第13話 25周年記念カード開封

 それからサムネを作っていただいたとスタッフさんから連絡があったようでリリ君が送ってもらったサムネで配信告知をしていた。緊急スタジオコラボと題打って、ニコニコのわたしとリリ君の立ち絵の真ん中にウィザーズ&モンスターズのカードの背面を真ん中に置いてあるサムネイルだ。


 告知をしたためにカラオケも終わりにしてカードショップに向かおうとして会計をしたら割り勘にすることをリリ君が譲らなかった。わたしはご飯も食べた分会計に上乗せされたのにリリ君としてはカラオケを誘ったのが自分だからと会計前で揉めてしまったので割り勘で折れた。恥ずかしかったし。


 SNSで告知してカードショップに向かったら夏希ちゃんから電話がかかってきた。なんだろうと思って出てみたら開口一番でこんなことを言われた。


「エリー、元気になったの⁉︎っていうか二人でコラボなんて聞いてないんだけど!あたしも行っていい⁉︎」


「心配かけてごめんね、夏希ちゃん。19時からスタジオだけど、間に合う?」


「もう学校終わったからね。電車で向かえばすぐだよ」


「うん。じゃあ事務所に集合ね。スタッフさんとリリ君には伝えておくよ」


「お願い。……うん!エリー、元気になったみたいで良かった!声からして元気だよ」


「そう?……声に出てる?」


「声優オタクのあたしが言うんだから間違いないよ。後でその辺り根掘り葉掘り聞かせてもらうからねっ!じゃあまた後で」


 それだけ言って夏希ちゃんは電話を切ってしまった。これから電車に乗るからだろう。


 隣にいたリリ君にも伝えて、スタッフさんにも電話をする。もう一人追加ですと。


 告知をしたからかわたしのSNSにリスナーからのメッセージや先輩方からの心配する言葉もいくつかもらってしまった。先輩方のは裏でしか見えない言葉だから杞憂民が湧くこともなく。返信をしているうちにカードショップに着いていた。


 結構大きなお店で、二フロアあるみたい。個人店舗なんてこじんまりとしている印象があったけど、よく見たら都内だけでも結構な店舗を出している有名店だった。カードショップ事情はよくわからないから、このお店がどんなものなのかわからない。


 夕方になる前なのに結構お客さんがいた。今日は平日なのにって思ったけど、大人だと平日がお休みの人もいるもんね。色々な人がケースの前でカードを眺めている。ケースの中にはカードが一枚ずつ並べられていて値札が透明なフィルムに貼られていた。


「結構広いんだね」


「そうですね。カードゲームもたくさん種類がありますし、後は対戦ができるバトルスペースが隣接されているので結構広いですよ」


「ああ、カードゲームだもんね。戦う場所が必要なんだ」


「たまに店舗が開く大会とかもありますよ。公式から依頼されていたり、店舗で賞品を用意していたり」


 そんなカードショップの話を聞きながら新品コーナーに行こうとすると結構な人がわたしとリリ君を見てくる。なんと言うか、男性ばかりだ。女性客なんて一割もいない気がする。店員さんには女性の方もいるけど、やっぱりカードゲームをプレイしてるのはほとんど男性なんだなって実感した。


「リリ君。わたし浮いてない?」


「女性競技プレイヤーは少ないですからね。コレクターなら結構いるんですが、カードショップまで足を運ぶ人は稀です。競技プレイヤーだともっと減りますね。公式大会だと男性ばかりです。有名な上位入賞者はマドンナとかって呼ばれて重宝されてますよ」


「それはウィザーズ&モンスターズに限らずほとんどのカードゲームでそうなの?」


「いえ、このポケットクリーチャーのカードは女性のプレイヤーも多いですよ。ゲームやアニメで人気のアレです」


「ポケクリだ。へー、カードもあるんだね。アニメは見てたしゲームも昔はやってたよ。リリ君は?」


「子供の時だけですね。最近はご無沙汰です」


 子供から大人まで大人気のゲームを基にしたカードゲームがあった。クリーチャーと呼ばれる可愛い生き物を捕まえるゲームで、それこそわたしが産まれる前から人気のタイトルだ。


 そのカードがあるって驚きながらショーケースの中を見て行くと、すっごく光ったカードに驚きの値段が記されていた。


「り、リリ君?なんかカード一枚に15万円とかって書いてあるんだけど……?」


「あー、それ多分最新弾の一番レアなやつです。最近ポケクリのカードって高いんですよ。現行カードでそこまで高いのはカードゲームの中でも珍しいですね。普通は昔のカードの方がもう手に入れられなくて希少なので値が上がりやすいんですけど、記念品でもないカードでそこまで高騰してるのは俺としてもビックリです」


「へ〜……。ウィザーズ&モンスターズはお金がかからない?」


「集め始めちゃうと際限がないですね。ただ遊ぶだけならデッキは一万円くらいで作れますよ。もしくは構築済みデッキを三つ買えばある程度は戦えます」


「構築済みデッキ?」


「公式が販売している、結構形になったデッキです。これを三つ買った人が全日本大会でベスト四に入るくらい良いカードが入ってるんですよ」


 構築済みデッキなら一つ1500円しないくらいなので5000円もあれば遊べるとか。それならゲームソフト一本分だし、趣味としてはそこまで高くない気がする。


 買うわけじゃないけどショーケースを見ているとやっぱり一枚一枚が高い。光ってるから多分レアなんだろうなって思うけど、千円単位のカードばかりだ。これでデッキを作ったら5万円くらいしそう。


 カードゲームはお金がかかるって聞くけど、カードショップのこのお値段を見ちゃうとそれもあながち間違いじゃなさそう。


 新品コーナーに着くと、リリ君は買うものを決めているようですぐに商品を取っていく。手に取ったのはカードと透明なフィルムみたいな奴。


「リリ君、その透明なのって?」


「カードを保護するスリーブって呼ばれるものです。そのままで持っているとカードが傷んじゃうので。傷があるよりは綺麗な状態にしておきたいじゃないですか」


「それもそっか」


 リリ君はそのままレジでお会計をする。最新弾を1BOXとスリーブを2つ。実はこの最新弾は人気で店頭販売で手に入れられたのはラッキーだと後で知った。領収書をもらいつつ、買い物は終わったのでそのままカードショップをちょっとだけ回る。


 ショーケースにあるレアリティの高いものや、レアリティが高くないために籠に入れられているノーマルカード。後はレアだけどそこまで高くないカードはファイルにプリントされた状態で置いてあって、レジで番号を伝えてもらうようなものもあった。


 それと福袋じゃないけどお店独自のセット商品だったり、お店が作った構築デッキ。それに自動販売機に入ったガチャとかもあった。当たりがいくつか入っているけど、それ以外は在庫のあまりを入れているみたい。ガチャはカードそのものが当たったり、公式販売されているカードボックスやサプライと呼ばれるゲームに使う付属品が当たるものまで。


 一通り巡ってみての感想は。


「知らない世界って楽しいね。バトルをしている人たちは楽しそうだったり、ショーケースの前で財布やスマホとにらめっこしてる人とかもいて、みんなカードが好きなんだってわかって面白かったかも」


「そう言ってくれると助かります。配信ではこのカード可愛いとか、カッコいいとか、それくらいの気概で良いので」


 事務所に戻って配信の準備をする。スタッフさんは手袋とハサミの準備を、わたしとリリ君は配信用のテーブルの準備や椅子や飲み物を用意して配信を始められるようにして行く。カメラさんが買ってきたカードBOXをブツ撮りしたりして後は時間通り配信するだけになった。


 台本とか要らないのかなと思ったけど、その辺りはリリ君がさらっと箇条書きした紙だけ用意してそれで終わり。カードの情報だけを書いておいて、後は好きに開封するだけだとか。


 配信の一時間前になって、最後の一人がやってきた。


「お疲れ様です!間に合って良かった〜!あ、エリー!久しぶり!」


「わわっ」


 元気よく入ってきた夏希ちゃんが一直線にわたしに突っ込んできて抱きついてくる。そのあまりの勢いにわたしは三歩ほど後ろに下がってしまった。さすが高校生。元気が有り余ってる。


 リリ君は無視されてちょっと可哀想。主役はリリ君のはずなのに。


「うん、元気そう!顔色も問題なさそう!……無理はしてないよね?」


「してないしてない。ちょっと前はキツかったけど、今は大丈夫」


「ふうん?リリちゃん、今日の突発コラボといい何かしたの?」


「一緒にカラオケに行っただけだよ」


「えー!デートしてたのっ⁉︎もしかしてあたしってお邪魔虫⁉︎」


「デートじゃないからっ!ご飯ついでに時間潰してただけ!」


 リリ君がぼかしたのに、高校生の夏希ちゃんからしたら二人でカラオケに行ったことはデートになるらしい。


 いや、わたしも事務所で誘われた時は舞い上がったし、リリ君は実際にデートって言って連れて行かれたし。


 内容としてはメンタルヘルスだからデートとしての意味合いは薄いはず。


「そうなんですよ、水瀬さん。絹田君が事務所で熱烈に霜月さんを誘っていてね」


「やっぱり!もう、そうならそう言ってくれれば良いのに〜」


「ちょっとスタッフさん⁉︎あなたたちは良い大人なんだからリリ君が連れ出してくれた意味わかってるでしょ⁉︎」


 スタッフさんがノリよく夏希ちゃんに乗っかる。ヒューヒューと口笛を吹く人までいる始末。


 イジられているのはわかっているものの、顔が赤くなるのが止められない。恥ずかしいというか、デートで舞い上がっていたのが事実だからというか、もうっ!


 リリ君は気にしていないのか、表情も変えずに見守っているだけ。そこはわたしを擁護するところなんじゃないかな!


「あはは、ごめんごめん。リリちゃんがエリーを励ましてくれたんでしょ?あたしのお願い聞いてくれたのはわかってるから。でもそんなに大声出せるくらい元気になってくれて良かったよ。人狼の後のエリー、ホントに変だったもん」


「それは心配かけちゃってごめん……」


「リリちゃん、でもどうやってエリーを元気にしたの?やっぱりデートでエスコートしたとか?」


「いや?普通に歌歌って、カードショップを案内しただけだよ?」


「実は無自覚のうちに口説いていたり?」


「……口説くような言葉は言ってないはず」


「エリー、キュンってした?」


「……ノーコメントで!」


「それ、ほぼ自白してるようなものだよ?」


 え?何で皆の目が生暖かくなってるの?リリ君も何でわたしを残念そうな目で見てるの……?


 別にリリ君はわたしのこと口説いてないし、キュンとはしたけどそれは答えるのがちょっと嫌でノーコメントって言ったのに。


 ノーコメントって濁すための最強の言葉じゃないの?


 三人が集まったところで段取りを打ち合わせて、割とすぐに配信時間になった。


「皆さん、こんばんは。今日はスタジオから失礼します。絹田狸々です。今日は突発コラボということでウィザーズ&モンスターズの新弾BOXを開封していきます。相方はこちら」


「みんな〜、こんばんは。霜月エリサでーす。ウィザーズ&モンスターズはミリしらですけど、可愛いカードがたくさん出るということで来ました」


「そしてもう一人、サプライズゲストがいます。どーぞ」


「こんばんちゃー!水瀬夏希でっす!二人だけで楽しそうだったんでお邪魔しにきました!FOR初めてのオフコラボだよ!」


「ああ、そっか。これが初めてのオフコラボだね。突発コラボじゃなくてちゃんとした企画でやれば良かった」


「まあまあ、そう言わずに。私が突撃してきただけだから。今度またちゃんとオフコラボしようよ」


 配信画面に三人の立ち絵が映る。真ん中はスタジオの黒いテーブルクロスがかけられたテーブルが映っていて、そこにはウィザーズ&モンスターズのBOXが二つ置いてある。


「今日の企画の説明をしますね。最近発売されたウィザーズ&モンスターズの25周年を記念して作られた記念BOXを三人で開封していきます。二人で剥く予定だったので今は二つしか映っていませんが、スタッフさんお願いします」


 リリ君が説明すると白い手袋をつけたスタッフさんが真ん中に一つBOXを追加する。


 それを見てコメント欄が活発になった。


『3BOX!』

『ええー……。1BOX8000円くらいするのに』

『25周年だからって足元みやがって!でも悔しい!買っちゃう!(ビクンビクン)』

『まあ、コレクターなら欲しいよな。だって全部スーパーレア以上なんだぜ?』

『絵違いもいくつかあるからな。それが当たれば爆アド』


「うわあ、みんな大好きなんだね。このカードゲーム。あ、私とエリーはほとんど知らないからミリしらです!」


「でもカードには興味があったから、楽しみにしてきたよ。配信の前にリリ君に軽く説明してもらったんだ。緑がマジックでピンクがトラップ、それ以外はモンスターだって」


 逆に言うとそれくらいしか知らない。それでも可愛いイラストが多いから見るだけで楽しそう。


 今日は配信として一人1BOX開けて、一番価値のあるカードを引いた人が勝ちという勝負形式になってる。わたしたちは価値が全然わからないから説明は全部リリ君任せだ。


「じゃあ誰から開けていきます?20パック入っているので10パックずつで交代しても良いですけど」


「私から引きたーい!リリちゃん、本当にカードはもらっちゃって良いの?」


「良いよ。じゃあ10パックで交代しましょう。スタッフさん、水瀬さんからでお願いします」


 ハサミを使って1パックずつ剥いていく。今回は記念BOXで4枚しか入っていないみたい。他のパックだと5枚入ってるみたい。入っているのは全部カードの絵が光っているか、名前が金色だったり銀色だったりする。後は絵柄がなんかキラキラしているものもあって、それがレアリティが高いみたい。


 今回は新規カードはないみたいで、昔からの人気カードしか入ってないみたい。アニメの主人公や仲間が使っていたカードだからかリリ君のテンションが高かった。


 そして8パック目。水瀬ちゃんが当たりを引いた。


「おお!それ当たりです。効果が書いてあるところに25周年のロゴが書いてあるでしょ?それが25周年の記念に作られたレアリティで、物によるけど大体1枚で5千円くらいすると思う。このBOXには2枚入ってるみたいだね」


「これで⁉︎確かにすっごくカッコいいけど!アンドロメダ・ドラゴン?攻撃力2800って強いの?」


「それは攻撃力よりも効果が強いんだよ。出した時に相手のモンスターの攻撃力を半分にするんだ」


「ええっ。じゃあ5600以上のモンスターじゃないと倒されちゃうの?」


「突破方法はいくつかあるけど、簡単な話がそう。5個目のアニメの主人公が使ってたエースカードだね。人気もあるよ」


『今相場を見てきたら買取12000って書いてあった』

『元取れたよ!みなちぇ!』


 黒と金色のドラゴンはすっごくレアみたい。まさかそれ1枚でBOXの値段より高いなんて。


 カード市場が凄いのか。これって買い得なんじゃないかな。


 夏希ちゃんはレアはそんな感じで、次はわたしの番になった。


 4パック目だろうか。そこで出てきたウルトラレアのモンスターカードが気になった。


世界樹の守護者フレスト・オーダーフィロ……?どこかで見た絵柄だけど、誰だろう?」


「結構有名なイラストレーターさんが描いてますからね。ちょっと待ってください。ソラン・ソニック先生デザインみたいです」


「え?」


 ソラン・ソニック先生。わたしがよく知る人だ。というか前職で一番担当をさせてもらったイラストレーターさん。わたしがモデリングをしていたソシャゲのメインイラストレーターの一人だ。だから見覚えがあったんだ。


 実際に電話でもやり取りをしたことがあるのでどんな人かも知っている。キャラ愛が凄い方だ。


「エリー、知ってる人?」


「うん。男女どっちとも美麗なキャラで仕上げる人だよ。ソシャゲ以外にも仕事してるんだ。最近はあるソシャゲでかかり切りだって聞いたから他に仕事してるみたいでビックリしちゃった」


世界樹の守護者フレスト・オーダーってカテゴリーのカードは全部ソラン先生がイラストレーターをしてますね。絵も綺麗ですし、強いので人気のテーマですよ」


「ソラン先生、今度画集出すみたいだよ!ほら」


 夏希ちゃんに見せてもらった画集の表紙にはわたしがモデリングをしたキャラクターも掲載されていた。ああ、ソラン先生の中で息づくようなキャラをわたしは任されていたんだ。


 そう思うと、前の仕事も悪くなかったのかもしれない。ううん、魔女が来る前までは本当に楽しかった。


 関われたことが幸せだったんだと改めて噛み締めているとコメントがまた流れ始める。


『ソラン先生の少年少女、儚くて好き』

『名前は出さないけど、あるソシャゲのキャラたちもすっげえ好きだった。キャラ再現を3Dでしっかりできてたし』

『エリーがソラン先生のファンで同志だとわかって嬉しいぜ!』


「うんうん、そうなの。ソラン先生のキャラって線が細いんだけど、目が結構力強くて。……好きだなぁ」


『俺もエリーが好きだぜ!』

『しっとりしてる感じがベネ』

『なんや?告白大会か?』

『エリサちゃん、そういうしっとりしてる感じは新鮮。好き』

『元気っ子のみなちぇと対比になってて良いじゃん』


 わたしに好きと言ったり夏希ちゃんに可愛いと言ったり、リリ君が羨ましがられたり、爆発しろってコメントが流れたり。


 五万人という数字は知っていたけど、わたしのコメント欄でわたしに好きと言ってくれる人は少ない。スパチャで言ってくれる人はいても、コメント欄でわたしと夏希ちゃんを二分するようなことになるのは初めて見る。


 ああ、そっか。わたしはリスナーを信じずにSNSや掲示板の少ないコメントを鵜呑みにして、メンタルを崩して。


 うん。本当にわたしはバカだったと思う。


 開封は進み、わたしは10パック開けた段階で最高レアリティは出なかった。後半で出るみたい。


 次はリリ君の番で、逆にリリ君は最初の10パックで最高レアリティが2枚とも出てしまった。絵違いでもなく結構有名なカードが出たためにBOXの元は余裕で取れたらしい。


 そして二周目。夏希ちゃんが15パック目で当たりを引いた。


「あ、これじゃない?」


「ああっ!水瀬さん、これ絵違い!」


「え?絵違い?マズイやつ⁉︎」


「マズイ、かも?これ昔から人気のヒロインカードだから……」


『200000キター!』

『初動20万だったけど、今まだ値上がりしてるぞ。なんたって世界に1000枚しかないカードだから』

『すぐにスリーブ入れて!』

『え?これ1000枚しかないの?』

『やっば』


 軽装ながら可愛らしい女騎士、『楽園妖精リラ』という名前のカード。これがたった1000枚しかないなんて。


 日本版がって話なんだろうけど、プレイヤーの数を考えるとかなり少ないと思う。高校の三学年分しか持ってる人がないと考えると、全国で考えたらよっぽど少ないはず。


 それを当てちゃうなんて。さっきショップで買ったBOXに入ってたんだから買わなかったらこの配信で見ることはできなかった。そういう意味で今日夏希ちゃんが加わって良かったと思った。


 次のわたしの番では『世界樹の守護者フレスト・オーダーナクス』と『世界樹の守護者フレスト・オーダーミナ』のカードが25周年レアで出てきた。同じカテゴリーのカードがこうしてペアで出て来るのは珍しいのだとか。実際リリ君も夏希ちゃんも全く関係ないカードだった。


 このBOXから200種類もカードがあるから、早々揃うことはないみたい。


「結構関連カードが出てきたので、これに構築済みデッキを2つも買えばかなり強いデッキになりますよ」


「へー。これって当たりなの?」


「大当たりですね。世界樹の守護者フレスト・オーダーはラスボスが使っていたカードですけど、カードの背景ストーリーがかなり人気でカード自体も人気です。興味があったらまた教えますね」


「うん。お願い」


 配信をして、終わりにはアプリゲームでカードバトルができるものも出ているので興味を持ったらそれで戦いましょうと話して、今日の配信は終わる。


 コメント欄が荒れたということもなく、むしろ大当たりを引いて話題になって。三人でわいわいするのがただ楽しくて。


 午前中まであんな憂鬱だったのが嘘みたい。


「二人とも、ありがとう。……配信って楽しいね。それに色んな人と繋がれるのって面白いや。顔も知らないのに同じ内容で話せるんだから」


「エリー、辞めたりしない?」


「しないしない。そこまで心配かけちゃったか。一番歳上なのにごめんね?」


「辛かったらすぐ言ってよ!その代わりあたしもやばかったらすぐ言うから!リリちゃんもだからね!」


「リリ君もごめんね?宇宙人狼で庇ってくれたみたいで……」


「理不尽なことが許せなかっただけですよ。あれで霜月さんが少しでも楽になったなら良かったです」


 真顔でそう言うリリ君の顔を見たくなくて。


 夏希ちゃんを引っ張ってリリ君の耳に入らない距離まで離れた。


「リリ君ってやっぱりおかしくない?」


「多分あれ、本当にただの善意だよエリー。無意識。女子としてはかなり複雑だけど、あのムーブをリリちゃんはやっちゃダメだよ。エリー、イチコロだったでしょ」


「あんなイケメンに過保護ムーブされて落ちないわけないでしょ⁉︎恋愛経験値なんて全くないんだから!」


「だよねぇ。リリちゃんも罪深いなぁ」


 そんな女子の内緒話も終わって。スタッフさんにもお礼を言って三人でイタリアンに夜ご飯を食べに行くことにした。今度こそ別会計で。二人に心配をかけた申し訳なさと、自分をちゃんと知れたこと。


 今日一日でわたしはようやく霜月エリサをちゃんと名乗れそうだった。


「あ、明後日のバレンタインコラボの告知しないと。コメントの募集もしなくちゃ」


「ん?二人で何かするの?」


「そうそう。エリーと恋愛相談しようと思って。男子厳禁です。リリちゃんは配信も見ちゃダメだからね」


「わかった。見ないよ」


 恋愛相談かぁ。するって言っちゃったし、やらないと。


 多分女の子からのコメントが多いだろうし、わたしがやってもらいたいことを話せばいいよね。


 そう軽い気持ちでいたら理想が高すぎるとか、そんな男子いないよとかコメントをもらった。


 あれぇ?実際にリリ君にやってほしいことややりたいこと、こういう人が良いなって話しただけなのに。配信が終わってから夏希ちゃんには爆笑された。


「り、リリちゃんだってバレないと良いね?ププッ、エリー、あれウチのライバーだったら全員リリちゃんのことだってわかるよ……!」


「え、嘘ぉ!」


「だって困ってたら何も言わずに気付いて欲しいとか、そっと連れ出して欲しいとか!今回リリちゃんが実際にやったことじゃん!それに事務所でエリーをデートに誘ったことはコウスケ先輩とゴートン先輩がライバー用のチャット欄に拡散してたよ?」


「チャット⁉︎そっちは最近全然見てなかった!」


 見てみるとリリ君が熱烈にわたしをデートに誘ったというのが二人の先輩に暴露されていた。リリ君は反応してないし、他の女性の先輩方は面白がってるし。


 鬱状態になってた時に通知オフにしていてそのままだった……!


 恥ずかしいと思いながらも、嫌ではなくて。最近ちょっと平熱が上がったんじゃないかなと思えてしまうような、そんな変化を。


 わたしは快く受け入れられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る