第21話【同時視聴】侍JAPAN選手選考発表配信

 今日の配信も視聴者と一緒に同時視聴をしていく。前回のハピハピ先輩との同時視聴とは異なり、こっちのタイミングでどうにかできるものではなかった。そのため早めに配信枠を取る。


 とはいえ早すぎてもどうなんだと思って今日の配信は十八時から。


 タイトルは簡潔に【同時視聴】侍JAPAN選手選考発表配信、とした。今年は2024年ということで四年に一度のオリンピックがある。しかも今年は東京でオリンピックが行われることもあって日本ではかなり盛り上がっている。


 その選手たちが発表されるということもあって視聴枠を取った。オリンピックやWBCと呼ばれる世界大会でも侍JAPANを選出して誰が選ばれるだろうと気にしてしまった。だからこうして枠を取る。


「はい、皆さんこんばんは。絹田狸々です。今日はオリンピックの侍JAPANが発表されるということでこうして枠を取りました。今年は誰が選ばれるのか気になりますね。まだシーズンが始まっていないので去年のデータを参考に選ばれるのでしょうが、最強軍団はおそらく作れないでしょうね」


『雑談枠っちゃ雑談だろうな』

『野球は最近人気だよな。まあ、甲子園があるから日本人は野球大好きだけど』

『おん?なんで最強軍団にはできないん?』


 配信は問題なさそうだ。発表は十九時からなので一時間ほどは雑談をする。


 で、おそらく俺のリスナーも俺が『ウルプロ』をやってるからって野球に詳しいとも限らない。俺も半端な知識でしかないけど説明をしていく。


「最強軍団が作れない理由は、オリンピック期間がシーズン途中の七月から始まってしまうからですね。他の世界大会はオフシーズンにやるのでほとんどの球団が許可してくれますが、オリンピックはシーズンの間なので球団側が選手を出すことを嫌うんですよ」


『オリンピックなのに?』

『他の競技はそんなことなくね?』

『まあ、怪我でもされたら困るからな』


 コメントでも察してくれているが、契約しているプロの選手が怪我でもされてシーズン中に活躍できなくなったら球団としても損だ。まだ球団としての試合で怪我をしたのなら問題はないが、球団とは関係ないところで怪我をした場合採算が取れなくなる。


 メジャーリーグはそういうところがあって、オリンピックにはあまりメジャーの選手が出てこない。だから日本人のメジャーリーガーがどれだけ参加してくれるかが注目されている。


 その辺りの説明をして、選ばれるだろう選手の予想を出してみた。昨年の結果から予想したもののどれだけ当たっているか。


 選んだ選手のことを説明している内に発表放送が始まる。地上波でやっているのでそこを見るようにと勧めて、配信画面にはそれを出さない。ミラーリングとかはしたくないし。そもそも禁止されている場合がほとんどだ。


「はい。今回の代表監督である添渕そえぶち監督ですね。この方が発表してくれますね」


 俺はテレビで見ながら配信で話す。


 投手からポジションごとに発表されていく。まずは投手だ。


「お?おおお?宮下さんがいますね!」


『メジャーリーガーやん!』

『そりゃあ日本人で一番有名な投手になったからな!選ばれて当然だろ!』


「僕も予想はしていましたが、まさか球団側が認可を出すとは思わなくて。まだ二年目なのに……。いや、二年目だからか?」


『どういうこと?』


 他の選手についても話したいが、コメント的には宮下さんがすっごく話題になっているので話すしかない。メジャーリーガーとしてかなりの人に知られているから話すべきだろう。


「メジャーリーガーって年棒が桁違いなんですよ。ただ、それは二十五歳から。それ以下の年齢の外国人はどれだけ活躍しても契約金と年棒も含めて上限額が決められているんです。だからまだ二十四歳の宮下さんやキャッチャーの羽村はねむらさんはタイトルを獲ったとしてもかなり安いですね」


『そんなルールあんのか』

『それってつまり、もし怪我しても去年と同じくらい活躍してくれれば前半戦だけで元が取れるって考えられてるってこと?』


 多分そういう理由な気がする。


 宮下さんは投手としてはもちろん日本人として最高峰だったのに野手としても活躍しているので実質二人分働いているのにかなり安く使えるのだ。


 年棒詐欺みたいなことを言ってたような気がする。


 実際はメジャーリーグで活躍しているのに、契約はその下部リーグのマイナー契約だから安いのだとか。二十五歳を超えたらすっごい年棒になりそうな二人だ。


「去年と同じで2桁勝利、本塁打も二十本打ってくれるなら前半戦の半分でも金額的にはお釣りがくるんでしょう。球団もビジネスなのでその辺りはシビアですね」


『結局金なのよ』

『でもオリンピックで活躍したらかなりの宣伝にもなるから……』


「他の選手も見ていきましょう。柳田やなぎたさんも知っている人が多い選手ですね。羽村さんと高校時代にバッテリーを組んでいたサウスポーです。それに同じくサウスポーで先発投手の分島さん、篠原さんと宮下さんと同世代のサウスポーが揃っていらっしゃいますね。ベテラン投手もいらっしゃいますが、やはり宮下さんから前後二年ほどの選手は黄金世代と呼ばれるだけあって選出が多いです」


 宮下さんと同じくらいの世代はすごい選手が多くて、プロになった選手が多い。高校でドラフトに選ばれた人も多ければ二年前の大学生の時に選ばれた人も多かった。一軍で活躍している人が多いことと、それこそまだ若いのにタイトルを獲ったりする人も多い。


 当時の甲子園中継なんて視聴率がとんでもなかったらしいし、ほとんどの試合で甲子園が埋め尽くされていた。それどころか入りきれなくて溢れていたようだ。


 宮下さんと羽村さんなんて高校一年生の夏の甲子園から暴れてたんだから、人気にもなる。


名塚なづかさんはセットアッパーですね。この方は羽村さんの二つ上の先輩です。羽村さんが一年生の時の甲子園優勝投手ですね。米川よねかわさんも宮下さんと何度も対戦している投手です。この方は世界で一番変化球が使えると言われる投手です」


『マジで宮下・羽村世代が多いな』

『投手以外にもかなり食い込んでくるだろ』

『前後の世代もまとめて宮下・羽村世代って呼ばれるのはなんか、じわる』


 いやほんと、年齢だけを見ると若い。二十代ばかりだ。


 日本のプロ野球は今回会場を提供することもあってオリンピック期間は試合がないから選手を送り込んでくれることにも好意的だろうけど、それにしたって若い。


 まあ、タイトルを獲る人たちも最近はこの世代の人たちが多いから本当に凄いんだと思う。


 何かのネット記事で読んだが、やはり彼らの世代では宮下さんと羽村さんが頭抜けていて、彼らに勝つためにどこも必死だったとか。そうして全体のレベルが上がったのに、勝てなくてプロの世界で勝とうとしたら二人は更に先のステージに行ってしまったとか話していた。


 今度はチームメイトとして戦えるのは嬉しいことなのかどうなのか。インタビュー記事は出るだろうから気にしてみよう。


「続いて捕手ですね。四人……。羽村さんと神田かんださんが選ばれてる!」


『羽村も来てくれるんだ!』

『神田は、プロで宮下とバッテリー組んでたキャッチャーか。羽村と比較されるけど打てて強肩の良いキャッチャーだよな』

『宮下と高校の時に組んでた高宮たかみやは選出漏れか』


 羽村さんも参加って、もしかしてこれはドリームバッテリーが誕生するのか。結構配信者が『ウルプロ』で二人を別々に育ててチームアレンジで二人を一緒に使ったり、それこそリセマラをしまくって二人を同時に入学させたりということをやっているけど、そんな誰もが夢見るバッテリーが実現するかもしれない。


 まあ、夢とは言うけど四年前のオリンピックと、二年前のWBCでも実現したバッテリーなんだけど。メジャーリーガーになってからは初というだけで。


「続いて内野手ですね。ああ、やっぱり去年のホームラン王の三間みまさんは選ばれていますね。それに首位打者で二塁手のなださん、ユーティリティープレイヤーのショート仲島なかしまさんもいます。この人たちは宮下さんのチームメイトだったり東東京大会で戦ったライバルだったりします」


『全員打率が良いし、ホームランも打てるからな』

『ベテランから若手まで勢揃いだな。ただメジャーリーガーがいない……』

『やっぱリリの説明通り、シーズン中だから難しいのか』


 三間さんと仲島さんは宮下さんと同じチーム。灘さんは東東京で戦ったライバル校の選手だった。やはりこの世代はおかしい。野球好きなおじさんたちがタイトル受賞者が若すぎると、ロートルも頑張れとぼやいていたのを思い出す。


 宮下さんと羽村さんが投手と野手のタイトルを総なめにしていた記憶があるけど、その二人がいなくなったら同じ世代の選手がそれぞれのタイトルを奪っていくんだから世代の力が強すぎる。


 タイトルは獲れなくても一軍でチームの中核選手になっている人も多いのだから、この世代の甲子園を見るのは楽しかっただろうな。俺はその頃には劇団に入っていたこともあって録画で見るしかなかった。


 そして最後。外野手の一覧が発表される。


「やったああ!萩風はぎかぜさんが選ばれてる‼︎」


『今日イチの大声』

『鼓膜ないなった』

『セ・リーグのホームラン王の井上いのうえよりも萩風優先すんなや』

『推しなのはわかるけどさあ』


 俺が配信で育てた萩風さんが選出されていた。WBCも選ばれていたから大丈夫だろうと思っていたけど一安心だ。


 他にもコメントにもあった通り強打者の井上さんが選ばれていたり、代走要員の方もいたりと、控え選手もバラエティ豊かだ。


 選手としては以上。あとはコーチが発表されて終わりだ。まだ放送は続いているものの本営は終わったのでそのまま視聴者と雑談に戻る。


「いやあ、東京オリンピックだからもう観戦チケットの抽選はしているんですよ。野球は全部申し込んだんですけど、当たるかなあ?」


『俺も野球は申し込んだ』

『俺はバスケ』

『もし同じ日に当選したら、球場でリリちゃんに会えるってこと?』


「会えるかもですね。まあ、絶対にバレないように擬態するので探せないと思いますけど」


『あれだろ?人生ゲームの時のような半裸の男を探せばええんやろ?ヨユーヨユー』

『それなら俺でも見付けられるわwww』


「あれは街に潜入する時のためのものだから。当日は野球のユニフォームで行くよ」


 オリンピックは人気すぎてチケットが早々に買えない。どうしても生で観たいけど、多分転売ヤーが大量に申請してるんだろうな。


 発表は五月中旬だったはず。なのでそれまでゆっくりと待とう。


「というわけで、明日の朝からオリンピック選出選手を『ウルプロ』で作成していきますね」


『マジ?またあの狂ったガチャが見られるのか』

『ヤッフー!人が爆死しまくるガチャは楽しいのー!』

『それ、オリンピックまでに間に合う?』


「あ、ガチャで放送枠を一回潰すのはアレなので、入学式までは終わらせて用意しておきます。宮下さんと羽村さんだけガチャやるかも」


 そんな発表もして配信は二時間ほどで終わらせる。

 この後、KP7先輩と協力ゲームをするんだよね。その準備をしないと。

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