第二十一話 レースを終えての祝賀会
〜
天皇賞・春が終わり、俺は天皇賞お疲れ様会になぜか参加させられた。
理由は、
その結果、
だって、仕方がないだろう。あんなに真剣な顔でお願いされたら、断れない。
まさか彼があんな顔付きでお願いしてくるとは思っていなかった。レースを通し、何かが変わったのだろう。
「みんな何を飲む? メニューは決まった? 一応品切れの商品はないってお母さんから確認取ったから、どれでも良いよ」
この店の店長の娘である
『帝王は飲み物決まった?』
「ああ、いつものようにコーヒーをブラックで」
『オーダー入りました! イモノソーダワリデ!』
「なんでそうなる! そもそも、イモノソーダワリデは珍名馬じゃないか!」
飲み物をハルウララに伝えた瞬間、彼女は競走馬の名前をオーダーだと言い始める。
『何を言っているの? 私は芋のソーダ割でって言ったんだよ』
「そもそも、酒じゃないか。俺は未成年だぞ」
またいつものおふざけが始まったか。まぁ、こいつなりに場を盛り上げようとしてくれているのだろうな
「なるほど、イモノソーダワリデか。今度メニューに増やせないか、お母さんに聞いてみようかな」
ハルウララのボケを参考に、新メニューを検討する
アルコールを出す喫茶店もあるが、商品名がイモノソーダワリデなんて書かれてあったら、きっと二度見してしまうかもな。
「どんなものでも頼んでいいよ。全部
「なんでそうなるんだ!」
「だって、僕が優勝したら奢ってくれるって言ったじゃない『万が一、今回のレースでお前が優勝するようなことになれば、好きなものを飲ませてやる』って」
彼は
「そうなのか! なら、遠慮しないでたくさん飲ませてもらおう」
世紀末に出てきそうな感じの傷だらけの大男がメニュー表を眺める。彼は確か、ジャングルポケットに騎乗していた騎手だったな。
他校の生徒たちとレースを通して交流を深める。こういうこともあるんだな。俺が出たレースは、義父からの刺客ばかりだったから、他校の生徒と仲良くなろうなんて言う発想が出てこなかった。
まぁ、刺客であったとしても、同じ学園の生徒である
「うん? どうした? そんなにジロジロと見て? 俺の顔に何か付いているか?」
彼のことを見ていると、俺の視線を感じ取ったようで、大男は声をかけてくる。
「あ、いや、名前を知らないからさ。何て呼べば良いか考えていたんだ。ジロジロと見てすまない」
「ワハハハハ! そんなことか。別に好きなように呼べば良い。俺には色々とあだ名が付いていてだな。顔面凶器とか、犯罪歴ありそうとか、人を殴り殺していそうとか。色々と呼ばれている」
彼は笑いながらこれまで言われてきたあだ名を言うが、それってどちらかと言うとあだ名ではなく悪口なのでは?
「ジャングルポケットに騎乗していたが、愛馬が真名なのか?」
「おう、俺の名は
笑いながら言う彼の言葉の意味が一瞬分からなかったが、教育テレビに出て来る歌のお兄さんが、ポケットからガマ口などを取り出して動物見立てているあのことを言っているのだろうと悟った。
何せ、ジャングルポケットの名前の由来は、童謡のジャングルポッケからきている。
「何にせよ。これからよろしくな。だが、レースで競うことになったら、手加減はしない。全力で挑ませてもらう」
この男強いな。もし、同じレースに出走するようなことなれば、簡単には勝たせてはくれないだろう。
「あーくそう! 分かった! 俺もお前だけに奢るとは言っていなかった! こうなったのも自分の責任だ! 今日は俺の奢りだ! 全員好きなものを飲め!」
どうやらさっきまで、己の中で葛藤していたようだ。
『みんなやったね! 他人の金で飲む飲み物は格別に美味しいよ! 私、ここからここまでって言ってみたかったんだよね。
「お母さん! お店の全商品のオーダーが入りました!」
「え、あ、ちょっと待ってくれ! 確かに奢るとは言ったが、全商品って」
ハルウララの言葉を間に受けた
しかし、彼はレースでそれなりに稼いでいたらしく。問題なく支払ってくれた。
彼には少し悪いが、楽しい時間を過ごし、お店にも貢献できて、ある意味ウィンウィンとなったような1日だった。
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