第20話 案件配信・2

「今回は100連をするわけですが、このゲームは100連すると確定で星五が手に入ります。なので多分全員集合絵を当てられるだろうという配慮ですね。でもこれ、ピックアップが確定ではなくてランダムです。ピックアップ対象の確定は150連みたいなので150連回せば二枚は確実に星五が手に入ることになります」


「これ150連分の石はくれないから、企画として成り立ってるよね。リリ君、一発目で当てないでよ?」


「そこは運でしかないから。じゃあ全員ガチャ画面に行ったので早速回しましょうか」


 全員10連ずつ回していく。


 こういうのはどんな結果になっても美味しいから、やるだけお得だ。大当たりしてもハズレになってもコメントは盛り上がってくれる。それにゲームの紹介としても企画的にはコラボがメインなので問題なし。


 企業としても課金してもらえるのは基本的にガチャだからここを魅せたいわけだ。


「せーの」


「「「はい」」」


 一斉にガチャのボタンを押す。このガチャはシンプルで演出とかあるわけでもなく十個の球が現れて、その色でレア度がわかる。星三が緑色、星四が赤、星五が金らしい。


 俺の画面では赤が三つあっただけで金はなかった。自分の画面がわかったので他の二人を見るけど二人にも金色はなかった。


「まあ、最初だからね」


「リリちゃんいきなり赤三つあるじゃん。私なんて最低保証の一個だけだよ」


「でもこれ、昇格とかあるって。だから星四以上が増えるかも」


 霜月さんの説明を受けて昇格することを祈りながら引いていく。一番最初に星四が出たのは俺。リリが二足歩行で立ち上がって腕を組んでドヤ顔をしている絵が出てきた。


《猫の手ならぬ狸の手なら貸すよ。さあ、僕の里の総力、目をかっぽじって焼き付けてくれ!》


『おお、自引き』

『リリカッコいいじゃん』

『ヴィクトーリアママも凛々しく描いてるな』


「というわけでコラボカード最初は僕だよ。はい勝ち〜」


「リリちゃん、勝負の趣旨変わってるから!」


 冗談はさておき。


 カードが当たった時のボイスも流れる。収録したのはこのガチャ用のものと、戦闘時のサポートボイスが二つ。それにカード確認画面で自己紹介のボイスだけ。だから収録はあまり時間がかからなかった。


「収録大変だったなぁ。私って声優オタクだからちゃんとした演技したくてさ。それでどうすればいいんだろって思って、台本いただいた段階でリリちゃんに相談したよね。エリーと一緒に通話繋いで演技指導してもらったもん」


「そうそう。どこを強調すれば良いのかとかイントネーションとか聞きまくって台本に書き込んだよ。ページ数は少ないのにペンの跡がたくさんだったね。そのおかげで納得のできるものにはなったと思うけど」


《じゃじゃじゃじゃ〜ん!どの薬が欲しい?老化薬?記憶消去薬?象も倒れる毒薬?……あー、エリー!没収しないで!勝手に薬のレシピを拝借したのは謝るから!》


「二枚目は水瀬さんっと」


 しれっとコラボカードの水瀬さんを当てる俺。なんか昇格したんだからタイミング悪く収録の裏話をしている時だった。


 ……しっかりと抑揚がつけられているし、霜月さんを呼ぶ時なんていつも通りだ。そのいつも通りを演技でするとなるといきなり厳しくなってしまう。これは演技初心者が演じようと思って固くなってしまうことと、演技をしながら話すことに慣れていないために起こることだ。


 Vtuberとして自分のキャラを演じているとはいえ、まだ高校生で演技初心者だった水瀬さんが聞き辛いこともなくしっかりと演技ができているというのは才能か、若さか。


 本当に才能ってどこで眠ってるかわからないものだ。


 水瀬さんのイラストは薬のレシピの山に埋れている可愛らしいもの。焦りながら泣きそうになっている絵は水瀬さんのおっちょこちょいな性格を反映させたとか。


「リリ君、早すぎるよ!」


「でも霜月さん。まだ星五は出してないですよ?」


「それでもコラボカード出してるじゃん!あ、私も赤来た!リリちゃんゲット!」


「あたしもリリ君ゲット〜」


『割と星四はピックアップが出るんやな』

『ゲームによってはピックアップでも中々出ないからな』

『なんか前のコラボの時にも言ってたけど、何でリリってそんなに演技に造詣が深いんだ?理由あるの?』


 全員が俺のカードを手に入れたところで俺の演技指導について気になるというコメントがあった。


 自分の配信でも言ってないけど、この場は見ている人も多いし言っても良いだろう。霜月さんと水瀬さんのファンもいるし、伝えるなら悪くない場だ。


 これからも二人の演技指導みたいなことはするだろうし。いつかは一緒にボイスとか出すだろうからな。


「コメントで聞かれてたので僕が二人に演技指導をする理由ですけど、簡単な話僕って昔劇団に入っていたんですよ。アマチュアですけどね」


「リリ君、言って良かったの?」


「習い事の範疇ですから。別にプロになったわけでもないですし。そういうわけで演技をかじったことがあるので二人に還元してるんですよ。人間社会に混じるなら人間の演技が必要かなと思って潜り込んだわけですね」


「リリちゃんと初めて会った時に声が通ってたから『すわ声優が来たか⁉︎』って私勝手にテンション上がったもん。違ったけど」


「あー、わかる。リリ君って凄い滑舌良いし声もかっこいいし、声優さんって言われたら納得かも」


「全然違いますけどね」


 プロにはなっていたことを言わずに結果としては嘘をついてしまったが、これなら文句は言われないだろう。素人が勝手に口を出していたのではなく、経験者だからこそ教えられたって方向に持っていく。


 話している間に俺の次の赤が回ってきた。


《あたしは魔女じゃないけど、ちょっとした魔法なら使えるよ。使い魔だからってなめないでよね!》


「FORコンプ。ドヤァ」


「10連で揃えたのは凄いけど、趣旨としては星五を当てることだよ?あ、あたしはすり抜けだ」


「霜月さん二枚目」


「やっぱりリリちゃんのガチャ運おかしいよね⁉︎10連でコンプリートプラスαってどんな運してるの⁉︎」


 出ちゃったものはしょうがないじゃないか。始める前に脳裏をよぎった不安はなんだったのだろう。


 霜月さんのイラストは杖を持って魔法を使おうとしているところでウィンクもしている。魔法が使える設定だと収録の打ち合わせの時に知った。


 しかし今日は上振れていると思う。10連で星四が四枚も出るなんてどんなガチャだったとしても運が良いと言えるだろう。これは今回、俺が勝つんじゃないだろうか。


 そんな慢心をした20連目。


 なんと霜月さんに金が現れた。俺と水瀬さんにはない。


「これは来たんじゃない⁉︎」


「エリーに負けるのはやだぁ!」


「夏希、それってあたしの運が良くないって暗に言ってる⁉︎」


「リリちゃんに負けるなら諦められるけどエリーに負けるのはなんか違う!カード剥きだって私が一番運が良かったんだから!」


「ウィザーズ&モンスターズは好きになったカードが当たったから良いの!」


 二人がワイワイしている間に俺は回してしまう。金がなかったのでさっさとめくると、霜月さんの三枚目と水瀬さんの二・三枚目が出る。コラボカードはぽんぽん集まるんだけどなあ。


 そして今回の注目点。霜月さんの金の中身は。


《はい、材料採ってきたよ。これだけあれば足りるよね?》


《んーっと、これが毒性が強いもので、こっちは滋養効果があるから……。夏希ちゃん、レシピはこれね》


《まっかせて!最高の薬と毒薬をプレゼント!飲み間違えないようにちゅーいすること!》


「本当の勝者はあたしだあ!」


「負けました」


「エリーに負けたぁ!」


『大勝利』

『全員可愛い』

『エリー、おめ』


 個人の絵ともまた別のイラストが使われている。リリが山菜で溢れている背負子しょいこを背負って駆け寄っていて、霜月さんはレシピと山菜を見比べて、水瀬さんが怪しい大きな鍋で何かを掻き混ぜているイラスト。


 このサポートカードは掛け合いばかりなので一緒に収録した感じだ。


「これ強いのかな?相手フィールドを毒沼に変えて自分たちは三ターンリジェネって書いてあるけど。スリップダメージ与えるってこと?」


「毒状態にする、じゃダメだったんですかね?ゲームによって色々と仕様は違うとは思いますが」


『早速使ってきたけど、凶悪だった』

『この異伝だとフィールドを変更するのってかなり強いんよ。特にレイドではかなり強い』


「なんか強いっぽいよ、二人とも」


「じゃあ後で使ってみようか。とにかく企画としてはあたしの勝ちだよ」


「僕らも当てようか。水瀬さん」


「だね」


 その後も回して霜月さんも水瀬さんもコラボカードの全入手。水瀬さんは70連目で星五のコラボカードを手に入れていた。


 一方、俺はコラボカードどころか星五がまず来ていない。星四の方は大量に来ているのに。


「最後の10連、だね」


「リリ君、大丈夫……?」


「だ、大丈夫。ここで最後に引いてみせるさ」


『本当にリリって運が良いんだか悪いんだか』

『星四はリリが四枚、エリーが九枚、みなちぇが七枚と星四はかなり良い引きをしてるんだよ』


 なんたって100連目は星五確定なんだから。


 全員で回したところで金が全員のところに現れる。


 俺が最後として二人は先に中身を見ていく。二人はしっかりとコラボ星五の二枚目を引いたので俺も引けるだろうと金になっている最後のサポートカードを見る。


 そして。


「……これ、違うなぁ。多分恒常で実装されてるサポートカードですね」


「リリちゃんの一人負けだね」


「まあまあ。最後にみんなでもう一回レイドに行ってサポートカードの実力を見るんでしょ?リリ君は星四で固めて行ってよ」


「そうするしかないからね」


『ちなみにそれ、誰も使わない産廃星五だぜ』

『初期のカードすぎてもう能力が追いついてないのよ。初期はそれなりに使ってたが』

『リリ完全敗北』


 当初の予定通りもう一度レイドに行ってサポートカードの力を見せつけるということになっていた。二戦挑んで最初は星四のサポートカードを使って戦い、二戦目は星五を使って欲しいと台本には書いてあった。


 俺は使えないけど。


 同一カードは最大四枚まで使って限界突破という強化ができて、カード効果が強化されるようだ。リリのカードだけ一枚足りなかったが、他の二人は最大まで強化できた。


「ヤケクソだー!一ターン目で使ってやる!」


《支援要請!お山の力を見せつけろ!日蝕狸軍団タヌキ・フォース!》


「なんかタヌキがいっぱい出て来た⁉︎」


「おおー、良いダメージ。全体攻撃っぽいね」


 一戦目はそれぞれのサポートカードを使った結果、ガチャを回す前に散々苦労した相手なのに三ターン目で勝利。キャラを全然強化していない状況でサポートカードだけで強くなったと実感できるのは嬉しいことだ。


 そして二戦目。まずは水瀬さんが使う。


《本当にこんな材料使うの⁉︎里では誰も使わない毒草だよ!》


《毒と薬は表裏一体。レシピ次第ってこと》


《あー、間違えたぁ⁉︎しかもひっくり返しちゃった⁉︎……アレ?》


《わーあ、大惨事……》


《回復薬の方はしっかりと成功してるのに……。いや、毒性が強くなってるからこっちの方が適正だったかも?》


《失敗は成功の素って言うけど、むしろ大成功引いたんでは⁉︎》


《後片付け、誰がやるのさ》


 結構長いやり取りの結果、相手の足元に毒沼ができる。これがどれだけダメージを与えられるのか。


 一ターン目にやれることをやって、ターンエンドになると。


 何故かレイドボスのHPが半分以上削れた。


「え……?何これ?」


「スリップダメージとは思えないくらいHPが削れたんだけど?」


「えー、防御力無視の相手防御力依存ダメージ?つまり防御力が高いほどダメージを与えられると。これ、雑魚敵にはそこまで強くないですけど、強敵相手にはかなり使えるんじゃ……?」


『詰まってたとあるボスを倒せたわ。サンキュー』

『コラボカードはいつもぶっ壊れにしてくるから予想はしてた』

『空飛んでる奴と毒無効の奴以外には無双できる』


 この性能と、俺たちのボイスも悪くなかったこと。そしてデビューしてすぐにコラボしたこともあって話題になり、配信の視聴者数もゲームへのアクセス数も悪くなかったと好評をいただいた。


 あと、俺の運のなさと霜月さんのある発言が切り抜かれていたけど炎上することはなかった。結果として成功でいいだろう。


 配信終わりに水瀬さんが夜中のラーメンを食べたいと言うのでこってりとしたラーメンを食べに行った。油がどろっとしている感じの豚骨醤油ラーメン。


 水瀬さんは美味しそうに食べていたが、霜月さんはあんまり合わなかったようだ。


「ごめん。前の生活で胃が弱くなってるのか脂っこいのはダメみたい……」


「んー、じゃあ二郎系とかはもっとダメだね。リリちゃんは二郎系って食べたことある?」


「いや、結構少食だから野菜山盛りのラーメンはちょっと……。ラーメンなら今回のは大丈夫だけど、これより脂っこいのは俺もパスかな」


「わかった。じゃあ今度はあっさり系のラーメン食べに行こうね」


「夏希ちゃん、そんなにラーメン好きなの?」


「なんでも好きだよ?ただ高校生だからあまり外食できなかったし、友達と行くとしてもファミレスか甘味ショップばかりだから二人といろんなところに食べに行くのは割と楽しみ」


 お小遣いで生活してたらそうなるよな。俺も高校生の時は全然外食しなかったし。


 なので今後も時間が合ったりコラボ配信をやった後は外食をしようと決めた。

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