第十七話 逃げる大和鮮赤
〜
これは、あたしがとある喫茶店に逃げ込む前の出来事。あたしは運悪くも
彼を目の前にして鳥肌が立ってしまったあたしは、彼に背を向けると全速力で走り抜ける。
「
「嫌だって言っているでしょう!」
「まだ何もしていないじゃないか!」
「まだってことは、これからするつもりだったんじゃないのよ! 誰か! 変質者に追われています! 助けて!」
誰かに助けてもらおうと声を上げるも、今走っている場所は近道をするために通りかかった裏路地、もし誰かがあたしの声を聞いたとしても、どこから聞こえたのかが分かり難い。
こんな時に
こんな時にそんなことを考えるなんて、ラブコメ作品の読みすぎかしら?
あれって確か、何度か来たことのある喫茶店の看板よね?
マスターに助けを求めれば、匿ってくれるかもしれない。毎回、人がほぼ0人と言う寂しい場所だけどゆっくりしたい時に利用できる穴場の店として、あたし個人は重宝している。
急いで階段を駆け下り、扉を勢い良く開ける。
扉を開けたと同時に来店客が来たことを知らせる鈴の音が鳴った。
あれ? 今日はいつも以上に人が居るじゃない? いつもとは違う時間帯に来たからなのかしら?
「マスター、悪いけれど厨房に入らせてもらうわ」
厨房に入ることを告げ、マスターの承諾も得ないまま厨房に入ると身を隠す。
「
走ったことで心拍数が上がった影響により、心臓の鼓動が聞こえてくる中、あの男の声が耳に入ってきた。
やっぱり撒くことはできなかったみたいね。店内にまで追いかけてくるなんて。こうなってしまった以上、マスターがあたしの隠れ場所を告げないことを祈るしかないわ。
身を隠しているから、カウンター席の方がどうなっているのかは分からない。今のあたしは、耳に入ってくる声だけでどんな状況なのかを把握しなければならない。
足音が近付いてくる。どうやらカウンターに向かったようね。
「銀髪のゆるふわロングヘアーに赤い瞳! もしかして君は噂の
え?
逃げて隠れることばかり考えていたから、来店客の顔をまともに見ていなかった。あの子が居たなんてね。
「いえ、帰国子女の樫の女王よ」
それもそうでしょう。肯定すれば、真名を明かすことになるのだから。
「やっぱり
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
そうだった。アグネスタキオンはローブデコルテと交配し、スイートメデューサと呼ばれる子を産む。彼はあたしを娘だと言うのだ。当然彼女のことを交配相手だと言ってしまってもおかしくはない。
でも、相手はあの
「そこまでだ。
「そうですよ。いくら他校の生徒でも、それ以上のことをしようとするのであれば、生徒会長としても見過ごす訳にはいきません。停学処分を学園に申請させていただきます」
この声って
現場で何が起きているのか気になり、ちょっとだけ顔を出す。
視界には、
「あれ?
「今気付いたのかよ。さっきからお前が抱き付こうとした女の隣に居たじゃないか」
「ごめん、僕の目には
「とにかく、帰るぞ。お前が居たら店に迷惑がかかる。
「分かりました」
「今、支払いを完了しました。ご馳走様です」
「はぁ? ご馳走様? お前、まさか」
「ええ、既に注文された全員分の支払いを済ませました。あなたの部下が、わたくしたちに迷惑をかけたのですから、当然ですわよね?」
「やってくれたな。まぁ、バカが迷惑をかけたと言うことは事実だ。それは甘んじよう。くそう。
「いやだああああああぁぁぁぁぁ! 僕は
襟首を掴まれ、引き摺られながら
あ、こっちに来た! また隠れないと見つかってしまう!
再び身を隠し、扉が開いて彼らが出て行くのを待つ。
数秒後に鈴の音がなり、2人が外に出たと言うことを音で認識すると、ようやくカウンター席に移動した。
「あなたも最悪な日よね。あの男に嫁扱いをされるなんて」
「あなたは
私の顔を見た彼女は睨み付けるような視線を送ってくる。
それもそうでしょう。偶然とは言え、あたしがこの店に逃げ込んだ結果、彼女が怖い思いをしてしまったのだから。
「桜花賞での借りは
そう思っていたのも束の間、彼女はあたしに宣戦布告をしてきた。
「あれ? あたしがここに逃げ込んで怖い思いをしたから睨んでいるんじゃないの?」
「そんなので睨む訳がないでしょうが!
彼女の言葉に苦笑いを浮かべる。実在の競走馬で例えているけれど、全然ぼかしきれていない。
そもそも、日本語での場合はある意味下ネタだけど、キンタマーニはインドネシアのバリ島にあるリゾート地の名前だったはず。
オランダのとある地区の名前がスへフェニンゲンと言うものがあるけど、それが日本語の発音ではスケベニンゲンとなるように、海外ではおかしくない名前なの。
まぁ、日本語も海外では下ネタになるような言葉があるかもしれないけれど、そこまでは知らないわね。
まぁ、ともかく、前回の桜花賞を勝った者として、宣戦布告をしてきた相手を無下に扱う訳にもいかないわ。
「そう、まぁ、あの男のことなんてどうでも良いわ。その宣戦布告受け取った。もし、あたしとあなたが
そう、あたしは負けられない。生前病気で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます