第二十話 呼び出し大作戦

 〜周滝音アグネスタキオン視点〜






 僕は正直困惑していた。何故か、あの大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんからの呼び出しのメッセージが届いていたのだ。


「『あなたに話したいことがあるの。だから屋上に来て』って言っていたけど、どう言う意図なんだろう?」


 愛の告白なんてことは100パーセントありえない。でも、彼女がわざわざ僕を呼び出すと言うことは、僕を呼び出すことで彼女にとって何かメリットがあるのだろう。


 さて、どんな登場シーンで現れようか? 僕は一応おバカで頭がイカれたキャラ設定で自身を偽っている。まずはいつも通りにおバカを演じて彼女に接しようかな?


「この先、僕の身にどんなことが起きようとも、僕は偽りの自分を演じようじゃないか」


 屋上に辿り着き、扉を開ける。


大和鮮赤ダイワスカーレットちゃん! パパだよ! 君の方から呼び出してくれるってことは、やっと僕のことを父親のように接してくれる決心が付いてくれたんだね! パパは嬉しいよ!」


 両手を上げて笑みを浮かべ、いつも通りのおバカな発言をする。


 さて、大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんはどんな反応をするのかな?


「あ、来たわね。あなたに紹介したい人が居るのよ」


「僕に紹介したい人? って、まさか噂の大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんの彼氏じゃないよね! パパは許さないからね! どこにいる! アグネスタキオンに頼んで蹴りを入れてやる」


 首を左右に振って辺りを見渡す。


 娘が紹介したい人がいると言われれば、世間の父親は娘の彼氏だと思い込むだろう。そうなれば、父親は娘が離れる寂しさで彼氏に対して脅しのようなことを言うはず。


 僕のこの反応は世間のお父さんたちと同じだよね?


大和鮮赤ダイワスカーレットの彼氏じゃないけれど、この私を蹴ろうって言うの? 面白いことを言うわね」


 どこからか聞き覚えのある声が耳に入ったかと思うと、大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんの背後から、銀髪のゆるふわロングヘアーの髪に、赤い瞳を持つ女の子は姿を現す。


「君は袖無衣装ローブデコルテちゃん! 僕の交配相手! いや、僕の嫁!」


 彼女の姿を見た瞬間、僕は彼女に駆け出す。


 大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんの隣には魚華ウオッカちゃんもいるけれど、彼女は背後にいなければ蹴りを入れられることはない。


「誰が嫁よ! 気色悪いわよ!」


「グホッ!」


 袖無衣装ローブデコルテちゃんとの距離が1メートル以内に入った瞬間、僕の腹部に衝撃を受ける。


 僕としたことが迂闊だった。魚華ウオッカちゃんは背後に居なければ問題ないと思っていたが、袖無衣装ローブデコルテちゃんが防衛本能で反撃しないと言う保証はどこにもなかったのに、ついいつものおふざけと言うノリで彼女に近付いてしまった。


 腹部を蹴られた衝撃で、僕の体は屋上の上を転がる。


 これが袖無衣装ローブデコルテちゃんの蹴りか。魚華ウオッカちゃんの蹴りに比べれば可愛いものだ。


 僕がこんなキャラを演じている以上、当然反撃を受けるようなことは想定してある。だからどんなに蹴られても耐えられるように、体を鍛えてはある。


 ゆっくりと立ち上がり、袖無衣装ローブデコルテちゃんを見据える。


「あら? 狙いを外してしまったようね。あなたのキンタマーニを狙って蹴ったつもりだったのだけど」


 キンタマーニとは競走馬の名前だけど、きっと僕のアレのことを指しているよね?


 半目になりながら告げる彼女の言葉を聞いた瞬間、体に寒気を感じる。


 袖無衣装ローブデコルテちゃんは本気だ! 本気で僕のキンタマーニを蹴ろうとしていた。


 いくら筋トレで体を鍛えても、キンタマーニだけは簡単には鍛えることができない。


「僕のキンタマーニがナニをしたって言うんだ! まだナニもしていないじゃないか!」


 両手を股間に置いてガードをしつつ、声を上げる。


「まだってことは、これからしようとしていたの? やっぱり今の内に潰して去勢した方が良さそうだわ」


「言葉の揚げ足を取らないで!」


「確かにそっちの方が良さそうね。虚勢してセン馬のようになれば、あたしに抱き着こうとしてこなくなるかもしれないし、あたしも賛成!」


「アタイも賛成だ。抱き付かなくなれば学園の女子生徒は被害を受けないで済む」


「全員の意見が一致したと言うことで、早速周滝音アグネスタキオンのセン馬計画を実行するとしますか」


 彼女たちは一歩、また一歩と近付き、距離を詰めて行く。その度に僕は股間を両手で隠しながら後に後退していった。


 だが、屋上である以上、永遠と床が続いている訳ではなく、僕は転落防止の柵に背中をぶつけた。


 まずい。もう逃げ道がなくなった。


「お願い! 僕のキンタマーニだけは許して! 何でも言うことを聞くから!」


 切羽詰まっていた僕は、思わず声を上げた。だけどその瞬間に激しく後悔することになる。


 あれ? これって意味がなくない? 何でも言うことを聞くから、キンタマーニを許してって言っても、その何でもの中に去勢をするって言うのも含まれていることになる。


 あ、終わった。僕は生まれながらに共にいるキンタマーニとおさらばすることになるんだ。


 さよなら、僕のキンタマーニ、そしてこれからよろしく、新たな第3の性。


「言質取ったわよ。何でもと言ったのだから、あなたには大気釈迦流エアシャカールを呼び出すのを手伝ってもらうから」


 袖無衣装ローブデコルテちゃんの言葉に困惑する。


 え? そんなことで僕の去勢手術は許されるの?


 状況が理解できずにいると、大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんから種明かしをしてくれた。


 どうやら袖無衣装ローブデコルテちゃんが大気釈迦流エアシャカールと話がしたいらしく、その呼び出しに僕を使うことを決めた。そして強制的に協力させるために、僕の偽りの性格を利用し、先ほどのような出来事を起こしたと言う。


 最初から、僕は彼女たちの手の平の上で踊らされていたようだ。


「あ、でも、あたしはあなたのキンタマーニを潰しても良いとは99パーセントは思っているから」


 大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんの言葉に再び凍り付きそうになる。


 もう、このキャラで生きて行くのはやめた方が良いかもしれない。本当に去勢されてしまう。

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