第九話 控え室での出来事(ライバルたち編)
〜
天皇賞・春が開催される日がやってきた。俺は控え室へと向かい、そして扉を開ける。
控え室の中には解説担当の虎石と
「お、
俺よりも早く来たことに対してマウントを取りたいのか、
「別に生徒会役員は、風紀委員よりも先に来なければならないと言う校則は一切ない。別にお前たちより遅く来ても何も問題ないのだが?」
「
「まさかの身内からの裏切り! でもある意味正論だから反論できない」
風紀委員長からの言葉にショックを受けたようで、
これ以上は、こいつらの相手をしている訳にはいかない。
壁に背を預け、時間が過ぎていくのを待つ。
しばらくすると、他校の生徒たちも次々とやってきた。G Iレースに出走する馬と契約している霊馬騎手だけあって、身に纏うオーラと言うか雰囲気が全然違う。
中にも目を見張るのは本当に学生なのか? と思ってしまう程の大男だ。露出している肌には傷だらけであり、勝負服越しにも膨らんでいる筋肉が、過酷な筋トレを熟していることを物語っていた。
「あの人、来る場所を間違えているんじゃない? どこからどう見ても世紀末に登場していそうな雰囲気だよ」
「確かに場違いな人物のようにも見えるが、勝負服を着ている。間違いなく、俺たちと同じ霊馬騎手だ」
他の人にも聞こえる音量で話すからだ。これは完全に目を付けられたな。流石にレース前で暴力行為を行えば、一発で出走取り消しの処分が行われる。だから喧嘩になるようなことにはならないと思うのだが。
「お前たち、今俺のことを話していたよな?」
「うおっ! 聞こえていた! でも落ち着け、僕には
「おい、聞こえているぞ。お前、帰ったら風紀委員の仕事を3倍にするからな。それはともかく何か用か? こいつがお前のことを見て話題に上げていたことを気にしているのなら、こいつに土下座をさせる。だが、それで納得いかないと言うのであれば、レース終了後に喧嘩を買ってやってもいいぞ」
大男と
「お前は……違うな? なら、こっちか?」
一度
「お前……名は何だ?
「ヒッ! 言っておくが、ジャギーとは契約していないからな!」
「いや、あの馬はレースに一度も出走していないだろうが」
「相手に名を尋ねるときはまず自分から名乗るのが礼儀だろう。お前の名前は何だよ。どうせ
「確かに自分から名乗るのが礼儀だな。俺の名前は
「ジャングルポケットだって!」
あの男が契約している愛馬はジャングルポケットか。なら、ある意味アグネスタキオンとは因縁の仲でもあるな。
「えー、それでは時間になりましたので、出走する愛馬の顕現をお願いします」
虎石が愛馬を出現させるように促し、俺はダイワメジャーを顕現させた。
「なるほど、今回出走する馬は、スピードシンボリ、ハクリヨウ、タマモクロス、メジロデュレン、ダイワメジャー、カミノクレッセ、マンハッタンカフェ、ジャングルポケット、アグネスタキオン、リンカーン、メイショウサムソン、トウカイトリック、エアシャカール、ビートブラック、ウインバリアシオンですね」
それぞれの愛馬を顕現したその後、一頭の馬がアグネスタキオンに近付く。あの馬は、ジャングルポケットか。
『アグネスタキオン、この時を待っていたぜ。皐月賞の借りはここで返す!』
『君、誰だっけ?』
威勢良く言葉を連ねるジャングルポケットに対して、アグネスタキオンが返した言葉は、誰? の一言だった。
『ジャングルポケット様だ! この俺様を忘れたとは言わせないぞ!』
『ジャングル
『ジャングルポケットだ! 何がパケットだよ! 『パ』じゃなくって『ポ』! パピプペポの『ポ』だ!』
『ダンツフレーム君に因縁を付けられるならまだしも、3着だったジャングル
『だからジャングルポケットだ! お前、わざと言い間違えをしているだろうが!』
『落ち着け、ジャングルポケット、アグネスタキオンも揶揄うなよ』
2頭が言葉を交わしている中、1頭の青鹿毛の馬が近付く。
『お前はマンハッタンカフェか。お前もこいつに負けているだろうが』
『確かにアグネスタキオンには負けた。だけど、それは事実だ。でもたった1戦しかしていないから、そこまで固執してはいない。当時世代最強馬、故障して二度と走れない体になっていなければ、おそらく三冠馬になっていたかもしれない幻の名馬の一角だ。でも、それは生前での話。霊馬となった今では、生前の記録など参考程度にしかならない。生前勝てなくとも今勝てば良いだけの話だ』
『確かにお前の言う通りだな。生前お前を超えると言う目標を果たせなかった以上、今回こそ勝ってみせる』
「あまり時間がないので、皆さんの愛馬を
虎石が呼びかけると、
今回、あいつらでやりあってくれれば、俺が勝つ可能性も出てくるだろう。
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