第4話 魔物の襲撃

 謎の青年たちの登場から、一日が過ぎた。

 と言っても現在は深夜時間帯だ。

 アリスは中々寝つけず、ベッドの上で目を開いていた。


 傍らに置いた自慢の剣に、目を向ける。

 この剣はアリスが騎士になった記念に、受け継いだものだ。

 本来なら別の人物が受け継ぐはずだった。とある理由二より、アリスが継承した。


 剣だけは立派。衛兵隊ではいつもそうからかわれていた。

 確かにまだ見習い期間だが、鍛錬ならいつも怠っていない。

 今でも村の若者相手なら、圧勝できると自負している。


 だがその自信も今朝現れた二人に、壊される。

 世界は広い。自分では到底太刀打ち出来ない人が大勢いるのだ。

 いつか王都へ旅立ち、その先は……。そう願っていたアリスの夢が壊れかけていた。


「私、ちゃんと貴方の代わりが出来るかな……」


 自信喪失を取り返すべく、アリスは受け継いだ剣を抱きしめた。

 月明りを見つめながら、星空に手を伸ばす。

 窓から外を見る。そこで……。松明のあかりらしきものが、村に近づいていた。

 

 その数は20は超えるだろう。姿は見えないが、松明の高さから身長は予測できる。

 明らかに人間ではない。三メートルは超えるであろう生命体だ。

 存在に気が付いた瞬間、アリスは大慌てで家から外を飛び出した。


 彼らは友好的存在では、絶対あり得ない。

 松明の正体は異型の怪物、魔物であろう。

 本来なら衛兵隊が人里に近づけぬように守っているのだが、見逃したようだ。


「最近襲撃がないからといって、皆さん油断し過ぎです……」


 アリスは半ば呆れながら、警報代わりの鐘のもとへ急いだ。

 村人に襲撃者を知らせなければ、避難が間に合わない。

 魔物達は人間を忌み嫌っている。村に侵入を許せば、虐殺が始まるだろう。


 アリスが鐘のある高台へ向かうと、誰かが既に建っている。

 既に村の誰かが襲撃に気づいたのだろう。

 アリスは松明を向けて、高台の人物を見つめた。


「皆さん! 盆踊りの時間です!」


 高台の上に立つ人物、光夜は巨大なハンマーで鐘の音を鳴らす。

 衝撃で鐘は高台から吹き飛ばされる。

 代わりに太鼓が置かれて、光夜はバチを手に持った。


「今夜は寝かさないぞ! 朝まで生放送だ!」

「なぁにやってるんですかぁ!?」


 鐘は地面を飛び跳ねながら、音を鳴らす。

 光夜は鐘の音に合わせて、太鼓を叩く。


「コーヒー飲もう! モーモー入れて、カフェオレ飲もう!」


 高台に二足歩行の牛とカカオが出現する。

 光夜は踊りながら、太鼓をたたき続ける。


「何か変なの居るぅ!」

「カフェオレ飲んで、お腹壊して……。ってこんなユニットで売れるかぁ!」


 光夜は太鼓を蹴り飛ばし、牛とカカオを投げつける。

 牛達は鐘に叩きつけられ、大きな音を村中に鳴らす。


「何してるんですか!? 近所迷惑ですよ!」

「よぉ、アリスか。こんだけ騒げば住民達も外を見て、以上に気づくだろう」

「真面目にやってたんですか!?」


 光夜は高台から飛び降りた。周囲の様子を見渡しながら、襲撃者に備える。


「今からなら避難が間に合うだろう。戦え奴を残して、全員安全な場所まで……」


 そこで光夜は周囲がシーンっとしている事に気が付いた。

 騒ぎを起こしても。住民たちが家から出てくる様子はない。


「誰も気づかなかったぁ……」


 光夜は四つん這いになりながら、落ち込みを現わす。

 

「クソォ! ユニットが! ユニットが悪いんだ!」

「違うと思います。あんだ騒いでみんな起きないのはおかしいですよ!」


 アリスは異常事態が起きたと判断し、窓から近くの家の中を覗く。

 そこにはベッドに寝転ぶ、老夫妻の姿があった。


「普通に寝てるぅ!?」

「畜生! こうなったら!」


 光夜は松明を片手に持つ。腕を掲げて、肘を引いた。


「死ねぇ! 死ねぇ! お前ら何て、燃えてまえ!」

「貴方は何がしたいんですか!?」


 アリスの制止も聞かず、光夜は松明を投げつけた。

 勢いよく飛んだ松明は、村の外まで飛んでいく。

 アリスはキョトンとしながら、松明が飛んだ方向を見つめた。


 その先から悲鳴が聞こえて来た。

 光夜は指を鳴らしながら、自己アピールをする。


「秘儀。不意打ち」

「攻撃だったんですか!?」


 戸惑うアリスを他所に、光夜は松明を投げた方へ走り出す。


「何処へ行く気ですか?」

「住民たちはぐっすりおねんね中らしい。だったらやる事は一つだろ?」


 光夜は住民が飼っている動物の方へ走り出した。

 アリスも慌てて後を追いかける。


「一人で行くつもりですか? 無茶です! 相手は人間じゃありませんよ!」


 アリスはブタに跨る光夜を、止めようとした。

 あの巨大枯らして、敵の正体はゴブリンタイプだろう。

 きちんと訓練された衛士出なければ、まともに相手にする事が出来ない。


 ここまで接近されたら衛兵が来るのを、待っている暇はない。

 ならば村を捨てて村人を救うのが、最も懸命な判断なはずだ。


「アリス。こんな言葉を知っているか? “無茶かもしれないけど、無理じゃない”」

「貴方は確かに強いでしょうが、敵は多勢。ゴブリンを甘く見ててはいけません」

「悪いが止めても無駄だ。今から村人全員を起こしていたら、犠牲が出る」


 光夜はブタのお尻の方向へ体を向けた。

 軽くお尻を叩いて、ブタに向かって軽く挨拶をする。


「行くぞ。お前を戦地に連れて行って悪いが、力を貸してくれ」

「ブヒ! ブヒ!」


 光夜の声が届いたのか、ブタはあらぬ方向へ歩き始めた。

 アリスは溜息を吐きながら、ブタの上から光夜を下す。


「せめて、馬で行きましょうよ……」


 当然のツッコミが、冷たい星空の下に流れるのだった。


──────────────────────────────


 敵の集団、ゴブリン軍団は既に村眼前に近づいていた。

 松明を片手に持ちながら、三メートルを超える巨体でゆっくり近づく。

 村人が起きる心配はない。魔界の秘薬で少しだけ深い眠りについている。


「ククク。居るぜ、居るぜ! 沢山居るぜ! 狩りの獲物がようぉ~」


 ゴブリンの一匹が、こん棒を構えて村に近づく。

 村の簡易防壁を壊しながら、今まさに村に侵入しようとした。

 最背面にはリーダー格の三つ目のゴブリンが、大剣を構えている。


「オスは殺せ。メスは半殺しにして、今日のご馳走にだ」

「ヘイ。ちなみに多く殺した奴が、ご褒美を多めに貰えると言う事で?」

「ああそうだ。出来るだけ追い込んで。恐怖を刻ませてから殺せ」


 ゴブリンの集団が歓声をあげる。殺しは大好きだ。

 敵の血を求め、肉を喰らい骨は捨て去る。

 魔物達の掟だ。この村を焼き払った暁には、もっと大きな町を襲う予定だった。


「さあ、そろそろ血の宴と行こうや!」

「親父! 何者かがこっちに来やす! 松明が飛んで来た方向です!」


 ゴブリンの一匹が膝に手を置いて、頭を下げながら報告する。

 先程の松明で仲間が重症を負った。

 少なくとも秘薬が聞いていない、厄介者がまだ村に居ると言う事だ。


「丁度良い。ここまで誘き寄せろ。舐めたマネをした、落としまえつけてやる」

「も、もう直ぐそこまで来ています!」


 大きなエンジン音と共に、何かが確かに近づいている。

 音の方角を見つめると、一人の青年が見た事のないものに乗っていた。

 サングラスをかけて飴玉を加えながら、夜中に大きな音を出していた。


 背後には金髪の少女が座っている。

 両方とも剣を帯びている。この町の衛兵か何かだろうか。

 ゴブリン隊長は警戒しながら、青年の到着を待った。


「テメェらか。夜中にブンブンならす、近所迷惑ものは」

「いや、それはテメェだろ……。罪を押し付けるな」

「何言ってんだ? テメェの部下がさっきから煩くてかなわねぇ」


 いつの間にか青年が乗っていた謎の物体に、部下が乗っていた。

 

「ええ!? いつの間に!」

「近所迷惑だって、分かんねぇのか! クソガキが!」


 青年は板を持って、無理矢理乗せられたゴブリンにたたきつけられた。

 そのまま謎の物体と共に、蹴り飛ばされる。


「何もんだテメェ? この村の人間じゃないな?」

「俺は光夜。みんなからタツと呼ばれている」

「読んでいませんし、何処にも要素がありません!」


 背後に立つ少女が、青年にツッコミを入れた。

 どうやら光夜よりマシな性格のようだ。

 

「人の寝込み襲うとは、随分と悪趣味じゃねえか」


 光夜はニヤリと笑いながら、ゴブリン達の前に立ち塞がった。

 

「それとも何だ? ゴブリンっていうのは睡眠薬盛らないと、人を殺せないのか?」

「随分と舐めた口を利くな。生ごみの一匹くらい訳がねぇぜ」


 ゴブリンの一匹が腕を回しながら、光夜に近づいた。

 光夜は恐れる様子を見せない。ゴブリンは舌打ちをした。

 恐怖を感じない人間は面白くない。直ぐに恐れを抱かせてやると誓う。


「最も効率的な方法を選んだまでよ。こっちも被害は出したくないのでね」

「なるほど。理にかなったやり方だな。だが俺には通用しなかったようだ」

「そこが疑問だ。何故だ? この町の飯には、全て秘薬を盛ったはずだ」


 村の中に居る間者に、薬を盛る様指示を出した。

 強打された夕食全てに、睡眠薬が混入されている。

 だが目の前の青年はピンピンとしていた。


「教えてやろう。アホに眠剤は利かないんじゃ!」

「いや、意味わかんねぇ!」


 光夜は近づいたゴブリンに、飛び掛かった。

 ゴブリンは肩を鳴らしながら、光夜の攻撃に備える。


「ふん! そんな貧弱な一撃!」


 ゴブリンは光夜の攻撃を、体で受け止めようとした。

 魔物は人間と根本的体のつくりが違う。

 何より貧弱そうな見た目の子供が、ダメージを与えられるはずがない。


 光夜は剣を構えずに、拳を握りしめてゴブリンと距離を詰める。

 ゴブリンの腹筋目掛けて、握った拳を走らせる。

 ゴブリンはその強靭な肉体で、あっさり攻撃を跳ね返す……。はずだった。


 ゴブリンに走ったのは、始めのて感じる程の激痛だ。

 その場で蹲り、背後に足を動かす。


「バカな……。生ごみがこれ程の力を……?」

「今のは挨拶替わりだ。生憎教育が悪いもんでね」


 攻撃を受けたゴブリンは、本能的に恐怖を感じた。

 目の前の男はかなり強い。そして今の一撃は本気ではない。


「全員まとめてかかってきな。正し命が惜しくない者だけ、相手にしてやるぜ」

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