第6話 初コラボ2

 ゲームにおいて高校編が始まる。将来のパートナーになるかもしれない人と出会ってからまたルーレットを回していく。ピンク色のハートマスを踏むとデートができるらしい。そこで好感度を上げて将来的にプロポーズをすれば結婚できるようだ。


 結婚すると相手のお給料が入ってきて、子供が産まれれば祝い金などで相手の財布にダメージを与えられるようでバーン攻撃になるという。その説明を聞いてカードゲームみたいだなと俺は思った。


「さすがゲーム。考え方が現実的じゃなくゲーム的だ」


「子供いっぱい産むと相手にダメージ。自分はお金を巻き上げて幸せいっぱい。成人したら給料マスでお金いっぱい貢いでくれる。子供は産み得なんだよ」


「すっごい発言だー。夏希、絶対切り抜かれるよ」


「今日の内容だったらもうなんでも切り抜かれるんじゃないかな?悪意のある切り抜きは禁止です」


 ルール説明のはずなのにそこだけ聞いたら危うい言葉が多い。こういうものが切り抜かれて俺たちの本配信に誘導してくれるんだから切り抜きをしてくれる切り抜き師の方々を蔑ろにはできない。たまにSNSで切り抜きのことについて感謝をしたりしている。


 切り抜きからファンになってくれたりチャンネル登録をしてくれる。収益化が通っている二人なら配信に来てくれてスパチャをいただけると今後の活動の幅が広がるためにありがたいことだ。


 俺たちだって配信やSNS、事務所からの援助で広報のようなことはしているけど、全てを自分でやるには時間が足りなすぎる。自分以外の人が魅力だと思ってくれたところを積極的にアピールしてくれる。


 しかも切り抜く人によって魅力に思うところが違うわけで。多角的に宣伝してくれるというのは他の人が気付かなかった魅力を見出してくれたり、切り抜いてくれた魅力が好みど真ん中であったりするから、そうしたところからファンを新規開拓してくれたりする。


 水瀬さんのは同期をとにかく語る切り抜きがバズっていたし、霜月さんはサバイバルゲームが得意なためにグロテスクなことには耐性があったのに唐突なホラー要素を怖がっている様子が可愛らしいと話題になっていた。


 二週間近く配信をしているとその人と為りはだいたい見えてくる。ただ、まだたったの二週間だ。新しい側面なんていくらでも出てくるだろう。今回のこのコラボだって三人とも初コラボだから表にできることもたくさんある。それが新しい魅力となってファンが増える。


 そういう循環ができればいいなと思ってマンネリ化しないような配信を心掛けている。


「何でデートマスに止まったらさっきの子以外の女の子とデートしてるの⁉︎」


「リリくんの浮気者〜」


「リリちゃんって種族的に重婚OKなの?」


「OKなはずないでしょ!」


 俺がデートマスに止まったら見知らぬ黒髪の女の子が出てきて、ゲーセンでデートをしていた。出会いイベントなんだろうけど、こんな唐突に知らない人と出会ってデートをするだろうか。


 デートとか、したことないな。


 あと高校生の水瀬さんから重婚というワードが出てきたことにビックリした。いつの時代の話をしているんだか。


「あ、進学か就職を選べるんだ。かしこさをもっと上げたいから大学行こうっと」


「え?進学もルーレットなの?失敗が二つあるね」


「合格率80%って普通そういう意味じゃないから……」


 合格が八、不合格が二つ配置されているルーレット。結局運頼みなのは人生ゲームとして如何なものか。受験で鉛筆を転がすわけじゃないんだし。


 そんな人生の節目になる運命のルーレットを回す水瀬さん。


「やったー!合格だあ!」


「良かったねえ、夏希」


「おめでとう、水瀬さん」


「パパ、ママ!大学受かったよぉ〜!」


「今日はパパの奢りで焼肉行くよー!パパ、良いよね?」


「あれ?これ僕がたかられてる?」


 何故か俺が焼肉を奢る話になっている。二人はSNSや配信でよく同期のことを家族扱いにする。俺のことを兄かパパ扱いにしてネタにしている。俺は肯定も否定もしないまま焼肉を奢るという話だけを嫌だと言うことにしている。このネタを面白いと思ってファンアートを作ってくれる人もいるかもしれない。


 家族設定を嫌う人もいるだろうけど、今は人生ゲームをしているから良いだろう。それに俺側からは積極的に使わなければ二人が使っていてもバランスは取れていると思う。


 話の流れとしてパパ扱いを認めているようなものだけど、完全に言葉にしていなければ決定的な肯定とは言えないだろう。


「あたしはこのセンスを活かしてアイドルやろうかな〜」


「アイドルに必要なのはセンスと体力なんだ。ライブとかを考えたら体力は必要だし、歌とかダンスの上手さはセンスが必要ってことか」


「リリちゃんはどうする?」


「センスと賢さがそれなりだから漫画家になろうかな」


「漫画家。良いねえ」


「僕は天空島を探してある日出会った女の子と一緒に世界の謎を調べる漫画を描くよ」


「それって『ソラソラ』⁉︎パクリはだめだよリリくん!」


「パクリじゃないよ。オマージュオマージュ」


 完全に俺がやっているゲームの『ソラソラ』を漫画にしようとしたら霜月さんに怒られた。


 そもそも俺が売れそうなシナリオを書けるなら脚本家とかになってるんだよな。


 実のところ小遣い稼ぎでショートショートの台本は何個か書いていたりする。俳優ってかなりたくさんの雑用ができる。証明に音響関係、小道具に大道具、脚本やメイクなど裏方の仕事はいくらでもあった。役者として目が出なかったらその辺りの裏方での仕事で才能があればそちらの道に進む人もいる。


 俺は脚本には才能がなかったものの、音響には割と才能があったらしい。ちょっとした音の作成とかを任せてもらい劇で使ってもらったことも多い。SEは著作権とかはないけど、メロディーには著作権が発生するので使われると使用料が払われたりする。


 カラオケにあるわけじゃないから莫大な印税が入るわけじゃないけど、ちょっとしたお小遣いくらいにはなっている。良いよね、不労所得。


「霜月さんも『ソラソラ』知ってるの?」


「知ってるよ。というかやってるから」


「ゲームなの?面白い?」


「ストーリーがしっかりしてるから面白いよ。アクションゲームだからちょっとした操作は必要だけど、ストーリー自体は難易度も高くないから進めやすいし。イベントは結構難しいけどね」


「そうそう〜。カッコイイキャラも可愛いキャラも多いんだよー。全員3Dだから見ていて楽しいし」


 霜月さんと『ソラソラ』の話を続けていると水瀬さんが興味を持ったようだ。それで今度プレイしてみようかなという話も聞けた。


 人生ゲームも進んで水瀬さんが大学を卒業した頃、俺と霜月さんは就職していたのでそこそこ稼ぎ始めていた。ステータスを鍛えるなら大学に行っていた方が良いだろうけど、早目に稼ぎたいなら高卒が良いのかもしれない。


 水瀬さんは大学を卒業した後、そのかしこさを活かして医者になっていた。医者はステータスが高ければ高収入を得られて安定しているらしい。他の職業だとルーレットによる職業のランクアップイベントがあるけど医者のような一部の職業はステータスだけで給料が良くなるようだ。


 これはかしこさ依存の職業だと多いらしい。だからこそ狙ったようだ。


 今の所お金でトップなのは霜月さんだ。地下アイドルを超えて地上波に出るようなアイドルになったことでお給料で1000万を超えていた。


 そして俺は。


「あ」


「ああ、トラブルマス⁉︎」


「それは本当にヤバイよリリちゃん!色々とマズすぎるマスだって!」


「え?腱鞘炎?手首を負傷して筆を折る?漫画家引退⁉︎まだ読み切り漫画家だったのに⁉︎」


「フリーランスにwリリくん無職www」


「まだ大人時代始まったばかりなのに……!」


 トラブルマスってこんなまずいのか。せっかく就職したのに無職になってしまった。早く就職しないと所持金に差が開きすぎる……。


「これ、女の子と結婚して養ってもらうしかないのでは?」


「クズ発言だ!ヒモ発言だ!」


「夏希、こういう発言する男の子ってどう?」


「私、ダメンズは無理〜。おねショタかスパダリが性癖だからヒモとニートはダメ」


「あたしも無職はなぁ。あたしは生活力ある人が好きだから収入も少しはないとイヤ。リリくん、男の子として頑張れ」


「一生フリーランスは勝てないからさっさと就職するよ……」


 人生ゲームって怖いな。何でそんな簡単に離職するんだ。


 そう思っていた次のターン。止まったマスで就職イベントがあった。


「え?腱鞘炎になったのに野球選手のプロテスト受けるとかゲームのリリ大丈夫……?」


「運動のステータスそんなに高くないよね……?何で野球選手?」


「そのあたりはランダムっぽいよ。私も前プレイしたらセンスないのにアイドルになろうとしたから」


 というわけでプロ野球選手になったゲームの中のリリ。運動Eだから最低基準しかないはずなのにプロ野球選手になれたのがおかしいと思う。二軍選手として活躍できるのだろうか。


 そこからそこまで大きなイベントがなかったのでまた雑談に戻る。


「そういえばリリちゃん。私が登校中に配信を見たんだけど、なんか作曲してるの?」


「そうだね。作曲アプリがあるからそれを入れてパソコンで作ってるよ。適当にリズム作って今は音を合わせてるところ」


「凄いね。曲が作れるなんて」


「アプリの使い方が分かれば作れるものだよ。あとは思い付いたメロディを音に当てるだけ。慣れれば曲は作れるけど……問題があってね」


「問題?」


 そう、大きすぎる問題だ。


 俺は作曲はできてもそれ以外が酷いわけで。


「まず僕が音痴なんだよね」


「うーん……。リリくんてそんなに音痴かな?」


「高音は出てないけど、それ以外の部分は良かったよ?あの『猫になりたくて』」


「いやあ、歌うのもそうなんだけど、楽器の演奏もほとんどダメでね。なのに作曲をやってるのがなかなかおかしいんだけど、もう一つ大きな問題があるんだよ。──作詞ができない」


「「うん?」」


 作詞ができないことを伝えると二人はもちろん、コメント欄も混乱していた。


 作詞って日本語が使えれば誰でもできるんじゃない?と思われがちだけど、そんなことはなくて。


「メロディに合う歌詞とか、韻の踏み方とか結構難しくてね。僕が作ろうとすると何だか変な感じがしてしっくりこないんだよ。だから『お客さん』から歌詞募集しようかなって思ってる」


「それは企画としてアリかもね」


「リリちゃんの曲っていっぱいあるの?」


「あるよ。今も新しい曲を作ってるし」


「ならそれに私たちが歌詞をつけようよ!それも楽しそうじゃない⁉︎」


 そんな提案を水瀬さんがする。


 俺としては別にいいかなとしか思わない。死蔵するくらいなら歌詞を書いて二人が歌ってもいいんだから。


「じゃあ今度曲を共有するよ。歌詞つけたかったらつけて」


「……それでいいの?リリくんの大切な作品でしょ?」


「大切だけど、ただのメロディだと配信画面でしか使えないからね。だったら二人が歌詞をつけて歌ってみたを出してもいいんじゃない?」


「それ、歌ってみたじゃなくてオリジナルだよ?」


「あ、そっか。じゃあ二人の初オリジナル曲は僕の曲ってことで」


「三人で歌おうよ〜」


「そうそう!リリくんだけ仲間はずれはなしね!」


「…………恥ずかしい曲じゃなかったら、ね」


「言質とった!」


 水瀬さんがいつものように明るく決定事項を言う。


 けど俺はこの会話の中で気になったのはどこか浮かない様子の・・・・・・・・・・霜月さん・・・・だ。何か言い澱んでいたし、表情も固まっていたように見える。


 何が引っかかったんだ?俺が曲を提供すること?何故?


 わからないままながら、霜月さんが言及する様子がなかったのでそのまま進める。水瀬さんはキャリアアップをしつつ結婚をした。霜月さんは結婚したら引退するアイドルが職業だったために結婚しないまま進めていく。


 そして俺は。


「え〜……?怪我二、失敗四、成功三、大成功一?これって運動がEしかないから?」


「成功するしかないよ、リリちゃん!」


「あ、大成功」


『クリティカルマンさすがぁ!』

『普通一割引く?』


 何故か一軍昇格試験で一割を引き当ててキャリアアップして、そのついでにお金が増えたから結婚もして。


 そのまま一軍でも運で活躍してオールスター選出もされて、何故かメジャーリーグにも進出してしまった。


「なぁに?これ」


「運動能力Cでメジャーリーガーになっちゃったの?」


「なってるのがおかしいよね?これ」


『運だけで生きてるリリ』

『リリはホントおかしい。こんなの再走できんわ』

『なのに所持金低いのはなんなん?』

『これだけマイナスマス踏んでるのにステータスが下がらないからだろうな』

『こいつ、腱鞘炎で漫画家辞めてるんだぜ……?』


 よくわからない人生を送っている。運の浮き沈みが酷すぎて中々上位に行けなかった。


 その間俺と霜月さんは水瀬さんがする提案を全肯定。これやりたい、いいねえ。食事行こうよ、いいねえ。


 そんなことばかり。


 そうして四時間を超える放送で俺たちの順位が決まる。一位は独身アイドルを貫いた霜月さんが。二位は運が狂ってた俺が。ビリは最後の逆転ドリーム島で所持金がマイナスになった名医、水瀬さん。


 最後の方なんて二人とリスナーで水瀬さんを応援していた。けど借金を返すのが精一杯で巻き返しはできなかった。俺もドリーム島に行って博打をしたんだけど悪いマスに止まらず完走したためお金が爆増。


 水瀬さんは今回運がなかった。


「ま、負けた……」


「ドリーム島行かなかったら安定して勝てたのかなぁ?」


「どうだろ。結局こういうボードゲームは運勝負だからね……」


「リリちゃんに運勝負を挑んだらダメだってわかったよ……」


 実際俺の運は自覚があるけどおかしい。悪い時は悪いのに良い時はめちゃくちゃ良い。


 三人での最初のコラボとしては悪くなかったんじゃないだろうか。コメント欄を見ても次を望む声が多い。今は予定が決まっていないけど、次もやろうと決めた。三人固定ではなく、二人でもやろうという話も出た。


「じゃあ配信を終わるけど、二人とも何か告知ある?」


「あたしは特に……。あ、アレあるよ。女性先輩方との人狼ゲーム」


「来週開催予定のやつだね。先輩方との初コラボ楽しみー!リリちゃんは?」


「僕は今のところないかな。あ、待って。マネージャーさんから連絡来てるから確認する」


 配信中ってことは知ってるはずなのになんだろう。そう思ってスマホを見ると、驚くことが書いてあった。


 ついでに告知しちゃおう。


「僕のチャンネル、収益化通ったみたい。なので明日の夕方配信で収益化記念配信やります。今決めました」


「おめでとう!」


「やっとかぁ。おめでとう、リリくん。遅かったねえ」


「初配信で燃えちゃったからね。でも一ヶ月以内だから早い方だよ」


 というわけで明日の予定は変更だ。朝配信はいつも通りにやるけど、収益化配信は特別だ。配信者としてこういう記念や登録者何万人突破とかは盛大に祝う風習がある。


 それに乗っかろうというわけだ。まあ、こんなタヌキにそこまでお金を貢ぐ人はいないだろう。水瀬さんや霜月さんのように可愛らしい人に貢ぐのはわかるけど、俺にはそこまでスパチャ爆弾は来ないだろう。


 ヴィクトーリアママはスパチャを送るつもりらしい。無理はしないで欲しいな。

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