2章 2024/3~
第15話 同時視聴配信1
Vtuberとしてデビューして一ヶ月半ほど経った。
正直な話、デビュー配信で炎上するわ、同期が鬱っぽくなるわと結構大変だった。その同期の誕生日が二月末だったこともあって突貫工事でサプライズプレゼントの準備をしなくちゃいけなかったしなあ。
結果として同期は復活したし、事務所の先輩方とそれなりに交流もできた。無難なところに着地したと言っていいだろう。割と脳筋だったことは否定しない。無理矢理愚痴を聞くような場所に閉じ込めて、誕生日に同期という言葉を借りたプレゼントなんてありきたりすぎるだろう。
それで彼女が元気になったのなら結果オーライなんだろうけど。
直近の問題は解決したということで今日の夜配信ではちょっと変わり種を用意してある。実を言うとコラボ配信だ。そのためいつものように夕方の時間ではなく、19時スタートだったりする。
コラボ相手との確認も終わらせて、配信が始まる。
「始まったな?というわけでドーン!トリガーハッピーのハピハピ・ガンスレイブだぞ〜。今日は『駆動戦士ズァークHE』エピソード1の同時視聴に来てくれてありがとう!私はもちろん映画館で見たけど、配信されるとなったら皆で見るっきゃねえとなって、枠を取った次第よ!」
コラボ相手はピンク髪に赤い瞳、結構グラマラスなスタイルを見せびらかしつつ迷彩服を着て胸の前に銃のホルスターをつけていて左目側に白いウサギが描かれている黒い眼帯をつけた女性、ハピハピ先輩とのコラボだ。
トリガーハッピーという先輩はキャラ設定はそこに注力されていて、俺とかのように動物要素のない純粋な人間のアバターだった。そしてトリガーハッピーの称号に恥じずFPSのようなバトルロワイヤル系のゲームがかなり得意でランク帯も高いのだとか。
やったことはないけど、日本で見たらかなりの上位者らしい。
そして事務所で随一の『駆動戦士ズァーク』シリーズが大好きな方だ。
「私の『
「初めまして。秘境の里へようこそ、歓迎しますよ。
「私はその辺も全部網羅してるぜ!というか布教用があるから今度事務所に置いとこうか?」
「全部は凄いですね……。実を言うと読んでみたいです。初代の世界線の話だけでもたくさんあるので追いかけるのが大変なんですよね」
この配信はハピハピ先輩の配信なので初めましての挨拶をする。初絡みだから俺のことを知ってるリスナーも少ない気がする。
ハピハピ先輩のリスナーは『
「まあ、多すぎるのはわかる。アニメだけでも多いのに漫画もかなりあるからね。しかもその漫画で本編の掘り下げとかやってくるから見逃せないわけよ」
「今回見るのは初代からの世界線なので予備知識はちょっと必要ですけど、逆に知っていればかなりわかりやすい話ですからね」
「リリはこの前配信で『駆動戦士ズァーク』の格闘ゲームを配信でやってたから誘ったわけよ。今回のエピソード1は見てないって言うし」
「家の近くの映画館でやっていなくて。遠出するにはアルバイトとか大変で結局見られなかったんですよ」
「そんな感じで見逃した人も安心!なんと月額550円払うことで配信してるアニメ・映画・ドラマが見放題!そんなナイルプライムを登録しませんか?特にアニメ系の配信は早いから私もオススメだよ」
「いきなり案件配信みたいになりましたねー」
「案件待ってます!」
かなり貪欲なことを言っている。今回やる配信のためにナイルプライムを運営している会社に事務所が許可を取っているから企業は今日配信をすることを知っているけど、だからって配信を見ているとは限らない。実際の映像は載せられないから画面はハピハピ先輩の雑談ホームだ。
女性の部屋だけど、多種多様な銃が飾られているので色っぽさとかはない。そこに狸である自分の立ち絵があるのは的というか獲物みたいに見える。
「僕の配信で誘ってくれたのならジョン先輩も誘えば良かったのでは?」
「あー、あいつはダメ。ジョンは格ゲーが好きなだけで『ズァーク』一切見たことないんだぜ?ダメダメ」
「ああ、そういうタイプなんですね。ジョン先輩って」
「というわけで事前情報がないと見ても厳しいと思って、知識のあるリリを呼んだわけ。まあ、視聴者の中にはこのシリーズを知らない人もいると思うので、ちょっとダイジェストで説明しようと思ってスライドを用意しといた。リリも適宜コメントして」
「了解です」
白い背景にパワーポイントの資料が現れる。基本設定を話そうということでハピハピ先輩が作ってくれた資料だ。
「『駆動戦士ズァーク』は簡単に言うと人型ロボットに乗って地球と宇宙で戦うSFものよ。初代は地球側が主人公陣営で世界統一連合って呼ばれてる組織に所属させられる民間人を軸に話が展開されてるね。で、その相手は宇宙のコロニーとかに住んでいる人たちの集合体であるガウルって同盟軍。この戦争が描かれてるの」
「世界統一連合は宇宙も支配しようとするんですけど、重税でコロニー側がバテちゃって。このままじゃ奴隷だって思ってコロニーはほとんどが同盟を組んでガウルを成立。地球からの独立を宣言して戦争になります。初代ではその戦争に巻き込まれた月生まれの少年が主人公です」
宇宙の中でも月だけは世界統一連合のもので、地球側からすれば唯一の宇宙の前線基地だった。ここを初戦で落とそうとしたガウルの襲撃に巻き込まれた主人公がガウルへ復讐しようとするのがあらすじ。
詳しくは本編を見てね、だ。でも四十年以上前の作品なのでアニメとしてもかなり古いし、長いので全部見るのは厳しかったりする。アニメサイトで一気見以外だと今はDVDとかを買い集めないといけないからそこまで強くは言えない。
「この初代での戦争は世界統一連合が勝ちます。世界を支配してただけあって物量が凄くてね。最初はガウル側が有利だったんだけど、コロニー側も皆遠くにいて協力できなかったり、仲間割れしたりで負けちゃって。ガウルの反乱は主人公とズァークの活躍も大きかったね」
「今でも全作品通して最強パイロットは初代主人公のツカサだと言われるくらいです。局所戦での活躍がエグくて戦局を一変させました。この結果からズァークが統一連合の象徴になってフラッグシップ機として開発されていきます」
「ズァークの名前が重くなって、中途半端な性能の機体じゃズァークを名乗れなくなるんだよね」
スピンオフとかでも初代の時間軸ではあまりズァークが出てこない。その代わりスポンサーに言われたのか外伝ではかなりの数のズァークが出てくる。最近の外伝はラスボスもズァークだったりするのでズァークのバーゲンセールが起きている。
俺としてはズァーク以外の機体も好きだからズァーク以外のカッコイイ機体を出してほしい。
「一応終戦になって色々と条約が結ばれるんだけど、それでもガウル側は諦められなくて。何度も戦争をします。それだけ統一連合が課す税金が酷かったってことだけど。今回見るHEまでにアニメ作品は四つあります。まあ、その後の話もいくつもあるけどね」
「この独立戦争は本当にずっとやっています。話し合いでどうにかしようとした時期もあるんですが、色々問題が出たり、統一連合が腐敗して対立の結果を作ったりと。そういう世界です」
「じゃあここからは今作の登場人物をさらっと説明していくね。誰がどういう立ち位置かってわかれば話も理解しやすいだろうし。公式サイトからキャラ絵などは引用してます」
次のスライドに切り替わって、公式サイトに貼られているあらすじをそのまま見せた。
最新作ながら今までの作品の間の話をやるというのはかなり挑戦的だ。そう言われていたけど小説の段階で結構面白いから困る。期待感が凄く上がって今から映像を見るのが楽しみだ。
「今作は初代から十七年経った世界だね。ガウルへの鎮圧活動の激化を抗議するためにヒロインのマーシャが地球へ向かうんだけど、戦争がしたいガウルの過激派やそもそもの統一連合に邪魔されて地球へ向かうことも困難。身内も信用できないためにマーシャは傭兵を雇うことにします。それが主人公のフレン」
「フレンは弱冠十七歳ですが、傭兵として四年以上活動してる凄腕です。そしてズァークを何故か持っているという謎の経歴で、何で統一連合所属でもないのにズァークを持っているのかと疑問を持たれます。ズァークは連合以外が持っているとは考えられませんからね」
主人公とヒロインの一枚絵を見せる。主人公は十六歳で、ヒロインは二十五という結構な年齢差があるのが特徴だ。ヒロインもまだ若いのにガウルの代表議員に選ばれるくらいの才女なのだが、若すぎて基盤が少なく頼れる相手があまりいない。
そのため金銭によって傭兵のフレンを呼び出すのだが、その呼び出した場所で統一連合とガウルの戦闘が勃発して二人とも巻き込まれる形になる。
「一応この作品の少し前の年代を描いた作品で大きな争いは多くないって話だったんだよ。三十年先を描いた作品で語られているのはこの三十年で二回だけって言われていて、今作はその一回だったんじゃないかって期待されているの。実際小説版ではかなり戦場が広くなっていて、ただ交渉へ行く話がどうしてこうなった感が凄くて。風呂敷を広げまくってるんだよ」
「現在8巻ほど小説版は出ています。電子版もあるので今回気になったら是非」
原作も紹介して、雑に人物紹介をして、最後の説明として機体説明をする。
主人公機。ズァーク・イプシロン。初代のシリーズではほとんどの機体がトリコロールになるズァークなのにこのイプシロンは青が一番濃い。全体のシルエットとしては初代の主人公が最後に乗った機体に酷似している。特殊な人間にしか使えないグングニールという遠隔操作できるビーム兵器が搭載されていた。
このグングニールは特殊な才能がある人間しか使えない。フレンはこれを使える才能があった。
武装はグングニール以外はかなりシンプルだ。ビームライフル2丁にビームサーベル。それに実弾のマシンガン。これだけ。
他のズァークのように変形したり、超巨大なビーム砲を持っていたりしない。ズァークでグングニールを持っているのが少数なのでそういう意味では珍しいんだけど、初代主人公が初めてグングニールを装備したズァークに乗っていたために凄インパクトがあるわけでもない。
まあ、これには理由があるんだけど。
「イプシロンって実は統一暦99年製らしいんだよね。今作は103年だから4年も前の機体を使ってるっていう、結構貧乏性なところがあるかな。技術開発がすごくて4年前の機体なんて旧式って蔑まれるから」
「グングニールは強力なんですけど、それだけで戦うのは厳しいです。彼は傭兵なのでずっと戦っているわけではないために旧式でも何とかなったのかもしれません」
「リリも映像見たらビックリするよ?これは傭兵として熟練の戦士だって納得するから」
「小説でもかなり凄い表現がされていましたけど、あれがそのまま映像になってるってことですか?」
「そうそう。ガイダンスはこんなもんでいいかな?じゃあ総員、飲み物と摘むものを用意するように。映像を見ながら私とリリで適当にコメントしながら見ていくから」
飲み物の準備はもうしてある。摘むものは話すから用意していない。
リスナーが準備をしている間に俺も動画サイトで再生する準備をする。同時視聴なためにコメントを見て準備ができるのを待つ。
俺はテレビで動画サイトの用意をして配信の音声を載せているモニターにつけているイヤホンを片耳に、動画サイトの方と繋いでいるテレビに繋いだ延長コードをつけたイヤホンをもう片耳につけて準備完了。
「コメントで見た感じ、皆準備万端っぽいね。じゃあ5カウントで再生するよ。……5、4、3、2、1、スタート!」
ハピハピ先輩のコールに合わせて動画を再生させる。
ヒロインがガウルの代表議員によるリモート会議をしている場所からストーリーが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます