第十九話 レース結果

 〜ジャングルポケット視点〜






『ハァ、ハァ、ハァ、俺は……いったい何着だったんだ』


 ゴール板を駆け抜けた後、俺様は呼吸を整えながら落ち着こうとする。


「5頭揃ってのゴールだったから、全然予想が付かない。勝てたかもしれないし、負けたかもしれない」


 俺様の言葉に答えるかのように、騎乗する叢林衣嚢ジャングルポケットが言葉を返した。どうやら彼自身も分からないようだ。


 周囲の奴らを見るも、他の馬や騎手たちも同じような反応をしている。誰も確信して自分たちが勝ったとは言えないようだ。


 掲示板の方を見るも、写真と言う文字が表示されているだけで、馬番すら表示されてはいない。


 くそう。俺様は勝ったのか? それとも負けてしまったのか? 早く結果が知りたい。


 俺様の番号は8番だ。最低でも、3着以内には入りたい。いや、アグネスタキオンに勝てたのであれば、別に4着でも構わない。あいつに勝つことができたのなら、それだけでこのレースに出走した意味を見出すことができる。やっと報われることができるのだ。


 結果を早く求めていると、掲示板に5着馬の番号が表示される。


 5着に入ったのは5番だ。


『チッ、5着か』


「初めての3000メートル越えのコースで5着に入ったんだ。悪い結果ではないさ。それに俺たちは使用できるアビリティが少なかった。ハンデのある状態で5着だったんだ。寧ろ胸を張って誇って良い」


 5着に自分の番号が表示され、ダイワメジャーは悔しがっている様子だ。しかし、あいつはハンデのある状態で勝負を挑んでいたのか。それで5着なら、大健闘だ。


 再び掲示板が更新され、4着に3番の文字が表示される。


『あちゃ〜、ワイは4着か。後もう少しで馬券内に入れたのになぁ。まぁ、しゃーない。応援してくれたファンには、堪忍してなとしか言えへんけど、全力を出したんや。悔いはないで』


 4着になったタマモクロスは、自分の結果に満足しているみたいだ。まぁ、最後の末足は、まるで稲妻が当たったかのような衝撃を受ける程の速さだったからな。運が良ければ3着以上になっていたかもしれない。


 これで、俺様は少なくとも馬券内は確定した。俺様はいったい何着になるんだ?


 緊張により、再び心臓の鼓動が早鐘を打つ。


 続いて3着の番号が表示される。その番号は、7番だ。


『3着か。最後の伸びが今ひとつだったから、こんな結果になってしまうのも仕方がないだろう』


「うーん、久しぶりの競馬にしては良い方だよね。あーあ、1着を取ったらお小遣いアップのチャンスだったのに。残念」


 3着だったマンハッタンカフェとその騎手が各々言葉を呟く。


 あいつが3着。と言うことは、俺様とアグネスタキオンの一騎打ちと言う訳か。


 そう思っていると、3着から5着までの着差が表示された。なんと、3頭全てが同着と表示されていた。


『なんだって! こんなことがあるのかよ。俺が3着に繰り上がるなんて』


『まさか3頭が3着なんてな。正直ワイは驚いたで。まぁ、これでワイの番号でワイドを買ってくれたファンには報いることができた』


 同着となり、3着となって2頭は驚きの声をあげる。着順に変動のないマンハッタンカフェだけは、何も言わずにいた。


 さぁ、どっちだ? 俺様とアグネスタキオン、どっちが勝ったんだ? 心臓の鼓動が鳴り止まない中、1着と2着の番号が同時に表示される。1着9番、2着8番だ。


 その結果を見て、俺様は真っ先にアグネスタキオンへと近寄る。


『優勝おめでとう。やっぱりお前は凄いやつだな。全力を出し切った俺様が、まだお前に届かないなんて』


『優勝……この僕が?』


 どうやら自分が優勝したと言う実感がないらしく、アグネスタキオンは呆けた口調で言葉を呟いた。


『ああ、ターフビジョンも見て見ろよ。1着アグネスタキオンおめでとうって書いてあるじゃないか』


 これは夢ではなく、現実であることを教えてやるために、ターフビジョンを見るように告げる。すると彼は、ターフビジョンへと顔を向けた。


『そうか。この僕が優勝することができたんだね。なら、僕はこの言葉を君に与えよう。おめでとう。ジャングルポケット』


『あ? え? あ、ああ……ありがとう……って、何で俺様がお前に祝福されないといけない! 可笑しいだろう!』


 どうして彼が俺様のことを称賛するのか、その意図が分からずに、声を上げる。


『掲示板を良く見ろよ。着差がハナ差になっているだろう。ハナ差なんて、首の上げ下げが勝敗の分かれ道だ。つまり、体の位置は同じだった。運が僕の味方をしたに過ぎない。一歩間違えれば、優勝していたのは君の方だったんだよ』


『何だよそれ、ただの結果論じゃないか! そんな理由でおめでとうと言われても、全然嬉しくない!』


 そんな言葉、俺様に対しての慰めにもなりはしない。運がなかったとは言え、負けは負けなんだ。


『どうやら僕が言いたいことを理解してはいないようだね。少しは強くなったから、君への評価を上げて正確に名前で呼んであげようと思っていたのに、これではふざけて名前を呼ばなければならなくなる』


『言っている意味が、全然分からねぇんだよ! 俺様はお前と違ってバカだから、直球でいってくれないと!』


 声を上げ、まどろっこしいことは言うなと告げる。


『分かったよ。君は生前、僕と同じ会場で勝負を行い、2馬身以上の差を付けられた。1馬身を距離に直すと2.4メートル。秒数で直すと、約0.2秒。つまり、0.2秒あれば2.4メートルの距離を走ることができる。今回の君は、僕とハナ差だった。生前成し遂げられなかった0.4秒の壁を越えることができたんだ。ようこそ、僕と同じ景色を見ることができる世界へ。だからおめでとうなんだ』


 やつが言ったおめでとうの言葉の意味を理解した俺様は、胸に熱い思いを感じた。俺はやったのだ。生前成し遂げられなかった壁を、霊馬になった今、ぶち壊すことができたのだ。俺様は成長していた。あの時の努力は、意味がなかった訳ではないのだ。


『おやおや? 泣いているのかい?』


 アグネスタキオンの指摘で、俺様は目から雫を流していることに気付く。


『な、泣いている訳がないだろう。これは……目から汗が流れていただけだ』


 こいつに泣き虫だと思われたくない。そう思い、咄嗟にバレバレの嘘を言ってしまう。


 俺様は負けた。その事実は変えようがない。しかし、俺様の心は晴れており、清々しい気持ちだ。


 負けて悔いなしと言う言葉があるが、今の俺様が感じているこの気持ちが、きっとそうなのだろう。


 今回のレースで、俺様はアグネスタキオンに追い付けていたと言うことを知った。次こそはハナ差ではなく、1馬身差以上を付けてやる。


 追いかける立場から、今度はお前が追いかけてくるような存在になってやるよ。


『おい、こんなところで油を売っている場合か? さっさと勝者の権利であるウイニングランをして来いよ』


『ああ、そうだね。次に同じレースをする機会があったら、今度も勝たせてもらう。君には、僕を追いかけ続ける立場が相応しい』


 捨て台詞を吐くと、アグネスタキオンは騎乗する騎手と共に、観客たちへと向かっていく。


 俺様は最大のライバルの背中を見送った。やっと届いた頂きから見える世界に満足することなく、更に精進することを心に秘めて。






掲示板の結果


1着9番

    >ハナ

2着8番

    >ハナ

3着7番

    >同着 

4着3番

    >同着

5着5番







払い戻し名          払い戻し金

単勝            34560ポイント

馬連             11980P

馬単              7850P

三連単9-8-7      379940P

三連単9-8-3       894450P

三連単9-8-5      6546110P

三連複7-8-9       55780P

三連複3-8-9       145940P

三連複5-8-9     1140210P

ワイド3-8          2240P

   3-9          6460P

   5-8         15390P

   5-9         44340P

   7-8          1050P

   7-9          3040P

   8-9          6890P

   

複勝 3番            900P

   5番           6600P

   7番            380P

   8番           1100P

   9番           3400P


(100P購入での計算《還元率=単勝80%馬連77.5%馬単75%三連単72.5%ワイド77.5%での計算)



ここまで大きい金額になるとは予想外でしたw

次からもう少しバランス良く、馬券内の馬の倍率は渋めにします。

3頭同着3位はやりすぎですねw

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