第18話「勇者組、地球を知る!」ゲスト:リリ
それは霜月と開封配信をした日のこと。お昼に撮影があったのでその時に収録をした企画。それは一期生のコウスケ・フォン・ヤクモとゴートン・リゾマータが初期から公式チャンネルで二人でやっている番組「勇者組、地球を知る!」のハンバーガーを食べる撮影にリリは参加していた。
リリの最初の企画収録系は初手で燃えたこともあって一期生で数字を持っている男の先輩二人の番組と決めていた。撮影日も早めに決まっていたために事務所に行く日が霜月の事務所を訪れる日と被ったのはたまたまだ。
いや、正確には事務所の社長が二人のスケジュールを確認して霜月を呼び出したという事実がある。とはいえ霜月が事務所に顔を出さなければ実現できなかったことは事実だ。
そのため、ここは偶々ということにスタッフ一同でしていた。
兎にも角にも、そんな日の撮影。リリにとっては初めての収録であり、同期が辛い時期ということもあって些か緊張していた。
番組の趣旨としては異世界からやってきたコウスケとゴートンは地球の文化をあまり知らないために様々な観点から知っていこうというものだ。世界文化遺産の公式紹介動画を見たり、案件としてもらって二人で企業商品をアピールしたり、なんてことない気になったものを調べたりと様々だ。
この日の収録は日本でもかなり有名なハンバーガーチェーンである
事前にどういう風に座って台本はどうだというのを打ち合わせして、撮影は始まる。
「ゴートン。最近ハマってる食べ物ってある?」
「携帯食料だな。あの値段であの美味しさ、そして栄養バランスを考えると素晴らしいものがある。それに栄養ドリンクもあれを飲むだけでかなりのカロリーを得られるのはオレたちの常識では考えられないな。リリはどうだ?」
「僕としては炒めご飯がなかなか良い感じですね。最近は釜飯とか炊飯器に入れるだけでできるものが販売されているじゃないですか。味もしっかりしているからオススメです」
「おいおいお前たち、今日の企画わかってる⁉︎どうしてそこでハンバーガーに持ってってくれないわけ!台本読んだ⁉︎」
進行役のコウスケがツッコむ。だがこのメンバーの内ゴートンは基本ボケキャラで、リリも意図的に場を引っ掻き回す役だ。
そうなると進行をしなくちゃならないコウスケが真面目になるしかない。
「最近ハマってるやつって言うから正直に答えただけだぞ?」
「むしろ今日たくさん食べるからハンバーガーを最近は食べてませんからね」
「と言うわけでこの動画を見ている携帯食料関連の企業さん。案件待ってます」
「僕もご飯系の案件待ってます。タヌキも絶賛とかってなれば、売れるかなぁ?」
「売れるんじゃね?話すタヌキとかいないし」
「今日は!
「
「サイドメニューも美味しいですよね。かといって高すぎることもないので、僕もたまに食べますよ。ハンバーガーチェーンだと行く頻度が多いかもしれません」
強引にコウスケが今日の企画に入ると、ゴートンもリリもハンバーガーについて語り始める。趣旨を完全に無視して脱線しまくるわけではないのだ。ただボケて大丈夫だなと思ったらボケ続けるだけで。
自己紹介もせずにヌルッと始まったが、この番組はゆるいことがお決まりになっていて自己紹介はいつもテロップ処理で終わらせるので三人とも自己紹介もしない。台本にも一切書いていなかった。
3Dで配信するわけでもないが動きは見せるためにカメラが回っている。表情の変化を追って立ち絵を合わせて動かすアプリを通してカメラで撮ることで作られている画ではしっかりと三人のキャラが表情を変えながら話していた。
コウスケとゴートンなら年が明ける前に3Dの身体を貰っていたが、エクリプスの中で3Dの身体を持っているのはまだ少なく、ゲストのほぼ全員が2Dなので配信でも3Dは使っていない。まだできたばかりの事務所なので徐々に、といったところだ。
「このテーブルの上にあるのが今日食べるやつだ。視聴者にはブツ撮りの画像が映ってるはず」
「ハンバーガーに、ホットドッグ。チキンにフライドポテト。オニオンフライにシェイク。あとは菜摘って呼ばれるレタスで挟んだ奴とライスバーガーもあるな。摘めるやつは全員で食べて、一個しかない奴は好きにって感じで」
「ほら、リリ。タヌキだから野菜好きだろ?この菜摘バーガーやるから食え」
「コウスケ!テメエ良い加減野菜嫌い直せって言ってんだろ!ただでさえ不規則な生活をしてるんだから食生活くらいなんとかしろよ!」
「うるせえ!健康診断問題なかったし!それにゴートンも野菜こそ食ってるものの栄養ドリンクとかサプリに頼ってるの知ってるんだからな!お互い様だろ!」
この二人は喧嘩するほど仲が良いというところがあるので、毎回この番組ではどこかで喧嘩している。今日の話題は食生活についてだった。これは定番の流れだったためにリリはそのまま流して食べたいものを自分の前に持ってくる。
「野菜は嫌いじゃないですし、この菜摘貰いますよ。シェイクはバニラとコーヒーと抹茶らしいですけど、どれが良いです?」
「俺バニラ!」
「じゃあオレ抹茶」
「なら僕がコーヒーですね」
「こいつ抹茶もコーヒーも苦手だからな。苦いもの苦手とか子供舌かっての」
「人の味覚に文句言うなよ!」
そう言いながらも三人でハンバーガーを分けていく。コウスケが野菜を食べられないからと、この
なんやかんやと食べ物を取り分ける。全員ハンバーガーを一つずつ、シェイクを一つずつ。ホットドッグとチキンをコウスケが、ライスバーガーをゴートンが、菜摘バーガーをリリが受け持って他のものは全員で食べると決める。
「そういやリリって苦手な食べ物ないわけ?タヌキだろ?」
「タヌキって雑食なので割と何でも食べますよ。まあ、添加物が多いものとか塩分がありすぎると厳しいですけど。薬とかも大丈夫ですし」
「へえ。タヌキってそうなんだ」
「まあでも、基本は害獣扱いされるので見かけたからって餌とかあげないでくださいね。人間に懐くと餌があると思ってバッグを漁ったりしますから。猿とかでもそういう傾向があるでしょう?それと同じで学習した野生の動物は結構面倒なので近寄らないことが吉です。病気とかも持ってますからね」
「ああ。犬だって狂犬病とかあるもんな。畑に住み着いた害獣被害とかもよく聞くし、俺も害獣を退治したことはあるぜ」
ロールプレイも混ぜつつ、三人は最初にハンバーガーを食べていく。コウスケはチーズバーガー、ゴートンは目玉商品であるミートソースに厚切りトマトが入っている
コウスケはチーズバーガーを食べつつ、ううと涙目になる。
「細かく刻んだオニオン入ってるじゃん……」
「おま、そんなもんまでダメなのかよ⁉︎オムライスとかパスタも食べられなくねえか!」
「そこら辺はフォークで退かすから。こうやってソースに混ぜられてると食べなくちゃだろ……」
「コウスケ先輩、外食できなくないですか?牛丼とかのタマネギもダメってことですよね?」
「全部避ける。だから案外外食いけるぜ」
「だぁからお前と外食行きたくないんだよ……。ほとんどラーメンか焼肉か、決まった奴しか食いにいけねえもん」
「寿司もいける!」
「自慢するとこじゃねえよ!」
食の偏りがひどいためにあまり外食に誘われないことを嘆くコウスケ。
あまり自分で食事を作らないために撮影があったり事務所に用事があったらそのまま外食に誘うことが多いのだが、毎回ラーメンとかになると飽きたのでと断られると零す。
「それはそうですよ……。僕も毎回ラーメンは飽きます」
「あ、つまりラーメン、うどん、そばでローテすれば良いのか!」
「お前もハンバーガー推せよ。企画の趣旨をオレたちへ押し付けた割にはお前も麺類の話ばっかじゃねえか」
「何でそれで健康診断大丈夫なんです?うん、テリヤキのタレってやっぱり甘じょっぱくて美味しいですね。ハンバーガーチェーンでもかなり味が変わりますけど、テリヤキのタレは
「ほら、後輩がちゃんと味レポやってるのにお前は何で文句言ってるんだよ。美味しいだろ?」
「美味しいよ!でも俺は他のバーガー屋でもピクルス抜くんだからな!」
「もうこの番組で食事系企画辞めないか……?こいつに食べさせるのが勿体無いぞ。スタッフさんもわかってて野菜が少ない奴を選んでくれてるのに……」
コウスケが外食に誘うと大体麺類か肉系なので気分じゃない時は断られることが多いらしい。それがわかって嬉しいというコメントが動画のコメント欄に複数書き込まれていた。あまり表に出てこないスタッフのことや、ライバーの裏事情などを知りたがるファンは多い。
特に誰と誰が仲良しか、なんて話はファンアートにも反映されるので誰と出掛けたとか食事に行ったとかは教えるとファンが喜ぶ。
「ホットドッグうまい!マスタードのこの辛さとソーセージにも入ってるピリ辛要素が食欲を増すぜ!」
「ライスバーガーなんて初めて食ったけど、おこげみたいな感覚で美味しいな。焼肉のタレも甘めで、それがパティのご飯に染み込んでて美味い。天丼とかでタレが染み込んでるご飯食べるようなもんだから、そりゃあ美味いか。日本人はきっと好きだろ」
「ああ、なるほど。確かにそれは好きかもです。僕はたまにつゆだくを食べたくて丼モノをつゆだくにすることがありますよ」
「つゆだくわかるなー。お、チキンもブラックペッパーが効いてて美味い。骨がないから食べやすいな」
「骨があった方が食べがいがあるけど、そこは好みだな。オニオンリングはオレとリリで処理するか」
「ですね」
ハンバーガーを二個、それにサイドメニューを食べてシェイクを一つなので二十代の三人にとっては問題なく食べられる量だった。投稿された動画は編集がされて全部は映されなかったが、それでも四十分とかからずに食べきっていた。
食べ終わった袋やシェイクのコップもブツ撮りした後に、エンディングトークをし始める。
「というわけで完食ー!いやー、美味かった!」
「ちょっと高級感あって、ご褒美みたいで良かったな。セットとサイドメニュー一つくらいなら外食の値段と変わらないし、満足感はかなりある」
「野菜好きな人からしたら良いですね。それに公式サイトにはカロリーも載っているので気になる方はこういう情報を見て選んでも良いかもですね。菜摘は普通のハンバーガーよりかなりカロリー低いですし」
「ダイエットは無理をしちゃダメだけど、こういうところで調整するのは良いかもな。でも、オレたちからしたらありのままの皆が好きだぜ?もちろん、オレたちに会うために綺麗であろうとしてくれる皆の努力も気高くて好きだけどな。だから皆も菜摘バーガー食べたり、健康食品食べようぜ!」
「そこに戻るのかよ⁉︎口説いたり忙しい奴だな!」
ゴートンが口説き始めた時には驚いたリリだったが、そういう先輩だと他の動画を見て予習してわかっていたので声には出さなかった。それにすぐボケていつものゴートンに戻ったために、リリとしては二人の漫才を邪魔しないように動く。
「最後に告知だな。何と、今回
「おお、コラボ商品だ。あれ?なら何で僕を呼んだんです?この四人でやるべきだったんじゃ?」
「一期生なんて集めて食事してみろ。全員でコウスケに野菜嫌い直せって詰め寄る面白みのない絵面になるぞ。しかもこいつがコラボ対象の菜摘バーガーを食べないんだから、女子二人呼んだって無駄無駄」
「それに俺たちの番組って新人の男来たら絶対呼ぶからな。入門番組だと思われてるんだよ」
「なるほど」
呼ばれた理由に納得したリリは頷くと、今日の番組の締めに入った。
いつもゆるいので終わりもほぼ適当だ。
「今日も美味しいものを知れたってことで、調査は成功だな」
「リリの紹介にもなったし、成功ってことにしてやる。リリ、次も来てくれるか?」
「ええ、是非。無茶な企画じゃなければ良いですよ。三人で野菜を食べ切れみたいな企画じゃなければですけど」
「それをやる時はコウスケがいない時だ」
「それって『地球を知る』でやらなくて良いじゃん。俺がいないところで勝手にやってくれ」
「野菜食べ放題は食材を無駄にしそうなので却下です。つーことで、オレたちにやってほしいことがあったらコメント欄に書き込んだり、SNSで返信してくれればいつかやるかもってことで。んじゃあ、調査完了!」
「またね〜」
「野菜だけはやりたくないぞ!スタッフ頼む!」
投稿された動画はここまで。
だが、番組が終わった後に二人はリリを激励していた。
「そうか。この後霜月さんを誘うのか。まあ、社長とかマネージャーよりも同期になら話せることもあるだろうな」
「リリ、どこで話すわけ?事務所の中とか?」
「いえ、カラオケにでも連れ出そうかと。ああいう場所なら秘密の会話にも向いていますし、個室ですから」
「おお……。よく女子を二人っきりのカラオケに誘えるな」
「他に誰も聞いていない環境を作らないといけないんですから。事務所だと人がたくさんいますし、防音の部屋とはいえもしかしたら外に聞こえてるかもしれないって思っちゃうかもしれないですから。なら最初からうるさいカラオケに行けばそういうことを気にしなくて済みます」
「二人してドツボにハマるなよ。何かあればすぐにオレたちを頼れ。人生経験ならオレたちの方が上だし、配信者としても先輩だからな」
「その時は頼らせてもらいます」
二人に背中を押されて、かつ二人はリリとエリサに見付からないように物陰に隠れながらリリの様子を見ていたが、エリサの苦し紛れのからかいであるデートに同意して、事務所で堂々とデートに誘うリリの姿に二人は爆笑して膝から崩れ落ちていた。
そのまま衝動に駆られてライバー用の全体チャットでリリがエリサをデートに誘ったことを暴露。何人かはすぐに反応した。
『
『
『
『
「全員面白がってて草」
「草生やすなよ。いや、面白いけどよ。というか男連中。尾行だのデバガメだの、リークしたオレたちよりやべえ」
これを見たリリは何も反応せず、後日知ったエリサは女性陣に特に冷やかされたという。コラボに誘っちゃおうかなーと伝えたら必死に止めてくるエリサが可愛かったのでこのネタを擦ろうと決めた瞬間だった。
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