第19話 もう一人の始動
ハーツと名乗った人物。彼は元老院の長と名乗っていた。
元老院はこの人界でNo.2の存在。そのトップが二都の前に居る。
アオはもちろん、ユウミも目を開いてい足を硬直させていた。
「二都さん。貴方に強力していただきたいことが……」
「お前が……。元老院の長だと?」
二都はハーツに向かって、走り始めた。
十分距離を取ったところで踏み込み、蹴りを一発入れる。
「ここであったが100年目!」
ハーツは緑の球体に包まれた。魔法でシールドを張ったのだろう。
元老院は最高位の術士の集まりでもあ
そんな彼が張ったバリアは、相当な強度だろう。
恐らく神器クラスでなければ、突破不可能なはずだ。
当然二都は神器を持っていないので、あのバリアを破ることはできない。
「グハァ!」
だが二都に対してバリアは全くの、無力だった。
倒れたハーツの腕をつかみ、がんじがらめに固める。
「コーヒーの恨み! ここで晴らさせてもらうぞ!」
「貴方のコーヒーは、確かに私が飲みました! 申し訳ございません!」
片方の手で床を叩きながら、ハーツは降参をアピール。
二都は尚も拘束を強めて、ハーツを苦しめる。
「ちょっと二都さん! 人の話は最後まで聞きましょうよ!」
「あのコーヒーが! あのコーヒーが良かったんだよ!」
二都はハーツを羽交い絞めにした。
そのまま腰を後ろに倒し、ハーツの頭を地面に叩きつける。
「私の話を聞いてください。今、人界では大変なことが……」
『まて、ハーツ。そこから先は、ワシが直に話そう』
ハーツを止めるように、誰かの声が頭の中に響く。
二都は攻撃を中断して、周囲を探った。
誰かがいる気配はない。声の主はどこから語り掛けてきたのだろうか?
「こっちじゃ。こっち」
今度は生の声が聞こえてきた。音の方向へ、二都達は一斉に振り向く。
方角は空の向こう側。屋根が壊れて吹き抜けになった屋敷に、近づく影があった。
空を舞いながら人を乗せ、屋敷に向かっている謎の物体。
飛竜かとアオは思った。すぐに違うと彼女は気が付く。
何故なら謎の物体は、羽らしきものが動いていないからだ。
飛竜は空を飛ぶ時、羽ばたかせると決まっているのだ。
ならばあの物体は一体何なのだろうか?
徐々に影が濃くなっていき、物体の正体が明かされる。
それは羽らしきものの上に、無数のゴリマッチョが乗った物体だった。
ゴリマッチョ達は羽の上で、スクワットをしていた。
スクワットの勢いが増すたびに、物体は速度を上げていく。
「いや、何アレぇ!? どういう原理で飛んでるの!?」
「筋肉は全てを解決する。そしてスクワットは筋トレの基礎じゃ」
アオは声の下方向を振り向いた。物体の中央に、誰か立っている。
それは赤いローブを着た、女の子だった。未成年の様にも見える。
華奢な体付きであり、右手に持った杖で物体を叩いている。
「全然筋肉質じゃねえ!」
「当たり前じゃ。筋肉などつければ、体が重くなってしまう」
「筋肉何も解決してないじゃん!」
少女は杖で物体の羽を、叩き潰した。
物体はバランスを崩しながら落下。屋敷の中に突っ込む。
その拍子でスクワットをしていた人達が落とされた。
「無事着地、成功じゃな」
「着地なの!? 今の着地なの!?」
少女は気にせず物体の先端から、屋敷に飛び移った。
近くで見ると、その姿をようやく捉えることができる。
薄紅色の髪の毛を三つ編みにして、赤い三角帽子をかぶっていた。
身長はアオの半分ほどしかなく、青い瞳の上に眼鏡らしきものをかけていた。
手足は細く、とても戦いに耐えられるような体付きには見えない。
「あ、貴方は……」
ハーツはここにきて、初めての動揺を見せた。
体を震わし、口を開けっぱなしにしながら目を開いている。
「猊下! 何故ここに!?」
「猊下!? 猊下なの!? ってことは……」
アオはこの日何度かの戦慄を、身に宿していた。
猊下と言うことは、この人が元老院達の主と言うことになる。
それは中央教会の主であり、教皇であり、この世界のトップであり……。
「うむ。少しカレーパンを、買出しに来ていてな」
「ええ!? これが世界、最高位の人ぉ!?」
アオが驚いている傍ら、二都とユウミが膝をついていた。
息を切らし名ながら、地面に顔を向けている。
「な、なんだこの威圧感……。今までの奴と次元が違う……」
「はい……。私も感じます……。この波動は一体……」
「いや、何を、どう感じているんですか!?」
この場でアオだけが違う意味で、驚いていた。
1人取り残されたアオをよそに、猊下と呼ばれた女性は二都達に近づく。
ハーツが言うからなら、彼女が中央教会の教皇なのだろう。
アオは意外な姿に、驚きを隠せない。
世界最大の戦力を持つ教会の主。てっきり老人な男性かと予想していた。
目の前の人物は少女にしか見えず、とても威厳があるように見えない。
だがあの二都が次元が違うというからには、何か秘密があるのだろう。
アオもとりあえず膝をついて、頭を下げた。
「お主が二都じゃな? 確かに異様な空気を、漂わせておる」
貴方に比べてば、二都さんはまだまともです。
っという感想を、アオは飲み込んだ。
雲の上の人物に、そんな失礼な物言いは出来ないだろう。
「お主にカオスの結社を、倒して欲しいのじゃ」
「そのカオスの結社って、一体何なのです?」
元老院にすらため口だった二都が、敬語を使った。
それだけ彼女を恐れているのか。最低限の礼儀はわきまえているのか。全く判別がつかない。
「黙示録に描かれた、邪神を復活させようとする、教会の過激派閥じゃ」
邪神。アオもその存在は知っていた。
さっきクティに乗り移った存在が、それだった。
「邪神が復活すれば、人界のパワーバランスは崩れ、一瞬で闇の世界になるじゃろう」
「貴方は世界のトップなのですよね? 何故俺などに、頼み込むのですか?」
「うむ。恥ずかしい話じゃが、ワシは今や神輿同然の存在じゃ」
「どういうことです?」
二都の問いかけに、教皇は少しだけうつむいた。
答えるべきか否か、迷っているように見える。
ここで答えてもらわなければ、話は進まない。
アオも二都でさえも、彼女が答えるのをひたすら待ち続けた。
数分後。彼女は意を決したように、顔を挙げた。
「今や教会の実権は、司祭達、そしてそのトップである最高位司祭、ロウエに握られておる」
「なるほど。そのロウエ達が、カオスの結社を設立したわけか」
「奴らの目的が達せられれば、平和が脅かされる。力を貸してくれるか?」
アオは自体が大きくなり過ぎて、パニックになった。
ただハンケに復讐したくて、二都についてきたというのに。
いつの間にか邪神や世界の支配者たちの争いに巻き込まれている。
アオは二都がどう答えるのか、神経を尖らせていた。
恐らくあの圧制は、カオスの結社が絡んでいるのだろう。
あんなものを見た以上、アオだって放っては置けない。
だがそれ以上に敵の強大さへの、恐怖があった。
教会はこの世界の支配者。いくらトップ達が味方とはいえ、実質的支配者に抗って良いものか。
「仕事は食わず嫌いしない主義なんです。その依頼、引き受けましょう」
「そうか。お主ほどの実力が居れば、心強い」
「それにしても、カオスの結社に、邪神か……」
二都はふと、空の向こう側を眺めた。
「あいつの方は、大丈夫なんだろうか……?」
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冬木光夜がアルクカナ村の防衛を頼まれた、直後の出来事。
彼はお金をたかるために、村長の家に向かっていた。
ついでに今後の村の防衛についても、話し合おうつもりだ。
アリスに案内されながら、村の中を見物していく。
初日は色々巻き込まれてろくに見学できなかったが。
じっくり見渡すと、空気もキレイで自然豊かな大地だった。
ここで農作物を育てたら、美味しくできるんだろうな……。
そんな感想を抱きながら、懐かしの空気を思いっきり吸った。
どうにもこういう場所を見ると、故郷を思い出す。
仕事を探しに都会に出たが、光夜は故郷が好きだった。
思い出す幼馴染達と、悪ふざけをした日々。
「光夜さん。もうすぐ着きますよ……」
アリスが溜息を吐きながら、村はずれの家を指した。
他の家より少し大きめ程度の家だが、流石に村長宅は格が違う。
「どうした? そんなに落ち込んで」
「私、村長と……。父とそこまで仲良くないんですよね……」
「へえ。分かる気がするよ」
光夜はアリスが村長の娘でであった事は、深堀しない。
彼女の表情から、触れられたくないというのが理解できた。
それはかつて父親のプレッシャーに潰されかけた、自分と同じだ。
そんな彼だからこそ、アリスの苦悩は理解できるし、傷口に触れないということもできた。
いつか彼女が乗り越えられるようになったら、その時は背中を押してやろうと考える。
「それと……。変な弟が居ますが、気にしないで下さいね……」
「へえ。変人って意味じゃ、先輩に勝るとは思えないがな」
「まあ、貴方もその1人ではありますけど……」
アリス重たい足取りで、村長宅のドアをノックした。
"はあい"っと返事が来たので、ドアを開く。
そこで彼女達が見たものは、しおれた少年だった。
小柄ながら、それなりの筋肉が付ている。
まるで水分が抜けたもやしの様に、茶髪がしなびている。
青いコートを壁にもたれかかり、何故か体が真っ白になっていた。
「燃え過ぎたぜ……」
「何を燃やしたのぉ!?」
「ジョー!」
光夜がすかさず、少年に近づいた。
脈を確かめる振りをしながら、股間に耳を当てた。
そこから一切の音を感じない。
「ダメだ! 死んでる!」
「いや、生きてますから! さっき返事しましたから!」
「待ってろ! すぐにカレーを用意するからな!」
光夜は勝手にキッチンに上がり込み、どこからか用意した野菜を鍋に入れた。
そのまま炎を点火して、野菜を煮込む。
「何してるんですか!? ユウも何があったの!?」
ユウと呼ばれた少年。ユウキはなおも真っ白に、燃え尽きていた。
光夜がカレーのルーを入れると同時に、体がピクリと反応する。
肌に色が戻り、立ち上がりながらキッチンに向かった。
「カレーを! カレーを寄こせぇ!」
キッチンに向かったユウキは、鍋の中身を平らげようとした。
そこにあったのは茶色い液体ではなく、真っ白な料理だった。
「ごめん。間違えて、グラタンの材料入れちゃった~!」
「ブロッコリー!」
ユウキは再び壁にもたれかかり、真っ白に燃え尽きた。
「ええ!? カレーへのあくなき執念!?」
「こうなったら、仕方ない! 闇鍋ならぬ、闇カレーじゃあ!」
光夜はシチューとカレーのルーを、同時にグラタンに入れた。
更にシーフードや、シーチキン、ピーマンなども入れる。
ルーの匂いがして、再びユウキは立ち上がった。
「カレーを寄こせぇ!」
光夜に飛び掛かり、ユウキは闇カレーに口を付けた。
鍋の中身が舌を刺激した瞬間。ユウキは口から炎を吐く。
「このカレー! 甘口だぁ!」
「だったらその反応、おかしくない!?」
「カレーは甘いから、火を吹く。辛ければ燃え尽きる」
光夜の謎理論に、アリスは頭が混乱していた。
最悪の2人が出会ってしまったと、この場に彼を連れてきたことを後悔した。
「さっきから騒がしいぞ。ユウ、誰か来ているのか?」
2階から誰かが降りてくる、足音が聞こえてきた。
アリスは声だけで誰なのか分かり、うげぇ~っと声を漏らす。
この家にはあと1人しか住んでいない。ならば声の主は村長であろう。
階段から影が飛び出してくる。それは赤い炎を間とっていた。
前進真っ黒けになりながら、杖を突いて歩く人のようなものだった。
「燃えてるぅ! 燃え過ぎてるぅ!?」
面影はないが、アリスにはその人物が父であることはすぐに分かった。
父は事情により、足を悪くしている。その歩き方に特徴があった。
だが燃えている理由だけは、全く理解できない。
「中辛を食べるはずが、間違って鬼辛を食べてしまったのじゃ」
「早く消火……。いや、消化しなければ! カジキだ! カジキを持ってこい!」
光夜は慌てた様子で、アリスに指示を出した。
だがカジキなどこんな小さな村で取れるはずがない。
「無茶言わないでくださいよ!」
「仕方ない! アジだ! アジで代用するぞ!」
光夜はバケツ一杯のアジを取り出して、村長に投げつけた。
アジは村長の身から出た炎に燃やされ、こんがり焼ける。
同時に白い煙と共に、村長の体から炎が消える。
「なんでぇ!?」
唯一理解できないアリスの絶叫が、村中に響き渡るのだった。
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