第16話 同時視聴配信2

 そこはヒロインであるマリーナ・レイ・アントンの執務室。コロニー内部に建てられた屋敷の一室でリモートによる会議がエアディスプレイに表示されていた。これは近くのコロニー群の代表としてコロニー11のガウル代表議員の一人だった。コロニーの中にはガウルにも統一連合にも所属していないコロニーもあったが、コロニー11はガウルに所属していた。


 マリーナは父が代表議員だったこともあってその地盤を引き継ぐ形で代表議員になっていた。コロニーはいつも搾取されてばかりで生活が苦しく、その状況を変えたくて父の跡を継いで統一連合と戦う場へ進んでいた。


《次の会議、私がコロニー11の代表として出席するのですか?》


《そうだ。二年前の代表議員暗殺テロといい、統一連合は何も信用できん。……いや、ガウル側もか。我々はもちろん話し合いの場を潰したのは統一連合だと思っているが、ガウルでも戦争継続派がいる。十年以上続く怨恨というのは簡単に拭いきれんのだよ》


《それはわかります……。そして父は、こんな感情の鎖が外れてしまった世界をどうにかしたくて議員となりました。その議員をテロで殺すなど、到底許すことはできません》


《そうだな。私たちも君の父君のことは残念だった。……また地球に行こうとしても二年前の二の舞になりかねん。だから君にはスケジュールを公表せずに地球に向かってほしい》


 本来であれば外交官となるので統一連合にもガルムにもスケジュールを伝えて行動しなければならないのだが、コロニー11は身内も統一連合も信じられていなかった。


「実際、自作自演による戦争継続派はいるみたいなんだよね。で、統一連合も締め付けのために会議もやりたくなかったからテロを起こした派閥もあって。泥沼だよ」


「統一連合もガウルもお互いのやらかしが多すぎてどっちのせいと簡単に言えなくなっていますからね。戦争が終わらないわけです」


『マリーナの声、福圓ふくえん梨沙子りさこなんだな』

『ああ、メジャーリーガーの宮下と結婚した』

『声優やりつつ観戦もしてるんだからバイタリティが凄いよな』

『おめでた声優じゃん』


 コメントも見つつ、ハピハピ先輩とコメントしながら視聴を続ける。


 去年話題になったなぁ。メジャーリーガーと声優の結婚。この人がそうなのか。まだ二十四歳と二十五歳の結婚だから早くないかって意見はたくさんあったし、それこそ二人とも界隈では人気だったから「宮下ショック」と「梨沙子ショック」とかってSNSでトレンドに入っていた気がする。


《コロニー側で護衛をつけるわけではないと?》


《そうだ。我々が傭兵を雇った。二週間後にこちらに到着する。彼らの艦で地球へ向かってくれ》


《……信用できるのですか?》


《様々な思惑がある者よりも、金で動く者の方が時には信用できる。政治の世界では最悪だがな》


《はぁ。その者たちの詳細な情報をいただけますか?》


《もちろんだとも》


「この依頼されたのが主人公のフレンがいる傭兵団、『エウロパ』ですね。木星圏の人間で構成されているため、統一連合ともガウルとも関係ないとされている傭兵組織です」


「まあ、方便だよね。木星にもコロニーがあるし、実際この後の年代で木星を舞台にしたシリーズもあるんだけど、それはまた今度」


 こうして接点を持った二人。


 マリーナが準備を整えて『エウロパ』を待っていた頃、コロニーの外側でいきなり統一連合の艦隊が近付いてきて一方的な宣言を始めた。


《コロニーへ告ぐ。戦争の準備をしている可能性があると通報があった。そのため鎮圧行動に移る》


《まずい!催涙弾を撃たれるぞ!》


《くそ、何が鎮圧だ!話し合いの前に暴力に訴えるとか、統一連合はいつだってこんなことばかり!》


《死人が出るぞ⁉︎防衛部隊を出せ!正当防衛だ!》


「死人が出るっていうのは本当ですね。密閉空間のコロニー内部に四十万人全員に効くような強力な催涙弾なんて撃ったら子供や年寄りは死にますよ。急な失神で角に頭をぶつけただけで危ないですから大人だって死人が出ます」


「統一連合側は四年前の戦争のせいで過剰防衛気味なんだよ。若干の犠牲で戦争が止められるのなら犠牲もやむなし、って感じ〜。ズァークの世界ってどこも治安が悪いからこんなもんだって思ってると精神衛生上楽だったり?」


『治安終わってんな』

『まあ戦争をテーマに描いたらそうもなるだろ』


 というわけでコロニーにいる守備隊が防衛のためにスクランブルで出撃する。ただ機体の数は統一連合との取り決めで三機しかおらず、一方統一連合は一つの艦に八機は搭載されており、それだけで勝ち目がなかった。


 マリーナは宇宙港で『エウロパ』のことを待っていたのでいつでも出ていける状態だった。だからこそ他の議員が通信をしてすぐに脱出するように伝える。艦隊がいる方向とは逆方向に逃げて『エウロパ』に拾ってもらって地球へ向かえと告げられる。


 だが、彼女は。


《ここで逃げて、暴力に屈して!コロニーを見捨てて!それで何が残るのですか⁉︎私はこのコロニーを守りたいのです!もう誰も泣かない宇宙が欲しくて、それで……!全てを捨てて、ただの小娘となった私になんの力があるのですか!》


《……とのことだ。頼めるかな?『蒼い流星』》


《依頼賜った。コロニーへ暴虐を起こす治安部隊を詐称する賊・・・・・・・・・・を排除する》


《え……?》


 宇宙での戦闘では出て行ったジニーと呼ばれるガウル初の駆動兵器の改修機三機がどこかしら損傷を受けて行動ができなくなり、統一連合で長く使われている量産機ナビィ・ハイペリオンがコロニーへ進軍しようとしていた。


 そこへ緑色のビームが降り注ぐ。その一撃はどれも的確で、たった一撃でナビィ・ハイペリオンは爆散していた。その高火力のビームに進軍の足が止まる。ビームが来た方向へカメラを向けると現れたのは青色を基色としたトリコロールの機体が急接近する。


 統一連合はもちろん、見ていたコロニー側もそのシルエットからありえないと全員からの注目を浴びる。


 それは統一連合の象徴の機体。統一連合のエースだとしても乗れない、時代に一つあるかどうかというワンオフ機。この機体に乗る者こそ統一連合の正統後継者であると宣伝できる、兵器以上の意味を持った機体。


 ズァーク・エプシロンが統一連合の機体へ銃口を向けているんだから。


 ここで場面転換。一隻の宇宙艦がコロニー目掛けて進んでいた。そこのブリッジで重力のないために浮いていた金髪の少年がある通信を受けてモニターにその人物を写していた。


 それは彼らに護衛依頼を出していた、マリーナと話していた代表議員の一人だった。


《すまない。我がコロニーが襲われている。至急援護に来てくれないだろうか。このままでは金も支払えない》


《統一連合の過剰な鎮圧行動か?》


《そうだ。……あなたにしか、頼めない》


《報酬を上乗せだ。それと、護衛対象も試すからな》


《構わないとも》


「ここで大物議員のはずなのにただの傭兵の少年に「あなた」って言ってるのがミソだよね〜」


「うわあ。報酬の話をしてる時、すっごい機嫌悪そう。まあ、フレンからしたら余計な仕事だし、色々と嫌なんでしょうけど」


 慌ただしく動いて出撃準備をするフレン。ズァークに乗り込み、艦のカタパルトから出撃するシーンが続く。


『いやあ、みーちゃんやっぱ上手いわ。これでまだ高校生って思えない』

『高校生でズァークの主人公やれるって凄いよな』


「コメントでも言ってるけど、主人公のCVの間宮まみや光希みつき君はかなり良いよね。色んなアニメやゲームに出てて話題になってるし」


「高校生ですか。天才もいるんですね……」


「跳ねたアニメ作品の『パステルレイン』と乙女ゲームの『スターライト・フェローズ』もめちゃくちゃ良くてね。あそこで女性ファンを一気に増やしたよ」


 うーん。


 この同時視聴の前に声優さんの情報を調べておこうと思ってちょっとは調べたけど、この間宮って高校生。中学生でデビューして高校生になって売れて今年はたくさんの作品に出てるらしい。このズァークも去年の八月に唐突に発表されたと思ったら年末から三週間だけ劇場公開したんだからそのスピード感に驚いていた。


 で、劇場公開が終わって一ヶ月ちょっと経った状態で今みたいに配信サービスにも出るようになった。そんな話題作に抜擢された天才声優なんだけど、俺は彼の演技を聞いて違う人物を思い浮かべてしまう。


(彼、間宮沙希さき君じゃ?声変わりはしてるけど、演技の仕方が似てるというか……。それに彼のカメレオンになれる演技っぷりが本当にまんまなんだよな。年齢も同じだし)


 昔いた天才子役のことを思い出していた。そこから芸名を変えて声優として頑張っているのなら突如現れた天才よりも地続きだっただけだと納得もできるし。

 本人が公表していないからわからないけど。


《フレン、ズァーク・エプシロン。出るぞ!》


 出撃シーンの後はさっきの超長距離射撃をしたシーンから元の時間軸に戻る。


 いや、コックピットから見た戦闘の様子とか、敵をロックオンする時の細かい画面の動きとかとんでもなく細かくてアニメーターさん凄いと感心しっぱなしだった。


《ズァーク……⁉︎ズァークが何故こちらへ手を返す⁉︎》


《貴様、どこの所属だ!我々は鎮圧任務を……!》


 言い終わる前に、再度ビームが放たれる。それは言い訳もさせないと無力化させるための砲撃ではなく、確実に殺すという殺意を滲ませたビーム。


 いや、というか。


「知ってたけど、全部一撃って。これは初代オマージュですね」


「初代もビームライフルが開発されたばかりで必殺の威力を持ってたから、ビーム信仰が生まれるんだよね。んで、これはかなりの大容量エネルギーを溜め込めるエンジンを積んでいる必要があるんだよ。このエンジンの開発が難しいのと、時代が進むにつれてビームコーティングっていうビームを弾く装甲が開発されて一撃で倒せなくなっていくんだけど、それでも倒せる火力を出してるんだよね、この場面」


「ハピハピ先輩、本当に詳しいですね」


「好きだからね!」


 話している間にエプシロンが全ての機体を攻撃していく。ビーム射撃の正確性も凄いことながら、接近して取り出したビームサーベルは確実にコックピットを刺したり、袈裟斬りで真っ二つにするという総合的な能力の高さを見せつけた。ナビィ・ハイペリオンも量産機としては傑作機でそのスペックは一世代前のズァークにも匹敵するとさえ言われていた優秀な機体だ。


 今の時代で見ると二世代前になるが、その頃のトップエースが使っていた機体と同等と考えれば性能は決して悪くない。だというのにエプシロンは相手の攻撃を全て躱し、全機体を撃破してしまった。


「無双だ……」


「ここからエグいよ」


 エプシロンから射出されたグングニール。細長い槍のような形をしたそれは少し離れた場所にいた艦隊に向かって飛んでいき、先端からビームを放ってエンジンや武装を攻撃して艦隊を全部破壊し尽くした。


 そのグングニールがめちゃくちゃに機敏に動いて、しかもビームを乱射するというアニメーションの動きに息を飲んでしまった。最近のアニメの技術力の発展が凄い。3D技術なんだろうけど、それにしたってゴリゴリに動く。ハピハピ先輩がエグいって言うわけだ。


 しかも十本のグングニールを動かしている。初代主人公とライバルキャラでも六本だったのに十本全部を動かすって。


 いつもこの結果をやられる側だったコロニー側は圧倒的な戦果に、味方のはずなのに恐れ慄いていた。統一連合の象徴たるズァークがコロニーに味方をするというあり得ない光景を受け入れるには時間がかかっていた。


新人類ネオ……?》


《こちら『エウロぺ』所属機『イプシロン』。もうすぐ僕の乗る艦も来る。着港許可をもらっても?》


新人類ネオっていうのはこの世界にいる進化した人類とされています。今の兵器のグングニールを操ったり、未来を予知したり、直感がすこぶる良かったり、普通の人間とは違うと思ってくれれば大丈夫です」


「いやあ、これ劇場で見た時は音も動きも凄かったぜ?やっぱり新作は映画館で見るに限る」


 ズァーク・エプシロンがコロニーに入り、それを多くの人が迎える。マリーナももちろんそこへ来て、コックピットから降りてきた人物を見て反射的に呟いてしまう。


《子供?》


《ああ、アンタが護衛対象か。パイロットに年齢が関係ある?それにアンタも議員としてはかなり若いだろ。人のこと言えないんじゃない?》


 これが初邂逅。


 新人類とただの人間。子供と大人。パイロットと政治家。


 相反するもので構成された二人の、戦争の序曲が始まった。


 というわけで動画サービスとしてはここで終わりだ。


「はい〜。というわけで分割一話前編終わりました。一話の後編はまだ動画配信サービスでは見れないみたいで、DVD・BD販売日に見れる予定らしいよ」


「いやあ、動き凄かったですね。この構成の仕方、初代からのオマージュも多くて楽しみです。何でただの傭兵がズァークを持ってるのかとか、議員がフレンを優遇するのか、とか。この辺りはようやく小説の最新巻で判明しましたね」


「そうそう、そうなんだよ!詳しくは小説をチェック!ネタバレは通常配信では言えないのです」


 視聴も終わったのでハピハピ先輩が締めに入る。ネットでは考察とかも出てるけど、それを配信で言うのはネタバレが酷すぎるので俺もハピハピ先輩も言うつもりはない。


「と言うわけで後編も配信されたら同じ企画やろうぜー!」


「是非。同時視聴でワイワイ言いながら見るのも良いですね」


「でしょ?いつかズァークシリーズの勉強動画も出してみる?」


「その時は初心者の方も入れて沼に引きずり込みましょう」


「りょ!んじゃあ終わろうか。この後私のメンバーシップ限定配信でネタバレありのHEの話をするんでネタバレOKって方はこのまま私のチャンネルへよろ!本日はハピハピ・ガンスレイブと」


「絹田狸々でお送りしました。バイバ〜イ」


 配信が終わって、ハピハピ先輩からお礼のメッセージが来る。


 返信をしつつ、同期のグループチャットに質問を投げかけてみた。


「二人とも高校生声優の間宮光希君って知ってる?俺がやってるゲームでも好きなキャラを演じてる人なんだけど」


「知ってるよー。『パステルレイン』でバズったからね。リリちゃんもみーちゃん気になる感じ?」


「わたしはあんまり知らないかな。有名なの?」


「ハピハピ先輩が女性向けの作品で結構出演してるって言ってたからさ。二人なら知ってるかなと思って」


「『浸食のグラナダ』でディアブロっていう青年役もしてたよ。リリちゃんが言ってるのは『ソラソラ』のアセムかな?どれも人気で凄いよねえ」


「わたしも『ソラソラ』やろうかな。話題作だし」


「その時は俺がフレンドになって手伝いますよ。マルチプレイ出来ますし」


「うん。その時はお願いね」


「あたしも『ソラソラ』はやってるから手伝うー!三人でマルチプレイオフコラボやろっか!」


「オフコラボでやる意味とは……?」


 うーん、二人も知らないか。というか水瀬さんは同年代だからこそ、子役のことなんて知らないかも?


 情報は得られなかったものの、今後やりたいことを話せたから結果オーライということで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る