第二十話 新堀学園長トウカイテイオーを応援する

新堀シンボリ学園長視点〜






「ただいま返し馬が終わったところですが、今回出走する馬たちは、殆どが実績のある馬たちですね。皆さんの予想は終わったでしょうか?」


 女子アナが司会進行を行い、ワシたちに声をかける。ワシは今、ウイニングホースと言うテレビ番組に出演しているのだ。


 本当は面倒臭いので、辞退したいところであったが、この番組のディレクターは霊馬学園に寄付金をしてくれるスポンサーだ。なので、断ることができずに、渋々参加しておる。


 女子アナの言葉に、ワシは無言で頷く。


「どうやら皆さんの予想は終わったようですね。では、まず新堀シンボリ学園長からお願いします」


 予想を発表するように促され、ワシはフリップボードを出す。


「ワシの予想はトウカイテイオーですね。今の開始馬を見た感じも元気よく走っていますし、馬体もしっかりしているので、きっと良いレースをしてくれるでしょう」


 苦笑いを浮かべ、テーブルで隠れている自身の腕を抓った。


 こうしていないと、うっかり本音を言ってしまいそうになる。


 番組が始まる前、ワシはディレクターに今回の皐月賞はゴールドシップが勝つと予想していることを告げた。


 だが、あやつはそれだと番組が面白くないと言い、トウカイテイオーの馬券を買うように強要してきたのである。


 たく、寄付をしてくれているディレクターの番組でなければ、本当の予想を言っていたのに。


 しかも腹立たしいことに、予想だけではなく、馬券までトウカイテイオーを買わされてしまった。馬券の内容は応援馬券、単勝と複勝のダブル効果を持ち、初心者にはオススメの馬券だ。


 だが、この馬券には、その馬のことを応援しているよ。ファンだから頑張ってね! などの意味も含まれている。


 このワシが! 嘘でも! トウカイテイオーのファンで! 応援しているなど! 虫唾が走る!


「お、新堀シンボリ学園長はやはり息子さんの騎乗するトウカイテイオーが勝つと」


「ええ、親バカだと思われますが、やはり息子には活躍して欲しいですからね」


「いえいえ、そんなことはないと思いますよ。では、他の方の予想はどうでしょうか?」


 女子アナが他の出演者の予想を訊ねる。


 くそう。今にも発狂しそうだ。こうなったら、裏でゴールドシップの単勝を買うか。ククク、このレースは100パーセントゴールドシップが勝つように仕組んでいる。例えトウカイテイオーが有利にレースを進めても、第四コーナーを曲がったところでゴールドシップが追い抜くだろう。


「ガハハハハ!」


「新堀学園長、私の予想がそんなに可笑しいのですか? そんなに大声で笑うほどダメな予想をしているのでしょうか?」


 出演者の男性がワシのことを睨んできた。どうやら声に出して笑ってしまったらしい。


「あ、いや……別にあなたの予想を笑った訳では」


 生放送だと言うのに、場の雰囲気が悪くなった。


 ゲッ! ディレクターがワシのことを睨んでいる。まずい。早く何とかしないと寄付金が!







 〜東海帝王トウカイテイオウ視点〜






『馬場状態が悪いな。これは少しばかり走り難いかもしれない』


 ターフの上を駆け抜けている中、トウカイテイオーがポツリと言葉を漏らす。


 そう言えば、クロの説明で皐月賞の馬場は悪いと言っていたな。やっぱり、多少なりとも走りに影響が出そうだ。


 そんなことを思いつつ、開始馬が終わったところでポケットに向かおうとする。すると1頭の馬が近付いて来た。


 芦毛あしげで頭に黒いマスクメンコを被っており、額には英語でGold Shipと描かれてある。


 ゴールドシップだ。


『そこの馬、君トウカイテイオーだよね。メジロマックイーンお爺ちゃんに負けて泣かされた馬』


『メジロマックイーンに負けたことは事実だが、泣かされていねーよ!』


 いきなりの暴言に、トウカイテイオーが声を荒げる。


 感情が乱されて声を上げるトウカイテイオーって珍しいな。余程無敗の夢を絶たれたことを気にしているようだ。


『今のは冗談だって。まぁ、メジロマックイーンお爺ちゃんと同じで最終的に勝つのは俺だから、負けても泣かないでね』


 捨て台詞を吐くと、ゴールドシップはこの場から離れ、ポケットへと向かって行った。


『だから泣いていない!』


 彼の背中に吠えるようにして言葉を投げ付けるトウカイテイオーの首筋をなで、落ち着くように促す。


「落ち着け、これもあいつの作戦だ。挑発して冷静な判断ができないようにさせる作戦に決まっている」


『絶対にゴールドシップには負けない。そしてあいつを泣かす』


 だめだこりゃ、メジロマックイーンの話題が出て興奮してしまっている。レース発走までに冷静になってくれれば良いのだが。


 冷静になるように願いつつ、ポケットの中に入ると、他の馬たちと同様にぐるぐると歩かせる。


 しばらくの間鼻息が荒かったトウカイテイオーだったが、10周以上周りながら歩くと落ち着きを取り戻してくれた。


 さて、そろそろ開始時間だな。


 レース発走時刻が近づき、俺は手綱を操ってトウカイテイオーをポケットの外に出す。


 その瞬間、頬に水滴のようなものが落ちた。頬に手を当てると、それは間違いなく水だ。


 そして落下してくる水滴は次第に数が増え、ターフを濡らしていく。


「嘘だろう。今日のレースは晴れのはずだ。それなのに、どうしていきなり雨が降り出した?」

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