刀に魂が宿るお話

桜川由紀

序章

 武器に魂が宿る……そんな逸話が語られた異世界。

 壊れずに斬れる武器にカタナがあった。

 そのカタナは使う者に力を与えた。

 与えられた者は猛者となり、そのカタナを暴力の為に使った。

 まるでカタナの事を一切気遣わない様に……


 そんな相手に立ち塞がる為にと男女二人の勇者が居た。

 勇者二人はカタナを持つ猛者独りと戦った。

 猛者は独りだけというのに2人分のパワーを持っていた。


 二人の勇者も流石のパワーに猛者独りに追い込まれた。

 深手を負い逃げる事も敵わない二人の勇者、眼前の敵をカタナで斬り伏せんと言わんばかりの独りの猛者。


 一人目の勇者に斬り掛かる猛者。

 だがもう一人の勇者が猛者の剣撃を間一髪で防ぐ。

 しかし猛者の重いカタナの一撃は勇者の防御を今かと突破しようとする。

 勇者も黙っては居ない。

 一人の勇者が力を与え、もう一人の勇者がそれを授かり力を振るった。

 猛者の手元から武器を弾けなかったが、ソレでも勇者の勢いは止まらない。

 再び武器をぶつけ合う勇者と猛者。


 しかしこの時、猛者の様子が変わった。

 今までのパワーをこの時突然失ったのだ。

 好機と見た勇者二人は見逃さず力一杯に猛者を倒した。

 倒れた猛者と手放された武器のカタナ。

 この激戦にも関わらず壊れなかったカタナ。


 猛者を倒した二人の勇者はそのカタナを持ち帰る事にした。

 悪用されない様にと生涯、守り通す事を決めた。


 それから十数年の時が経ち……




















「さて、今日も外に出るよユキ!」

 武器である刀にそう言い聞かせながら腰に持ち自分の部屋から出た。

 私は昔、英雄や二人の勇者と言われた両親の元で生活している。

二人とも優しいし体調も気遣ってくれる。そして何より……

「サクラ!今日は二人と稽古の日だよ!」

「ん〜……待ってぇ、まだ眠い」

 私の最高の親友であり姉妹でもあるサクラと一緒に……家族4人全員で出掛ける日だ。

 孤児院から引き取られ両親に育てられたサクラは、物心付いた時からもずっと私と一緒に居てくれてる。

 寝坊癖が抜けていないけど、それでも大切な事に変わりはない。



 サクラの身支度が終わると早速私達は家の外、勇者帝国の街に出た。

 私達の住むこの街は色んな職人さんが住んでいる。

 どんな人なのかって?

「あ、サクラ!ユキさ〜ん!」

 街の出入り口付近に来た私達に明るく話し掛ける女性が居た。

その女性は近くにある鍛冶屋さんの娘さんで、名をサーシャと言う。

「サーシャさん、おはようございます!」

「おはよう、サクラさん。今日もご両親さんと稽古?」

 はい!とサクラが元気良く返事をすると、サーシャはユキの方を見始める。

「ユキさんの持ってる武器……カタナ?は本当に素晴らしいわよね。鍛冶師見習いの私でも凄い一品だなって分かるもん」

「そっそうかな?質が悪くならないってだけで他に取り柄も無いと思うなぁ」

「武器造りの目で言ったらそれ明らかにおかしいからね。だからちょっとだけでも良いから詳しく見せてよ」

「駄目です。家族の約束で誰にも渡しちゃ駄目って言われてるから!」

「そこを何とかぁ……サクラさんからも何か言ってよぉ」

「アハハハ……私もご両親の約束は破れないですから、ごめんなさい」

「う〜ん……じゃあ仕方ないね」

 ユキはカタナを鞘に納め背負い直し、サーシャに別れの挨拶をしてから街の外に向かって歩き出した。

 そのユキ達を見えなくなるまで見ていたサーシャは鍛冶屋の方に戻っていく。


両親の待ち合わせの道すがらで知り合いの錬金術士であるリッカと合流したユキ達。

「あっ!ユキとサクラじゃん!おはよう」

「おはようリッカさん。開店準備ですか?今日も朝からお疲れ様です」

「ウチは錬金術での商売が主だからね。売れるタイミングで売らないと在庫が店一杯に溢れちゃうし。何か買ってってよ」

「じゃあ、飲んだら1日中元気に動き回れる薬は売ってます?今日は両親と稽古があるので」

「なるほど、活力剤ね。在庫は一杯あるから二つ売ってあげる」

「ありがとう!幾らですか?」

「ユキがいつも買ってくれるし、二つで100Gにしてあげるよ」

「良いの?毎度お世話になってるから値上げしたって大丈夫なのに……」

「ウチの錬金術士としての腕を信じて買ってくれてるならそれで十分だよ。だから遠慮しないでウチを信じて頼ってよ」

「うん、リッカさんの腕は信じてるし助かってます。だからこれからもよろしくお願いしますね!」

 薬を購入したユキ達は活力剤を飲みながら街の中を更に進み王宮へとやって来た。


 両親は国王にも認められた勇者でもあり国王の守衛を営む事もある。

だが今回は我が子の為にと時間を作る事にしたみたい。

「おっきたきた!」

「コッチよぉ、ユキ!サクラ!」

 王宮の門の前には既に両親が居り、笑顔で手を振って私達を出迎えた。

サクラが二人に走り寄り、二人と抱き合った。

「父さん、母さん……おはよう!」

「あぁおはよう、ユキ。今日は私達と戦闘訓練の稽古だ。少しでも強くなって貰うぞ?」

「そうよ、ユキ!貴女もサクラも私達に守られるばかりじゃ駄目よ!少しでも戦える様に鍛えないと」

「うん!私は強くなって、父さんも母さんもサクラも守りたい!」

「……分かったわ。なら先ずは私とユキよ、良いわね?」

「はい母さん!」

 そうして家族の稽古が始まる。まずは母さんとの戦闘稽古だ。

 母さんが魔法で氷の弾を飛ばして来る。

ユキは持ってるカタナで切り落としてみせた。

「防御の大切さは以前から伝えてるけど、武器で切り落とすだなんて流石ね。ユキ」

「母さんも、魔法を使う腕が良くなったんじゃない?氷の弾の打ち出し速度、前より速くなってたよ」

「ありがとうユキ、母さん嬉しいわ!もっと強くなれる様に頑張れるわ」

「……じゃあ次は私だね。お母さん宜しくお願いします!」

 そう言いながらサクラが武器を構え、母さんが魔法で氷の弾を打ち出す。

 サクラはそれを構えた武器の峰で盾の要領で防御して凌いで見せる。

「ナイスディフェンス!しっかり防御出来てるわね。防御出来なかった頃を考慮すればサクラも成長してるわ」

「ありがとうございます。お母さん!」

 それからも家族での稽古は続く。

ユキとサクラはお互いの両親に稽古をされ、最初は全く勝てなかったが次第に強くなっていった。













 そんなユキ達の朝の稽古が終わった頃、街の広場が何やら騒がしくなっていた。

「何かあったのかな?」

「さぁ?取り敢えず行ってみよう」

 四人は広場へ向かい様子を見ると……

「大変だ!街近くの城門でウルフの大群が流れ込んで来てる!衛兵や門番は対処してるけど数が多過ぎる!」

「何だって!?」

「くそっ!こんな朝早くから!」

「ユキとサクラは家に戻りなさい!お母さん達は急いで街の人達を非難させるから」

 両親はそう言って、各々の武器を持ち城門の方に向かって行った。

「ユキちゃん、私……」

「うん、分かってる。父さんと母さんだけに任せきりに出来ないよ!私達もウルフを討伐していこう!」

「っ!うん!」

 ユキとサクラは街の広場に現れ始めたウルフの小さな群れを討伐して回った。

 群れが討伐し切り城門の方へ向かった両親の元へと向かうと、そこには他のウルフ以上に大きい親玉のボスウルフが居た。

「こいつは……」

「父さん、母さん!大丈夫!?」

「ユキ!サクラ!どうしてここに!?」

 親玉ウルフは父さんと母さんを威嚇して睨みながら様子を見ている。多分だけど途中から来た私とサクラにも威嚇している……のかな?

「父さん、母さん。コイツは私が相手するね」

「……大丈夫なのユキ?」

「うん、任せてよ母さん!サクラも大丈夫?」

「う、うん!」

 そうして私とサクラはボスウルフと二対一で前に出る。

私は強い。こいつを倒してもっと強くなってみせるんだから!

ボスウルフは私が攻撃する前に吠えた。

「うっ!」

 私が一瞬の咆哮に怯んだ隙にボスウルフは私を丸呑みせんとばかりに口を大きく開けて来た。

 私が防御しようと咄嗟にカタナを出すが、ボスウルフはカタナに噛み付いてきた。

「あっぶなっ!」

 そんな安心も束の間、ボスウルフは刀に噛み付いたまま刀を握り締め続ける私ごと振り回してきた。

「おわあああ!」

「「「ユキちゃん!」」」

 私以外の家族が揃えて声を上げるが、無我夢中だった私は刀を握ってた手を離してしまい勢いで生い茂る草むらに放り投げられた。

 私がカタナから手放された事でボスウルフはサクラや両親達の前から背を向けて走り逃げていった。

























 サクラSide

「ユキちゃん!どこぉ!」

「ユキぃ!!」

「ねぇ貴方、どこにもユキが居ないわ。やっぱり……」

「お母さん?ユキちゃんがどこに行ったか分かるの?」

 両親が目を合わせて何かに頷くと……

「ユキは多分、ボスウルフに持ち去られたカタナを追いかけて行ったんだと思う」

 やっぱりそうだったんだ。追いかけないと!

「待ちなさいサクラ!」

「止めないでよ!今すぐにでも追い掛ければ追い付くよ!」

「止めないよ。ただ何の手掛かりも無しに探しても意味が無い。だからコレを持っていきなさい」

 お父さんは自分の首飾りを私に渡す様にかけてきた。

「コレは?」

「カタナの在り処を追えるペンダントだ。それが示す方向を追えばカタナを追い掛けたユキの元に辿り着ける筈だよ」

 首飾りの装飾は指輪にホルダーを通しただけの簡素な物だったけど、ユキちゃんを追えるなら何でも良かった。

「ありがとう!じゃあ行ってくるね!!」

 そうして私はユキちゃんを追い掛けに走り出す。

(ユキちゃん、無事で居てね……)

 ウルフを討伐しながらボスウルフを探す。

 どこに居るの?ユキちゃん!




 必死になって首に下げたペンダントの示す先を探し続けると、さっき逃げ出したボスウルフの背後と、その視線の先には刀を構えたユキちゃんが居た。

「ユキちゃん!!」

 ボスウルフが今にもユキちゃんに襲いかかろうと見幕を見せていた。

 そしてユキちゃんが刀を鞘に納めて居合の構えを取った時、ボスウルフが遂に動き出した。

「間に合ってぇ!」

 私は無我夢中で駆け出し、ペンダントの光を頼りにユキちゃんの所に辿り着けた。

 でも間に合ったと同時にボスウルフが飛び出し、私は咄嗟に剣を取り出しボスウルフの爪を防御した。

「サクラ!?」

「ごめんね、遅くなったユキちゃん」

 ボスウルフは直ぐに飛び退き距離を取った。やっぱりこのボスウルフがこの街に入り込んだ個体だね! 私は剣を構えてボスウルフに対峙する。

「ユキちゃん、戦える?」

「サクラこそ、両肩で呼吸するほど疲れてるけど大丈夫?」

「……大丈夫!」

 正直、私のソレは空元気だ。ユキちゃんみたいに万全とは言えない状態。

私って本当に体力無いなー……剣もボロボロなままだし。

「だったら、私がサクラを支えないとね」

 ユキちゃんが鞘に収めた刀を手に取り何かに集中し始めると、ユキちゃんの周囲から風圧が起き始める。

「えっ?何コレ!」

『魂縛・心刀!』

 一瞬の爆発的暴風が発生した次の瞬間、私はユキちゃんの持ってた刀を手に持っていた。

 ただ、ユキちゃんの姿は何処にも見当たらなくなっていた。

「えっえっ?どういう事」

『コレでサクラは強くなったわ。私を信じて!』

「その声、ユキちゃん?!」

 刀そのものからユキちゃんの声がノイズ混じりで聞こえてくる。それに私の体も何だか軽い!

『話は後。まずは眼前のボスウルフを倒して!今のサクラなら何でも出来て楽勝よ!』

「うん!」

 そんな私の勢いを見てか、ボスウルフは大きな咆哮を上げてきた。

 いつもの私なら怖気づいて怯んでたかもしれないけど、私を支えてくれるユキちゃんの声と力が勇気をくれた!

「行くよ!ユキちゃん!」

『思う存分暴れなさい!サクラ!』

 私は刀を鞘から抜き出しボスウルフに斬りかかる。ボスウルフは爪で防御しようとするけど、今の私の振るう刀は簡単に切り裂くことが出来た。

『ボスウルフが怯んだわ。今よサクラ!』

「おりゃああ!」

 ボスウルフは防御して片膝を着いたまま動けないで居る。その隙に私は一気に間合いを詰め、そのまま刀を振るった。

「グアアアァァ!!」

 ボスウルフは断末魔を上げて倒れた。


「はぁっはぁ……私が、やったの?ユキちゃんの力が宿った武器で……」

『そうよ。コレが魂縛・心刀のチカラってやつね。っと、そろそろこの状態を解いた方が良さそうね。これ以上はサクラの身体に負担が掛かっちゃう』

 刀が光り出しその拍子に私が手を離すと、


 ぶわぁッ!


 と目を瞑ってしまう風圧の後に眼の前で私が見知った拠り所とする人が姿を表して刀を持つ。

「ユキちゃん!」

「ボスウルフの討伐、お疲れ様サクラ。良い動きだったわよ」

 私に笑顔を向けるユキちゃんの表情が眩しくも安心感を与えてくれる。

私は無我夢中でユキちゃんに抱き着いた。

「ちょ!サクラ、いきなり抱き着かないでよ」

「だって……声だけのユキちゃんより、こうしてちゃんと触れ合えるユキちゃんが大好きだもん」

「そ、そう?私も……サクラのこと、好きよ」

 顔を赤らめながら視線を逸らしてそう言うユキちゃん。うん、私はこの照れてるユキちゃんも大好き!

「おーい!ユキー、サクラー!」

「二人とも大丈夫ー?」

 あっお母さんとお父さんの声だ。私の後を追いかけて来てくれてたんだ。

「帰りましょ、サクラ」

「うん!ユキちゃん!」

 私はユキちゃんと手を繋いで、勇者の両親二人の元へ駆け出した。

 -序章終わり-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

刀に魂が宿るお話 桜川由紀 @cradsadami0714

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ