第17話 お絵描き配信
コラボとかやらなくちゃいけないことが終わって落ち着いた頃。夕方の配信でリスナーとゆっくり対話する配信をしても良いんじゃないかなと思って、ブラウザゲームに手を出すことにした。
ダウンロードとかも必要じゃなく、色々ネタにできるような内容ということで採用した。
まあ、最近はコラボだったりRPG配信とかでリスナーとコメントでの交流があまりできなかった。あまりできないスタイルでやっているのが俺の配信だから気にしてなかったんだけど、最近お便りでもっとリスナーとお話ししてよという声を聞いて今回の配信をすることにした。
告知もして時間になって、配信を始めた。
「皆さんこんばんは。絹田狸々です。今日は告知の通りお絵描き無料ブラウザゲーム、『お絵かきクイズショー』をやっていきます。お題を決めたりゲームモードを決めたりして絵を描いていって楽しもうというものです」
『おお、オエクイ』
『これって普通ライバー同士でやるもんじゃ……?』
『俺たちがぶっ壊してやるよぉ!』
「コメントが凄いですね。やる気満々だぁ」
リスナー参加型と銘打ったからか、かなりの視聴者が来てくれている。平日の夕方なのに皆さん仕事は終わったんだろうか。
お題は様々なゲームで、アニメーションのように少し変化をつけて動きのあるGIFを作ったり、絵と言葉で交互にしりとりをしたり、参加者でお題を書いてそのお題の絵を理解して次の人に伝える伝言ゲームとか、モードはたくさんある。
ゲームの説明をしているとコメントで質問があった。
『リリって絵、上手いの?』
「ふふふ。驚かないでくださいね?中学の美術の成績はなんと!3でした!」
『ひっく』
『中学の評定ってどうだっけか?一定数低い評価の子も出さないといけないんだっけ?』
『年代による。ただ3だと技術はあったけど態度が悪かったか、態度は良かったけど下手だったから妥協点で貰えてたパターン』
『リリの性格を考えると、画伯だな?』
絵が得意ではないと告白すると、俺のことを考えたコメントが流れて笑ってしまった。
まだ一ヶ月ちょっとしか関わっていないのに俺の性格を鑑みて評価を出せるくらいに濃い一ヶ月だったと思うと双方の関係性としてはかなり進展しているんじゃないだろうか。
『唐突に微笑むな。心臓が止まるだろ』
『¥1200 三途の河巡り代』
『何わろとるねん。面白い要素どこにあったんや』
「いや、僕のことよくわかってくれてるんだなと嬉しくなってしまって。コメント欄の通り、僕は絵が下手くそなんですよ。こんな短いやりとりで察するって凄くないですか?」
『エモいこと言うじゃん』
『やめてよね。尊みが溢れてスパチャが抑えられないだろう?』
『¥555 久しぶりの触れ合いの機会で可愛いこと言わないでよ!』
あれ?なんだかスパチャが一気に増えた。なんでだ。
スパチャは後で読むことにしているので、どのゲームで遊ぶかリスナーと相談する。
「無難に伝言ゲームで良いですかね?」
『良いんじゃね?』
『奇数にすると良いかも。最後が言葉で終わるから』
『絵を四枚書くとして、なら九人ってところか?』
『多すぎたら一ゲームが長くて回ってこないし、そんなもんじゃない?』
「ふむふむ。じゃあ九人にしようかな。部屋番号を公開しますね」
『カウントダウンしてくれー!』
『と言うか待って!まだペンタブとかの用意ができてない!』
「待ってって声が多いのでちょっとだけ待ちます」
ゲームは予告していたけど、帰宅してすぐ準備しているからか機材の用意が間に合ってないっぽい。まあ、17時スタートって部活とかなく帰ったとしても学生はギリギリだよな。電車通学とかしてたら一時間はかかりそうだし、それを言ったら出社している社会人なんてほとんど参加できないんじゃないだろうか。
やっぱりリスナー参加型の配信は休日にやるべきだろうか。でも休日って他の先輩方も視聴者数が稼げるからってコラボとか誘ってくるし難しいところだ。
三分ほど待って部屋番号を公開するとすぐに部屋が埋まった。格ゲーの時も思ったけど、リスナー熱意が凄くない?
参加者が準備OKを押すまで雑談で時間を潰す。
『そういやリリって今日マウス?ペンタブ?』
「ペンタブなんて高価な物持ってないのでマウスですよ。それに絵が上手くないのにペンタブを買うのもなんか分不相応じゃないですか?」
『興味を持って上手くなるってのは良くある話』
『私なんてFORの三人を描きたくてペンタブ買ったゾ』
「うわあ、凄い人がいる。僕たちの絵を描くためにペンタブを買うなんて。ちなみに絵を描くならやっぱりペンタブが良いんですか?」
『めっちゃ描きやすい。それに保存とかも楽だし、ネットに上げるのも簡単』
『今って漫画化とかほとんどが電子に移行してるぞ。原稿にペン入れして、って方が少数派になりつつある』
『ヴィクトーリア:ペンタブは良いぞお。でも質感を出したかったりする時はやっぱりペンの方が良いんだけどね。ちなみにリリちゃんのラフとか公式の立ち絵は生イラストです』
「あ、ヴィクトーリアママ。プロの方は使い分けてるんですね。凄いなぁ」
絵の親であるヴィクトーリアさんがコメントをくれる。結構俺の配信を見てくれているっぽいんだよな。
この前もSNSにウィザーズ&モンスターズのカードを持って悪い顔をしているリリを上げていたし。仲は良好だと思う。
お絵描き企画だと聞いて参加しようとしたらしいけど、入ることができなかったらしい。
参加者の準備ができたらしいのでゲームを始める。
「まずはお題を文字で入力するんですね。んー、じゃあ『号泣するリリ』で」
『自分を泣かせようとするなw』
『お題ってこういうことよね』
『好き勝手できるから無茶なオーダーもできる。けどそれを再現できる絵力と読解力が必要だからな』
「さて、僕に来たお題は……『エリーを泣かせたリリ』⁉︎人聞きの悪い!」
『この前の誕生日配信じゃん』
『短い時間で二人描くのは難しくね?』
『リリの画力に期待』
何であの誕生日配信はずっと俺が霜月さんを泣かせたみたいな風潮なのかなあ!確かに本当に泣いちゃったけど、あくまでサプライズプレゼントを送っただけでやましいことなんて何もなかったのに。
時間がないからとにかく描いていく。
「えっと、泣き顔の霜月さんをまず描こう。霜月さんの羽ってどうなってるんだ……?立ち絵を見よう」
『エリーを視姦するなんて、リリのえっち!』
『多分背中から生えてるはず。背面図見たことないから想像だけど』
『えっちってひらがなで書くと余計エロいよね』
『そういうデザイン集を出して欲しいよなあ。なお、リリのはヴィクトーリアママがSNSに載っけてくれてる』
『テンキュー、ママ!』
『ヴィクトーリア:いえいえ』
全身描くのは時間的に無理だから、顔だけ描こう。羽を生やしておけば多分霜月さんと認識してくれるだろう。あとは顔文字みたいな顔にして、髪型も忠実に描いて……。
「マウスって描きにくい!誰だ、この企画をやろうって言い出したの!」
『お前やぞ』
『マウスで直線も流線も描きにくいんよな。やっぱりペンタブ最強』
『悲観するほど下手じゃないぞ。エリサってのはわかる』
『あとはお前を描くだけや』
「じ、時間がない……⁉︎二分でどうやってまともな絵を描けって言うんだ!」
『次は制限時間伸ばしたら?』
『オプションで結構いじれるよね』
どうにか泣いている霜月さんを描いて、リリを描こうとしたけど顔の輪郭を描いている途中で時間切れ。
これ、相当難しくないか?
回ってきた絵は野球バットを持って日本刀を持った
画力が凄いからよくわかるし、リリはちゃんと二頭身で飛びながら宗方先輩に殴りかかってるけど、これどういう状況なんだ。
「これ本当にお題の通りに描いた?この人が勝手にオリジナルで描いてない?」
『何がどうなってんねん』
『でも絵が上手いせいで状況は言える。このクオリティで描かれるトンチキな絵って脳がバグるわ』
『すっげえ良い笑顔で殺し合いしてるんだけど……?』
「見たままでいいか。『金属バットを持ったリリが宗方先輩の日本刀と鍔迫り合いをしてる』っと」
キーボードで入力して完了を押す。打ち込めなかったら文章が途中でお題が送られてくるらしい。そうなったらもう伝言ゲームとしては崩壊だ。
時間が経って二個目の文章のお題がやってくる。
「えー、次のお題は『FORのデュエット』。三人はデュエットじゃないから誰かがいないってことだな?つまり居ないのは僕だ」
『その解釈であってるんか?』
『もしかしたら三人で歌ってたトリオかもしれないのに』
『三人で歌ったこと、今の所ないんだよなあ』
『それどころかこの三人、デュエットもなくない?』
『歌枠キボンヌ』
これも作画カロリー高くない?二人を描かないといけないんだから。
まずは霜月さんをさっきと同じ要領で描く。そして周りに音符とマイクも描いて、今度は水瀬さんを描いて……。銀髪だから灰色を使って髪を描いて……。
「ああっ!片目しか描けなかった!一つ目小僧だと思われないかな⁉︎」
『ライバーに一つ目小僧がおるんか?』
『一つ目小僧と歌ってるエリーは言葉も絵面もホラーなんよ』
『というかこれ、参加者鬼畜やろ。この短い間で複数人描くようなお題ばっかで』
『今の所リリのお題が一番シンプルという』
二枚目の絵はサングラスをして野球の守備練習であるノックか、打撃練習をしている、ユニフォームを着ているリリの姿。とりあえずボールを打ってる。
これ、『ウルプロ』の栄光ナインの影響だろうか。
というか、この短い時間でなんでしっかりユニフォームとバットとボールとサングラスとリリを描けているんだ。
「参加者のレベル高くない……?」
『どこにでも野生のプロはいる』
『にしてもうめえよ。この短い時間で特徴捉えてるのは速筆にしてもエグいって』
『リリ君も頑張ってるよ』
「慰めありがとう。ヘルメット被ってないからノックってことにしよう」
野球のノックをしているリリと書いて次のお題がやってくる。
『悩殺ポーズをしているリリ』。理解ができなくて十秒くらいフリーズしていた。
「悩殺、ポーズ?」
『えっちいリリ描けばいいんじゃね?』
『本人が自分のエロ描くのか』
『そもそも狸のエロとは?』
『いくらでもあるだろうが!お尻出してるとか、舌をチラ見せするとか、頬染めてぶりっ子ポーズとか!』
『すまん。ケモナーじゃないからわからん』
いやはや、どうしたものか。
とりあえずリリの顔を描いて、ハートマークでも描いておこうか。手も描いてハートにしておけば良くない?
「ハートが、描けない!」
『マウスの障害が出てるわ』
『もう時間ないぞ』
『頑張った方だって』
結局時間切れ。なんかこの企画、ハンコ絵みたいにひたすら自分の顔を描いてちょっと要素を足すことになりそうだ。
リスナーと共通の話題ってなったらライバーになるからライバーを描く回数が多くなるのは仕方がないんだけどさ。
そう思っていつつ、次に来た絵を見る。リリがマンガ肉の前で佇んでいた。
「あ、これ宇宙人狼の?」
『だろうな。利敵行為のやつ』
『リリの隣に宇宙服の描きかけがあるからおそらく』
「宇宙人狼で死体を見付けたリリ、でいいかな。趣旨はずれていないはず」
打ち込んで来た次のお題。
「今期覇権アニメのヒロイン」。
「誰⁉︎」
『これは……わからん』
『せめて戦闘系か日常系かのヒントを……。髪色とか』
『今期かも怪しいしな』
「僕はそこまで熱心にアニメ見てないんだよぉ!どちらかというと実写派だし!」
『もう適当に女の子描いてぶん投げちゃえば?』
覇権アニメって言うから俺でも知ってるアニメだろうかと思い、ズァークのヒロインを描くことにした。この前同時視聴したばっかりだし。
マリーナ・レイ・アントンの髪色と瞳の色を再現して、あとは丸投げ。このお題って別にそのものズバリの名前を書いても良いはずなんだけど。それを知っているかどうかは二の次だし。
最後の絵がやってくる。これを見て文章を書いて終わりだ。
──そこには、ウィンクをしながらキス顔をしているリリの姿が。
「なんかお題被ってない?」
『上手いのが小憎たらしいw』
『悩殺ポーズと何の差が?』
『もう終わりだから言うけど、二回連続で同じお題が来た時は笑ったわ』
『参加者もコメント戻って来たかー』
「ちゃっちゃと終わらせてリザルト画面に行きましょう。ちゃんと伝わったか見たいですね」
リザルト画面に行けば参加者全員の絵が見られる。ちゃんと伝言ゲームになったかも確認できる。
全員の回答が終わったようでリザルト画面を写せるようになった。
「じゃあまずは僕の『号泣するリリ』ですね」
『お、ええやん』
『泣いてるリリで伝わってるし良いんじゃない?』
『おい誰だ。「泣き顔が可哀想で可愛いリリ」とかって回答してる奴』
『ユーザー名覚えたからな。どんなお題出してるか見てやる』
今回の参加者、全員絵が上手かった。俺のお題は「泣き伏せているリリ」で終わったから成功って言っていいだろう。
霜月さんを泣かしているのも「誕生日配信でエリーを泣かせるリリ」で、泣いている霜月さんの絵を察して回答全てに誕生日配信という言葉が入っていた。やっぱり印象的だったらしい。
水瀬さんもあのサプライズは頑張ってくれたんだけどなぁ。
宗方先輩と鍔迫り合いしているお題は「宗方君と殺し合うリリ」というスタート。俺と宗方先輩なんて宇宙人狼でしか絡みがないし、確か直接殺したこともなかったのにどうしてこんなお題が。
着地としては「バットで宗方先輩と喧嘩するリリ」になったから、まあ成功、としよう。
「FORのデュエット」で来たお題は「歌ってるみなちぇとエリー」だったから合ってたらしい。これ、俺のファインプレイだろ。次の人も一つ目小僧を何とか読解していたみたいで繋がっていたし。
で、「エロいリリ」と「キメ顔のリリ」が曲解して悩殺ポーズとかになったらしい。いや、「エロいリリ」って何だよ。一応そういうセンシティブな絵用のファンアートタグはリスナーと決めたけど、あんまり使われている様子は見られない。若干数あるのは知ってる。
何だかそういう界隈の人にはひっそりと人気らしい。
「泣き顔が可哀想で可愛いリリ」と回答していたリスナーが「エロいリリ」を最初のお題にしていた。ノーコメントで。
ノックのものは「監督をしてるリリ」だったので意図は伝わっていた。マンガ肉のやつも「宇宙人狼で裏切るリリ」だったし。
たった一ヶ月ちょっとなのにリスナーと共有できる出来事も割とあるもんだ。
「覇権アニメヒロイン」はハピハピ先輩のことだった。ハピハピ先輩が伝わらずにアニメキャラになったようだ。偶然にも似たような銃を使うヒロインキャラが今期のアニメにいたらしい。
これは今回唯一全く伝わらずに伝言失敗。俺がズァークのヒロインにしちゃったからな。
次も同じ伝言ゲームを、参加者を変えてやった。リリばかり描いていたけど、大体FORの三人でのエピソードを描いていた。
三回目をラストにしたらヴィクトーリアさんが枠に入れてめっちゃリアルなリリを描いてくださった。本家本元ということでどんなお題でも完成度が頭二つ抜けていた。
ヴィクトーリアさんの絵柄で描かれる霜月さんと水瀬さんは新鮮だったし、狐が得意と言っているだけあり銀狐の水瀬さんは質感も相待ってプロとしての凄みが出ていた。
『ヴィクトーリア:水瀬さんを描くために参加したと言っても過言じゃない』
「そこは息子の配信見に来たって言ってくださいよ」
この絵はPDFで保存できるので後でSNSに投稿するとちょっと話題になった。リリのセンシティブギリギリの絵とヴィクトーリアさんの絵が珍しいということで色々な人に見られたらしい。
今回の絵はちゃんとヴィクトーリアさんとリスナーから許可を取ってから載せたので利権とかは大丈夫。
そしてこれ以外にも話題になったSNSの投稿があった。
「今週の『勇者組、地球を知る!』ではゲストとしてリリを初招致!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます