第十八話 チェックイン

 目的地の旅館に辿り着いた俺たちは、早速建物の中に入る。


「それじゃ、早速チェックインをしようか」


 受付に向かい、チェックインを始めることにした。フロントには20代と思われる女性が受付を担当しているようで、彼女に声をかける。


「すみません。予約していた東海ですが」


「東海様ですね。少々お待ちください」


 受付嬢が名簿らしきものを確認する。すると、彼女の表情は苦笑いへと変わった。


「男性1人女性3人、牝馬1頭ですね」


『おおー! ちゃんと私も数に入れられている! さすが帝王!』


 自分も仲間はずれにされていなかったことにハルウララは喜びの声をあげる。


 彼女の反応を見る限り、どうやら正解だったようだな。


 旅館に電話を入れた時、最初は男1人、女3人の予定だった。しかし、当日のことを考えると、ハルウララが文句を言って旅館の人に迷惑をかけることになるだろうと判断し、彼女も数に入れた。


 電話先で対応した方が『え?』と言った声が聞こえてしまい、当時の俺は苦笑いを浮かべてしまっていたのを思い出す。


「こちらが男性と牝馬の方の部屋となります。そしてこちらが女性3人の部屋となります」


『えー! みんな一緒じゃないの!』


「当たり前だ。年頃の男女が同じ部屋で寝泊まりする訳にはいかないだろうが」


『でも、私だって動物と言う括りなら、クロちゃんたちと同じメスだよ』


「そんな大雑把に括るな。お前は人間ではないだろうが」


 これ以上、フロントの前に居ると他の客の邪魔になってしまう。


 もう一つの鍵をクロに渡し、俺たちは自分の部屋へと向かうことにした。


 俺たちとクロたちの部屋は隣同士だ。これなら、ハルウララが気軽に遊びに行くことができるだろう。


 ロックを外し、扉を開けて中に入る。旅館と言うだけあって、和を感じさせる内装になっていた床は畳であり、中央にはテーブルや座布団などが置かれている。


『温泉だ! 部屋の奥が温泉になっている!』


 ハルウララが部屋の奥にある温泉へと走って行った。


 この部屋は露天風呂付きの部屋だ。一応別に浴室もあるが、入浴中にハルウララがジッと部屋で待っている補償はない。だから露天風呂付きの部屋を借り、他の客たちの迷惑になるリスクを減らしたのだ。


『さぁ、帝王! 覗きイベントの始まりだよ!』


「誰がするか!」


『ええー、アニメや漫画の定番じゃない。事故で女湯に入ってしまった主人公が、ヒロインたちと入浴をすることで、男性視聴者や読者のニーズを満たすと言う最大のイベントだよ』


「いや、アニメや漫画の話だろうが、フィクションを持ち込むなよ」


 本気で言っているのか、ボケているのか良く分からない彼女にツッコミを入れる。


 ハルウララが器用にスライドガラスを開けて扉を開け、外に出る。すると、部屋の中に風が入ってきた。


「見てよ、露天風呂があるわ!」


「へえ、雰囲気があって良いわね」


「気持ちよさそうですぅ」


『あ、クロちゃんたちの声が聞こえてきた。みんな、もしかして裸? 今からスケベ人間と化した帝王が覗きに行くからね』


「そんなことする訳ないだろうが!」


 ハルウララの言葉に焦ってしまった俺は、思わず声を上げて全力で否定した。


 もしかして、露天風呂付きの部屋にしたのが仇となってしまっただろうか?


 クロたちとは入浴時間をずらして入った方がよさそうだな。


「ハルウララ、ちょっと良いか」


『何?』


 手招きをして、ハルウララを部屋の中に呼び寄せる。そして小声で彼女に言った。


「後で上手い具合にクロたちの入浴時間を聞いておいてくれないか?」


『なるほど、さっきは否定したけれど、覗きに行く気だね。やっぱり、温泉イベントは必須だよね。帝王はエッチ、スケッチ、ワンタッチだね』


 よく意味の分からないことを言い始めるハルウララに対して、小さくため息を吐く。


 入浴中のトラブルを防ぐために言っただけなのに、どうしてそんな発想になるんだよ。


『それじゃ、早速行って聞き出してくるよ! ハルウララ、いっきまーす!』


 元気良く声を上げると、ハルウララは部屋から出て行く。


「さてと、あいつが戻ってくるまで寛ぐとするか」


 畳の上に座り、テーブルの上に置かれているパンフレットに目を通す。


 パンフレットはこの旅館のことや、近くの観光名所などが書かれてあった。


『帝王! 帝王!』


 俺の名を呼ぶハルウララの声が聞こえ、そちらに顔を向ける。


 どうやら、ハルウララがクロたちから聞き出したようで、戻ってきた。彼女はテーブルの上に飛び乗ると、ジッと俺のことを見て来る。


 テーブルの上に乗ってはいけないが、今のハルウララはヌイグルミだ。一応セーフだろう。


『帝王、クロちゃんからメッセージ』


「クロから?」


『うん、そんなこと言う訳ないでしょう! 帝王のエッチ! だって』


「お前に頼んだ俺がバカだった」


 額に右手を置いて少し後悔する。


 ハルウララのことだ。面白がって、俺が覗きに行くから入浴時間を教えろ、みたいなことを言ったに違いない。


 これは、夜中に入るべきかもしれないな。

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