第22話 闇の10種族

 最東端にある、漆黒の浮遊城。そこに1人の騎士が、飛竜に跨り向かっていた。

 真っ黒な鎧と兜で身を守り、背中に赤いマントと白い剣。

 赤い瞳だけを兜から見せて、スマート体型。


 闇将軍の1人、暗黒騎士族族長アーマドは、不吉な予感を感じていた。

 浮遊城は闇将軍の間でも、安易に立ち入れない。魔界では禁句の聖域だ。

 そこへ十種族の族長達が、呼び出されていた。名目は重要な事実を伝えるとのこと。


 族長は一癖も二癖もある者達。全ての人間が会議を開くなど、100年間なかった。

 それがどういう訳か。今回に限って、族長全員が強制参加だった。


 アーマドは武功より、平和を重視する騎士だ。

 闇の種族の悲願である、人界進行は長年反対し続けてきた。

 今回の会議で遂に、全面戦争が決まるかもしれない。


 そうなれば多くの犠牲が出る。アーマドはそれだけは避けたい。

 ここにきて十人が集められる会議。不吉な予感を感じる。

 アーマドは浮遊城に足を踏み入れて、会議の部屋にたどり着く。


 会議室には他の種族が集められていた。自分が最後だったか……。

 初めて集まる、十人の族長達。全員が何を告げられるのか、緊張している。


「ん? んん?」


 アーマドは真っ先に違和感に気付く。

 会議に参加しているものは、ゴブリン、オーガー、ガーゴイル、オーク、コボルト。

 暗黒魔術師、暗殺ギルド、暗黒騎士、バーサーカー、拳闘士。に交じって生物が一匹。


「11人居るぅ!?」

「本日は集まってくれて感謝する」

「何故か誰も異常事態に、ツッコまない!?」


 この場を指揮言っているのは、暗殺ギルドの族長だ。

 陰湿な雰囲気を漂わせ、灰色のローブで全身を包み込む。

 彼がこの場に10人と一匹を集めた張本人だ。


「単刀直入に要件を言おう。人界侵略部隊尖兵。キングオーガー軍が全滅した」

「しょうがないものね。あの子バカだもの」


 魔術師がオーガーを嘲笑うように、クスクスと笑った。

 オーガー族長は舌打ち。一族の面を汚されたと苛立っているのだろう。


「あと暗黒皇帝が復活なされた」

「そっちがついでの要件!?」


 暗黒皇帝とは、魔界をかつて統一していた闇の皇帝だ。

 圧倒的な力を持っていたが、その残虐さは誰もが知っている。

 100年前に謎の封印状態になっていた。自らを封印していたのだ。


「何故今になって……?」

「それは知らん。だが確かなことは、これで本格的な人界進行が始まるということだ」


 光すらとおらない魔界。それは大地を枯らして、冷たい冷気を風が運ぶ。

 そのため魔界は長年、貧困に悩まされていた。

 豊かな土地と暖かさを手に入れる。それが闇の一族の悲願だ。


 何より皇帝自体が、戦争を望んでいる。

 彼は人間を滅ぼすことに、執着を抱いていたという。


「なんとか、戦争を避けることは出来ないのか?」

「何故避ける必要がある? 豊かな土地を独占した、愚かな人族達を殺せるのだぞ」

「そのために、何人兵が犠牲になると思っている!」


 アーマドは立ち上がり、声を荒げた。

 指揮している暗殺ギルド族長は、種族の名の通り殺しを楽しむ。

 血と殺戮に飢えた怪物として、アーマドとは犬猿の仲だ。


「我らの未来のために、ささやかな犠牲だ」

「ささやかな犠牲などない!」

「2人とも。静かにしたまえ」


 2人の口論に、11人目の族長が口を挟む。

 

「何故止める? その他大勢族の族長。ペラッペラーノ」

「飛んじゃうんだよ。君達の息で」


 ペラッペラーノのは紙だった。現在は中をひらひら舞っている。

 喧嘩していた2人は大人しく、席に座る。


「ごめん……」


 アーマドは素直に謝罪した。ペラッペラーノは着地し、席に着く。

 その場が静まり、なんとも言えない雰囲気になった。


「とにかく。これより本格的攻撃が始まる。指揮はそれぞれの族長が、執ることだ」


 何故か仕切りだした、ペラッペラーノに言い返す元気がない。

 アーマドは黙って、この会議の行く末を見守る。


「どの編成で行くか。本日は話合おう」

「面倒なことは嫌いよ。武勲を上げた順から、奪う土地の優先権を得るというのはどう?」


 魔術師が提案する。アーマド以外に異議はない。

 このままではマズイ……。本格的な争いが始まるだろう。

 それを止めるためにも、発言をしなければならない。


「でも残念ね。そのやり方なら、私達が全部貰っちゃうわよ?」


 魔術師の体が透けた。どうやら魔術で精神のみ、会議に参加していたようだ。

 本体はとっくに事態を察知。人界進行準備を進めている。

 今から動いたのでは間に合わない。アーマドは先手を打たれた。


「ふ……。自分達だけだと思っていたのか?」


 暗殺ギルドの族長も体が透ける。


「私も2階のトイレから、この場に精神のみを送っているに過ぎない」

「なんの意味が……?」

「ハハハ! アッハハハ!」


 高笑いを挙げながら、ペラッペラーノも立ち上がった。

 彼の体もまた半透明に透けていた。


「いや、お前はあり得ないだろ!? 飛んでたじゃん!」

「いや、ただ半透明になってみただけ」


 アーマドはその発言に、肩を落とした。

 なんでこんな奴が、会議に参加しているのだ?


「面白くなってきたなぁ! 俺らも負けてらんねぇ!」

「オーガー族の失態は、オーガー族が刈り取る。それが我らの信条」


 ゴブリンとオーガーの族長も、進軍のため会議室から出る。

 このままでは10種族が争いながら、人界を攻め込むことになる。

 残った種族だけでも、説得しなければ!


「皆! 落ち着け!」

「そうだぜ! みんな! 落ち着け!」


 何故かペラッペラーノが、アーマドの発言に賛同した。

 体をガタガタ震わせながら、他の族長に向かう。


「落ち着け! お、落ち着け! おち、おちおち……。 お~ち~つ~け~♪」

「お前が落ち着け!」


 ふざけた態度の紙だが、全員の注目を集める力はあった。

 残された者達は会議室に残り、ペラッペラーノの発言を待っている。


「何も兵士の命を無駄にする必要はない。話し合いで解決するという、手段もある」


 アーマドはペラッペラーノに面食らう。見た目に反して、まともな思考な持ち主だ。

 彼も和平を望むなら、他の種族を説得できるかもしれない。


「まず私が親睦の証として、スパゲッティを人界代表に渡す。その後土下座する」

「テメェ! 媚び売ってるだけじゃねえか!」


 暗殺ギルドの族長が、珍しく声を荒げた。

 

「まだ途中だよ。その後、私の歌で花を咲かせる」

「咲くかぁ! 折り紙しか、咲かねえよ!」


 ダメだ。アーマドは確信した。所詮紙では説得は出来ない。

 再びガックリとしながら、彼は発言力が残されていなかった。


──────────────────────────────


 光夜は東の砦を乗っ取っていた。

 配下のゴブリン達に指揮して、防衛線を整える。


「親ビン! 大砲の準備出来ました!」

「よくやった! 褒美をやろう!」


 光夜はゴブリンにカレーを御馳走する。


「支配下においてるぅ!? ゴブリン達活き活きしちゃってるよ!」


 少し前まで侵略者達だった。だが今は一緒に砦の防衛に当たっている。

 不思議な光景だ。これが出来るのが、光夜の力だ。

 東の渓谷の警備は整った。これで光夜の目的は一時的に達せられる。

 

 だがアリスは嫌な予感がした。攻撃がこれで終わりではない。

 もっと恐ろしいものが、魔界にいる。

 それは最強の騎士と言われていた、母親を倒した者だ。


 卑怯な手を好む、あの暗殺者を忘れていない。

 アイツが和平など望むわけがない。

 アリスの嫌な予感は、最悪の形で当たることとなる。


「親ビン! 敵襲です! 敵影4つ」

「もうか? 遂数時間前に退けたばかりだぞ」


 キングオーガーを倒して僅かな時間だ。

 いくら何でも敵襲が早すぎる。こちらの防衛は整っていない。

 事前に準備をしていたのだ。キングオーガーはこちらを消耗するために、利用されていた。


 たった4人。だがこちらは消耗している。

 最低限の兵力で、村を攻め落とすつもりだ。

 闇の軍勢には村人は対抗できない。ここで迎撃するしかない。


「アリス、ユウキ! まだ行けるな?」

「楽勝~。まだまだ暴れたりない」

「喉は痛いですが、大丈夫です」


 光夜は二人を連れて、砦から飛び出した。

 敵を待ち構えて、真正面から迎え撃つ。

 作戦を練っている時間がないので、方法がない。


「フフフ。オーガーちゃんを倒した奴がたった3人だったなんてね」


 真っ赤なドレスに身を包んだ女性。褐色の肌に赤い髪の毛を腰まで垂らす。

 長身でヒールを履いている。赤い瞳で光夜達を見下す。


「しかも子供とはね。ガッカリね」

「俺は子供じゃないぜ。ガキだ」

「甘味のある奴お願いね」


 光夜は懐のリンゴを、女性の顔面に投げる。

 リンゴは女性の眼前で静止。掴まれた様に空中で止まる。

 女性はリンゴを掴み、噛り付いた。

 

「酸味のある、蕎麦です。生命力がある」

「蕎麦は生物です」

「そう。何故なら畑で作られるから」

「全く意味わかんねぇ!」


 アリスの理解力を超えた、攻防戦が広がる。

 光夜は口角を挙げて、女性を見つめた。


「貴様、ハチャメチャリストだな」

「ええ。私の名前はバラード。暗黒魔術師族長よ」

「宣戦布告!」


 光夜はバラードの腹部を蹴った。彼女は吐血する。

 更にカキジュースを顔面に叩きつける。


「蕎麦みてぇな髪型しやがって!」

「そう! 私は蕎麦みたい! 何故ならバラードだから!」


 バラードは術式を唱える。彼女の髪の毛が光夜に伸びた。

 口を塞ぐように、髪の毛は顔面に縛りつく。


「さあ! 私のそうめんを味わいなさい!」

「流しそうめん!」


 光夜は雑巾で、バラードの髪の毛を拭った。

 彼女は再び口から吐血する。


「なんでぇ!?」

「くっ! この雑巾……。もしかして腐った牛乳拭いた?」

「あ、分かっちゃいます? 10年ものです」


 髪の毛を解き、バラードは吹き飛ぶ。

 仰向けになりながら、血を服で拭った。


「オーガーを倒すわけだわ……。こっちも部下を呼ばないと……」

「そうなの!? 今の攻防、そんなに凄かったの!?」

「アリス姉。あのラーメンは危険だぞ!」


 アリスだけ全く理解できない。3人だけで盛り上がっている。

 バラードは指をながらして、背後の部下に指示を出した

 人影が近づき、徐々に姿を表す。


「紹介してあげるわ! 我が部下達を!」


 1人目がジャンプしながら、バラードの横に立つ。

 顔を白塗りにした、黒い死神のような人物だ。

 鎌を振り回しながら、鎧のような黒い衣装を羽ばたかせる。

 見た目からは女性と言うことしか、分からない。


「デェストォロイヤー! イエ~イ! 盛り上がってるかい?」

「第1の部下! デスメタル死神!」

「見た目通りの名前の奴来たぁ!?」


 2人目がクールにトボトボと、2人の隣へ。

 ほっそりとした男性で、赤いコートを羽織っている。

 虚ろな赤い目で、ナイフを自分の脈に近づける。

 


「ああ……。人生良い事ねぇ……。早く逝きてぇ……」

「第2の部下! JPOPアニキゼット!」

「名前負けしてるぅ!? 既に死にそうなんですけど!?」


 最後の1人が空を飛んだ。ゆっくりと落下する。

 左右に3枚の羽が付いた、豪華なドレス。

 人が2人は入れそうなほど、巨大な姿をしている。


「カレーパン、食いそびれたんだよ。この野郎」

「最後の部下! 紅白サチ!」

「主より強そうだ!? ラスボスだぁ!?」


 バラードは術式を唱え始める。


「さあ! とっておきのステージを、用意してあげたわ!」


 左右にスピーカーが置かれた、ステージが出現した。

 

「ライブステージが出現したぁ!?」

「このステージでは、音が支配する。音量に応じた音符が、相手に向かって飛んでいく!」

「どういう原理のステージなの!?」


 アリスがツッコミを入れる。するとサウンドから、音符が飛び出した。

 音符はバラード達に直撃。その場で爆発した。

 

「くっ! 先手必勝とは、やるわね!」

「いやいや!? 私、ルール理解してないよ!」


 再び音符が飛び、紅白サチへ飛んだ。


「鬱陶しい術式、唱えてんじゃねえよ」


 紅白サチは重みで、全く吹き飛ばない。

 服が頑丈なのか、ダメージを受けた様子もない。


「良いぞ! アリスがいたら、こっちが有利だ!」

「それはどうかしら? さあ、部下達よ! ライブをしなさい!」


 死神を鎌を構える。よく見ると、それはギターだった。

 マイクの前にアニキゼットが立つ。

 その背後で紅白サチが羽を大きく広げた。


「イエ~イ~! 私、ロックしちゃいますよぉ!」

「あぁ……。ボーカルです……。熱いpop歌います……」

「演歌歴35年なんだよ、バカ野郎」

「統一感ねぇ!?」


 再びアリスのツッコミが、音符となって炸裂した。

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