数付けられるイベント期間が始まったんだが。


「あの。王嶋さんやる気ありすぎです……」


『毎日いるんだが?』

『全選手から3人ピックアップでもう3日連続?』

『柳田育てたいのに全然来ない……w』

『これ育成配信としては下振れだろ。柳田に一切特殊能力付いてないし』

『嫌でも、勝ち上がった分ステータスは伸びてる。まだプラス評価で良いだろ』

『【朗報】王嶋、ミスターの名に恥じず毎日何かしらの特殊能力を獲得』

『ミスターは強化されるけど、結局日本代表選出は無理だし』

『後1ヶ月あるからぎり間に合うんじゃね?』

『まーたリリは変な育成ルートを開拓してしまったか』

『ただの上振れなんだよな。上振れか?これ』


 育てようと思っていない王嶋さんがめちゃくちゃ出てくる。5日ある合宿で結局毎日出てきて、しかも必ず1つ特殊能力を手に入れてきたのでなんだか星が422とかになっていた。


 これ、一旦ストップだ。


 こんな面白くなりそうなことは真剣に考えないと配信者じゃないだろう。


「有志の皆さん。ちょっと計算してくれませんか?王嶋さんにサブポジションをもう1つ付けると8月末までに星は450行きますか?」


『ちょい待ち』

『普通にステータスを上げてたら絶対に間に合わないのは事実』

『割と微妙じゃね?もうサブポジいっぱい持ってるし』

『投手が付ける時と違って野手だとあんまり上がらない印象』


 俺も計算方法は知ってるけど、配信を止めてまで計算はしたくない。それにこういうことを頼られたいリスナーも一定数いる。


 これもコミュニケーションの一環だ。


『計算出た。外野を付ければ11上がる。それ以上は8月の特訓イベント次第』

『捕手はダメ。「キャッチャー×」が付いてプラマイ0になる』

『捕手はそういやそんな仕様あったな。難しいポジションだからってそんなことまでしなくても良いだろうに』

『ファーストだと6しか上がらないから外野にして』


「わかりました。じゃあ次の練習指示で外野のサブポジを付けます。で、後は特訓に王嶋さんが出て、特殊能力を付けられるかの勝負ってことですね」


 計算が速い。もっと時間がかかるかと思ったのに。複数人が同じ結論に至ったので多分間違っていないんだろう。


 月初めにある選手への練習指示で王嶋さんには外野のサブポジを付けるように指示をした。他の選手たちの育成方針も考えつつ、8月20日のマスに止まると発生する4日連続特訓マス出現の隠しイベントが発生するのでそれを引き起こす。


 その1日目。王嶋さんが出た。柳田さんもいなかったので一択だ。


「行きます」


『星4の特殊能力じゃ上昇するのは8~14。星5なら21上がるからあるなら星5』

『星5って「威圧感」しかないじゃん』

『あれって獲得率10%とかじゃなかった?』


「あ、『威圧感』ある。もうこれしか見えない」


『クリックまでが早い!』

『もうちょっと悩めよ⁉︎』


 即決即断。


 「……王嶋は見事に習得できた!」というテキストが出た瞬間、現実にガッツポーズをしてしまった。


「しゃあおらあ‼︎」


『切り抜き不可避』

『今日イチの声やな』

『星確認しようぜ』


「見ましょう見ましょう」


 ステータス画面に行くと王嶋さんの能力は星が455になっていた。検証班の調べたデータとの1の誤差は何かのステータスが上がって評価されたんだろう。


 青い特殊能力がいっぱい。しかも投手・野手問わず最強の能力である「威圧感」まで手に入れてしまった。


 満足だ。


「検証班の方々、ありがとうございます。これで日本代表選出だぁ」


『普通1年目に日本代表なんて出せないから。宮下と羽村と、後は球界のスターが何人かってところか』

『同じルートは走れません。走者泣かせだよな』

『これ、地味にミスターが2年生のおかげだよな。入学時の時よりステータスが微妙に高くなかったら間に合ってない』

『マジで再走できねえ。独自ルート開拓するな』

『そもそも何でお前らはRTA前提みたいな話を進めているんだ……?』

『RTAじゃなくても最強のこの人を作りたい、みたいな考えは割とある。オンライン課金のセーブ&ロード機能を使えばこれ以上のことができるけど、それなしで1年目から王嶋日本代表ルートなんてほぼ全員が諦めてるわけだ』


 8月末まで進めて王嶋さんが無事に日本代表に選出された。そのスクショを撮って日本代表から帰ってくる9月の頭まで進行する。


 そして帰ってきた王嶋さんは世界大会で活躍して特殊能力よりも強い金特殊能力である「勝負師」を手に入れた。チャンスの場面で打撃能力がめちゃくちゃ上がる能力だ。


「うーん。この一喜一憂、この配信は王嶋さんの育成配信だった?」


『リリちゃん、正気に戻って』

『もう3時間配信してるから……』

『切りはいいんじゃない?夏も結構勝ったから次は秋大会からでも悪くないと思う』


「うん。今日はここまでにします。明日の朝にこの続きをやりますね。夜にはウィザード&モンスターズの練習配信をするつもりなので参加したい方はデッキを用意して時間になったら練習ルームに入ってきてください。それじゃあお疲れ様でした」


『お疲れ!』

『さーて、仕事行く準備始めるか』

『バイバーイ』


 朝配信はここまで。ライブ配信を終了して色々な配信用のアプリを終了して。


 スマホにメッセージが来ていた。エクリプスのライバー全員がいるグループチャットでこんなメッセージが来ていた。


宗方奏むなかたそう上日向じょうひむかい:殺陣ができる人募集。3D配信で拙者と剣戟ができる人間はいなかろうか?」


 3Dになるのか。おめでたい。今の所1期生の前半組しか3Dになっていないから宗方先輩から1期後半組の3Dお披露目が進んでいくんだろう。


 1時間前に送られたそのメッセージに誰も返信をしていない。ライバーのほとんどが夜型だから起きていない可能性が高い。


 じゃあ返信するか。宗方先輩と言いつつ彼はライバー最年少。頼られたら人生の先輩として応えてみたくなる。幸いにも俺には経験があるわけだし。


「どのレベルを求めているのかわかりませんが、殺陣ならある程度できると思います」


「おお、リリ殿!ありがとうでござる!それならば詳細を話したいのだが、いつ事務所に来られるだろうか?」


「2日後は配信休みの日なので事務所に行けますよ」


「では2日後の午後に事務所で!スタジオは抑えておくでござる」


 ポンポンと決まった。


 3Dで映えるとしたら日本刀でズバズバと敵を倒していくことだろう。その手伝いくらいはしよう。


 お披露目配信はいつになるんだろうか。楽しみだ。

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