第23話 バラが来る!?
「よっしゃ! 最高にロックな一撃をお見舞いするよぉ!」
デスボイス死神が弦を響かせる。ギターが鳴り、スピーカーに音エネルギーがたまる。
音符が発射されて、アリスに向かって飛んでいく。
「この程度の攻撃」
アリスは剣を引き抜いた。この剣なら防げるはずだ。
飛んでくる音符に集中し、縦振りを行う。
音符は真っ二つに割れて、彼女の背後で爆発した。
防御から攻撃に即座に入る。アリスはデスボイス死神に走った。
声の音量なら、アイツが一番大きいはず。なら死神を倒せば、ステージは機能しなくなる。
早く3人を片づけなければ、バラードが長い術式を、ステージ裏で唱えているからだ。
術式の長さは威力にも関わる。放置しておくのは危険だ。
アリスと死神の間には距離がある。剣術がメインの彼女は、遠距離攻撃が苦手だ。
後の2人が反応するより前に、近づかなければ。
「私に来ると思ったわ! 暗黒魔術!」
アリスはしまったっと、足を止める。敵は暗黒魔術師族だ。
当然部下達も暗黒魔術を使える。そのことが頭から抜けていた。
デスボイス死神は術式を唱え、魔力を解放する。
「音で全てを制圧せよ。音痴に嘆く様!」
「それって魔法なの!?」
死神は下手な演奏を始めた。ギターから音波がアリスに飛ぶ。
アリスはステージから落とされる。
更に今の音を吸収し、音符が飛んできた。
先ほどより大きい音故、音波の大きさも違った。
アリスは体勢を崩している。回避も防御も不可能だ。
「助けに来たぞ。アリス姉」
ユウキが姉の前に立ち、構えを取った。
「っと見せかけて……。アリスサイクロンマグナム!」
ユウキはアリスの頭を掴み、音符に投げつけた。
彼女は音符と激突。爆発の影響で吹き飛ばされた。
「何してんだぁ!?」
「ゴフ!」
光夜はユウキの顔面を殴った。飛ばされた先には、死神がいる。
2人は正面衝突し、互いに吐血した。
今の声にも反応して、音符が残る2人にも飛んでいく。
敵の身動きを封じている間に。光夜はアリスに近寄った。
彼女は額から血を流しているが、傷は浅い。
「大丈夫か?」
「ユウの奴……。後で殺す……!」
アリスは治癒術で傷口を塞ぐ。立ち上がり、剣を構えた。
先ほどから死神しか攻撃していない。他の2人は何をしているか。
アリスは術を警戒しながら、観察を始めた。
「ようこそ。社会の闇……」
「衣装が重くて、動きが遅いんだよ、この野郎」
「やる気ねぇ!」
ナイフを首の脈に近づけるアニキゼット。
スポットライトを浴びながら、動こうとしない紅白サチ。
2人からは戦意を感じない。アリスのツッコミ音符も、受け止めるだけだ。
ならばデスボイス死神さえ倒せば。バラードに攻撃できる。
そう思っていた彼女を嘲笑うように。ステージ上にバラードが現れる。
「やっとこの長い術式が終わったわ。さあ、舞え! 花弁達!」
バラードの前方に、赤い花弁が舞い散る。
花びらは意識がある様に、空中で静止した。
「この花びらは一枚一枚が、神器級の強度を誇るのよ!」
「それがどうした? その程度の攻撃無駄だ」
ユウキが花弁の群れに飛び掛かった。
「何故なら俺は、神器の硬さを知らないからなぁ!」
「何の対策にもなっていない!?」
花びらはユウキに向かう。彼の体を貫通する。
ユウキは吐血しながら、吹き飛ばされる。
「ゴブニュツー!」
断末魔を挙げながら、ユウキは膝をついた。
花びらが貫通した体からも、血があふれる。
「ユウキ! この湿布で傷口を塞げ!」
光夜は昆布をユウキに投げつけた。
「ナイス! って……」
ユウキはアニキゼットの頭に、昆布を乗せた。
マヨネーズを掛けながら、頭蓋骨付近を殴る。
「塞がるかぁ!」
ユウキは普通に治療術で、傷口を塞ぐ。
アリスよりも術者として優秀なので、すぐに塞がった。
「更にこの花弁は、目障りな奴から順に殺す」
花弁は回転しながら、ユウキへ飛んで行った。
「えぇ!? 俺、そんなに目障りでした!?」
「うん。目障りだった」
ユウキはステージから飛び降りる。
アリス達が居る場所に、走ってきた。
「旅は道ずれ! 世は道ずれじゃあ!」
「何してんのさぁ!?」
「大丈夫だ、アリス! 三人居れば文殊の盾! グハァ!」
花弁は3人を貫通した。全員吐血しながら、地面に倒れる。
「全然ダメじゃないですか!?」
「そりゃそうだよ! 肉が集まっても、柔らかい!」
舞い上がる花弁は、背後から反転してきた。
すぐに目障りな奴に狙いを定める。
「こうなったら……。アリスシールド!」
ユウキはアリスの影に隠れた。
だが即座にアリスに背後に回られる。
「ユウキマグナム!」
アリスは背後からユウキを、殴ろうとした。
即座に体を反転させて、拳を回避する。
彼は反撃としてアリスに拳を近づけた。
「オラ! オラオラオラ!」
「アリャ! アリャアリャアリャ!」
「何してんだ、テメェら!? グボォ!」
抵抗空しく、再び花弁に貫通される。
更なる血を吐く3人。花弁は再び反転してきた。
「この野郎! 調子に乗りやがって!」
ユウキが術式を唱えた。高速で呪文を唱える。
発動までの時間を大幅短縮する。それが彼の得意技だった。
「食らえ! 小春流魔術! 大文字フレイム!」
ユウキは手から大の字形の、炎を発射した。
炎は花弁に飛び、一枚一枚を燃やしていく。
「強度が神器級でも、所詮は花弁! 炎には弱いはずだ!」
花弁の勢いが弱まる。炎が徐々に押し返していく。
「よし! そのまま全部燃やし尽くせ!」
「大の字だから、何枚か防ぎきれなかったよ……」
炎をすり抜けて、いくつかの花弁が飛んできた。
残り数枚の花弁が、光夜達に飛んでくる。
「ユウキ! 後は俺に任せろ! この数なら……」
光夜は剣を構えて、花弁に突撃した。
剣にエネルギーを送り込み、花弁を斬り裂く。
斬られた花弁は消し炭になって、消滅した。
「ふぅ……。これで花弁は止まっ……」
「舞え! 花弁達よ!」
「げぇ! 2発目が来たぁ!」
2回目の提唱を終えたバラードは、魔力を解放。
花弁達は再び舞い散る。
「ユウキ! もう一度さっきの技で……」
「そうは行かないのさ! イエーイ!」
デスボイス死神がステージ上で、ギターを引いた。
音に反応したスピーカーから、音符が飛んでくる。
「しまった! アイツを忘れてた!」
音符は地面に着弾すると、爆破する。
爆風に吹き飛ばされ、光夜、ユウキとアリス姉弟が引き離される。
「くっ! これじゃあ、連携技が使えない!」
花弁は光夜の方へ、飛んでいく。彼は花弁の真下をスライディング。
すり抜けた後、ステージに飛び乗る。
真っすぐにアニキゼットの元へ、走り出した。
「こうなれば、一番弱そうな奴から倒す!」
無抵抗のアニキゼットを、光夜は殴り飛ばした。
花弁に飛んでいき、身体を切り刻もうとする。
「聞いてください……。失意と絶望の交差点……」
アニキゼットの小声が炸裂する。花弁は一瞬で凍り付いた。
ついでにアニキゼット自身も、凍結する。
「身も心も、周囲も凍り付いたぁ!?」
「まさかここ一番で、こんな技を(味方に)放つとは……」
2発目の花弁も止めることができた。
もう一発撃つには、長い術式を唱える必要がある。
まだ次の一撃を放つほど、時間は立っていない。
ここが好機。アリスとユウキは同時に走った。
術式が終わる前に、バラードを斬る。
敵の将を倒せば、この戦いも終わるはずだ。
「良い作戦ね。で?」
バラードの周りに、再び花弁が舞い始めた。
先ほどの比じゃない。大量の花弁が彼女の頭上に集まる。
花弁が鳥の形を作っていく。
「マズイ! 花弁が増えた!」
「さっきのは一部の力を解放しただけよ。本番はここから!」
バラードは宙に浮いた。体から次々と、赤い花弁を召喚する。
頭上の花弁は既に、巨大な姿になっている。
「アリス姉! こうなったら、完全開放をするしかないよ!」
「え? でも……」
アリスはユウキの提案に乗るか迷う。彼女の剣は神器だ。
その力を解放すれば、膨大な力を発揮できる。
普段は力を封印しているが、術式を解くことで一時期的解放ができる。
本来なら切り札として、使うべき局面だ。
だがこの剣は受け継いだばかり。アリスにはまだ馴染んでない。
何より見習いのアリスには、力を制御する自信がなかった。
「やれ。さもなければ、またサイクロンマグナム!」
「わ、分かったよ……。やりますよ。やれば良いんでしょ……」
「おおっと! 妙な動きを見せるねぇ~」
2人の動きにデスボイス死神が、反応する。
術式を唱えるには、時間が必要だ。今、妨害されるわけにはいかない。
「余計な事してんじゃねえ!」
光夜が死神を殴る。頬を強打しながら、死神は飛んだ。
その隙にアリスは、術式の提唱に入る。
「プライティ・アームド……。アンリーシュ!」
術式を唱え終えると、アリスの剣が金色に輝く。
全ての属性が、この剣に込められている。
属性エネルギーを一気に放出する。それがこの神器の力だ。
アリスは剣を右上から、左下へ動かす。始点と終点に、赤と青の玉が出現。
次は右下から左上に動かす。緑と灰色の玉が現れる。
4つの玉が剣に、エネルギ―を送る。アリスは剣を引いた。
「エレメント・バースト!」
アリスは剣を突き出す。剣先から黄金の光線が飛び出した。
バラードは突然の光景に、目を開く。
「まさかあの剣は……。神器なの!?」
バラードは飛んでくる光線に、鳥型花弁を飛ばす。
光線と花弁は互いに拮抗。一歩も引かない押し合いが始まった。
「まだ慣れていないようね。それにこの花弁には、神器の強度があるって言ったわよね」
「くっ……」
ダメだ……。押し負ける……。アリスは歯を食いしばった。
神器の解放は使用者のエネルギーも消耗する。
完全開放に慣れていないアリスは、反動に耐えることができない。
全く同じ威力を持っている。そのため技を使う集中力が、勝機を握る。
徐々にアリスの光線が、押されていく。
「アリス! このエネルギーを使え!」
「ヘイ! ロックだ! ロックだね~」
光夜はステージから、デスボイス死神を投げ飛ばした。
死神は花弁の集まりに飛んでいく。
光夜の込めたエネルギーが、花弁の中で放出される。
「我がロック……。一瞬の狂いもなし……」
「あの人何言ってるの!?」
デスボイス死神は、花弁の中で爆発した。鳥の形が、僅かに崩れる。
その隙をアリスは逃さなかった。
最大まで剣に力を込める。光線の威力が増していく。
光線は花弁を貫通した。その先にいるバラードへ飛んでいく。
黄金の光が、バラードの体を包み込んでいく。
「バカな!? 私の術が……!? ぎゃあ!」
光はバラードを貫通。空高くまで飛んだ。
光線を討ち終えて、アリスは地面に座り込む。
息を切らしながらも、剣を軽く撫でた。
「ありがとう……」
力を貸してくれた剣に、アリスはお礼を言った。
もう動ける気力は残っていない。
その場に倒れて、呼吸を整える。
「はぁ……。はぁ……。嘘……。でしょ……」
光が消えた先で、アリスは衝撃を受けた。
服が破けながらも、バラードはまだ生きている。
ダメージは負ったようだが、動く力は残っている。
アリスは最大威力で、神器の力を解放した。
それが通用しない。これが暗黒将軍の力……。
アリスは改めて、魔物達の恐ろしさを痛感した。
「油断したわ。でも残念! 私を倒すには、未熟過ぎたわね」
アリスは悔しさで、歯を食いしばる。
本来の持ち主なら、今の一撃で倒せていたはずだ。
所詮は騎士見習い。自分の無力さを痛感していた。
「良いわ。本気になってあげる。全員、ぶっ殺す!」
バラードは髪の毛を伸ばした。
「我が部下達よ。その生命力を、私に寄こしなさい……」
バラードは部下の命を削るつもりだ。生命力を魔力に転換するために。
ここで彼女はある事実に気が付く。デスボイス死神が、居ないことに。
更にアニキゼットは凍っており、生命力を失っている。
「なんでも大人のせいにしているんじゃねえよ」
唯一残った紅白サチは、全く戦闘に参加していない。
「……。まともな部下居ねぇ!」
「今更!?」
生命力を吸えそうな、部下がいなかった。
バラードは頭を抱える。
「だが死にぞこないの小娘くらい、殺せるわよ」
バラードはアリスの生命力を奪おうと、髪の毛を伸ばす。
伸びる髪の毛を、青い剣が切り裂いた。
「蕎麦野郎。俺がいることも忘れるな」
光夜がアリスの前に立つ。
「ギア上げていくぜぇ!」
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