第3話 スキル融合

「なるほど……。事情は察しました」


 シスターは二都達の事情を聞いて、優しく微笑んだ。

 彼らはアリスにした説明と、全く同じ事を話したのだが。

 シスターには全て真実だと伝わったようだ。


「分かりました。暫く教会に泊まる事を認めましょう」

「ありがとうございます。神とシスターのご慈悲に、感謝いたします」


 二都は一礼をしながら、丁寧に告げた。

 アリスは呆気に取られた。意外と礼儀を弁えている人だ。

 侵入こそ無茶苦茶だったが、意外としっかりした一面もある。


「ただし永住は私の一存では出来ません。それには村長や村人の理解が必要です」

「心配ございません。我々は暫くすれば、村を出ます」


 二都は故郷を諦めた訳はない。こうしている間にも、地球は侵略されている。

 なんとか帰る手段がないか、彼なりに考えていた。

 

「ですが働かざるもの喰うべからず。宿代として、お手伝いをお願いします」

「腕っぷしなら自信があります。それに俺の後輩は」


 二都はその場で指を鳴らした。何もない空間にモップが出る。

 光夜は即座にモップを掴み、教会内部の掃除を開始した。


「器用です。家事は一通りできます。戦闘力と頭以外は俺より上です」

「貴方も賢いとはいませんけどね……」


 アリスは隣から毒づいた。


「こら、アリス。客人に失礼ですよ」

「大丈夫ですよ。事実ですし。敢えて訂正するなら、俺はアホだ、ボケ!」


 二都は声を荒げてアリスの背中を叩いた。

 強い衝撃が体を走り、思わず前のめりになる。


「思いっきり怒っているじゃないですか……」

「西の人間のバカは禁句。アホと呼べ」


 二都の背後に周ったユウミが、“アホ”と書いた紙を彼の頭に張る。

 彼は瞬時に振り返り、アリス達に紙を見せた。


「これぞ西の証! アホそのものだ!」


 爆発音と共に、二都の背後に煙が上がる。

 アリスはこの異常事態に、一々ツッコミを入れなくなった。

 関わるだけで疲れるのだと、気が付いたのだ。


「ふむ。貴方達、力仕事は得意と言ってましたね?」

「ええ。訓練は受けているつもりです」

「ならば少し頼みたい事があります」


──────────────────────────────


 二都達が頼まれた仕事は、夜の仕事だった。

 村にある小さな酒場。今日はそこで働いて欲しいと言われた。

 店主には話が通っている。二都達は店主を見て驚いた。


 バーの様な店の雰囲気から、マスター的な人を想像していたが。

 店主はまだ若いであろう女性だったからだ。

 それも大人しいそうな、か細い体をしている。


「シ、シスターからお話は伺っております……」


 女性は見た目通りのか弱い声で、挨拶をした。

 彼女は背後の客をチラ見しながら、助けを求める用に二都達に近づく。

 仕事の詳細は聞いていない。彼らに断る選択肢がないからだ。


 だが雰囲気で二都は大体の事を察した。

 本来なら村の農家達が、仕事帰りに賑わすだろうこの酒場。

 明らかに場違いな者達が、荒らしまわっている。


 毛皮を巻ながら、角の生えた帽子を被っている。

 大柄な体に似合う大きな斧を、傍らに置いていた。

 本来の客人達を追い出して、我がもの顔で店を荒らしまわっている。


「蛮族だな。あれは。おっと、蛮族に失礼な下品さだな」


 二都は小声で皮肉を口にした。


「三日くらい前から村に居座って、村人を困らせて楽しんでいます……」

「それで夜になったら酒場を占拠して、騒ぐか。お灸をすえないとね」


 二都はスーツに早着替えした。お盆を片手にウェイター気分になる。


「オラぁ! さっさと酒持ってこいや!」


 集団の一人が机を蹴り飛ばいた。

 二都はニヤリと笑いながら、お盆を持って集団に近づく。


「お持ちしました」


 二都はテーブルの上に、器を置いた。


「遅ぇよ! って、何だこりゃ!?」

「ところてんです。お熱いうちに、お召し上がりください」

「テメェ、舐めてんのか!?」


 叫ぶ男が二都に殴りかかろうとした。

 拳を振り上げる寸前に、二都は男の頭を掴む。

 そのままところてんに男を叩きつける。


「食えやぁ! ところてんが溶けるやろぉ!」

「熱い! ところてんなのに熱い!」


 男の顔に火傷の後が出来る。


「この野郎……。舐めたマネしやがって!」


 集団が二都の事を一斉に囲う。斧を手に持ち、臨戦態勢を整えた。

 一緒に着いてきたユウミとアリスは、心配そうに二都を見つめる。


「ヤバいですよ……。私達も応戦しないと!」

「心配無用だ。先輩は俺の2倍は強いから」


 光夜は参戦しようとするユウミを、手で止める。

 二都は軽くジャンプをしながら、指で蛮族を挑発する。


「舐めてんじゃねぇ! ぞこの野郎!」


 一人の男が斧を振り回した。剛腕で放たれる一撃。

 僅かな風圧が、ユウミ達にも届くほどだ。

 二都は微動だにせず、攻撃を黙って見つめていた。


 攻撃が当たる直前。彼はカードを取り出して背後に投げた。

 次の瞬間二都に向かっていた斧は、何かに弾かれたように吹き飛ばされる。


「な、なんだ今のは!?」

「鏡二都の異能力。見た技をカードに秘め、その力を解放する」


 二都は超能力の力を解放して、男を持ち上げた。

 男は何が何だか分からずに、空中で暴れまわる。


「サメとピラニアどっちに食われたい?」

「な、何を言ってんだ……?」

「俺はただ力を再現するだけじゃない。その力を融合させる事が出来る」


 二都はもう一枚のカードを投げた。カードに宿る力を解放する。

 

「スキルフュージョン。それが俺の異能力だ」


 二都は超能力を使って、男を背後に投げつけた。

 男は壁に向かって放り出される。すると壁から水の渦が出現した。

 渦から巨大魚が出現し、男の事を加える。


「無礼物はシーラカンスにでも、喰われていろ!」

「選択肢の意味ねぇ!」


 アリスがツッコミを入れると同時に、飲み込まれる。

 不味かったらしく、シーラカンスは男を吐き出した。

 吐き出され男は恐竜の骨となって、壁にたたきつけられる。


「生きた化石が、屍の化石を吐き出したぁ!」


 壁に衝突した化石は、バラバラに崩れ去った。

 集団の一人が脈を測る。すると震えながら、後ずさりをした。


「あ……。あああ……。生きてる!」

「生きてるの!? 化石なのに生きてるの!?」


 集団は二都の能力に、恐れを抱いた。

 リーダーと思わしき、眼帯の男が周囲に発破をかける。


「お前らビビるな! 敵は一人! 一気にかかれば怖くない!」


 集団の一人が二都に飛び掛かった。

 二都がカードを取り出す好きに、反対側の一人が飛び掛かる。


「へ! その隙が命取りだ!」


 更にもう一人が斧を掲げて、二都に走る。

 一人に対処すれば、二人に対応出来ない。

 そう踏んで集団は一気に攻撃を仕掛けた。


 二都はカードを仕舞い、両手を広げて首を振った。

 眼帯の男は勝ち誇った顔で、二都の事を見つめる。


「諦めたか! さっさと消えな!」


 二都は最初の一撃を、体を傾けて回避する。

 次はかわせまいと、反対側の一人が斧を振った。

 

「パーはチョキに弱いぜ!」


 二都は人差し指と中指で、斧の刃を挟んだ。

 斧を持つ人物は必死で力を籠めるが、動く気配がない。

 

「止めときな、アンタの手が先に壊れる」


 最後の一人が二都に突進をした。

 体当たりなら受け止められる心配はない。

 二都は溜息を吐きながら、足を前に突き出す。


 彼は片足で突進してくる男を受け止めた。

 そのまま蹴り飛ばして、壁にたたきつける。


「残念だけど、俺らは異能力を使わなくてもそれなりに強いんだよ」


 斧を持った人物を振り回した二都。回避されて体勢を崩した人物に投げつける。

 残るは眼帯の男だけになった。流石のリーダー格も、異常事態に圧倒されている。

 二都は右手を前に突き出して、構えを取った。


「まだやるなら、受けて立つけど」

「ぐぬぬ……。その面、覚えたからな!」


 眼帯の男は仲間を置いて、一目散に逃げ出そうとした。

 二都は男と距離を詰めて、腹部を殴りつける。


「逃がすと思ったか? 甘えるな!」


 二都は蹲った眼帯の男を、蹴り飛ばした。

 指を鳴らして異能力を解放する。

 男は壁に激突する前に、姿を消す。

 

「ええ!? 逃げ出したのに追い打ち!?」

「逃がしてやるとは、一言も言ってないだろ?」


 光夜が当然だよねと言う態度で、アリスに言う。

 少々おふざけがあったが、二都の実力を思い知ったユウミ達。

 光夜は本人によれると、彼の半分程の強さがあると言う。


 アリスは勿論の事、世界を見て来たユウミでもこれ程の戦士は見た事がない。

 ユウミはある考えから、目を輝かせながら二都を見つめた。


「そう言えば、消えた眼帯の奴は何処へやったんですか?」


 アリスがふと気が付いて、疑問を口にする。

 すると二都はニヤリと笑って、空中に映像を出した。

 そこには砂浜に埋まった、眼帯の男が映し出されている。


「日光浴」

「いや! 今夜ですよね! 日光ありませんけど! だけど焼けてる!」


 男の肌は日光に照らされたの如く、焼けていた。

 必死で砂浜から抜け出そうとするが、身動きが取れ無さそうだ。

 二都は指を鳴らして、更に男を移動させた。


「更に! からし鍋の中!」


 眼帯の男は真っ赤に染まったスープの中に、叩きつけられた。

 悲鳴を上げながら飛び上がり、目を充血させる。


「何処ですかここ!? 日光浴の後だから、地獄だよ! 日光なかったけど!」


 二都は更に指を鳴らして、眼帯の男を移動させた。

 眼帯の男は元の酒場に戻って来る。


「テメェ。次迷惑かけたら、次はハバネロで煮込むぞ」

「脅しの意味が超越してるよ!」


 真っ赤に染まった体を、震えさせながら眼帯の男は頭を下げる。

 

「すいませんでした! 二度とこの村に近寄りません! 調子に乗ってました!」

「分かれば良い。だったら、反省として……!」


 二都は鍋を持って来て、男の口元に赤い液体を入れた。

 それはからしで煮込まれた、スープだった。


「責任取って美味しく頂けや!」

「ぎゃああ! 体の外と内が同時に燃える!」


 眼帯の男は気絶した。二都は縄を取り出して、男たちを縛り上げる。

 

「終わったぞ。後の事は村の人に任せる」

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