vol.2 醒井宿の旬

随分と更新が滞ってしまったが、醒井宿に到着後は順調に俳句を作ることができた。


醒井宿は水が有名なスポットで、「居醒の清水」を筆頭に水が湧く地点が多くあり、湧き水はそのまま地蔵川と呼ばれる水路ほどのサイズの川を下っていく。とても美しい水であった。そして、その川には梅花藻がぎっしりと生息している。冬が近い時期であったが青々と健やかに水に揺られていた。


そんな場面を俳句にしようとしてもなかなか浮かばないのが吟行の難しいところ。必死で俳句にしようと取り組んでいたところ、醒井宿の近くに住むというおよそ75歳くらいの男性に声をかけられた。


「どこから来たんだい」

「東京です」

「わざわざ遠くから。ここを目的に?」

「はい。俳句を詠みにきました。今日は人も少なく静かでいいですね。」

「醒井の旬の時期はもっと人が多いんだよ。今は旬じゃないからね。」


この方の話によれば藻の花が咲く8月前後はとても混雑するそう。確かに街道沿いには美しく咲く花の写真が添えられていた。そして男性はこのように続けた。


「もう少しすれば雪も積もって幻想的な宿場町の風景になるよ。ちょうど中途半端な時期に来てしまったね。」


私らにとっては旬ではない時期の方が、俳句が作りやすい環境なのかもしれない。特に吟行ともなれば同じ場所にじっとしていなければならない。感性を鋭くさせるには、むしろありがたい時期に稽古会を設定していただいたと感じた。


唯一の誤算はこの男性の話が長すぎたことだ。この後も話は飛躍し中山道を徒歩で全て制覇した話やフェリーを愛用している話など。12時前後の吟行が佳境となる時間帯を全て雑談に使ってしまったのでその後の追い込みが大変だった。旬をずらしてあまりにも人が少ない環境だと、このようなことも起こり得ることもまた収穫だ。

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令和五年度 秋草稽古会 上川拓真 @bakamikawa

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