第二話 やはりお前もそう思うか

大気釈迦流エアシャカール視点〜






 連続馬券外し事件の調査をするために、俺は丸善好マルゼンスキー学園長を経由して新堀学園長と連絡を取ってもらった。だが、彼も俺と同じ状況に陥っていると知り、黒幕は別にいると判断した俺は、更なる調査を進める。


「ねぇ、大気釈迦流エアシャカール好い加減にしなよ。馬券なんて外れることが前提なんだよ。20連敗したくらいで怪しみすぎだよ」


 俺の後を付いて来る周滝音アグネスタキオンがやめるように声をかける。だが、俺は彼の言うことを聞くつもりはない。今回の20連敗は通常のものとは違う。


 99パーセントあり得ない外し方なのだ。たった1パーセントが20回連続で来るなんてことは、明かに何かが仕組まれているとしか言いようがない。


「待ってください貴婦人ジェンティルドンナ生徒会長! 大変失礼なことを言うかもしれませんが、勘繰りすぎです」


「いいえ、これは明らかにおかしいです。今回のレースは堅い決着となるはずでした。ですが、人気最下位の馬が馬券内に来るのは異常です。様々なシミュレーションをして見ても、あり得ないと言う結論しか出なかったのですよ。これは裏があるに決まっています」


 廊下を歩いて来ると、聞き覚えのある男女の声が聞こえてきた。


 この声は大和主流ダイワメジャー貴婦人ジェンティルドンナだな。


 奥に向かって歩いて行くと、角を曲がったところで彼女たちと鉢合わせした。


「あら? 見回りにしては、何やら真剣な表情ですね。大気釈迦流エアシャカール


「それはこっちのセリフだ。生徒会長であるお前が、眉間に皺を寄せるなんて珍しいじゃないか。まぁ、良い。俺は今忙しいんだ。お前の相手をしている場合ではない。じゃあな」


「お待ちなさい。もしかして、先ほどのレースに関する調査をしているのでしょうか?」


 彼女の横を通り過ぎ、そのまま奥へと進もうとしたところで、俺の足は止まる。


「お前、どうしてそのことを」


「やはりそうでしたか。ワタクシもその件で調べていますの。せっかくだから手を組みませんか?」


「お前が……この俺と?」


「ええ、ワタクシが情報を集めますので、実行役をお願いしたいのです」


 貴婦人ジェンティルドンナの提案に思考を巡らせる。


 確かに、今回の事件の調査は簡単にはいかないかもしれない。人手が多いに越したことはないだろう。


 だが、こいつのことだ。何か裏がある可能性だってあり得る。しかし俺が入手できない情報を手に入れられるかもしれない。生徒会長と言う権力を使えば、俺以上の情報を集めることは可能のはずだ。デメリットよりもメリットの方が上回るか。


「分かった。その条件を呑もう。手を組んでやる」


 協力関係を気付くことを告げると、貴婦人ジェンティルドンナが手を差し伸べる。その手を握り返し、互いに握手を交わす。


「お願いしますね。今回の事件を解決するのはあなたです」


 事件の解決を任せると、彼女は歩き始める。


「お前も大変だな」


「それはお互い様だよ。頭の堅い上司を持つと部下は苦労するね」


 すれ違い様に、大和主流ダイワメジャー周滝音アグネスタキオンが言葉を交わすのが耳に入ってくる。


 誰の頭が堅いだ! 何も分かっていないのはお前たちのほうだ。


 情報収集はあの女に任せ、俺は一度風紀委員室に帰ることにした。


 部屋に戻り、椅子に腰かけて待つこと1時間。タブレットにメッセージが届いた。

タブレットを操作し、内容を確認する。


 これは、過去のレースと出場した馬と騎手のリストか?


 始めから終わりまで、全てに目を通すとあることに気付く。


 これは俺がデータ競馬を外したレースじゃないか! しかもこれらのレースには、全てに共通するものがある!


 それはとある馬と契約している騎手だ。これらのレースには、全てその人物が出馬している。


 この騎手が黒幕である可能性が高いな。


 まずはこいつと接触してみるか。仮に黒幕ではなかったとしても、何かの情報が入手できるかもしれない。


 そのように考えていると、タブレットにお知らせが入った。


【トラちゃんからのお知らせ! 今回とある騎手同士でレース勝負の申し込みがありました。場所は札幌競馬場、芝1800メートル、レース名:コスモス賞馬場状態:良、右回り、定員は14頭を予定しております。皆様の参加をお待ちしております】


 どうやら誰かがレース勝負をしたみたいだな。少し気になるが、今は捜査が優先だ。今回のレース、馬券を買うのは見送るとするか。


 見送ることを決めると、俺は目を大きく見開く。


 今回レース勝負を申し込んだやつ、あいつじゃないか。


 まさかこんな形で接触することになるとは思わなかったが、これはチャンスでもある。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。


 タブレットを捜査して参加する意思を示す。


 どうやら間に合ったようで。俺が参加した瞬間に受付が終了した。


 応募があってまだ1分も経っていないのに全て埋まるまでの時間が短すぎる。やっぱり、何かがあると見て間違いなさそうだな。


「俺は今からレースに参加してくる周滝音アグネスタキオン、お前は俺の厩務員を担当してくれ」


 レースに参加することを決めた俺は、椅子から立ち上がると、耳に特注で作った馬の装飾が施されたピアスを付け、控え室に向かうことにした。

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